快感小説

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快感小説 NOVEL INDEX






●この『快感小説』の後継ブログ。今後の新作は、大人の小説書庫、『女の陰影』にアップしていきます。


●こちらは『猟奇の性書』の後継ブログ。官能小説らしいハード性小説はこちらにアップしていきます。


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●これ以降の小説はしばらくこのまま残しておきます。


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LezVEL 血を分けた性
LezVEL とけちゃう
LezVEL さしゆび
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官能ホラー 死者のリスト

■女と男の性小説~純愛まで。

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官能小説 I My Me 一話 二話 三話 四話
女装官能 水墨の色 (上) (下)
官能パロディ 男券


   

●当然ながら掲載する物語はすべてフィクションです。
Produced by 性人倶楽部

妻は幽霊(十三話)

十三話


 厨房から奥へと入ってすぐ右の、節香の部屋。調度品はどれもが古く、丸く大きな朱塗りのちゃぶ台などは戦前からあるもので、塗りが剥げて下地の木が黒くなって錆びている。ちゃぶ台の真ん中には落とし蓋のできる丸い穴が空いていて、鍋物料理などを楽しむための七輪がはめ込めるようになっていた。いまどきどこを探してもない古い下町がここにはあった。

 娘婿が戻り、祐紀子がコーヒーを用意すると、節香は祐紀子と申し訳なさそうな面色で視線を合わせ、それから言った。
「夕べ祐紀と話したことはだいたい聞いたけど、じつはそのことなのよ。真央ちゃんのことね」
 琢也はうなずく。聞くまでもないことだ。
「野中さんとしても、ママはもういないんだよって話して聞かせて、そのときはわかったって言うらしいんだけど、だってママはもう一人いるよみたいなことを言い出して泣いちゃうんですって。あの子いま三歳五ヶ月だったかしら。まだまだ幼くてどこまでわかっているのかわからないって野中さんがおっしゃるのよ」
「無理ないですよ、わかるはずない。ママが恋しくてたまらないんですから」

 節香は悲しげにちょっとうなずくと、琢也にコーヒーをすすめながら自分もカップを取り上げた。見るからに苦しそうな面色だ。
「野中さんて、実家は川崎でお墓もそこにあるんだけどね、彼のお父さんという人が五人兄弟の末っ子らしくて、上のお兄さんが亡くなって、いまは沼津の本家に引っ込んじゃったんですって。沼津ならそう遠くはないんだけど、それにしたっていちいち川崎からじゃね。託児所じゃ心配だってことで球団職員のお宅にあずけてるらしいんですけど、地方巡業も多いらしくて」
 祐紀子がちょっと笑って割って入る。
「母さん、お相撲じゃないんだから」
 それから祐紀子は夫に言った。
「アウェイも多くて、かなり長く戻れないみたいなのね」
 琢也がうなずいて微笑んで、節香が言った。

「それでね、野中さんとも相談したんですけど、私はあの子のお婆ちゃんだし祐紀子もいるしで、真央ちゃんのことあずかろうって思ってるのよ。そこまでは夕べ話したって聞いたけど、そうなると今度はパパと離ればなれになっちゃうでしょ」
「ええ、そうですね」
「それもまた可哀想ってことで、そうしょっちゅうでもないでしょうけど、パパと祐紀子と三人でデニーズとかさ」
「ちょっと母さん、ディズニーランドよ。ファミレス行ってどうするの」
「そうそう、それよ。そのほかいろいろ遊びに連れて行ってやりたいじゃない。そっくりだけどママじゃないって自覚ができるまで、口でどう言ったってママだと思ってるわけだしね」

 琢也は微笑んで祐紀子へ視線を流し、節香に言う。
「わかりました、家族じゃないですか。夕べ祐紀ちゃんにも言ったんですけど、しばらくはママのフリしてあげるのがいいだろうって。パパと一緒にどっか行くのも当然だし、僕は真央ちゃんのことだけ考えてあげるべきだと思いますけど」
 そのとき祐紀子が言った。
「近場ならそれでよくても遠出するようなことがあると、お泊りしなくちゃならないのよ。ママのフリするってことは妻のフリすることでもあるの。野球の関係で同行ってこともないとは言えないし、そういうこともあると思うけど、それでもいい? 三人でお泊りして私だけお部屋が別なんておかしいでしょう?」

 そのとき声を出しかけた琢也は、脚を崩して座る妻とまるで同じ姿勢のまま、妻から抜け出してそばに座る透き通った佐紀子を見て絶句した。佐紀子は穏やかに微笑んでいる。
 琢也はちょっと生唾を飲みながら祐紀子に言った。
「こういう言い方がいいのかどうかだけど、女優になるしかないんじゃないかな。僕の気持ちは変わらない。真央ちゃんのことだけ考えてあげればいい、大人の言い分じゃなくね」
「ごめんね琢ちゃん」
 琢也は気にしないと、ちょっと首を振って笑った。
「じきにわかる時期がくる。僕のことなら気にしないで。お義母さんもですよ、コンビニ明日までなんです」
「えっ? そうなのかい? 明日でいいって?」
「専務さんから電話がありました。これからは修行しないと。野中さんはすごい人だし、早く何とかしないと真央ちゃんにまでチンケなお兄ちゃんて思われちゃう。ははは」

 節香は真顔で琢也を見つめて言った。
「ありがとね、琢ちゃんの気持ち、もらっておくわ。いまのままじゃあの子が壊れちゃう」
 琢也はしっかりとうなずいて笑う。
「そんなことになったら僕だって佐紀ちゃんに顔向けできません」

『おーおー、よー言うた。男じゃのうーっ!』

 やかまし! 消えろ! 内心思うのだったが、透き通った佐紀子がじつはいちばん悲しいと琢也は思う。
「佐紀ちゃん、もう帰ってきてるかもですよ」
「え…」
「生まれ育ったこの家に真央ちゃんが来るのを待ってるかも」

『こらこら、バラしたら祟るからねっ』

 琢也は透き通る佐紀子に向かってほくそ笑んで言う。お化けという嫌なムードがまるでない。
「佐紀ちゃん、きっと嬉しいと思うな」
「うん、そだね、うん…」
 節香はそばに置いたティッシュを抜いて目頭を押さえていた。
「仏様だね琢ちゃんて。いい婿さんだわ」
 母の声に祐紀子までが声を詰まらせてうなずいていた。
 琢也は穏やかに微笑んで言う。
「祐紀ちゃんは佐紀ちゃん、佐紀ちゃんは祐紀ちゃん。これからの江戸屋にとっても、それがいいと思いますよ」

 子供の頃からそんなようなことを言われて祐紀子はムクレることがよくあった。姉は姉、私は私。なのに周囲はそうは見てくれない。
 けれどいま、琢也の言葉は身に沁みた。うりふたつの私が残ったから母も気丈でいられると思うのだった。もともと一人だったはずの娘が分身として生まれてきた。母は私に姉を重ねて見ている。そのことにあらためて気づかされた祐紀子だった。
 そのときなにげに琢也が言った。
「でもあれだな、そうなると建て直しを待てないな」
 節香が言った。
「待たないわよ。じつはもう工務店さんに頼んである。業者同士で不動産関係に知り合いもいるでしょうから。設計が決まったら引っ越して、すぐあの子を呼んでやりたい。保育所がいいのか幼稚園がいいのか、それも手配しないとならないし。子供は早いわよ、あっという間に小学校なんだから」

 母が嬉しそうだと祐紀子は思った。姉の不幸があってすぐ、手元に孫をおきたいと思っていたのではないか。そんな気がした。
「じゃあ僕いいですかね? お風呂入りたいし」
「あー、そうねそうね、いいわよ入ってらっしゃい。祐紀子」
「えっえっ?」
「一緒にお風呂してらっしゃいな」
「はあ? あーあ、これだもん。あのね母さん、それって母親の言うことかしら? 蔵さんそっくりだわ」
「あははは、そうかもねー」
 二人に笑顔が戻っている。琢也はそれで充分だった。

 ふと目をやると幽霊がにやりと笑っている。
『一緒に入ったろか? あたしならいいわよ?』
 いらん。消えろ。 とは思うのだが、そのとき佐紀子が真顔になって拝むように手を合わせた。幽霊が人を拝む。逆ではないか?
『ありがと琢ちゃん、あなたのこと好きになっちゃう』
 ならんでいい! お願いだからほっといて!
 琢也は可笑しさをこらえきれずに立ち上がり、浴室へと歩きながら笑ってしまった。

 節香の部屋から二階への階段を通り越してすぐ左に、一段低くなった昔の土間が残っていた。いまはもう下はコンクリートなのだが、一部はいまだに土のまま。使われていない竈があって、その並びに盛り土をしたところがあり、そこに大きなカメを二つ埋めて、蕎麦ツユにする割下を熟成させている。
 昔の厨(くりや)がそのまま残る。石板でこしらえた流しなんて、いまはもうほとんど見ない。風呂もそうで、とうに使われてはいなかったが薪で沸かす焚口が残っている。
 ガスさえなかった時代、江戸屋の先々代からの苦労や蕎麦への想いが漂っていると琢也は思う。ここに来たとき考えてもみなかったことが、店を継ぐと決めたとたん、古い家に漂うような先人の魂となってのしかかってくるのだった。

 浴室は新しくされている。全自動洗濯機ももちろんあり、歴史に現代が割り込んでいるようだ。
 脱衣に立って、まさかと思い、周りをきょろきょろ。出るなよ幽霊。
 可笑しくなる。佐紀子の可愛さというのか、母親や妹を想い、残してしまった幼い娘を想う女心にぬくもりを感じてならないのだ。
「なるほどね、そういうことか…」
 シャワーを浴びながら独り言をつぶやいた。
 うりふたつの妹に憑依することでこの世に留まり、娘の成長を見守っていこうとする。
「いいママなんだな。素敵な人だ」

『そうそう、わかった? あたしってカワユイっしょ? ひひひ』

「うわっ出た! シッシッ!」
『あたしゃ猫か、失敬なっ』
 透き通った佐紀子は、妻そのままの美しいヌードだった。
 それはそうだが、幽霊なのだ。
「うわぁーっ、おい、くっつくなーっ!」
 背後から寄り添われて琢也は全身鳥肌。違う意味でゾクゾクする。
『好きよ琢ちゃん、真央のことお願いね』
「うん、こちらこそだよ、江戸屋を見守っていてね」

『ンふふ…見てるだけでいいの? 抱っこしてあげよっか?』
「いらん! せんでよろしい!」
『コラてめえ! 祟るぞーっ!』

 突然湧き起こるつむじ風が長い髪を巻き上げて、般若の形相へと変化していく。
「あのね佐紀ちゃん、ほんと、きたない女だよな、都合よく悪霊なんだもん、ヒドイよ」

 すーっと美女幽霊に戻ってキラキラ笑う佐紀子だった。

妻は幽霊(十二話)

十二話


 久しぶりに夫婦の甘い夜が持てていた。それは夫の勤務シフトの問題ではなく、佐紀子の突然の死から琢也にも祐紀子にも考えさせられることがさまざまあって、なんとなく持てていなかった時間。
 夫婦の部屋に布団を並べ、今夜は妻のほうから夫のぬくもりに寄り添っていったのだった。
 今夜の祐紀子は揺れていた。まるで話にならない素人レベルのうどん打ちから江戸屋の若旦那への一歩を踏み出した夫。せっかく赤飯を用意して、佐紀子のことがあってから沈んでいた江戸屋を切り替えようとしていたのに、野中からの一本の電話にまたしてもそこへ引き戻されてしまう。姉の子、真央に対して祐紀子は佐紀子でなくてはならないようだ。

 妻は夫にすがっていたい。

「琢…ンふ…」
「ぅわっ」
「えっえっ? なあに? どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「…ヘンな人ね」
 薄闇の中の白い妻の裸身から抜け出るように、透き通った佐紀子が後ろから妹の体に寄り添ってウインクしている。幽霊となった佐紀子は楽しむように化けて出る。祐紀子には見えないし聞こえない。くすくす笑って見つめているのだ。

 というか、夫婦の夜を見られている!

 しっしっ、あっち行け。心の中でちょっと怒ると、これがテレパシーで通じるらしい。
『照れるなってば。あたしはもうユッキーみたいなもんなんだから。シャンとして抱きなさい』
 シャンとしてと言われても…とは思うのだったが、とにかく妻を抱きくるんでやりたかった。

「母さんとも話したのよ。小さなうち必要なのは父親じゃないって。女の子は特にママがいないとダメなんだって」
「うむ、そうだろうと思うよ」
「あの子が幼いうちに再婚でもしてくれば時間が解決していくことなんでしょうけど、ママと双子だってことがすべてなの。大人でも間違えるほどそっくりな私がいては、ママがそこにいるのにどうしてって思うでしょ。母さんが言うのはね、それでママに捨てられたんだと誤解しちゃうことが怖いんだって」
「悲しすぎるもんな」
「私がいったい何したのって思うでしょうし、幼いなりに自分を責めて苦しむと思うのね、きっと私が悪いからだって。苦しいどころじゃないと思うわ。離婚していなくなってくれるならともかくも、ママがいるのにかまってくれないとしか思えないもん」

 ピロートーク。夫の腕の中で話していた。

「大きくなってわかってくれるようになるまでママのフリしてあげるとか」
 夫の口からそれを言われ、祐紀子は絶句して顔を見つめた。
「あのね琢ちゃん、じつを言うと母さんがそれを言うのよ。真央は可愛い子よ、とってもいい子。母さんにとってはかけがえのない孫娘なの。不憫な姉の忘れ形見そのものだし、真央を不幸にしたりしたら死んでも死にきれないって言うのよね」
「うん、それもわかる」
「でもね、じゃあどうするの? 私は野中さんのところへは行けないから真央ちゃんをあずかることになるんだけど、そうすると今度は、パパはどうしていないのってことになっちゃう。あの子はパパも大好きよ。それに琢のことにしたって、パパの大好きなママを横取りしてるって思わないかって、母さんはそれも言うのね」
「そうか。うん、それもあるね」
「あるよ。と言ってよ、たとえば私が彼のところへ通ったとして、そうなれば彼だってお姉ちゃんを忘れられずに苦しむことになりはしないか。お姉ちゃんと野中さんは大恋愛よ。好きで好きで結婚した彼女なんだから、うりふたつの私にヘンな想いを抱かないかって…」
「そうだな、それは間違いなくそうなるだろうね。祐紀ちゃんにしたって自分そっくりの姉さんを想ってくれてる彼のことを悪くは思えないだろうし、真央ちゃんはいるし、心が動いてもしかたがないよ」

 そう思う。祐紀子はそれ以上を言えなかった。

『妻一人に旦那が二人。いいじゃんいいじゃん、ヒュゥヒュゥ』

 まるで他人事のように妻の背でおどける幽霊。琢也はちょっと可笑しくなった。確かにそれを言うなら自分が二人の妻を抱いていることになるからだ。妻には佐紀子が憑依している。人としてもっとも大切な魂がダブっているということは妻が二人いることと少しも違わない。

「祐紀ちゃんの思うようにすればいい」
「え?」
「真央ちゃんのことだけ考えてあげて。あずかるなり通うなりすればいいと思う」
 祐紀子は夫の胸を離れて眸を見つめた。本心なのか?
「だって琢、そんなことしたら琢はどうなるの? 江戸屋に縛り付けておいてあたしだけ好き勝手?」
 琢也は微笑んでうなずいた。
「祐紀ちゃんへの気持ちは変わらない。それにいまは石にかじりついても蕎麦を覚えないとならないし」
「それはそうだけど…じゃあもしよ、私が野中さんとヘンなことになってもいいわけ? そこまで考えてる? それは好きとかじゃなく、姉の子を溺愛してくれる彼なんだから私だって揺れちゃうもん。それでもいいの?」
 琢也は妻の肩に手を置いて抱き寄せながら言うのだった。

「祐紀ちゃん、あのね」
「うん…はい?」
「それもこれも大人の言い分じゃないのかな」
 祐紀子を呆然とさせる言葉だった。
「すべては真央ちゃんを守るため。佐紀ちゃんの娘じゃないか。双子は分身みたいなものだと思うし、その分身の分身なんだから、真央ちゃんのこと放っとけないだろ。家族なんだよ。野中さんとよく話して決めればいい。俺の気持ちは揺るがない。祐紀ちゃんのこと愛してる」
「琢…ありがと。私もよ、愛してるわ」
「ふふふ、真央ちゃんが笑ってくれれば周りみんなが幸せだろ。お義母さんもそうだし、祐紀ちゃんだって佐紀ちゃんに負い目を感じなくてよくなるし」

 野中崇という男は、プロ野球という派手な世界にいながらも挫折を知って浮ついたところのない男。竹を割ったようにまっすぐな男。あの姉がメロメロになったほどの男性なのだから、よろめいてしまわないとも限らない。自分の娘にしてもいいような真央のパパを自分の旦那と錯覚しそうで祐紀子は怖い。

『そーだそーだ、琢ちゃんだってあたしを抱いてら。お互い様じゃん、うひひひっ』

 そういう問題か…ゥゥゥ、わんっ! あームカつく幽霊め。

 妻の裸身の背景に裸の幽霊が寝そべっているのだから、それもアリかと思えてしまう。二人いる妻。佐紀子の霊がいてくれなければとても許せないことなのだが、自分をしてそうなのだから二人いる夫もいいかと考えてしまうのだった。
 それも相手はスポーツマンで身長百八十八センチ、こんがり陽焼けのハンサム男。カッコいいったらありゃしない。蔵之介のうどんと自分のうどんぐらいの差はあった。
「明日来るんだろ?」
「来るよ。どうなるかなんて会うまでもなくわかるもん。ママぁーってすっ飛んできて、どうして会ってくれないのって私の胸でわんわん泣くわ」
「うん、可哀想だよね…ぅぅぅ」

『うぷぷ! おまえが泣いてどうするよー。やさしい奴だよー、シャンとせんかいっ!』
「…ったくコノぉ、覚えてろ」
「え? 何か言った?」
「あ…ううん別に」
 くくくっと含み笑いをしながら透き通った妻はヌードの妻に同化するように消えていく。
 だけど何で、幽霊が着替えたり脱いだりするのでしょう?

「明日はそういう話もしに来ると思うんだ」
「彼が?」
「そう。二軍のコーチでチームと四六時中遠征してるでしょ」
「そっか、そうなると託児所とか実家とか…」
「そうなのよ、ましていまはシーズン中だし、そうなるとますます真央が可哀想」
「明日は何時に?」
「お昼すぎよ。お店の休憩に合わせて来るって。浅草はめずらしいから花やしきで遊ばせてそれから来るって言ってたみたい」
「わかった。お義母さんも入れて話せばいい。あずかれれば最高だよね」
 祐紀子はたまらない。理解のある夫が誇らしく思えてくる。
「ああン琢也、好きよ、愛してる」

『もいっぺんスルみたい?』

 やかまし! おまえはいい、出てくるな!

 声だけ聞こえて、けれど姿は見せなかった。
 明日はちょうどその頃からコンビニで仕事。コンビニもおそらく残り数日。その頃には新しい店舗の設計も決まって、しばらく引っ越すことも考えなければならなくなる。
 琢也は言った。
「あ、そうだ」
「うん?」
「浜松行くだろ」
「ええ。それが?」
「真央ちゃん連れてこ。向こうへ行けばクルマもあるし、浜名湖とか向こうの海とか連れてってやれるじゃん」

『ありがとね、Tバック。あなたのこと好きになりそ』

「ならんでいい! 消えろーっ! Tバック言うなーっ」

 と、心の中で叫んでいた琢也だった。
 本音を言えば怖かった。男としてとても野中に勝てるとは思えない。百八十八センチ対百六十八センチ。ぜんぜんムリ!
 うどんさえまともに打てない自分といるより、可愛い真央ちゃんと三人でいたほうが妻は幸せなのかもと考えた琢也だった。

 翌日はすっきり晴れた。いきなり真夏。いよいよ梅雨明けを思わせる夏空がひろがった。
 よかったと琢也は思う。せっかくパパとお出かけして遊園地で遊ぶにしても雨では可哀想。
 その朝、琢也は祐紀子と一緒に起き出して真新しい作務衣を着込み、朝の仕込みを手伝った。蕎麦屋の朝は、蕎麦職人は気が立っていて見習うどころではない。
 それでも料理は下ごしらえから。節香の仕事、祐紀子の仕事と手伝うことはたくさんあって、包丁を持って野菜を切ったりレンコンの皮を剥いたりと、食べ物屋の修行はできる。

 厨房に立つのが嬉しくてならない。調理の経験がないだけにまさに新しい人生が拓けるような気分になれる。
 そしてそんな若旦那の姿を、開店前にやってきたパートの京子が眩しそうに見つめていた。

 昼頃まで手伝って、合間に昼食を作ってもらって食べる。さっとシャワーを浴びて着替えて出る。コンビニは二時からで少し前には店へ行く。そろそろ真央ちゃんが来る頃だと考える。
 とそのとき、コンビニを経営する上総屋の専務、亡くなった社長の息子から直々に電話が入る。
「はい、瀬中です」
「うむ、江戸屋を継ぐことにしたそうだね」
「はい、社長にはお世話になりましたけど、すみません」
「なあに気にするな、それがいい。近々食べに行かせてもらうよ」
「はい、ありがとうございます。でも専務、それでしたら建て直してからのほうが」
「建て直す? 江戸屋をか?」
「そうなんですよ、設計が決まりしだい取り壊して新しくするんです」
「ほうほう、そうかそうか。わかった、じゃあそうさせてもらう。で瀬中君、急で悪いが明日なんだが、シフトを無視してもらって昼の一時に出てくれないか」
「一時ですね?」
「次の店長が行くから引き継ぎを頼みたい。しばらくかかるだろうが、それを終えたら君は帰っていいからね。後ほどウチのほうから給与そのほか連絡させてもらうから」
「では専務、明日でもういいと?」
「そういうことだ、ご苦労だったね、女将さんにもぜひよろしく伝えてもらいたい。頑張れよ」
「はい、短い間でしたけどお世話になりました、ありがとうございました」

 明日で最後。厨房で仕事ができる。琢也は弾むような気分だった。  そのとき時刻は二時半すぎ。コンビニのオートドアが開いて、パートを終えた京子が入ってくる。店まではジーンズスタイル。私服の京子は、さらに若々しくて美しい。
「たーくちゃん」
「ああ京子さん、お店おしまい?」
「たったいまね。お姉さんのほら…」
「真央ちゃん?」
「そうなのよ。野中さんてカッコいいわ。もうね次元が違う。それはいいんだけど真央ちゃんがね」

 予想した通りだった。ママだと信じきっていて、泣いて泣いて、とても見ていられないと京子も涙をためていた。
 京子は、琢也夫婦が夕べ話したようなことを予想していた。それで琢也のことが気になって覗いてみたということだ。

 今日は時計が速かった。夕方になり夜になり、十時になって店を出て、琢也は江戸屋に帰り着く。その頃には蔵之介はもちろんいなく、野中と幼い真央も帰った後でいなかった。
「ただいま」
 待ってましたと祐紀子が立った。
「うん、お疲れさま」
「コンビニ、明日でおしまいだよ」
「えー明日で? あー、ほんと? よかったねー」
「専務さんから電話があって、昼の一時に顔を出してもらって引き継いでほしいって」
「あらそう、いよいよね」
 琢也はうなずき、微笑んだのだが、祐紀子が目を赤くしてしまっている。

「真央ちゃんは?」
「今日のところは帰ったわ。あのことね、ほら浜松」
「あ、うん? どうだって?」
「もうしばらくいい子にしてたらお姉さんが連れてってくれるよってパパが言ったら泣いちゃって…嬉しいって言って」
「いい子じゃんか」
「いい子よ。それでまた姉さんにどんどん似てくるし…私もうたまらないわ」
 そのとき節香が顔を出した。まだ寝間着に着替えてはいなかった。  祐紀子が言った。
「それでね琢ちゃん、母さんがちょっと話したいって。少しいい?」
「いいよ、わかった」
「夜は食べた?」
「ああ喰ってきた」
「そう。じゃあちょっと。いまコーヒー淹れるから」

 ちょっとだけ顔を見せて奥へと引っ込んだ節香がうなだれていることを、琢也は一目で察していた。初孫の涙はたまらない。

妻は幽霊(一話)

一話


 二階にコーヒーを運ぶと、祐紀子は青くなる夫の様子に小首を傾げながら、たったいま透き通った姉のいた座布団に座り込む。
 鎌倉彫の丸い盆を下に置き、香ばしい湯気を上げるコーヒーカップを口に運ぶ。
 琢也は放心したような間抜け顔で妻の姿をぼーっと見ていた。
 いまのは夢じゃない。取り憑いたと言っていた。それは写真の多重露出のようなもの。ひとつを分けたのか、ふたつを一緒にしたのか、輪郭がぴたりと重なって妻の祐紀子がそこにいる。
 もともとひとつの卵子が分かれて生まれた姉妹。重なり合って卵に戻ったのかもしれないと琢也は思う。

「ねえ、コーヒー冷めちゃうよ」
「あ、うん」
「どうしたのよ、ポーっとしちゃって?」
「いや別に…」
 琢也は不思議なものでも観るように妻の顔を見つめたまま目がそらせなくなっていた。
 祐紀子はちょっと斜め視線に、にやりと笑った。
「ははあ、そういうことか」
「えっえっ? どういうことさ?」

 ヘンに受け取られてはいないかと気づかうような夫の視線。気の弱い男の子がとても勝てない女の子に白旗を掲げるような眸の色。
 子供の頃までの男の子は女の子より成長が遅く、男がチビで女が大きいという時期がある。まるでそこまで退行してしまったように、『ヘンには思ってないから怒らないで』と顔に描いてあるようだった。

 祐紀子は斜め視線で言う。
「残った私が、私なのかお姉ちゃんなのか、どっちだろうと思ってるでしょ?」
「そんなことないよ、考えすぎさ」
 琢也はようやくコーヒーカップに手をのばし、いつものようにミルクを浮かべて口へ運んだ。

 夫の視線が逃げている。嘘をつくときの子供そのものだと妻はちょっと可笑しくなった。誠実、真面目、弱気。でもその分まっすぐ。
 夫のそういうところが好きになった妻だった。
「ねえ」
「あ、はい?」
「あははは! はいだって! ほんと正直な人よね、姉さんよく言ってたわ。『ありゃダメだわ、カンペキ尻に敷かれるね』って」

 琢也はちょっと笑って視線を下げた。争うことが嫌いな男。出会ったときから私とは釣り合わないと思っていて、猛烈なアタックで押し切ったカタチになっていたから頭が上がらないのかも…と祐紀子は思う。
「どっちがよかったの?」
「は?」
「もう何よ、さっきから。心ここにあらずって感じよね。残ったのが右でよかったのって訊いてるんじゃない。それとも左? 私のこと姉だと思ってない?」
 姉の佐紀子には『左』がつき、妹の祐紀子には『右』がつく。粋だった父親が、左と右で釣り合ってほしいと考えてつけた名前。友だちによってはLとかRとか呼ぶ者もいた。

 琢也は、違う、そうじゃないと、ちょっと首を横に振り、コーヒーを一口入れてそれから言った。
「二人とも水泳だろ」
「そうよ。だから?」
「やろうと思えばダイビングだってできるんだし、ひとつ間違えば佐紀ちゃんだったかもって思ってさ」
「だから訊いてるんじゃない。残ったのは私でよかったのかしらって」
「…死んじゃうよ」
「はあ?」
「俺が。生きていけない」
「くくくっ…涙ぐんでるし…あははは!」
 まっすぐ見つめる弱い眸が涙の泉に揺らいでいる。
 祐紀子は嬉しい。唇をちょっと噛んではにかむように、首がどんどん
傾がっていき、たまらない可笑しさがこみ上げてくる。

「でも、琢」
「うん?」
「お蕎麦のことだけど、じつは母さん言ってるのよ、この店あたし限りにしていいって。蔵さんの退きどきがたたみどきだって言ってるわ」
「そうなのか?」
「それは昔から。ウチはほら、娘が二人だったから、好きなようにさせてやりたいって。商売っていいことばかりじゃないんだよ。爺ちゃんの代なんて借金こさえて火の車だったんだって。父さんだって騙されて大金抜かれたみたいだし」
「…ふーん」
 少なくなったコーヒーを一気に飲んで祐紀子は言った。
「私だってさ、琢ちゃんいまはアレだけど考えてることもあるでしょうし、あたしらみんな、こんな家に縛りたくないって思ってるんだ」

「違うよ、そうじゃない」

 祐紀子は絶句した。ちょっと上目づかいに夫を見つめる。
 穏やかでもシャンとしたところのある面色。
「好きなんだ、この家もこの街も。祐紀ちゃん佐紀ちゃんを育てた家だし、佐紀ちゃんだって無念だったと思うんだ。真央ちゃん残してさ。まだ三つなんだぜ、可愛い盛りじゃん。だからさ、婿養子でもいいかなって…佐紀ちゃんだって、いつでも帰って来られる家なんだし」
 真央とは、佐紀子が残した愛娘。それだけが祐紀子にとっても気がかりだった。

「じゃあ、いいのね? やってみる気あるんだね?」
「佐紀ちゃんがこんなことになって、そんときから考えてたことなんだ。さっき帰り道で田崎のおばちゃんにも言われたよ」
「あら何て?」
「シャンとせいって。蕎麦の修行してみんさいって。この家のことも頼んだよって言いたそうだった」
「そう」

『おしっ! そうだよバック、背負うの、おまえだろ』

 目の前に座っている妻の姿が、二重にブレるように揺らめいて、すーっと透き通った佐紀子が抜け出て、妹のそばにいる。
 琢也は一瞬目を吊り上げたが、妻には見えていないような雰囲気だったから、ぼーっとしたままちょっと笑った。あえて焦点を結ばない視線をつくる。

「おーい?」
「えっ? あ、うんっ?」
「ねえどうしたのよー、何かヘンよ?」
 そう言いながら祐紀子は身の回りを見渡したのだが、すぐそばに座っている透き通った姉の姿に気づいていない。

『見えてねーよ。てめえにゃ存在を知らしめておきたくて見せてやってら。うひひひっ』
 ちゃきちゃきの江戸っ子娘の言い回し。
 二人の妻。このとき琢也にはそう思えてならなかった。ひとつ布団で抱き合うときも妻には姉が憑いている。

「でもあれだな、そう急にってわけにはいかないし」
「そりゃそうよ。琢ちゃんだけの話じゃないよ。ここって古い街だから、それならそれで母さんも入れてちゃんとしないとならないから、決めたんなら母さんにも言わないと」
 琢也はうなずいて、冷えかけたコーヒーを一気に飲んだ。

『それとさバック、真央もだけど、あたしの旦那にゃ気をつけなーね。
狙ってるよユッキーのこと。うりふたつなんだもん』

 ハッとした琢也だった。
「三つって、ママの顔とかわかるよな?」
「あったりまえ…あ、そっか…だからマズイのね…」
 祐紀子はそれきり言葉をつなげなかった。
「うむ、そうなんだ、真央ちゃんが可哀想で…」
 言われてみればそうだ。想いがどれほどあっても姉の子には近づかないほうがいい。ママそのものの別人がそばにいては幼い子供はたまらない。

 琢也と祐紀子は顔を見合わせ、琢也は透き通った佐紀子を見つめ、祐紀子は仏壇の遺影へと視線を流した。

女は字間に

見分けようとする限りM女なんて得られない。
下心だったりするんだが、
あべこべに見分けられてしまうだろう。

行間に心があると言うだろう。女たちは字間にいる。
S字とM字のどっちつかずに、ほとんどの牝はいて、
男が良ければ女体はS字にしなるものだし、
行き着くところはM字開脚、セックスだろう。

お馬鹿さんは「お」をつけて口説くのさ。
おコラ、おてめえ、おケツ上げろ お突っ込むぞ。

女はね、嘘くさいお敬語なんてとっぱらい、
賢く見分けているんだよ。このシト、主の器かい?

器だったら、字間の女はM女になって従うだろうし、
器づくりにもがいているなら、それも女たちには
好ましく、S女になって厳しく教えてくれるだろう。

経験者は語るだよ。あの頃、俺は、
見分ける能書き、ページ食べ食べ覚えたものだし、
ホームセンター縄買って、枕縛った緊縛練習。
見分けるどころか見捨てられる愚行だよ。

お馬鹿だったと反省している。

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