快感小説

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レズ小説 デルタ(終話)

終話~デルタな性


 美鈴の心は泣いている。それはそうかも知れない。けれどもこのとき、着衣のままの美鈴に花園をまさぐられ、せつなく喘いだ留美の声に、麻紗美は微妙な違和感を覚えていた。説明できない感情だったが、それは二人のどちらに対しても感じた怒りのようなもの・・かすかな嫉妬だと麻紗美はすぐに理解した。
 卑屈すぎる美鈴にも腹が立つ。年上だというだけで三人の中ではもっとも綺麗で妖艶で、羨ましくさえ感じているのに、なぜそれほどまでに捨てられることを恐れるのか。留美の部屋にも私にかまわず来ればいいのに、ヘンに遠慮して遠巻きに見守っている。
 相手の中へと雪崩を打って崩れていく人。崩れた自分を立て直せずに苦しむ人。だから怖くて近づけない。

 エッセイそのままに壊れたくてならなかった天性の淫婦・・だけどそんなものは女なら誰もが抱える欲望・・。
 年齢を気にし過ぎる卑屈なところも許せなくなる。恋愛世代の留美はともかく、満たされていると言い切れない結婚をした私は、たかが十歳の違いであって、じきにあなたの居場所へ行くわ。十年先のあなたはこうだと言われているような気分になって感情が乱れてくる。素敵な四十二歳でいてほしいのに・・。
 置き時計に目をやって、思い立って麻紗美は言った。時刻はまだ真っ昼間。

「ちょっと出ましょう」
 留美をまさぐりながら抱き合う着衣の美鈴が目を丸くする。
「出るって・・?」
「どこかのラブホ。ここじゃダメ、声が抜けちゃう。ベルを泣かせてみたいから」
 全裸の留美は美鈴に性花をまさぐられ、ぷるぷる尻を痙攣させていた。
 とろんと溶けた眼差しで留美が振り向く。
 ベル・・それは別荘でのシーンの中で留美が不意に言った美鈴の呼び名。
 留美が意地悪くほくそ笑む。
「いいわねそれ。じゃあこういうのは? ベルだけ全裸にロングT、あたしたちはちゃんと着る・・くくくっ」
 留美と麻紗美に残酷な笑みを向けられて、美鈴は引き攣ったような面色だった。

 ハンドルを握りながら、麻紗美はおかしなことを考えていた。
 三人ともにマゾっぽい。
 私にとって留美はミル。美鈴にとっても留美はマゾ。
 留美と二人で美鈴に向かうと美鈴はベルへ堕とされる。
 なのに美鈴と留美が一緒だと私がマゾっておかしくない?
 三人揃うことに変わりはないと思うのだが、妙な空気感がそのときの運命を決めている・・と思ったときに、では留美にとって私や美鈴は何者なのかと思えてくる。
 レズというだけではくくれない何かがあると思えてならない。いちばん年下の留美が従っているだけで、留美の本性だけが未知数のまま・・そんな気がしてならなかった。
 脈絡のない思考がぐるぐる回っていると麻紗美は感じ、若い留美にゾッとする恐怖を感じた。どうしてそう思うのか、答えのない麻紗美だった。

 ホテルなんて、どこでもよかった。火柱を上げて燃える淫欲は麻紗美を激しく濡らしていた。自分でも目眩がするほど。私の中の魔性がついに動き出したと麻紗美は悟った。受け身ではなく私は美鈴を欲しがってると実感できる。
 美鈴の恐怖もそこにあるに違いない。ひとたび魔性が目覚めるとブレーキを失って性の沼へとはまっていく。女にとっての至上の歓びだからこそ、捨てられることを恐れるのだと思い、そのときになって、私には旦那がいて、留美にはリセットする若さがあって、けれども美鈴には何が残る?
 と、そう考えてしまうのだった。離婚できない家族とは妻を閉じ込める檻でしかなかっただろう。

 五階建てのラブホテル。造りが古く、入ってすぐ部屋を選んで、キイを持ってエレベーター。最上階の『鏡の間』を留美は選んだ。平日の昼下がり。部屋はほとんど空いていて、それは人がいないということで・・。
 留美がベルの背を押してエレベーターを降りたとき、責め具を詰めた大きなスポーツバッグを手にした麻紗美が言った。
「ここで脱ぐの。お部屋まで這いなさい」
 ハッハッハッ・・うわずった乱れ息。泣いているように潤う眼差し。
 脱がせたロングTを丸めて手に持って、先を這う牝犬ベルの、あさましいまでに濡らした谷底を見下ろした。白い尻を艶めかしく振り立てて、Dサイズの乳房をたわたわ揺らし、熟れた犬は愛液を垂らしながら這っていく。色素の薄い小さなアナルがひくひく蠢き扇情的だ。

 鏡の間・・天井全面それに壁面の三カ所がミラーウオール。
 部屋に入って不思議な世界がひろがった。鏡の角度が絶妙で、着衣の二人と全裸のベルが・・六人・・九人と倍々に増えていく。
「なるほどね」
 と麻紗美が言って、二人は麻紗美の口許を見つめていた。なるほどって?
「私たちは三枚の鏡だわ」
「鏡・・?」 と、全裸のベルがつぶやいた。
「互いに互いを映し合い・・?」
 と留美が言い、麻紗美はちょっとうなずいた。
「女が三人、デルタに組まれた鏡だわ。レズでありマゾであり、ときとしてサディスティックな光をなげる」
 これとよく似た不思議な光景を、大人の女が三人、知らないわけではなかった。子供の頃に覗き込み不思議でならなかった光の世界・・万華鏡・・筒を回してやるだけで、淫欲は見事な光の模様を描く。

 麻紗美も留美も脱ぎ去った。大きなベッド。ベルを挟んで左右に女体が絡み合う。
 麻紗美がベルの乳首を指先で嬲りながら言う。
「ねえベル・・素敵な四十二歳でいてね・・ずっとよ」
 ベルは意味が解せなかった。
 それから留美へと言葉を届ける。
「留美は・・私のようにならないで。奔放に留美らしく・・ね」
 すると留美は目を丸くして笑って言った。

「そんなのムリです」

「あら、どうして?」 と、麻紗美とベルの声が重なった。麻紗美も美鈴も、若い留美にはそうあって欲しいと願っていた。
 留美は身をずらして麻紗美の花園へと顔を埋め、開かれる中心で濡れるラビアを見つめて言った。

「だって・・それが女の道だもん・・」

 尖らせた留美の唇が麻紗美のクリトリスを捉えたとき、麻紗美の手がベルのラビアを掻き分けて、ベルの手が逆さになった留美のラビアを捉えていた。
 甘美な喘ぎは徐々に声量を増していき、大きなベッドをうねりのように揺らしつつ、もつれ合う白い女体の塊から見事なハーモニーとなって四散した。

 私が育てた淫婦たちが泥沼のように私を責めるの。
 イッてもイッてもキリのない夢の沼へと、私は沈んでいくんです。

 一人はミル。若い若い。とめどなくオツユを垂らす牝犬よ。
 一人は・・あらいけない名前がなかった。実名では可哀想。

 そしてそのとき私はベル。MISUZUの鈴は、透明な牝の音色。

 『ああン、ああン』・・うそばっかり。そんな声は女のポーズで、
 牝の叫びではありません。ガラスをこすった悲鳴だったり、
 吹きそこねたフルートみたいな、ひいひい声・・それからね、
 鞭打たれれば獣のように慟哭し、しゃくり上げて
 オンオン泣くの。それが牝よ。女という生き物の正体なんです。

 デルタに組まれた鏡のように、互いを映して蔑んで、
 互いを映してともに震えて果てていく。女三人、素敵な関係。

 やっと決意できたかしら。離婚。ベルとして二人に捧げながら、
 これよりないステキなアラフォーを生きていく。
 エッセイストBELL。MISUZUは卒業。それが私の近況です。

 私はきっとMではない。私はきっとSにもなれない。
 だけど・・激しい性へ導いてくれないと、私はまた闇の中。

 助けて・・。

 

 その日は儀式の夜だった。美鈴のマンション。
 書き上げた公表できないエッセイを、ベルと麻紗美は抱き合って読み返し、遅れて来る留美を待っていた。今夜ここに麻紗美を呼んだのは留美だった。

 BELLでいたい美鈴のために、留美がプレゼントを考えた。

 遅れてきた留美は、牝犬BELLの性を飾るアクセサリー・・金色の小さなベルが揺れて鳴るリングピアスを三つ、贈った。


~レズ小説 デルタ 完~

レズ小説 デルタ(十話)

十話~独り語り


 エッセイストMISUZUの正体について、書いてみようね。
 
 壊れてみたい願望がありました。壊れてしまう。
 こっぱみじんよ。ちょっとは綺麗なつもりの私の自我が
 跡形もなく壊されていくんです。これは妄想。
 ゲンジツない。ゼッタイないし、あってはならない淫ら夢。
 作風が変わったなんて思わないでね。しつこいようですが
 これって妄想。ヘンタイ的な妄想に濡らす私ですから。

 相手が男じゃダメなのよ。男だと私は女になりたがる。
 怖い人は女です。女ですが、そこらの人ではムリらしい。
 私が育てた淫婦たち。そこへ導いてあげたと言うべきか、
 苦しさのすべてを取り除いてあげた、私が育てた女たち。
 女たちはこう思うわ。解放してくれたのは、MISUZU。
 でもきっと、こうも思うはずでしょう。
 『よくも私を淫乱にしてくれたわ、何よ!』
 愛憎と言いますが、女の愛と女の憎の両方を私に向ける。

 もう逃げられない。私が育てた素敵な女たちに壊される。
 そのとき私はきっと可愛く、でもだから残酷はエンドレス。
 こっぱみじんに壊されてく。露出のような女性美であっても
 いいでしょうし、マゾのような甘美な悲鳴でもかまわない。

 私だけがヌード。それも縄がけされて濡れる花園に縄が
 食い込み、鳥肌の立つ乳房を震わせて、お外で調教。
 シューチだわ。歩けなくて立ち止まると、お尻に鞭がピシ。
 私が育て、サナギから羽化するように見事に羽ばたく女たち。
 慕ってくれて飛び去ろうとはしませんし、導かれて淫婦へ
 堕ちた・・堕とされたことへの恨みははかりしれない。
 私にとって恐怖な毒蝶が、鞭を手にして追い立てるのよ。

 鞭痕が消えないようなひどい責めはされません。それは、
 女たちは私を愛してくれてるからよ。ですけど、だから
 責め手はやまず、悪魔的なピークの淵へと追い詰められる。

 オモチャを渡され・・それはゴムの男性だったり、モーター
 仕掛けの、もっと怖いオモチャだったりしますけど・・。
 泣いたって許してくれない。目眩がし、瞼に流れ星が
 舞い散って、あうあうと赤ちゃん言葉を話すように、私には
 際限ない錯乱が与えられる。もがく。のたうつ。それでも
 私は握り締めたオモチャを使って私自身を追い詰める。

 ちょっとでも逆らえば、やさしいけれど鞭が来る。鞭より怖い
 言葉が聞こえる。『捨てるわよ。もうかまってあげないからね』
 私は泣いて泣いてイヤイヤします。壊されて、捨てられて
 しまうなら、私は狂ってしまうでしょう。壊れた私はもう元には
 戻せない。私は性奴隷の運命を受け取って、その中で
 煌めくしか輝けない。縄や鞭や、あらゆる淫具、あらゆる責めを
 与えられ、二度ともう私からは求めずに、自分勝手に苦しまず、
 与えられる苦悶の中で安らかに生きていく・・だって、
 女の恨みは怖いものよ。許されることがないのですから。

 ああ、そんな・・排泄まで強制されるの? 笑われて・・私は泣く。

 よく耐えたね、よくやったわ・・そう褒められて、そのとき私は、
 心が昇天し、ふわふわと全裸が浮いて・・気を失う。
 どう? MISUZUってヘンですか? 
 ねえ、どうしてそう思う?

 だってそうでしょ、それってあくまで妄想なのです。ゲンジツない
 私のセックス。セックスぐらい好き勝手でいいんじゃない。

 ああイヤよ壊れちゃう・・ねえ・・ねえ壊れちゃう・・壊れていい?


 公開するのかしないのか、昨夜のうちにメールで舞い込んだ美鈴の言葉を、麻紗美は留美の部屋で読んでいた。麻紗美も全裸、留美も全裸で、留美の尻には、できたばかりの鞭痕がうっすらと。
 麻紗美の腕の中で留美は言う。
「・・憎いもん」
「え?」
「美鈴さんです、あたしをこんなにしてくれた・・許せない」
 麻紗美は、いまのいままで痛がって振り立てていた留美の尻を撫でながら、ちょっと笑った。美鈴は妄想だと書いているが、あのとき貸別荘での出来事をそのまま書いたエッセイだった。美鈴のマゾヒズムが覚醒した二泊だった。
 麻紗美が言った。
「それを言うなら私だってよ。美鈴に夢中・・留美にも夢中・・エッチな私にされちゃった」
 留美は溶けた眸で甘え、麻紗美の乳首をそっと含み、けれども鋭い犬歯でカリッと噛んだ。
「あぅ!」
 麻紗美は硬直してブルルと震え、鳥肌がザーッとひろがる。
「ふふふ、痛い痛い・・でも感じる・・」
 麻紗美は、乳首から離れた留美の口許へ、ふたたび乳首を寄せながら言った。
「そうなのよね・・何をされてもイキそうだから」
「あたしも。お姉様のこと好き・・美鈴さんのことも好き・・」

「三人揃ってマゾっぽいこと・・」
 麻紗美は微笑み、全裸の留美を抱きくるむ。
 留美が言った。
「女はそうです・・ステキに壊れていけるなら幸せだもん」
「ステキかしらね、それって?」
「ステキですよー・・あのとき、ほら・・」
「別荘で?」
「そう別荘で。恐ろしいディルドを持たされ、あたしたちに笑われながら、泣いて泣いて自分を犯して果てていった美鈴さん」
「そうね・・白目を剥いて・・女性美なんて捨て去って・・」
「ケダモノでしたね・・だらしなく失禁しちゃって・・」
「だけどその後、目覚めた美鈴は赤ちゃんみたいに可愛かった。十歳違う私にベタベタしちゃって・・妹みたいに」
「二十も違うあたしなのに娘みたいに甘えてた。苦しかったんだろうなって・・可哀想になっちゃって・・だからまた泣かせてあげた・・」
「浣腸よね?」
「そうそう。嫌がって身悶えして、でもあたしが言うとアナルを向けたわ」
「捨てるよって?」
「いちばん怖い言葉だもん・・『捨てるよ。もうかまってあげないからね』って」

 そして留美は言うのだった。
「あたしはそれでしくじったんです」
「彼のこと?」
 留美は、麻紗美の乳首の周りを指先でなぞりながら、目を伏せて悲しげに言う。
「あたしって、こう見えても男性にはSっぽいの・・拗ねはじめると手がつけられない。言うことなんてきいてやらない。一筋縄でいかない・・残酷に放置した」
「男は孤独に弱いから」
「それがわかってて面白がって知らんぷり。何をしたって追いかけてくれると思ってましたし」
「でも捨てられた?」
「振り向いてくれなくなって・・さぞ苦しかったんだろうとわかってて・・それでも素直なあたしに戻れなかった。失ってはじめて自分のしたことがどういうことかがわかったわ。彼の心を壊してしまった。あたしの方が壊れたってつないでおきたい彼の心だったのに・・」
 あのときのシーンを麻紗美は思う。留美がイチジクを手にしたときの美鈴の姿。
「捨てるよ! もうかまってあげないからね!」
 見る間に美鈴に涙が浮いた。お尻を向けて震えていた。美鈴の気持ちはよくわかる。私だって、そんなことを言われたら壊れることを覚悟する・・と麻紗美は思う。

「あぅ!」
「ふふふ、ほうら・・痛いのに声が甘い・・」
 またしても乳首を噛まれ、でもその後、舐められて吸われると、麻紗美の全裸にふたたび甘美な震えがくる。
 麻紗美は仰向けに寝て留美に委ねながら、虚空を見て言う。
「その彼と結婚するって思ってたんだ?」
「ううん、ぜーんぜん。それはない」
 麻紗美は覆い被さる留美の眸を下から見上げた。ギラギラしていてサディスティックに煌めいていた。
「そのときまだ二十一よ。いまでもたいして変わらないけど、結婚を考えだす前の彼だからピュアでいたい・・虐めてやって、苦しむ彼の姿が快感だった・・それでも彼は求めてくれると思ってたのに・・」
 麻紗美の乳房を揉み上げて、乳首を含んで舌先で弾くように舐める留美。
 息の声で喘ぎながら麻紗美は言った。
「あたしにもあるわ、そういうの・・旦那に対して。馬鹿みたいに真面目ですから、面白がって虐めてみたり・・」
 留美の吐息は熱かった。据わる眸で麻紗美を見つめ、キスをせがみながらデルタの淵へと手が降りたとき、部屋のドアがノックされた。
 二人とも目を丸くして息を潜める。

 ふたたびノック。ノックがこの部屋だと確かめる。
 留美は全裸にロングT。ドアに立った。
「はい?」
「私よ」
「美鈴さん・・はいっ、いま開けます」
 嬉しそうな留美の声が響いていた。
「はいケーキ、一緒に食べよっ」
「わぁぁ嬉しいなぁ・・入って入って、麻紗美さんもいるのよ。でもお店は?」
「閉めちゃったの、冷蔵庫が壊れちゃって」
「ありゃりゃ・・冷蔵庫が?」
「明日じゃないと業者が来ない」

 このとき麻紗美はタオルケットにくるまって全裸のまま。美鈴はホワイトジーンにジャケットというラフなスタイル。背を押されて美鈴が覗いたとき、麻紗美は一目で美鈴の恐怖を見抜いていた。
 視線に探りの色が潜んでいる。美鈴の方から訪ねて来るのははじめてのこと。呼ぶのはよくても訪ねることには躊躇する。こうして突然やって来て、拒まれるのが怖いからだ。若い留美と、まだまだ若い麻紗美との関係に、四十二歳の私なんて邪魔なのでは・・と考えているに違いない。女心は想像できた。

 貸別荘での出来事から四日。今日は麻紗美が休みで留美はズル。昼食から一緒にいた二人だった。時刻は昼の二時を過ぎたところ・・。
 美鈴から可愛らしく包まれたケーキの小箱を受け取って、留美は麻紗美にウインクした。ことさら意地悪に笑う留美の黒目がヌラヌラ煌めく。
「ほらケーキだって。可愛い奴隷ちゃんが虐めて欲しくて持ってきてくれたもの・・ふふふ、そうよね、奴隷のベルちゃん・・くくくっ」
 桜色だった美鈴の頬が白くなり、ラビア濡れを物語るように唇がふるふると震えだす。

 そうやって言葉で嬲りながら留美はロングTを脱ぎ去った。麻紗美もタオルケットをはだけてしまい全裸を晒す。
 美鈴の息が激しく乱れ、けれども美鈴はひた隠して息を詰める。
「お脱ぎ、ベル!」
 と留美は言い放ち、美鈴をビクリとさせておき、一瞬後にぱぁっと笑って美鈴にすがった。
「なんてね・・ウソですよ。嬉しいなぁ・・待っても待っても来てくれないし、ほんと言うと寂しかったの」
 着衣のまま美鈴は全裸の留美を抱き締めて、渇かない留美のデルタへ手をさしのべてまさぐった。
「あぁン・・嬉しい」
 美鈴の眸がキラキラ七色に煌めいて、留美の肩越しに麻紗美を見つめてちょっと笑う。

 美鈴の心は泣いていると麻紗美は思った。

レズ小説 デルタ(九話)

九話~虚脱の日々


 麻紗美にとって日常に戻るも何も、美鈴や留美の部屋を一歩出ると、異次元からスリップして還り着いたような見慣れた光景がひろがって、その中を何食わぬ顔で歩いている。
 夢の中の出来事のようだ。SMチックな道具を見せられ、そのうちのいくつかが使われた。私とは自我の違う美鈴や留美に笑われながら私は狂った。狂乱する性に屈服させられ、あのときのミルのように失禁までして気を失った。
 三十二年積み上げてきた人格が崩落したと、そんな自覚が麻紗美にはある。
 電車の中でもオフィスでも、夫がいるすぐそばでも、そのときのことをちょっとでも考えてしまうと、とたんに濡れだす女性器に戸惑った。

 どうして濡れるの? あんなことをして欲しくって濡れるのかしら?

 麻紗美は心が抜け落ちたような気がしてならなかった。そしてそれは、何かの拍子に常識的な妻の思考に戻れたときに、冷や汗が出るほどの恐怖に置き換わってくるのだった。
 あさましくも快楽に憑かれた獣のような姿を写真に撮られてしまった。一枚や二枚じゃない。服従するしか道はない。でもそれは性的に躾けられていくということで・・。
 逃れたいとは思えない。あなたは馬鹿よと言われても、そこから逃れたいとは思えない。麻紗美は自分を見失ってしまっていた。

 長いようで、たった二日。その日は土曜日。妻は休日、夫は仕事で大阪への一泊出張。夫を送り出してから合い鍵で留美の部屋に逃げ込んで、食事の支度を整えていた。自分のネグリジェを持ち込んで、なのにちょっと考えて、全裸に一枚、留美のロングTを着込んでいた。ここへ来れば私は淫乱・・それの許される空間なんだと麻紗美は思う。
 戻ってくる留美は、留美なのかミルなのかも定かでなかった。どうしようもない虚脱が去ってくれない。
 外が暗くなり、時計を見ながらスープを温めようとしていると、玄関に気配がした。
麻紗美がいると知っていて、ノックもせず、留美はキイを使って部屋へと入った。
 今日はホワイトジーンズのミニスカートにブルーのブラウスを合わせ、薄手のジャケットを羽織っている。
 麻紗美はなぜか顔を見るのが怖くなり、流しを向いたまま言った。
「ハンバーグにしたからね。スープが温まったらご飯よ」
 その言葉づかいは何! 女王様に言う言葉! もしもそんな声がしたら、私は奴隷なんだと諦められる・・しかし違った。
「はい、嬉しいですお姉様、ありがとうございます」
「たまにはね・・こういうことがあってもいいでしょ」
 なのに返事がない。気配で着替えていると感じ、料理を並べようと振り向いたとき、グレーアッシュの長い髪をまとめて上げてピンで留め、全裸となった白い体が平伏していた。

 麻紗美は見下ろす。
「ミルでいいのね?」
「はいお姉様、私はいつだってミル、お姉様の奴隷です」
「そう・・じゃあ・・ほら早く」
「はい!」
 麻紗美は流し台に両手をついて尻を上げ、脚をちょっと開いていた。ロングTの下は裸のヒップ。
「シャワーまだだから汚れてるわ、綺麗にお舐めね」
「はい!」
 留美がロングTをまくり上げる。白く扇情的な麻紗美の尻。ミルは開かれた尻の底へとむしゃぶりついた。
 麻紗美はうっとり目を閉じて、なだらかに流れて来る性の波に酔っていた。
 舌先が雌花を捉え、花蜜を誘うように舐め回す。
「お尻もよ、ちゃんと舐めて」
「はい・・嬉しいの・・あたしまた泣いちゃいそう」
 アナルを覗き込まれることに抵抗がなくなったと麻紗美は感じた。どうしてそう思うのかはわからなかった。
 花蜜の流れを舐めさせて、振り向いた麻紗美は、ミルの二つの乳首をヒネリあげて乳首で吊るようにミルを立たせ、それから両手で頬を挟む。

「私も嬉しいのよ、ミルとこうしていられて」
「・・はい」
「私の恥辱をすべて知ってる憎らしいミル。美鈴だってそうだわ、憎らしいし、二人揃って怖い人・・あんな写真を見せられたら破滅だもんね。でもねミル」
「あ、はい?」
「それもいいかと思ったの。あのときのことを思うとどこにいたって濡れちゃうもん。私の素顔を知ってる人が二人いると思うだけで、私は裸になれるのよ。やっと気づいた。女王と奴隷は裏表なんだって」

「え・・あぁン!」

 麻紗美は全裸のミルをフロアに崩し、迷いなく逆さにまたがり舐めさせながら、大きく開かせたミルの股間へ顔を埋めた。69。
「ダメです、あたしもシャワー・・ねえダメです」
「旦那がいないから泊まるね。・・あーあ・・今日ね」
「はい?」
「事務してて69って数字があると気になってならなかった。馬鹿みたいでしょ。ミルや美鈴のことばかりが頭にあって、怖いと思うと濡れてしまう」
 顔の上に寄せられる麻紗美の花園を見つめながら留美は言う。
「それは私だってそうなんですよ。美鈴さんやお姉様のことばかり。今日だって何度トイレに行ったことか。壊れたみたいに濡れてたし・・」

「調教してください、お姉様」
「マゾとして?」
「でもいいですし、愛人としてでも・・どうとでも・・」

 愛人・・そんな古風な言葉を若いこの子から聞こうとは思わなかった。

「あれみんな、こっちにあります」
「あれって?」
「SMの・・バックごと持っていきなさいって美鈴さんが言うんだもん・・羨ましいのは美鈴さんかなって、ちょっと思った・・」

 麻紗美はちょっと考えて微笑むと、そっとミルの雌花を舐め上げた。

 夕食はあのときのリフレイン。麻紗美が噛んで口移しで食べさせていく。深いキスをしながら吐き出して、奴隷が受け取って喉を鳴らして飲み込んでいく。
 キラキラ煌めくミルの眸を覗き込む。
「旦那に言ったのよ留美のこと。二人でどっか行って来るって」
「旅行?」
「そうよ、もちろん。近場の温泉なんかどうかと思って。もちろん美鈴も一緒だわ。あのねミル」
「ええ?」
「美鈴のことよ考えてるのは。彼女のエッセイって、もしや悲鳴って思うのね。悲鳴だわって確信できるの」
 そのときミルは、物思うような面持ちを一瞬見せて言うのだった。
「ずっと前のことですけど、ベルカフェで働きたいって言ったことがあるんです。そのときにはもう美鈴さんに夢中だったし、いつ抱かれてもいいと思ってましたし」
「断られた?」
「そうなんですよ。食べて行けるほどのお給料は出せないって。だけど私なんてフリーターなんだから別の仕事と調整すればいいだけの話でしょ。それでそのとき思ったんです」

 麻紗美はミルの唇に指を添えて黙らせて、ちょっと笑って言った。
「美鈴って、どんどん踏み込んで来るくせに、ある一線を超えて踏み込ませないっていうのか・・」
 ミルの黒目が黒く思えた。それは瞳孔が開くように。
「そうなんですよ、さすがだわお姉様。それで私考えたんです。どうしようなく脆いところのある人かなって」
「ちょっと違うな」
「え?」
「巻き込みたくないのよ自分の人生に。留美を幸せにはしないから。このあいだもそうだったけど、留美に私を責めさせておきながら一歩退くように見てるだけ」
「そうでしたね、ええ」
「あのときほんとは寂しかった。一緒に責めて欲しかったと言えばいいのか。それでふと思ったの。美鈴ってもしや自分を囲って出られない檻のようなものがあるんじゃないかって」
「檻ですか・・でもそれ、わかる気がします。言われてみれば彼女のエッセイって『なんて私はダメなのかしら』って・・その裏返しのようにも思えたり・・」

 麻紗美は、ちょっとほくそ笑んで、ミルの乳房を握りつぶした。
「さあ、甘いのはこれぐらいよ。調教します、道具をここに出しなさい」
 怖がるようなミルの眸色がたまらなく、麻紗美は乳首で引いてミルの体を呼び込んで、唇を重ねていった。

 一月ほどを待たなければならなかった。秋口の小淵沢。森の中の貸別荘。
 東京には夏がへばりついていたけれど、山の森はすがすがしく、季節外れの平日ということで林間に散る別荘は静かだった。
 日頃買い物に使う麻紗美のコンパクトカー。新婚時代に選んだもので真っ赤なボディが近頃ちょっと気恥ずかしい。運転は留美。着いたときには助手席に麻紗美。高速のパーキングに止まるたびに助手席が入れ替わる。学生の頃を思い出すドライブだった。
 ログハウス。カナダ産の丸太を組んだ大きな山荘。一階に暖炉のある大広間と広いキッチン、十二畳の和室。二階には仕切られた部屋が三つあって、それぞれにツインベッドとされていた。丸太を組んだテラスは鬱蒼とした森に向かって開かれている。

 二泊する。麻紗美にとっては結婚以来の解放される時。美鈴も店をはじめてからは久しくなかったオフらしいオフ。留美は失恋のこともあって、こういう旅は避けていた。
 三人とも気楽なジーンズスタイルで、ハウスに入って備えられた浴衣に着替える。
 若い留美は鮮やかなピンクのブラにピンクのTバック。麻紗美は黒の普通の下着。
そして美鈴は純白のブラに純白のTバック。美鈴は白が好きだった。穢れのない少女の自分に戻りたがるよう好んで白を着込んでいる。
 女三人、下着の姿になったとき、前から留美が、背後から麻紗美が、白く美しい美鈴を挟み付けて身を寄せた。
 留美が唇をさらい、麻紗美は後ろから豊かな乳房を両手にくるむ。
 麻紗美は後ろから耳許に顔を寄せ、熱い息を吐きかけながらささやいた。

「愛してるのよ美鈴のこと・・私も留美も。可愛がってあげたくて旅に出た・・ふふふ」
「麻紗美・・あぁ留美・・」
 麻紗美が背中でブラを解放、留美が前からブラを抜き取り、その間麻紗美がしゃがんで白いパンティを降ろしてしまう。何が何だかわからないうちに全裸にされた美鈴。その両手を後ろに取って、用意した手錠・・縄でできたソフトなもので、左右の輪をくぐらせて絞るだけで手錠となるもの。
 そしてその間、前では留美が、二重にした真っ赤なロープをウエストに回して縄尻を通し、そこから縦へと絞り込んで股間の白いパンティに食い込ませながら後ろへ回す。その縄尻を麻紗美が受け取り、後ろ手の縄の手錠に固定する。
 手を動かせば股縄が絞られて性器に食い込む。美鈴は抗う素振りも見せず、青ざめた面持ちでされるままになっていた。
 面持ちは青く、震えていても、真っ白なその女体は激しく火照って血管を浮き立たせていた。Dサイズの豊かな乳房がたわたわ揺れて、小ぶりの乳輪がすぼまって乳首が尖り勃つ。その二つの乳首を前から留美がそっとつまんだ。

 美鈴の息が荒い。
「ねえダメよ・・ねえ・・麻紗美も留美も・・ああダメ、そんなことされたら壊れちゃう。壊れちゃうーっ!」
 留美が乳首を愛撫しながらニヤリと笑った。
「壊れていいのよ、目撃者はたった二人」
 麻紗美が後ろから手を回して豊かな乳房を揉み上げて、耳許で笑う。
「これから二泊、服従なさいね・・ふふふ、さあ留美、外に出ましょう。お散歩するの」
「ふっふっふ・・あははは! 恥ずかしいわよ牝犬美鈴・・きゃははは!」
 留美が用意した真っ赤な犬の首輪。美鈴の首に飾ってやって、スチールチェーンのリードをつける。
「さあ出ましょ! お散歩するのよ」
 ところが、『待って』と麻紗美が言った。
 キッチンからナイフを持ち出して、Tバックパンティのサイドをカット。股縄からボロ布を引き抜いて・・美鈴は全裸。
「これでいいわ、行きましょう。ふっふっふ、いやらしい牝犬ですこと」

「ああイヤぁ・・イヤよーっ!」

 後ろ手を暴れさせると股縄が濡れる花園を蹂躙した・・。
 真っ白な牝犬が乳房を揺すって、尻肉をぷるぷる痙攣させて歩きだす。
 このとき時刻は夕刻前で、森が斜陽に染まりだす。

 裏のテラスから外へ出た。留美がリードで前を歩き、麻紗美は黒い革の尻打ち鞭を手に追い立てる。
「ほら歩いて」
 横振りの鞭先で、ぴしゃぴしゃと尻っぺたをはたいてやる。その都度白い犬の総身がぶるぶる震えた。
「お願いよ、壊れちゃう・・怖いの・・壊れた私が怖いのーっ!」
 留美が振り向いて言い放った。
「泣いてもダメよ! 許さないからねっ!

 このとき前後の二人だけが浴衣をしっかり着込んでいた。

レズ小説 デルタ(八話)

八話~リメイク


 麻紗美にとって翌日の日曜日は久々の夫との一日だった。食事をして映画。それだけのデート。とりわけどうと言うこともなかったのだが、夫の愛は確認できて、夫への愛が揺らいでいないことも自覚した。
 留美や美鈴との性愛を知って、むしろしゃしゃり出ず、夫とは深い時を過ごせている。乾きかけた女心に潤いが戻ったというのか、面倒な日々を忘れる時間が女には必要なのだと思い知る。
 それは代償行為であってはならない。女の心を癒やすのはやはり愛であり、性的な渇望をどれほどごまかしても到達できない境地がある。麻紗美は自分の淫欲と素直に向き合えるようになっていた。
 夫に抱かれて深く達する。それさえも新婚時代の歓びとは質が違う気がしてならない。

 月曜日。いつも通りの暮らしがはじまる。いつも通り。日常の中にレズが組み込まれてしまっていると自覚する。今夜もまた夫は帰りが遅くなる。麻紗美は帰り道にフルーツを買い込んで、あたりまえのように留美の部屋へと帰り着いた。
 ドアが開くと、グレーアッシュの長い髪をすでにポニーテールにまとめ、全裸の留美が平伏して出迎える。膝で立って両手は頭の奴隷のポーズを玄関先でする留美に、麻紗美はひどく穏やかな気分になれて微笑んだ。
「よろしい、いい子よ。こうして欲しい?」
 両方の乳首をつまむが、ヒネリつぶさず、そっとコネる。牝犬留美は甘く目を閉じ、荒くなる息を詰めて、かすかに喘ぐ。
「感じます、お姉様・・いまかいまかと待ち焦がれて濡らしていました」
 留美は今日バイトを休んだ。麻紗美はオフィスでその旨のメールを受け取った。
「濡らしてた?」
「はい」
「素直ね」・・と言って頭を撫でながら部屋へと入って、額に入れられて飾られた文章が目にとまる。美鈴へメールで送った、あの言葉。留美を想うエッセイだった。

「ふふふ、なるほど、そういうことか・・もらったの?」
「プリントしてもらってすぐに飾って・・嬉しくてどれほど読んだか」
「そんなに嬉しい? 感動した?」
 こくりとうなずいて留美はもう涙をためてしまっている。
 ここまでピュアに待ち焦がれることができるなら、女はどれほど幸せだろうと麻紗美は感じた。足下に全裸で控える奴隷の留美。麻紗美は頭を抱き寄せて、留美は腰に手を回して抱きすがる。
「先にシャワーさせてね、今日は書類の整理があって汗かいちゃった」
「はい」
 浴室といってもアパートのそれは狭い。ユニットバスでトイレと一緒にされている。
 浴槽も大きくない。留美は脱ぐ麻紗美に付き添うように、浴槽に立った麻紗美の背後に裸身を寄り添わせた。
「洗って差し上げます。でもその前に・・はぁぁ、ぁぁン・・」
 感じ入って喘ぐような息をする留美。留美は後ろから麻紗美の裸身を滑り降り、麻紗美に尻を上げさせて、白い双臀の奥底へと顔を埋めていくのだった。

「留美・・シャワーしてない・・ねえダメ」
「いいの・・ああお姉様・・大好き・・あれをもらって帰って私・・泣いて泣いて読んでいました」
 留美の舌先が閉じた女唇をそろりと舐めた。麻紗美の腰が跳ね上がり、麻紗美は壁に両手をついて口吻をまくり上げるように歯を見せて、少し切った長い髪を振り乱す。
「はぁぁ留美・・いい・・感じるよ・・好きよ留美・・あぁン」
 密やかに閉じていた女の唇を割り広げて舌先が舐め回す。雌花はたまらず蜜を噴き、綺麗なピンクの花奥を見せながら、二つの白い尻がぶるぶる震えた。
 雌花を清めた奴隷の舌が躊躇なくアナルを舐める。
「留美ダメ・・ねえそんなところ・・あっ!」

 なんて子なの・・私はいま感動で震えている。そうはっきり自覚して、体の奥底から噴射するような性欲に乱れている。
 このとききっと、もう一人の私は私を抜け出し、淫らな私を微笑んで見つめていると麻紗美は思った。

「私はミルです」
「え・・ミル?」
「美鈴さんがおっしゃいました。『留美のままだと麻紗美はあなたを愛してしまうよ』って。『私だってそうなんだから、あなたはミルになりなさい』って。そうすれば留美の人格を傷つけずに奴隷にできるって」
 美鈴らしいと麻紗美は思った。ちょっと思いつかない発想だ。留美は留美のままとしておいて、もう一人のミルを躾けていく。
 麻紗美はミルの腕を取って振り向きざまに立たせながら、上気するミルの頬を両手に挟んで目を見つめた。そのとき口許にへばりつく陰毛を見つけ、爪先で取ってやる。
「じゃあミル」
「はい?」
「奴隷ミルにとって私は何? 女王かしら?」
「はい・・嬉しいです女王様」
 
 女王は奴隷の二つの乳首に爪を立ててヒネリ上げた。激痛に呻くミル。涙をぽろぽろこぼしていた。
「ほうら痛い・・こんなこともされるのよ」
「ああ・・女王様ぁ・・ぁっ・・ぁう!」
 ミルの若い裸身が崩れだす。
「・・え」
「私ダメ・・ぁ、ぁ、あ・・」
 ワラをもつかむように両手をひろげて抱きすがる素振りをしながら、ミルの二つの黒目が裏返って白目を剥いて崩れていく。

 シャァァーッ

「そんな・・ウソよ・・」
 失禁した生温かい液体が麻紗美の足に降りかかり、ミルはぷるぷる頬を痙攣させて麻紗美の腕にしなだれ落ちる。
「ミル? ねえミル、どうしたの?」
 軸を失い崩れる裸身を麻紗美は抱き留め、たまらなくなって唇をかっさらう。それでもミルは白目を剥いて動かない。
 天性の淫婦だわ・・すごい・・そうした想いが瞬時に羨望へと置き換わっていくことを、このとき麻紗美ははっきりそう自覚した。
 マゾだけに許される奈落の快楽・・これがそうなのか。
 羨ましい。私には到達できない悪魔的なアクメ・・知ってみたいと麻紗美は思い、ミルがいとおしくてならなかった。

 さらに数日が過ぎていた。
 今日は木曜日でベルカフェは休み。気分で休む。
 留美も休み。それに合わせて麻紗美も午前中で仕事を切り上げ、美鈴の部屋へと急いでいた。美鈴と二人でミルを責める・・そんなシーンしか浮かばなかった。
 ところが・・。
 電車の窓を濡らしだした雨粒が、美鈴の部屋に着く頃には本降りとなっていた。はるか南の海上で巨大な台風が列島を狙っている。折りたたみの傘では風に乗る雨は防ぎきれない。麻紗美はジーンズスタイルだったが、パンツもTシャツも濡れていた。

 ドアが開いて出迎えたのは、真っ赤なブラと真っ赤なTバックパンティだけのミル。
 やってるやってる・・ふふふ。
 嬉しくなって入ってみると、美鈴は純白のブラに純白のTバックパンティ。
 半裸の女たちに出迎えられて、麻紗美のスイッチが入っていた。
 バルコニー側のローテーブルに紅茶と菓子が支度された。これで女二人が着衣ならばどうってことはないのだが、二人はすでに性のスタイル。
 麻紗美はまたしても仕事帰りでベージュの無難を身につけていた。
 美鈴は言った。
「脱ぎなさいよ麻紗美も」
「・・そうね。その前にシャワーさせて」
 そのときミルがソファを離れて麻紗美の手を引き寄せた。
「いいから脱いで。ね、女王様・・ふふふ」
 ミルの笑顔・・ゾッとするほどサディズムに満ちている。麻紗美は呆然とした。
「う、うん、わかった。そうよね、女ばかりよ。脱ぐわ」
 濡れたジーンズ、それにTシャツ、職場続きのパンストも。
 ベージュの上下となったとき、ラブソファで美鈴とミルが身を寄せ合って、にやりと残忍に笑うのだった。

 美鈴が静かに言う。
「ダメよ、それじゃ。今日は麻紗美だけが全裸です」
 ミルが愉快そうに追いかける。
「そうそう、素っ裸よ。ふふふ、そうね・・そこで踊りながらいやらしく脱いでいく」
 美鈴が目を丸くして明るく笑った。
「いいわね、それ。ふふふ、ですってよ麻紗美。早くなさい!」
 その強くした言葉で、ミルさえ眼差しを強くする。
 麻紗美は混乱した。混乱したが、激しく反応しだす自分の女体を意識していた。

「な、何・・どうしたの二人とも・・」

 美鈴が座を立ちながら言った。
「決めたのよ、ミルと私で。ミルは奴隷よ、麻紗美の奴隷。それはいいの。でもね私とミルが一緒のときは麻紗美が奴隷。今日はほら・・いろいろ用意してありますから」
 美鈴の背後で、ミルが黄色いスポーツバックを広げだす。
 黒い綿の縄・・ベルトのような革鞭・・太いバイブ・・恐ろしいディルド・・小さなイチジクまでが揃えられた。
 半裸の麻紗美は震えだす。頬がカーッと赤くなり、膝ががくがくしはじめる。

「ほんとは欲しくてたまらない・・そうでしょ麻紗美・・やさしく可愛がって欲しいなら素直になさい。私たちにではなく麻紗美自身の欲望に素直になるの・・さあお脱ぎ」
 歩み寄られてキャッツアイに魅入られる・・性の波が押し寄せる、どうしようもない気配を悟って・・麻紗美は、あの夜、失禁して果てていったミルの歓びを思い出す。
 そのミルが言うのだった。
「服従なさい・・さもないとおしまいよ。写真に撮ってネットに流してあげようか・・ふふふ・・大好きなのよ、可哀想な女王様・・」
 どっちつかずの三十二歳。私は苦しいと麻紗美はもちろん理解していた。

 フロアに独り、立たされて、麻紗美はブラに手をかけた。身をしならせ躍るように、こぼれる乳房を解放し、つまらないビジネスパンティを脱ぎ去った。
 これだわ・・心が震えてイキそうになっている。
 ミルが言った。
「はいはい、いい子ね・・いいカラダよ・・這っておいで」
 体を丸めてしゃがみ込み、両手をついてほんの数歩。全裸の麻紗美は二人の前に行き着いて、美鈴が頭を撫でて言う。
「奴隷のポーズよ。ミルに命じたポーズをなさい」
「はい・・ぁ・・ぁ・・」
 膝で立って膝は肩幅・・両手は頭の後ろ・・胸を張って乳房を差し出す。
「そうそう、それだわ・・ほうら、もう乳首が尖ってる・・」
 そんなことを言われながら、片方をミルに、片方を美鈴に、両方の乳首をつままれて、麻紗美は錯乱するように、言われる前に腰を振りだす。
 美鈴が笑った。
「あははは、ほらごらん、それが麻紗美の姿だわ。欲しがって欲しがってお尻を振る淫乱奴隷よ」
 そう言いながら二人で乳首を嬲ってコネる。内腿に垂れ流れる愛液を麻紗美は自覚し、火のような吐息を吐いて目を閉じた。

「見られながらオナニーなさい。ああ恥ずかしい恥ずかしい。ふふふ、どうしようもない女よね麻紗美って」
「ほら、こんなものも用意したの」
 ミルの手に青いプラの洗濯ばさみ。左、右と、ミルは乳首を挟み付けていく。
「ぁくく・・ぅっ・・」
「ほうら痛い・・可哀想ね女王様・・イッていいのよ、オナニーして」
「はい・・あぁン・・ダメ・・イッちゃう・・」
 麻紗美は股間に手をやって愕然とした。壊れた蛇口のように愛液があふれ出してしまっている。二本まとめた指先がヌルリと入る。

 カシャ・・カシャ・・

 美鈴の手に、いつの間にかデジタルカメラ。
 怖い・・そんなシーンを公開されたら私はおしまい・・シャッター音がするたびに昇り詰めていく自分の体・・瞼の裏に星が乱舞するアクメが来る。
「ほらほら、もっとよ。もっともっと、いやらしくお尻を振るの」
 棒の先に幅広の革ベルトをつけたような尻打ち鞭を手にとって、ミルが背後へと回り込む。
「ほらもっと!」
 ピシャピシャと撫でるような打撃が左右の尻を揺らす。麻紗美はあられもない声を上げ、錯乱して尻も乳房も振り回し、意識が遠のき崩れていた。

 自我をリメイクした新しい麻紗美が産まれた誕生日・・おびただしく伝う愛液のように、ガラスを雨が流れていた。

レズ小説 デルタ(七話)

七話~苛立つ女


 しばらくぶりの留美の部屋。待ち焦がれる誰かとこうなることを期待するように、いつの間にか増えていた赤いラブソファ。小さなローテーブルには、美鈴に教わったというお手製のホットドッグとコーンスープ。それに綺麗に切って盛られたリンゴはいい香り。
 そんなシチュエーションの中、若い全裸を晒してお座りする犬のポーズで微笑む留美を見ていて、麻紗美は腹が立ってくる。仕事帰りで自分だけがつまらないビジネス下着・・それにもまた腹が立つ。
 自分だけがつまらない女のよう。若いこの子が牝となって輝いているのに、いったい私はどうなんだ・・そうした想いが交錯して、留美が可愛いからなおのこと苛立ちに置き換わってくるのである。

 麻紗美はネットで見たM女たちの姿を思った。あの夜は美鈴が暴走しないよう静める側に回っていた。けれどそれも私自身が打ちのめされてしまわないようガードしたい気持ちの裏返し。麻紗美はそれを自覚していた。レズからSMへと加速していく性への解放が信じられない。

「いいわ留美、わかった。それならそうと私も私を変えなくちゃ。今日の私は怖いわよ」
「は、はい、お姉様」
 ドッグスタイルで半歩さらに歩み寄る留美。グレーアッシュのロングヘヤーはポニーテール。すでに紅潮する若い頬を隠せない。濡れたような留美の二つの眸を覗き込み、麻紗美は右手でちょっと頬を叩いた。目を丸くし、ビクッと引き攣る若い犬。
口惜しいほど綺麗なヌード。
「可愛がってほしければ服従なさい。いいわね留美」
「はいっ、お姉様」
 反射的に留美は言って、とたんに息が乱れてくる。天性の牝犬。眸が据わり、性の波に小鼻がひくひく蠢いて・・。
「そこに膝で立って膝は肩幅。両手は頭の後ろでしょ。奴隷のポーズを覚えなさい」
「はい・・ああ、お姉様ぁ・・怖い・・」
 怖いと言いながらも感じ入った牝の息声。留美は裸身を震わせながら服従のポーズをとった。ふっくらと形のいい乳房の先でしこり勃つ二つの乳首に手を伸ばす。色素が薄い整った乳首。それにもまた腹が立つ。

 つまむ。手荒くコネて、指先に力を入れてヒネリ上げる。

「ぁン! んっんっ!」
「どう? 感じる?」
「はいっ・・ああイキそう・・ぅぅ・・感じます」
 留美はあのときもそうだった。女心が天に昇り、カラダが後追いするような性のピーク。私でさえが知らないものを十歳下のこの子は知っている・・腹立たしいし、羨ましくてしかたがない。
 麻紗美は乳首で乳房を伸ばすように、さらにヒネる。
 うくく・・うぎぎ・・痛いのだろう、声を噛んで耐える留美。せつなげな表情がたまらない。
 十歳違いでこの想いなのだから、美鈴のように二十違えば娘のようなものだろう。可愛くてならない。美鈴の想いと私の想いのどちらもを独占する留美・・そう思うと麻紗美の中にメラメラと燃え上がるものがある。
 サディズムなのか。それもちょっと違う気がした。嫉妬なのかも。

 片方の乳首から指先を離し、右手でいきなり牝犬の深みをまさぐった。二本束ねた指先が苦もなくぬるりと没してしまう。体の中は燃えていた。
 せつない喘ぎが漏れ出した。甘い。腰が揺れる。ありったけの女心を溶かしたような愛液があふれ出てくる。
「あらあら、呆れてものも言えないわ、もうヌラヌラ・・ふふふ」
「は、はい・・ああダメだ、おかしくなりそう・・目眩がする・・」
 麻紗美は、留美から指を引き抜くと、牝犬の両方の乳房を交互にちょっと叩き、微笑みかけて腕の中へと絡め取る。しなりと崩れて全裸の留美は膝に抱かれ、愛液で汚してしまった麻紗美の指をぺろぺろ舐める。
 弱くなった丸い目で見上げる犬を見下ろすと、よほど嬉しいのか、犬の二つの眸に綺麗な涙がたまっていた。

「泣いちゃったね・・可愛いわ、留美ってほんと、たまらない」

 おかしい。なぜだろう?
 攻撃色が瞬時に去って、抱きくるんでやりたい母性だけが騒いでいる。私は女王になりきれない。そんな自分が可笑しかった。
「さ、ご飯にしましょう」
 麻紗美は最初にスープに口をつけると、大きなホットドッグをひとかじり。口に入れてよく噛んで、膝の上で見上げる留美の口許に口を寄せた。留美は伸び上がり、両手を麻紗美の肩に回して口づけをせがむよう。
 口移しに吐き出して食べさせる。あのときもそうだったが、これをすると留美はうっとり目を閉じて、吐かれたものを受け取って食べていく。
「美味しい?」
「はい嬉しい・・お姉様大好き・・泣いちゃうもん」
 泣きべそで笑っている。この子の心の空洞がどういうものだったのかと、顔を見ていて思わずにはいられなかった。
 パンだけ。パンとスープを一緒に。リンゴはそのままつまんで食べさせる。
 膝から離れた留美は犬の姿で一途に見つめたまま・・キラキラ眩しい若い瞳が煌めいて・・不思議な夕食が続いていった。

「あらそう、そんなことがあったの・・それでわかった」
「え、何が? 何か言ってた?」
「ううん、あの子は言わない。言葉じゃなくて目の色が素直になった。お客さんが帰ったテーブルを拭かせると、ほんと自然にお尻を上げて私に見せる」
「そうなんだ?」
「薄皮みたいな戸惑いが綺麗さっぱり消えていた。躾けていくよって私が言うと、あの子、ほんと素直に、はいって答える。いい子になったわ」
 嬉しそうに言う美鈴。

 留美との夕食から二日。今日は土曜日。麻紗美の夫は暗いうちからゴルフに出かけて留守だった。麻紗美はカレンダー通りだったがパソコンショップは年中無休で交代休。土日はとりわけ休めない。
 麻紗美はベルカフェの開く十時には店にいた。穏やかな晴天で、こういう日は得てして暇だと美鈴は言った。ボックスの一つに学生らしいカップルがいたが、お茶だけ飲んでさっさと出て行く。ここで待ち合わせてデートだろう。ベルカフェにはモーニングというものがない。開けるなり忙しくなるのはまっぴらだと美鈴は笑う。

 どうしたことか、お客なし。カウンター越しに麻紗美は言った。
「四つん這いにしてやったの。身体検査よ」
「わお! くくく、ヌラヌラだった?」
「後ろにしゃがんでお尻に手を置いて覗き込んでやったのよ。それだけでイキそうになって喘いでいたわ・・だけどね」
「うん?」
「私と同じ女の根源を見せつけられた気分だった。私だって夫にこうして愛される。留美のことは言えないなってそのとき思った。淫らな私を夫だけは知っている。でもだから安心して素直になれるんだって思ったな」
「女の根源か・・確かにね、私もそうだし」
「あのとき私は私の本質を見てたのかも知れないなって・・羨ましい」
「羨ましい?」
 美鈴は野菜を刻む手を止めて顔を上げた。今日の美鈴は白いドレス。うっすらとだが白い下着が透けていた。顔だけを上げたことで開いた胸元から白い乳房が覗いている。白のブラ。桜色の乳房。

 麻紗美が言った。
「何が羨ましいのかもわからないけど、そこまで素直になれるんならマゾっぽくてもいいかなって思ってしまった。妻のポーズをあの子は知らない」
 それを聞いて美鈴が首を傾げて微笑んだ。
「私なんて、それに加えて母のポーズよ。ほんとの私は家の中にはいなかった。だからこうして別居した」
 母のポーズ。それは麻紗美も知らない女のキャリア。麻紗美はハッと美鈴を見つめて浅いため息を漏らしていた。

「くだけたね麻紗美」
「はい? くだけた?」
「最初はね、そこらの普通の女だなって思ってた。ごめん、気を悪くしないでね。内心いろいろあるくせに何食わぬ顔で取り繕って・・だけどそんなものは臆病の言い訳でしかない」
「そうかしら・・私変わった?」
「変わったよ。性を話せるようになっている。あのね麻紗美」
 切り終わったキャベツを水に晒しながら美鈴は言う。
「はい? なあに?」
「エッセイ」
「あ、うん?」
「私は私と話すために書きはじめた。言葉の中にはもう一人の私がいて、彼女にならどんなことでも話せたの。もちろんそんなものは公開できない。外に出せない文章なんてたくさんあるし、そうやって私は私自身を探っていった。私はどうなりたいのかって文章の私と話していたのね」

 そういうことができるのは羨ましい。麻紗美も学生の頃は似たようなことをしたものだったが、そのうち怖くてできなくなった。現実の自分との乖離を見せつけられるとどうにかなってしまいそう。もう一人の私を封じ込めて生きてきた・・と、そんなふうに意識が内向きに切り替わっていたときに、心にフェードインするように美鈴の声が忍び込む。
 目の前が明るくなった気分だった。
「留美はそれなのよ。私にとっての、もう一人の私。麻紗美にとっての、もう一人の麻紗美。それが留美だし、留美にすれば、その逆ね」
「逆って? あの子が私たちに投影している?」
「そういうこと。もう一人の自分と会話するように私や麻紗美と接している。本音の自分が外にいてくれれば、それこそつまり解放ですもの」
 ちょっと難しい。しかし麻紗美にはわかる気がした。
「書いてみようかな私も」・・と、麻紗美は言って、ため息を。
 美鈴は眉を上げてうなずいた。

 留美、留美、留美っ。

 裸の留美。あなたはヘンです。ぜったいヘン。
 淫らな女心をさらけだし、打ち震えて果てていく。
 インランではなさそうで、ヘンタイでもなさそうで、
 よくわからないジブンを探るように演じてる?

 あなたを見ていて思うのよ。私だって、こうなりたい。
 素直なキモチ。正直なワタシ。だって、そんなもん
 滅多やたらに見せられるものじゃない。

 うん、わかった。だから苛立つ。妻気分のワタシの真実。
 私のワタシを見せつけられているようで・・ムカつく。
 私はワタシを捨てられないから、きっと留美も捨てられない。

 カワユイよ。カワユクなりたい私なのに、カワユクない。
 そうか、そこに苛立つんだ。
 いまさら何を言ってるの? 32年は何だったん?

 ダメな私を叱るように、私は留美を責めていきたい。


「・・これを麻紗美さんが?」
「こんなんどーってメールで飛んできた。午前中に来て、書いてみようかなって言ってたのよ」
 その日の夕刻過ぎだった。麻紗美は夫が戻って動けなかった。仕事帰りにベルカフェを覗いた留美は、店を閉めたシャッターの裏側で、美鈴と並んでカウンターに座っていた。コンパクトなノートPCを開いて置いた。
 美鈴は横目に留美を見た。今日の留美は露出ゼロのジーンズスタイル。
「どーよ?」
「・・嬉しいな・・あたし泣きそ・・それにすごくお上手で・・ちょっと信じられない気分」
「そうなのよね、ここまで書けるとは思わなかったし、もっとあたりまえの固い文章を想像していた。留美が麻紗美を変えたのよ」
「あたしがですか?」
「そこにあるように、麻紗美は留美に苦しい自分を投影している。最後に責めるって書いてあるでしょ。『愛する』でも『可愛がる』でもなく『責める』って」
「ええ・・そうですね」
「共振よ。女はそれぞれ波長が違う。合わせようとしたってダメ。相手の中に自分を見いだせない間は同調できないものだもん。『愛する可愛がる』には遠慮があるし、どこかに自分をいい子にしておきたい逃げもある。優位に立っていたいしね」

 留美は息を詰めて美鈴をじっと見つめていた。
「それって・・え?」
「わからない? 私はもう逃げませんて宣言じゃない。いまがチャンスよ」
「チャンス? えっえっ?」
「麻紗美のこと調教しましょう。二人で麻紗美を責めてやる」
 
 驚きを通り越し、留美は口を開けたが声が出ない。

「これプリントできます?」
「欲しい?」
「欲しいですっ。最高のラブレターだわ」

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