快感小説

陵辱官能 鬼祭(五話)

 美由起と陽子が島に着いた夕刻、二人は牡島に上げられて男たちの
中にいた。今夜も二十二人が揃っている。それは美由起にとっても陽
子にとっても二十二人の夫たちとの再会だった。牡島に住む女たちは
明日の鬼祭のために牝島に行ってしまい、牡島には男たちと年寄りだ
けが残っていた。もちろん都会から来た二人の女のことを知る年寄り
たちは、島にいくつかある別の家々に引きこもって出てきていない。

 最初のときほど大袈裟ではなかったが歓迎の宴があって、楽しく喋
って食べて飲み、それから皆で風呂のある湯小屋へと繰り出した。雨
水と島の外からタンクで運ぶ真水ではなく海水を薪で湧かす、いわば
塩泉。十人ほどなら楽に入れる湯小屋がひどく窮屈になっていた。南
海の孤島では真水は貴重なものだった。
 脱衣場に立って脱ぎかけた陽子が手を止めた。
「ねえ、女神様お二人のお風呂なのよ、脱がせなさい」
「はいよ!」
「うわ! あははは!」
「きゃぁぁーっ!」
 よってたかって・・けれどもやさしく脱がされていく二人。男たち
の逞しい肉体が激しく反応をはじめていた。
「ふふふ、もうビンビンにしちゃって・・若いなぁ・・可愛いわ」

 そんな陽子の声に、美由起の目がそちらに流れた。
 群がる素っ裸の男たちに、誰が誰やら触られて抱かれていた美由起
だったが、そうしながらも、東京であれほど男を遠ざけている陽子の
妖しい女の面持ちに、美由起は驚かされていた。
 すでにもう牡となった勃ち男に囲まれて、陽子は両手にそっと男の
熱を握ってやって、そうしながら乳首を吸われ、別の男の胸に背中を
あずけてとろりとした目。後ろからの勃起を尻の谷に挟むようにして
悪戯し、穏やかに微笑む陽子。
 それがこの子の正体なのだと美由起は思った。

 そしてそれは美由起も同じ。男たちに陵辱されて愛され抜かれ、陽
子のことなどいつの間にか頭から消えていた。
「あ、もう・・半分でも十一人よ、壊れちゃう・・」
 半数での男十一人、それに美由紀か陽子かの女一人を加えて十二
人。半分が湯に浸かり、その間、片や半分が窮屈な洗い場で絡み合う。
 そしてそのどちらもから女声の喘ぎが聞こえてくる・・その光景は淫ら
だが綺麗な性の場所だった。その夜は、さながら男女のごった煮で、
それでもまだ女二人はアクメに追い立てられて気を失うように眠って
いた。

 そして翌朝・・。
 美由起と陽子が男の船で婚藪に渡ったとき、牝島からの女たちはす
でに顔を揃えていて、その中に、美由起にとっても陽子にとっても見
慣れた都会ふうの男が一人、取り囲まれていたのだった。
 女たちは十九名。うち二人が美由起と陽子。一人が名を「リョウ」
と言って、囲まれた男の妻だった。
 残る十六人は海の女たち。男同様に逞しく、その中でリョウだけが
都会の白さを身につけていた。
 島の女たちは皆、漁で着る厚いゴム引きの胸当てまであるウェダー
を穿き込み、上はそれぞれゴム引きの上着だったり厚手のジャンパー
だったりした。それだけ着てもトゲにやられると女たちは言う。

「はじめるよ!」
「あいよ!」
 十六人の中の一人が言うと女たちの声が重なった。島の女にとって
の鬼祭は、男に藪の怖さなどは説明しない。女たちは、それぞれの手
にあの山刀や、魚を突くモリ、岩につく貝を削ぎ落とすシャベルのよ
うなスキ刃など、恐ろしくなるものを握り締めて立っていた。
「おい、脱ぎな! 素っ裸だよ!」
 都会の夏姿の細身の男は尻をモリの先で突っつかれ、すでにもう震
えてしまって懸命に妻のリョウに許しを乞うが、リョウはそっぽを向い
て相手にせず、誰より厳しい口調で言うのだった。
「さっさと脱げ、浮気野郎! 体中血だらけにして少しは苦しむがいい
わ! 絶対に許しませんからね!」
 と、罵声を浴びせる。

「脱げよこら!」と、ふたたびモリで突かれて、男は裸にされてしまうの
だった。島の男たちとは違う真っ白な男の全裸。女たちは珍しそうに
目を細め、ほくそ笑んで見守った。
 男は恐怖で目が泳ぎ、妻の足下に膝をついて手を合わせた。
「すまなかった許してくれ、二度としないから、ごめんよリョウ」
 リョウが怒鳴った。
「当たり前だ! 何をしても謝るって言うから連れてきたんだ! でな
きゃ、おまえなんか捨てちまっておしまいだよ! 口だけじゃないって
ところを男だったら見せてごらん!」

「立てよ、ほら!」
 モリと山刀の切っ先で背中と尻を強く突かれ、男は悲鳴を上げて立
ち上がった。
 男を立たせた女が言った。
「リョウ、時間はどうする?」
 そのとき一瞬沈黙したリョウに、美由起は、迷う妻の姿を感じてい
た。裸で藪に入れば、それだけで凄惨なリンチとなる。
「どうするリョウ?」
「ああ、わかってるよ、一時間だ」
「おう、わかった。さあ行け! 藪の中を逃げ回るんだ! これから
おまえを追い回すが、青い藪の中で見つけたらひどいからね! 赤い
藪を選んで歩き回れ! 泣きわめいて心からリョウに詫びるんだ!」

 赤い藪の中を一時間・・美由起にも陽子にも男たちのあの血だらけ
の姿が目に浮かんだ。逞しい海の男でさえが泣きそうな・・これは処
刑だと二人は思った。
 素っ裸の男の尻を蹴り上げて女の一人が美由起と陽子を振り向い
た。
「あんたたちリョウを見てて、頼んだよ」
「はい」
「うん、見ててやってね、頼んだよ」
 島の女たちはもちろんリョウの気持ちを察していた。夫を追い立て
る女たちの中に妻はとても入れない。

「さあ行け! 一時間だよ、わかったね!」

 赤い藪に向けて、女たちの手にあるモリや刀で体を突かれ、踏み
込んでいく夫に対し、リョウは一瞬わずかに身を乗り出すも、しかしそ
っぽを向いてしまって唇を噛んでいた。意固地になって引っ込みがつ
かなくなってしまっている。
「うわあーっ、痛いぃーっ! うわぁぁーっ!」
「戻るなコラぁ! 行けぇ!」
 鋭いモリ先が尻の肌を浅く抉って血がじわじわ滲み出してくる。
「痛いぃー痛いぃーっ! リョウ! 許してぇー!」
「行け! もっともっと苦しむんだ、この浮気野郎!」
 夫が藪の中に消えて行き、岩に座り込んでしまったリョウ。よそ者
の女二人を意識してか、遠くの海を強い目で見渡して・・けれどもそ
の横顔の唇がぶるぶると震えている。
 美由起と陽子がそれぞれリョウの肩に手を置いた。
「口惜しい・・なによ、許さないから・・」

「うわぁぁーっ! 助けてえーっ! 助けてえーっ!」
 悲鳴が小さくなっていく。リョウは岩に座ったまま両手で顔を覆って
いた。リンチ。拷問。一時間はあまりに長かった。

 一時間・・それより少し早く、女たちに尻を追われて藪を出てきた
男は、全身もう傷だらけ。白かった肌に真っ赤な血が幾筋も流れて
いた。リョウは藪から出た夫を一目見て、両手を握り、体を小刻みに
震わせている。
 妻の元に、顔を泣き濡らした血だらけ男は歩み寄り、立ち上がった
妻の足下に土下座をして、声を上げて泣きじゃくった。
「許してリョウ、ごめんよ、もうしないから許して」
「・・口ばっかり」
「違うよ、誓うから! 二度としない、ごめんなさい!」
「愛してたのに、よくも・・許さないから・・」

 もういい。陽子の手がリョウの背にそっと触れた。許してやりなよ、
そんな思いだったのだろう。けれどもリョウは・・。
「心から悪いと思うなら、もうしばらく泣いてきなさい!」
「リョ、リョウ・・まだやるのか」
 島の女たちも思いは同じだった。もうやめな・・そんな目でリョウ
を見る。
「いいから連れてって! 私の口惜しさを思い知るがいいわ! 骨身
に沁みて思い知るがいい!」

 そしてまた、裸の身を泣き悶えさせる男は女たちに追われて行って、
その少し後のことだった。
「ぎゃぁぁー、目がぁー、目がぁぁー! 目が見えないぃーっ!」

 断末魔の悲鳴だった。リョウがハッとして立ち上がり、藪のかなた
を見回したとき・・しばらくして藪の中から女たちが男を抱き支えて
囲むように現れた。女の一人が絶叫した。
「ああリョウ! 大変だよリョウ!」
「どうしたの・・」
「ご主人が、尻をモリで突かれて飛び上がって倒れたときに右目をト
ゲで・・」
「・・」
「片目をやられて、目が見えないって・・」


 リョウは、片目を覆う指の間から血を流し、歩み寄る夫にたまらな
い目を向けたが、そのときはもう男の心は壊れていた。まるで表情を
なくしている。
 妻が歩み寄って手をさしのべようとしても、その手を払い、感情の
失せた声で言う。
「もういい、終わった・・」
「あ、あなた・・何言ってるの」
「終わったんだよ!」

 そして悲劇が起きた。

 片目を潰して失望し、悲観して・・自失した男は、妻の手も、止めよ
うとする女たちの手も払いのけ、岩場をふらふら歩いて行って・・。
 リョウも女たちも呆然とする中で、片目のない視野で距離感がつか
めなかったのだろう、男は岩の上で足を滑らせ、岩影に転落した。
 自然のままの岩礁帯には平らなところもあれば鋸のように鋭利な岩
も段差もある。二メートルそこそこの高さだったが、尖った岩角に頭か
ら転落し、頭蓋を割ってしまった・・。

 ほぼ即死の状態だった。

 そのときになってリョウが・・。
「うわあーっ、やりすぎちゃったぁ、やりすぎちゃったぁー! いやよー
っ、いやぁぁーっ!」

陵辱官能 鬼祭(四話)

「綺麗だ・・」
「うむ綺麗だ・・」
「まさに女神・・」

 ブラが消えると乳房が転ぶ。
 パンティが消えると白い性を黒い毛が飾っている。
 全裸の男鬼二十二人の視線が美由起の女体を舐めていた。若い鬼
たちは欲情を真上を向くほど勃てていた。
 美由起は、そんな鬼のひとりひとりに歩み寄り、女神としての抱擁
を与え、膝をついて鬼の尻をそっと抱き、イキリ勃つもの、いまはま
だ萎えたもの・・それぞれの先端にキスをした。

 二十二人の鬼たち皆が顔を見合わせ、一斉に砂に膝をついて美由
起を見上げた。
「我ら皆が女神のしもべ」
 イバラの中を全裸で彷徨った鬼たちに傷のない者はひとりとしてい
なかった。鋭いトゲで肌を引っ掻き、突き刺され、全身血だらけの青
年もいる。
 美由紀は、膝をつく年少の若い鬼に歩み寄り、丸刈りの頭を抱いて
やって、女尻を抱かせてやって、やさしく言った。
「おいで。さっきはごめんね、ひどいことしちゃったわ」
 イバラの藪に突き飛ばした少年だった。若い鬼はいいんだよと言う
ようにかぶりを振って、白い女神にむしゃぶりついて砂浜に押し倒す。

 唇を奪われて、乳房を揉まれ乳首を吸われ・・口づけが降りていっ
て、鬼たち皆の輪の中で開ききった女の奥の女神の花に顔を埋めら
れ、若い鬼の熱いものに貫かれ・・。
 次々に犯された。やさしいセックスだったが逃げ場のない陵辱。そ
れは輪姦。なのに美由紀は虹色の夢を見て、熱いほとばしりを子宮
に感じ、女神は悦びに打ち震えた。

「おお! それでどうなった?」
「どうなったじゃないわよ、私もう立てなくて。だって凄すぎる」
「あはははっ!」
「笑うな。もうね・・それから夜までずっとだよ、二十二人に次から
次から。壊れるかと思ったわ。でも私・・」
「うん?」
「幸せだったな・・鬼たちの真心が伝わるの。レイプなのよ、輪姦な
のよ。でもあれは陵辱じゃなくて愛だった。可哀想に坊やなんて引っ
掻き傷で血だらけよ。私に抱かれて感激しちゃって泣いてるの。そう
までして求愛されれば女は誰でも女神になるわ」
「なるほど・・それで今日、私を呼んだというわけか」

 美由紀はさらに言った。
「私ね」
「うん?」
「婚約、破棄したわ。計算ずくはまっぴらなのよ。男が欲しくなった
ら島へ行く、あなたのように」
「都会の愛なんてご都合ですもの。ちゃらちゃらと口先ばかり。障害
になるトゲ一本刺さろうものなら手の平返して冷たくなるわ」
「そうね」
「私はね美由起」
「なあに?」
「いまでもときどき鬼祭をやらせる。私の方から押しかけて祭りをや
ってもらうのよ。男たちを血だらけにしてやって、それに震えてイキ
狂うの。あたしだって、そうまでして求めてくれれば牝になれるし声
を上げて泣けるもん。女は犯されてナンボの生き物。ただそのとき
に男には真心でいてほしい」
「うん。でもさ陽子ちゃんよ」
「な…なにさ、その目?」
「よくも私を騙してくれたわ、私を淫乱にしたお仕置きですからね」
「あははは!」
「あははじゃないわよ、抱いて陽子、イキたいの」

 美由起と、美由起を騙した陽子という女。女同士の裸身が絡み、
腿奥の牝花と牝花が蜜を交わす花合わせの悦びが、二人の女を
溶かしていった。

 それから一月ほどが過ぎていき、次には二人揃って行きたいねと
話していたその矢先、島の男たちから面白い話が舞い込んだ。
 鬼祭の逆をやるというのである。
 大勢の女鬼が一人の男を追いかけまわす。それは男たちの鬼祭
とは意味の違うものだった。島の女がよそ者と結婚して都会に出て
いた。その旦那が浮気をし、よその女を孕ませたというのである。
 島の女たちがよってたかって旦那を責めるリンチとなる。その催し
に君ら二人も出てみろよと、そんな誘いの電話だった。

「でもそれって逆じゃない? 浮気をした旦那を責めるためになんで
女が血だらけなのよ?」
「あ、これだよ馬鹿、裸なのは旦那だよ! 女たちが山刀を持って藪
を払いながら追いかけ回すの。リンチなんだから」
「その奥さんて、それでもご主人のこと愛してるんだね」
「そりゃそうよ、だから鬼になるんだから。嫌いだったら捨てて終わ
り。それが女ってもんでしょう。男を許すための儀式だわ、見物だわ
よ、行きましょう」

 一月の間に美由起と陽子は女同士の夫婦のように同居していた。
島の男の清々しさを知ってしまうと都会の男は違うと思える。

陵辱官能 鬼祭(三話)

「よし行くぞ!」
「おおう!」

 藪の中に迷いに迷い、ずいぶん走った気がしていた。なのに男たち
の歓声がすぐ後ろに聞こえる気がする。
 背丈ほどの高さの藪は鬱蒼と深く、迷い込むとどっちへ向いて歩い
ているかもわからなくなる。夢中で歩き、一度海に出てしまう。藪が
なくなると鬼から見通せ、すぐまた引き返して藪に踏み込む。
 ここまで来るその間にすでに数カ所トゲにやられた。Tシャツに隠
れない二の腕に浅い引っ掻き傷ができていて血の筋が滲んでいる。
 あの子もこうやって逃げたんだわ。裸にされてそれでも逃げた・・。
 美由起はそんなことを考えた。

 それからまたしばらく経って、ガサガサと藪を分ける音がした。す
ぐそばに鬼が来ている。怖くて震え、身を沈めて赤い藪に隠れていた。
 山刀の先で藪を倒し、踏み込んで身を沈め、倒した幹を立てて塞い
でしまう。鬼の気配が消えていき、それからまた藪に迷う。青い藪か
ら二色の入り混ざった藪に差しかかる頃、歩いてきた青い藪のすぐ背
後にガサガサと気配がした。

 ハッとして振り向くと若い鬼がこちらを見ている。数メートルの距
離だった。若い鬼は・・十代・・いや十四、五歳にしか見えない少年
だ。頭は丸刈り。そしてもちろん素っ裸。その裸の若い鬼が足を速め
て歩み寄り、美由起はたまらない恐怖に襲われた。
「女神様どうか逃げないで、お情けを・・痛いよ・・」
 少年らしい綺麗な肌の胸にも腹にも、腿や尻や、鋭いトゲの傷で血
が滲み、美由起は見ていられない。
「お情けを・・心からお慕いします。どうかお情けを・・」
「いやよ! あっちへお行き!」
 美由起は刀を振って若い鬼を遠ざけた。
「逃げないで!」
「来ないで! あっち行って!」
 若い鬼は、それでも両手をひろげて歩み寄る。美由起は山刀で赤い
藪を切り払い、背後の藪に踏み込んで、その切った茎を刀の先に引っ
かけて若い鬼に投げつけた。
 若い鬼は両手で顔だけとっさに覆い、飛んでくる枝葉のトゲ茎をま
ともに浴びた。素っ裸の若い体をトゲが襲う。
「あうう! 痛いぃ! 痛いよー!」
「ああそんな・・ごめん、ごめんね、お願いだから来ないで」
 赤い藪を切っては進み、切った藪を道筋に重ねておいて道を塞ぐ。

 ガサガサとすぐにまた音がする。三十代の大人の鬼。体中血だらけ
だった。藪に潜む美由起に気づかず通り過ぎた。

 ガサガサと音がする。

 ガサガサと音がする。そこらじゅうで音がする。

 ハッとした。すぐそばに、また別の若い鬼。二十代の青年だった。
そのとき美由起は青い藪の中にいて、刀を振り上げるまでもなく組み
伏せられて、Tシャツを毟り取られて抱き締められた。
「女神様、ああ好きです女神様」
「美由起は暴れ、体の間に刀を差し込み、刀の先で胸を突き、若い鬼
を引き離して蹴り飛ばす。若い鬼は激しく勃起させていて、蹴り飛ば
されて背後の赤い藪に突っ込んで・・。
「うあぁー痛いぃ! んむむーっ!」
「ああ・・ごめんなさい。でも・・ごめんね!」
 若い鬼はトゲの藪に突っ込んで、体を抱いて悶え苦しむ。

 その直後、今度は大人の鬼二人に組み伏せられて、ジーンズまで脱
がされて、真っ赤なブラとパンティだけの姿にされ、それでも刀を振
って鬼どもを遠ざけて・・。
 拒まれれば強制しない、下着だけは奪わない、それが祭の決まりだ
った。その場は一度退くけれど、またすぐに迫ってくる。
 二色の藪に迷い込み、右を見ていて左の尻をトゲに突かれ、飛び上
がって身を翻すと、ブラの背中をトゲに引っかけ・・。
 痛い・・トゲに毒でもあるらしく痛みが普通でないのである。

 太腿を引っ掻いた・・腕を刺され、尻を引っ掻き・・それでもまだ
美由起の傷は少なかった。鬼どもにくらべれば。
 ガサガサと音がする。ガサガサと音がする。
 囲まれた。鬼たち数人に囲まれた気配がする・・。

 青い藪が掻き分けられて、さっきの若い鬼が歩み寄る。十代の子供
の鬼。あのとき投げた赤い藪の鋭いトゲが顔を覆った腕の間から額を
襲ったのか、若い鬼は、額から片目の瞼にかけて血が流れ、泣きそう
な顔をする。

 すぐそばの二色の藪から呻き声を上げながら大人の鬼が現れた。
 背後から若い鬼。またそばから大人の鬼、大人の鬼、大人の鬼。
 数人の鬼どもに囲まれた。囲む輪が絞られる。
 その中の年少の血だらけ鬼が女神に言った。藪を投げつけた少年だ。
「女神様、どうか女神様、願いをきいて、お願いです、痛いよ」
「女神様、逃げないで。苦しいよ」
「女神様、痛いよ、痛いよー」
「お慕いします心より。ですからもう、お許しを。体中が裂けてしま
います」

 年少の血だらけ鬼は泣いていた。痛みとそして願いが届かない悲し
みと・・鬼は誰もが傷だらけ。血だらけで、そうまでして私の情けを
求めてくれる。
 美由起は胸が熱くなり、たまらない母性が衝き上げて、一度は振り
上げた山刀を降ろしたのだった。

「わかったわ・・もういい、海に出ましょう、皆を呼んで。ひどいわ、
血だらけなんだもの」
 若い鬼が泣きながらうなずいた。
「おおい、お許しがでたー、海へ出ろー!」

 島の外周の岩礁帯の間にできた、わずかばかりの砂浜に降りていた。
 下着だけの美由起を囲み、ところが鬼たちは女体を見回し、言うの
だった。
「あっちこっちやられてる、可哀想に・・」
「うん血が出てる・・」
「背中がひどいな、ひどいことをしちゃったよ・・」

 美由起は涙を溜めていた。自分の体を血だらけにした二十二人の鬼
たちが、ただ女神をいたわってくれている。

「私は女神よね」
「ああそうだ、素晴らしい女だよ」
「うん、ならひとつ願いを聞いて」
「言ってみろ」
「最初はこの子、次にこの子・・」
「ああ、いいだろう」
 美由起の言葉に、それぞれ違う鬼たちが答えていた。

 あのとき赤い藪を投げつけた少年。次に、蹴り飛ばして赤い藪に放
り込んだ青年。それからはもう・・美由起はそう思っていた。

 ブラを外す。きらびやかな南の海の煌めきが白い乳房を妖しく見せ
た。パンティに手をかけた・・けれど手が止まってしまう。

「鬼さんたちはしもべよね? 女神様のしもべでしょう?」
「そうだよ。心から女神を慕う者たちだ」
「わかった・・うふふ・・」
 パンティに指を滑らせ、そっと下げて脱いでいく。少し傷はできた
けど・・美由起は美しくやさしい女神となった。

陵辱官能 鬼祭(二話)

 翌朝よく晴れた南海の空の下、二隻の漁船に男二十二人と女が一人、
分かれて乗り込み、船は牡島(おと)と牝島(めと)二島のちょうど
間あたりに浮かぶ、婚藪(くながぶ)と言われる小さな島を目指して
いた。
 婚藪は周囲数百メートルのちっぽけな島。ほぼ円形で、波打ち際の
岩礁帯のほかは一面背の高い南の植物に覆われていた。遠くからだと
空飛ぶ円盤を海に浮かせようなものであり、島を覆う植物に青いもの
と赤みのあるものとの二種類あり、それが入り乱れて美しいモアレ模
様を描いている。
 婚藪へ行き着くまで男ばかりの一隻には声が絶えなかったが、女の
乗る一隻は静かだった。女の極度の緊張が周りに伝わり、声を遠慮し
ているといったムード。

 婚藪に着いた。
 男たちが降り立って、一人の女は、男に手を取られて船を降ろされ、
男たちに囲まれて島の周囲を取り巻く岩場を歩かされた。男たちは皆
短パンにランニングシャツ。女はブルージーンに半袖のピンクのTシ
ャツ、スニーカーを履いている。
 そうやって輪をつくって女を囲み、あるところまで行くと、四十歳
ほどの年長の男が手を上げて歩みを止めさせ、皆に言った。

「では鬼祭をはじめたい。まず女の名は美由起。間違ってどっかのア
マの名を呼ぶんじゃないぞ、失敬である」
 男の輪からくすくすと含み笑いが漏れてくる。しかし話す一人はに
こりともしない。
「祭を知らない美由起に聞かせることもあるので、鬼祭について話す。
鬼祭とは、島に迷う女神である美由起に、我ら男の鬼が群がって情け
を乞い、純粋なる愛を授かろうとするものである。女は宝だ。心より
慕い、力で奪ってはいけないもの。心を伝え、授けられる情けを待つ。
そのことで我ら鬼は人の子となれるのだ。わかったな!」

「おおう!」 男の声が地響きのように重なった。

「したがって、美由起を追い回し、押し倒して情けを願うにしても、
最後の下着だけには手をかけてはならない。ブラジャーもパンティも、
女神の許しを待たなければならない。よいな! これが規則だ!」
「おおう! なもん承知よ! 我らはしもべ、美由起は女神! おお
う、そうだそうだ!」
 男たちが微笑み合って拳を高々突き上げる。

 そして男は輪の中ですでに竦む女に言った。
「美由起よ」
「は、はい!」
「そういう祭だが、おまえの方にも言っておきたい。迫る我らに情が
動き、許すのならば、我らすべては人の子となれる。誰一人拒むこと
は許されない。拒むのであれば全員、許すのであれば全員、それが決
まりだ。心しておくように」
 美由起には声もなかった。海の男二十二人に犯される自分・・胸が
張り裂けそうな気分になる。
 そしてなお男は、その手に長く重い山刀を握って、言った。
「そこらを見ろ、背丈ほどの藪があるだろう。この島全体が藪に覆わ
れているのだが、よく見ろよ、青い藪と赤みのある藪が混じっている
な」
「はい」
「青い藪はよい、やさしい藪だ。だが赤い藪はイバラの藪よ。枝葉に
鋭いトゲがあり、肌を刺し肌を切り体に傷をつけるだろう。これをお
まえに与えてやる。刀で枝葉をはらって進むがいい、そうすればトゲ
を避けて歩けるだろう。この刀は我ら鬼には許されない。鬼は素っ裸
でおまえを追う。その意味を考えろ。裸でトゲの藪に踏み込む鬼の愛
を考えろ」
「ぅぐ」 喉の奥がツバ鳴りした。息が浅く速くなり、苦しくなって、
美由起は顔を青くする。
「ただし・・ふふふ、青い藪なら鬼どもはたやすく追いすがる。赤い
藪でも枝葉をはらえば、それもまた鬼にはやさしい。この意味がわか
るな」
「は、はい」
「ならば行け、どこへなりと行け。いまからしばらく鬼から逃げる時
をやる。それから鬼どもは藪に散って女神を追う。わかったら行け。
青い藪を選んで逃げるのだ。いま朝の七時、しばらくをおまえに与え
るとして、以降夜の七時までが祭りである。それまで逃げおうせたら、
それはそれで鬼の負けだ。さあ女神よ行け! ただし海には死んでも
入るなよ、ここらの海は鮫の海だ、骨にされるぞ」

 このときになって美由起は、鬼祭が遊びでないことに慄然とした。
 全裸の男たちが群がって押し寄せて、組み伏せられて・・小さな島
ではとても逃げられない。絶望だった。
 美しい美由起だから、ゆえに島中の鬼が目覚めてしまった。
「あ、あの・・」
 美由起の声におかまいなく、男は叫んだ。
「鬼祭である! 女神にすがる鬼どもよ! 脱げや脱げ!」
「おおう!」 
 男たちの獣の声が沸き立って拳が上がり、その直後、男たちは着て
いるものを脱ぎ散らして、逞しい全裸の鬼となっていた。
 男たちのほとんど皆に体中におびただしい傷がある。トゲの傷。
 その意味するところは、つまり・・。

「うそよ、そんな・・うそよ、ねえ、やめて!」

「美由起よ! 女神よ! 我らに授ける女体を曝せ!」
「脱げや女神よ! 我らの愛を許せよ女神よ!」

 男たちの目の色が一斉に鬼の眸に変化した。鬼になりきり、足を踏
み鳴らして踊りだし、男の肉棒を振り回す。若い鬼なら目の前の獲物
に昂まってすでになかば勃起させ・・。

「イヤぁ・・ああイヤよぉーっ!」
「行け美由起! 行けぇ!」
「きゃぁぁーっ!」 

 美由起は、鈍く光る刀を手に青い藪に突っ込んだ。足下には枯れた
茎が折り重なり、腐りかけて柔らかく、生き藪を苦もなく縫って、し
ばらくは走れていた。しかし藪が赤い色に変化して、青い方に走って
みても、青と赤の入り混じる鬱蒼とした藪にぶつかって足が止まる。
 刀を使えば道筋を鬼に示すことになり、使わなければ・・。

「あ痛ッ!」
 鋭いトゲがTシャツの肩口を引っ掻いた。
「あの子の傷って、まさか・・」
 友だちの女体の傷の意味を悟り、呆然とする美由起であった。

陵辱官能 鬼祭(一話)

「ねえ、このあいだの話考えてみた?」
「え・・ええ、まあね。でも・・」
「煮え切らない女よね、あんたもさ」
「だって、いくらなんでも・・」
「いいじゃん、結婚前の一夜の夢だよ。海の男たちに囲まれて女王扱い
されるのよ。女の人生いっぺんぐらいそんなことがあってもいいと思う
けど」
「じゃあ、あなたが行けばいいじゃない、そう言うなら」
「あたしはダメよ、知ってるくせに」
「そっか・・レズだもんね、男は嫌いか」

 この子、オフィスの元同僚なのですが、発展家と言うのでしょうか、
あるときを境にキレちゃった言うのでしょうか。性に対してあけっぴろ
げなだけでなく、ふらりと独り旅で十日ほども消えてしまったり、そう
かと思えば突然すっきりした顔で現れては人を惑わすようなことを言う。
 そんな破天荒でこちらがたじたじしてしまうのです。
 この子の体・・背中やお尻・・もう全身に無数の細かな傷があり、以
前の彼がSM好きで、それで男が嫌になったと女にはしり。以来ずっと
レズを通して飼い猫をたくさん持っていて、じつは一度だけ私も押し倒
されたことがあったのですが。
 そんな女同士の深い仲だったので、私もあけっぴろげになれたのです。

 私には求めてくれる男性がいて、婚約もし、それなのにどうしても迷
いが振り切れなくて悩んでいた。そんなときです、どこから仕入れてき
たのか、あの子から「鬼祭」の話を聞かされた。
 南の海の地図にない島。そこで一人の女をめぐって男たちが争うとい
うのか、迫ってくるというのか、争奪戦を繰りひろげる、そんなような
奇祭があると言うのです。
 詳しいことはあの子も知らないようですが、無人島に女が一人放たれ
て、ほとんど裸の男たちが群がって押し寄せて、死に物狂いに求愛する。
そして気に入った相手がいれば一夜をともに、いなければソデにして帰
ってきていいと言う。
 でもね、それはつまりセックスのための儀式あり、つまり私にすれば、
それを目的に行くわけで・・好きこのんで陵辱されに。

 はじめのうちは話し半分だったのですけど、都会の中で刺激のない平
板な暮らしを重ね、それほどでもない男と結婚していく女にとって、野
生の男たちはどんなだろうと、そんな興味も捨てきれず・・気に入らな
ければ相手にしなくていいというあの子を信じて、行ってみようと考え
た。
 見知らぬ土地の出来事であり、あの子ではないけれど一夜の夢だと思
えばよかった。
 それがね、面白いのです、その島の青年会に申し込む。そうすると希
望者が多ければ抽選であり、なければ即決。なんだかね、お祭り気分の
お遊びなんだと思えてしまい、むしろ安心できたのです。

 即決でした。ハガキを出した五日後にハガキが来て、連絡先が書かれ
てあって、私の方から電話して。
 女性の参加は無料です。歓迎するとのお話で。
 だってそれはそうでしょう、きっと嫁のきてのない離れ小島で、願っ
てもない話のはず。それで私は空港まであの子に送られて旅立ったので
す。
 東京から飛行機で、あるところまで行くでしょう、そこからまたヘリ
コプターで海をまたぎ、さらに小舟で少し行く。ここが日本かと思える
ようなとんでもない場所に着いたのです。

 いいえ、ごめんなさい、その場所は言えません。あなたがもし女性な
ら、積極的にお奨めできない場所なので・・。


「ふふふ」
「それじゃ、いまごろその子は大変ね・・・」
 私が旅立った翌日の、あるラブホの一室での会話です。
「いまごろ犯されてるわよ、腰が抜けるほど犯されてる。あははは!」
「怖い人ね。あなたって、ほんと魔女なんだから」
「あたしがいくら誘っても相手にしてくれないからよ。可愛がってあげ
るのに。好きなのにね。あたしみたいになればいい・・くくく」
 あの子・・その趣味の飼い犬とホテルにいて、白い女体を鏡に映し、
お尻の傷を撫でていた。
「じゃあ、その子も戻ってきたら傷だらけ?」
「逃げなければいいだけよ。逃げようものなら・・きゃははは!」

 もちろん、そんなことは私にとって知る由もないことで・・。

 そして、島に着いた私は船を降り、それも客船ではなくちっぽけな
漁船から降ろされて、逞しい海の男たちが待つところへ連れて行かれ
た。
 牡島と書いて「おと」と呼ぶ。
 もう一つ、牝島と書いて「めと」という二つの小さな島があり、そ
の真ん中あたりの海原に、婚藪(くながぶ)と言われる、それはもう
ほんとにちっぽけな島がある。
 地図にない島とは婚藪のことでしたが、それら三島を合わせても別
世界・・そんなところだったのです。

 その昔、「おと」に男、「めと」に女が暮らしていて、男女のバラ
ンスを保って生きていた。海の事故や争いで男が減ったり、病いや略
奪で女が減るようなことがあったとき、女や男をよその土地からさら
ってきては「くながぶ」で奪い合った。そんな歴史があるそうです。
 島のルーツは海賊だということで・・。
 男が女を奪い合うのは想像できても、女たちが一人の男に群がる様
は怖いというのか、島の人々はそれだけ生殖に激しかったということ
です。

 それにしても婚藪(くながぶ)とは・・男女がつながる藪というこ
と。その昔の因習をそのまま伝える名だと思う。いまの時代は、牡島、
牝島ともに、普通の家で普通の家族が暮らす漁村の暮らしがあるので
すが。

 飛行機で東京を午前中に発って、それでも島に着いたときには午後
の四時過ぎ。その日は私を歓迎する宴が催されただけで、鬼祭は明日。
 けれど、そのことより私は、すでに普通でない雰囲気に不安を覚え
ていたのです。
 女の私は男の島、牡島(おと)に連れて行かれたのですが、島に女
性の姿がありません。子供の姿もお年寄りの姿も見かけない男ばかり
の中に、女は私が独りだけ。

 そこはきっと網元だとか島でいちばん大きな家なのでしょう。台風
を避けるために家々はどこも平屋です。家の板木の黒く錆びた古い古
い漁師の家。その家の襖がすべて外されて、牡島牝島二島に暮らす男
たち二十二人が居並んでいるのです。十八歳から上は三十代、四十歳
ぐらいまで。皆逞しく日焼けして、胸の厚い屈強な男ばかりです。
 その中に独りぽっち。私はもう、それでなくても薄い夏服の下で、
女体が痺れていましたね。
 純朴な男の視線は遠慮を知らず、衣服を透かされているようで・・。

 豪快な漁師料理と美味しいお酒。そしてやさしい男たち。
 さながらそれはハーレムでした。逆ハーレム。女王に群がる男奴隷
のハーレムです。そうやって夜が更けていき、明らかに年長の一人の
男が立ち上がって、皆を見渡して言うのです。
「さて、そろそろいい時刻だ、明日の鬼祭に出る者は?」
「おおう!」と歓声が沸き立って、残り二十一人全員が手を挙げます。
 皆に問うた男は笑い、そして私を振り向きます。
「ふっふっふっ、俺を加えて全員か」
「は、はい? あの、お祭りに出るっていうのは?」
「それだけ君がいい女ということさ・・ふっふっふっ!」

 ああ息が・・苦しい。

 女体が・・いいえ意識が火照ってしまって、ほとんど眠れない夜が
過ぎ、よく晴れた気持ちのいい朝がやってきた。
 けれど私にとっては・・錯乱の一日がはじまったのです。

爽やか不倫 風をきって(終話)

  雲間に美しい欠け月が浮いていました。
  満月は、いまはもう好きじゃない。
  月は弱く生まれ三日月へ半月へと光を増して、
  満ちる月となって輝くものよ。
  けれども女の姿を見るように、
  いつかまた欠けていき、弱くなり、
  やがて、ふっと消えてなくなる。
  私の光は二人の娘が受け継いで、
  満ちる月へと育っていくわ。私はもう
  満月には戻れないと思うから、
  満月は、いまはもう好きじゃない。

「いかん、寝ちゃったな」
「うふふ、いいじゃない」
「何を書いてる?」
「ちょっとね」
「見せてごらん」

 東京から片道百キロあまり。泊りがけのツーリング。走る人はもっ
と遠くへ行けるけど、私たちにはこのぐらいがのんびりしていてちょ
うどよかった。
 着いてすぐ温泉へ。ご飯を食べてお部屋に戻ったと思ったら、クニ
さんね、横になっていびきをかいた。私一人で縁側で春の月を見てい
たの。

 澄み切った海の夜に浮いている、それは綺麗な欠け月でした。

 クニさんが寝ていたのは少しの間、一時間も過ぎてない。クニさん
は私の手からメモ用紙を奪っていった。宿のお部屋の電話のそばに
置いてあったメモ用紙。月を見てたら書きたくなった。

「ほう・・いいね」
「そう?」
「うむ、いい。 女って、こうしたものかも知れないな」
「男だってそうじゃないの?」
「いや少し違うね。この『私の光は二人の娘が受け継いで』ってとこ
ろだけど、これは母親の心境だよ。男にはわからない」
「ふふふ・・そうかも」
「なるほどなるほど、アッコは欠けた月なのか」
「若くないもん。体ももう・・ね」
「うむ」
「えー?」
「あ、いやいや。その・・うははは・・ごめん」
「何よそれ、失礼しちゃう・・うふふ」

「でもねクニさん」
「うん?」
「月はやがて沈むけど、そのときに、私は静かな海の向こう側に消え
ていきたい。荒れた海に最後の光を乱されるのは嫌なのよ」
「うむ・・うぅむ、ふぁーぁ」
「ちょっと、いいところなのにアクビしないで。コケるでしょう。ム
ードのない人なんだから」
「すまんすまん。でもなアッコ」
「なあに?」
「満ちた月だと思うがね」
「私が?」
「俺にとっては、いい月さ」
「ほんと?」
「グッドムーンだ・・ぐっとくる。うははは!」

「ぁ痛てて! つねるなってば」

「おい・・何で泣く?」
「嬉しいの。ずっと独りだったから。家にいても人はいるけど私は独
り」
「うむ」
「抱いて」

「あー、ほら見て」
「おろ?」
「泣かせるから月が歪んじゃったじゃない」
「なるほど。ふっ」
「笑うなっ」

「旦那がね」
「うん?」
「単身赴任が決まってね」
「うん?」
「やさしくなったの」
「うむ」
「で、いよいよその日が近づいてくるとね」
「うん?」
「甘えるのよ、昔みたいに」
「うむ」
「どう思う?」
「愛してるんだよ。近すぎて見えなかったものが見えたんじゃないの
かな。心の中ですまないと思ってるよ、きっと」
「私もそう思うんだ。だから私・・私ねクニさん」
「うん?」
「抱かれたの」
「うんうん」
「すごく感じた」
「うんうん」
「悪い女よね、私って」
「うむ」

「え?」
「あ、いやいや。その・・うははは・・はぁぁぁ」
「何よ、そのため息は」
「ぁ痛てて! つねるなって」

「でも・・」
「うむ?」
「夫の海は、きっといつか、また荒れる」
「うむ」
「静かね」
「静かだ」

「アッコ」
「なあに?」
「俺たち二人に使っちゃいけない言葉があるだろ」
「そうね、それを言うと重くなるし辛くなる」
「うむ」

「でもな」
「はい?」
「そう思ってることだけは伝えておくよ」
「うん、私も・・愛してる」
「何で泣く?」
「涙が出るの」
「虫でも入ったか・・」

「おー痛てて! つねるなって!」

「俺はダメな男でね」
「そうかしら」
「なんと言うのか、ともかくダメで・・どんくさい」
「ダメでもいいの」
「おろ?」
「ダメじゃないし」
「どっちやねん・・うははは」
「なんと言うのか、とぼけてて」
「それは言える」

「うふふ!」
「うははは!」

「ね」
「ん?」
「馬鹿みたいに笑うでしょ」
「なんだそら・・」

「私が私のままでいられるの」
「うむ」
「お尻の穴までぺろぺろ舐めるし」
「おろ?」
「そこまでしてくれる人って、いなかった」
「うむ」
「ド変態」
「なんだそら・・」

「ぁん・・ぁぁん・・嫌ぁぁ、お尻は嫌よ・・」

「あぃ痛ててッ! つねるなって!」

爽やか不倫 風をきって(八話)

 娘らに見せられない下着が増えていた。洗濯にも困ってしまう。
 ひらひらのスカートも、そこあっても不思議はないけど普段はちょ
っと着にくいもの。見ているだけでも嬉しくなるもの。
 明子は、それらを明日着られると思うだけで高揚する心を抑えられ
なくなっていた。夫の単身赴任が正式に決まった。大阪支社。短くて
も向こう一年、長いと二年は家を空ける。
 夫に申し訳なく思うより、指折り待つ気持ちの方が強かった。

 一月二月と過ぎていく。春風が北風を追いやって、夏のウエアで自
転車に乗る。彼の前を走っていく。蠢く尻を見られることさえ明子に
とっては喜びだった。諦めかけた女の日々が、いま確かに戻って来て
いる。そんな想いが、たとえば街で真っ赤な下着を見つけても、素通
りせずに手に取って見てみようと思わせる。

 その水曜、明子は夕食の支度を済ませて家を出た。茶房・風の色は、
普段なら八時まで。けれども今日は六時で閉めて後片付け。明日の
定休日から二日間、改装工事で店は休み。そのために今夜は手伝う
ことになっていた。浜島はクルマで来ていて、食器なんかを一旦自宅
に持ち帰る。子供らにもそのことは伝えてあった。お友だちのお引越し。
今夜は遅くなるかも知れないよと。
 夫は近頃妙にやさしい。それも明子は、単身赴任で家を空けること
への罪滅ぼしだと思っていた。寂しくなったら戻って来る。これまで
冷たくしたことを謝ってくれるなら、彼の次に抱かれてあげると思っ
ている。我ながら自分の変化が可笑しくなるほど、明子は女の自信に
満ちていた。

「あら、もうほとんど終わってるみたいね」
「六時に閉めるはずが五時で終わった。どうせ暇だし。ウチのコーヒ
ーって、まずいのかもな。ふっふっふ」
 相変わらずののんびりした笑顔を見ているとほっとする。明子はい
つものカウンターに、今夜は浜島と並んで座った。シャッターは降り
ていた。改装工事で休業しますと貼り紙がつけられて。
 コーヒーはサイフォンが片付けられて作れなく、冷蔵庫のオレンジ
ジュースを飲んでいた。
「アッコと出会った店がなくなるようで・・」
「そんなに変わるの?」
「そうでもなけど、このカウンターはそっくり変わる。ミニを穿いて
そこに座るアッコのことを、こっちから覗けるようにするんだよ」
「ばーか!」
「ウソだけど・・うははは」

 ジュースを口の中に含んでおいて、明子は自分の唇を指差した。浜
島の唇が重なった。口の中からジュースを追い出し、男にそれを飲ま
せてやった。浜島の喉がごくごく動く。
「美味しい?」
「馬鹿もん」
「うふふ、よちよち、いい子でちゅねー、うふふ!」
 唇がふたたび重なった。カウンターの椅子に座り、体をそっくり浜
島にあずけておいて、舌の絡まる深いキス。背筋に震えの伝わる口
づけだった。

「おいで」
「なに?」

 店の奥。といってもすぐそこで、明子はボックス席のテーブルに両
手をつかされ、後ろから尻をキツく抱かれていた。今夜は長めのフレ
アスカート。男の手がふわりとそれをまくり上げ、白い尻をかろうじ
てくるんでいるピンクのショーツを、無造作に腿まで降ろしていく。
「ああダメよ、こんなところで・・ねえダメだって・・」
 恥ずかしがって尻をすぼめる女の後ろに男がしゃがみ込み、真っ
白なふたつの桃にキスをして、桃を左右に割りひろげ、舌先が尻の
谷の奥底へと這ってゆく。

 感じる・・感じる・・おかしくなりそう。

「ひッ」
 男の尖らせた舌先が、蜜の花をめがけるときに一瞬アナルに触れ
たとき、明子は全身をわなわなと震わせた。そしてそんな女の快楽
反射を楽しむように舌先がすぼまった菊の花を愛撫する。
「ぁぁん、そんなとこ汚いから・・ぁぁん!」
 逃げようと尻を振り立てても白い桃を左右から挟みつける男の力に
抗えない。
「ねえ嫌ぁ・・ヤん・・ぁあーん!」
 ショーツが腿にとどまって開かない太腿をそれでも開き、尻を突き
上げ、舌先を濡れそぼる蜜の花へと、明子は誘った。
 男の舌が淫裂をぬるりと這って、ぴちゃぴちゃ音をさせながら花び
らを掻き分けて女の中に没していった。

「はッはッ・・んッんッ! いい! 気持ちいい!」
「あきこ」
「いいの・・あぅうう、感じるぅーっ!」
 あきこと名を呼ぶ声とともに熱い吐息が花園に。
 そして、ベルトのバックルを外す金属音が・・。
「来て、早く来て」

 熱を持って勃ち上がる亀頭の先が蜜花と触れ合って、明子はさらに
尻を上げた。腰が反り、背が反り返り、髪を乱して首が反る。
「ぁうッ! んむむーっ!」
「あきこ」
「く、くにさん、いいの、いいの・・ぁぁん、いいのーっ!」
 両手でテーブルの天板をつかむ明子の体が、ぶるるぶるるっと震え
だし、テーブルががたがた揺れた。
「いくいくいく・・イクぅーっ!」
「むっほ、むっほ、むっほっほッ」

 むっほっほ・・て、あなたは猿か・・。
 かすかな微笑を浮かべながら、明子は、若くはない女体を欲しがり
楽しんでくれている男のことを可愛いと感じていた。
 明子は体を起こし、男の茎を抜いておいて、足元に膝をついた。硬
い男の尻を抱き支え、ぬらぬらとぬらめく熱いペニスをほおばって、
舌を絡めて愛撫して、喉の奥へと飲み込んだ。
「あきこ・・あきこ・・愛してる」
「くごわん」 クニさんと言ったのだけど言葉にならない。
「いっぐいいぐの」 イッていいのよと言ったのだけど言葉にならな
い。

 男が腰を打ちつけて、女の明子に吸い上げられて、白い飛沫が噴
き上げた。ドクドクと脈打つ射精。わずかに痙攣する男の尻。悦びの
笑みを浮かべて男のアクメを受け入れて、明子はそれでもむしゃぶり
ついて放さなかった。

「ただいま」
「あ、ママだぁー!」
 下の娘が駆け寄ってくる。まだまだ幼いいい子だわ・・明子は母の
顔に戻っていた。時刻は十時。浜島との熱い余韻がショーツの底を
濡らしている。
「パパは?」
「まだなのぉ」
「あらそう。お姉ちゃんと二人でちゃんとご飯食べた?」
「うん! お片付けもしてあるよっ!」
「あら、いい子いい子、うふふ」
 頭を撫でて抱いてやり、寝室に回ってバッグを置くと、子供らを安
心させるいつものイチゴ模様のパジャマに着替え、明子は浴室へ入
って扉を閉ざした。
 鏡の中の白い肌にキスマークなんてついてない。乳房にも尻にも、
ちょっとした傷もない。セックスの痕跡は持ち込めない。ショーツを
脱ぐとき、濡れのあるのに微笑んで、けれどもピンクの布を握り潰し
て手の中へ。下だけ洗ってしまえば今夜のことは完全犯罪・・。

爽やか不倫 風をきって(七話)

 木曜日がいつも空いてるわけではなかったわ。それも前もって予定
があってダメなのならともかくも、私の場合ほとんどがイレギュラー。
中一と小四の娘が二人。上の子にもいろいろあったし、まだ幼い下の
娘なんて風邪をひいたりおなかを壊したりで、それが木曜日に重なる
とお手上げなのです。
 彼とのサイクリングがドタキャンになっちゃうとがっかりしたし、
彼にだって申し訳ない。子供の小さいうちはしょうがないよと言って
くれても、逢いたいのは私なのにね・・。

 それだけじゃなかったわ。同じ街で近くても、だからこそ迂闊なこ
とはできなかった。娘が二人ということは中学校と小学校のそれぞれ
に知ってるママさんたちも多いということ。中学校は学区が広く、マ
マたちもそのへんに散らばっているでしょう。小学校はすぐそばです
けど、今度はすぐ近くに知ってるママさんたちがかたまってる。親の
間で噂になっても困りものですけれど、それよりも親の口から話がめ
ぐって子供の耳に入るのが怖かった。

 その火曜日、私はまずスーパーでつかまった。上の娘の同級生のマ
マでした。その人のところも娘さん。娘同士で仲がいい。
「あら細川さん」
「あ、はい、こんにちは。田村さんもこちらでお買い物ですの?」
「うん今日はね。このへんあっちこっち行きますけど、今日はここが
特売だから。あ、そうそう、細川さんてもしかして自転車なんてやっ
てらっしゃる? 本格的なサイクリングみたいなことですけれど?」
「ええ、それはまあ。ほんの少しですけどね」
「あーら、やっぱり。じゃそうだわ」
「はい?」

「あのね、ついこのあいだ走っておいでのところをお見かけしたもの
ですから。この先のファミレスの裏通りで。もしやそうかなとは思っ
たんですが、ヘルメットでお顔がよくわからなくて人違いだとまずい
でしょう。だからお声がけしなかったんですよ」
 彼女とは立ち話でそんなこんなを取り繕って、それから私はマスタ
ーのお店に行こうと駅を越えて反対側に出たのですが・・。

「細川さん、細川さん!」
「ああ、これは皆さんお揃いで」
 今度は下の娘の関係のママさんたちが三人。そしたらやはり中の一
人が言うんです。
「細川さんて自転車はじめられたそうですね。なんかすごい本格的な
ツーリングサイクルをお持ちだとか?」
「まあ一応は。お恥ずかしいですわ、ダイエットを兼ねてと思いまし
てね。うふふ、でもそれをどこで?」
「あらやだ、ウチの子がお宅のお嬢さんに聞いて帰ってきたんですよ。
ケイリンみたいなスタイルだって。おほほほ」

 と、そんなありさまで女三人やんややんや・・。
 もしも彼と二人のところを見られようものなら話に尾ヒレがつくの
は目に見えている。もちろん浜島さんもそのへんは気遣ってくれてい
て、待ち合わせの場所を変えようとは言ってくれる。でもね、普段彼
のお店に行くのはどうしようもないでしょう。毎日でも逢いたいし逢
える距離にいるんですもの。
 とは言え、たとえそれが喫茶店でも頻繁に入り浸っているようだと
ヘンに思われかねないから。


「なるほど・・うむ、それはちょっとね、気をつけないと」
「そうでしょう。でも、だからといってコソコソしてると・・」
「それだと今度は、いかにもだよね。僕はそっちが心配なんだよ。明
ちゃんが自分を責めて、それで潰されてしまわないかと気になってる」
 そんな話をしてみたところで答えなんて出るはずない。もしかした
ら、私はもののついでに彼の気持ちをもう一度確かめようとしてしま
ったのかも知れません。
「ごめんなさい、つまらないこと言っちゃった」
「いやいや、つまらないものか。アッコとずっと一緒にいるためにも、
しておくべき話だよ」

 アッコ・・この店のマスターに、そう呼ばれたのははじめてだった。
 カウンターを隔てていても私にとってマスターはマスターではなく
邦雄さん。やっぱりそこらの喫茶店に入るのとは違うんだと思います。
ほかのお客さんたちも、そのへんは鋭いものでしょうし。
 私は、最初の頃の彼の言葉を思い出していたのです。

「いい歳をした男と女が、何もかもを織り込み済みで付き合うのはた
やすくないよ」
 そういうこともあるんだと、ぼーっとしてカウンターの中の彼を見
ていたら、彼が言うのね。
「ところで志保さんとは、その後会ってる?」
「ううん、そう言えばぷっつりだわ」
 志保もそうだと思ったわ。浜島さんの奥様ともつながってるし私の
夫だって顔を知らない仲じゃない。自転車のクラブの関係でもいろい
ろとあるでしょうし・・そうよ、彼女がいちばん怖いと私は思った。

「志保ねえ・・それを言うなら、いちばん注意しなけりゃならないか
もよ」
 そのときでした、彼の口から思わぬことが。
「いや、彼女は言えないよ、そんなこと。むしろクラブの連中だね。
大勢で走るのは楽しいし、アッコもそのうちとは思っていたけど、ど
のみちこの界隈に住んでるわけだから誰と誰がつながってるかわから
ない。それもあって僕はクラブをやめようと考えていたんだが」
「そうなんだ。でもどうして志保なら言えないって言えるの?」
「お互い様さ」
「え?」
「あのね、これは言わないでおこうと思ってたんだが、分裂して出て
行った方のグループに志保さんの恋人がいるんだよ」
「うそ・・志保も・・」
「まあ、そういうことになるかな。ずいぶん前からだけどね」

 このとき私は、ふっと気持ちが楽になった。ずっと友だちだった志
保でさえやってること。もしかしたら、そこらで出くわすママさんた
ちも、私とばったり会ってしまい、じつは向こうがドキドキしてるの
かも・・そう思うといままで真面目一方だったのが馬鹿らしくなって
しまった。
「大事なのは二人の気持ちよね」
「そうだね。でもだからこそ逢いたいのを我慢しなければならないと
きもある」
「はい」
 私は浜島さんを百パーセント信頼した。何もかもを織り込み済みで
愛し合える人なんだと。
 衝き上げるような性欲を感じたのもこのときでした。私の中で何か
が吹っ切れた。あのときのシャワーの雨を思い出し、体がゾクゾクし
だしてたまらなかった・・。

「ねえマスター」
「はいな?」
「カウンターの中って、どうなってるの?」
「あ?」
「前から思ってたけど背が少し高くなるような?」
「ああ、スノコあるからね、その分高いのさ。入ってみるかい?」
 その言葉を待っていたわ。私はカウンターを回り込むと、彼の手を
スカートのお尻のところに導いたのよ。
「アッコ」
「クニさん」
 私はどうしてしまったのか・・ズボンの前をまさぐっていた。

 それから二週間ほど後のこと。木曜日。小春日和で暖かかった。久
しぶりの羽田でした。あの公園のベンチのところ。私には嬉しい報告
があったのよ。考えてもみなかった嬉しい報告。
「アッコ、走れるようになったねー、脚力がついてきた」
「みたいね。なんか太腿が締まってきたような」
「どれどれ」
「あ、エッチ! あははは!」
 そう言って彼はベンチの前に私を立たせ、くるりと回らせてお尻の
あたりを見ていたわ。彼の両手がお尻に回り、私をキツく抱き込んだ。
「ヤだ、こんなところで・・」
「可愛いヒップだ」
「ねえねえ」
「うん?」
「まだ少し先のことですけど、四月から」
「うむ? どうした?」
「主人が単身赴任になりそうなのよ大阪へ。一年ほどらしいけど」
「そうか」
「少しは自由になれるかも・・うふふ!」

 サイクルパンツの上からですけど、彼の手がお尻の谷から滑り込
み、サドルに擦れて熱を持ったそこのところをやさしく撫でた・・。

爽やか不倫 風をきって(六話)

「知らないわよ、そんなもん! 忘れたのはあんたなんだからママの
ところへ持って行きなさいよ! 謝ればいいじゃんか!」
「だってお姉ちゃんが机勝手にいじるからじゃん!」
「あー、るっさいわねー! あんたが汚くしてるからでしょう!」
「なんで叩くのー! ぅえ~ん!」
 夕食の支度をしているときだった。子供らの部屋から言い争う声が
聞こえ、上の子が手を上げたらしく下の子の泣き声が家中に響き渡っ
た。
「またはじまった・・」
 明子は、油をかけたガスを止め、子供らの部屋を覗いた。
「どうしたのよ、喧嘩ばっかり?」
「だってママ、恭子ったらさー」
「うえぇーん、お姉ちゃんが叩いたー!」
 上の子は噛みつかんばかりだし下の子はエプロンの前に飛び込ん
できて泣いている。話を聞いてみると、下の子、小学校四年の恭子
が学校でもらった父兄会のプリントを渡すのを忘れてしまい、机の上
に置っきぱなしにしておいて、それを上の娘、中一の澄子が散らかっ
ていると思い片付けてしまった。それで下の子がプリントに気づいた
ときには遅かったということだった。
「どれよ、見せてごらんなさい」
 しゃくりあげて泣きながら、妹の恭子がプリントを持ってきた。
「なになに、父兄会・・うんうん、あらやだ、明日じゃない」
 上の子、澄子が口を尖らせて言った。
「そうでしょ。恭子ったら気がつかなかったのは私が片付けてしまっ
たからだって、それママのところへ持ってって謝ってよって言うのよ」
 下の子が、それに喰ってかかる。
「だってそうじゃん! 余計なことしたんお姉ちゃんなんだから!」
 明子は、抱きつく恭子の頭を撫でながら、二人に言った。
「はいはい、わかったわかった、もうおよし。ぎりぎりセーフで間に
合ったんだから、どうってことないわよ」
 明子は下の娘に向かって、「プリントをすぐ出さなかったのはあな
たが悪い。それに机を汚くしてたのもあなたのせいね。お姉ちゃんは
それをお片付けただけ。そうでしょう澄ちゃん」
 そして上の澄子に対しては、「理由がどうあれ叩いたのはよくない
わ。それと片付けてあげたのは褒めてあげますけど勝手にいじっち
ゃいけないわよ。あなたの机を私が勝手にいじったら、あなたどう思
う? そうでしょう」
 それから二人に向かって、「はい、どっちも謝りなさい。父兄会のこ
とは心配しなくていいからね」
 澄子が先に口を開いた。
「ごめん」
「うん」
 恭子がしょんぼりして言った。
「ごめんなさいママ」
「もういいわよ、泣かないの」
 明子が二人の頭を撫でて内戦は静まった。

 今夜は天ぷら。父親のいない食卓は日々のことで、親子三人、笑い
ながら食事を済ませた。そしたら下の恭子が、「恭子、片付けるね」
とぼそっと言った。悪いことをしたと気を使っているようだ。可愛い
ことをしてくれると思う。
 済んだ食器をお盆にのせてキッチンに運ぶ恭子の姿を、明子と姉
の澄子が、互いに目配せをしながら見送っていた。
「いいところあるじゃない。あなたもお姉ちゃんなんだから面倒見て
あげないと。怒っちゃだめよ」
「だってさ」
「叩いたりしちゃだめですからね」
「ごめんなさい・・でも」
「なあに?」
「最近のママ、なんか変わったね」

「え・・」

「ちょっとやさしくなったみたい」
「そ、そうかしら?」
「顔つきがやらかくなってる。なんだかちょっと綺麗になったし」
「ああ、それは化粧品変えたからじゃない? いまちょっと高いの使
ってるのよ」
 明子はハッとした。子供でも女同士、勘は鋭い。特に何かを変えた
つもりもなかったけれど、言われてみれば苛立つことが減ってきた気
がする。知らず知らず、身なりにも化粧にも以前と違う何かが顕れて
いるのかも知れないと、明子は、テレビを見ている澄子の横顔をうか
がった。
「しょうがないわね、私も手伝おうかしら。あの子一人じゃ可哀想だ
し」
 そんな言葉が、とりあえずこの場を繕うものであったことは明子は
もちろん意識していた。

「おろろ? 娘さんがそんなことを?」
「そうなのよ、ドキッとしちゃった」
「うははは!」
「笑い事じゃないってば。油断ならん、恐るべし我が娘。むふふ」
「うははは! わっはっはっは!」
 可笑しいですよーと言うように、手を叩いて笑うマスターを見てい
ると明子も付き合うほかはなかった。ちょっと拗ねたような目で微笑
む明子に、マスターの笑いはおさまらない。
 楽しい。この店に来ることも、マスターといることも、毎日が楽し
くてしかたがない。
「でも、確かに」
「なあに?」
「明ちゃん綺麗になってるね、あの頃よりずっと。他の人にも言われ
るだろう、友だちとか?」
「言われる。若返ったみたいですって。体重も減ったみたいだし」
 マスターが両手を回しペダルを漕ぐ素振りをする。
「チャリのせいかしら?」
「うん。ジムにもチャリはあるだろう」
「なるほど」
「うははは! こりゃ可笑しい、綺麗になって痩せてどうするってか?
うははは!」
「もう、怒りますよ! くっ・・うふふ!」
 ふと真顔になったマスターが、ふたたび手でペダルの仕草。
「明日?」
「近場でどう?」
「うん!」

 はじめたのは自転車。たったそれだけのことだった。それだけの変
化が自分を変えてしまっている。その夜、明子は、遅く帰って寝てし
まった夫の寝息を聞きながら、この人はこの人で粗末にはできないと
考えていた。生活の柱。彼と仲良くしていくためにも、この人はこの
人で大切な存在なんだと。
 ずるいと思った。けれども女としての幸せのためには必要なずるさ
なのだと思うのだった。

 女の性花がよそ見で咲いたあの日から、一度だけ夫に求められた
夜がある。そういう夜も浜島との日々のためには必要なのだと考えた。
 でもそれも私の態度がやわらかくなったから? 夫が外でのサイク
リングを認めてくれたとき、明子は、これでよかったんだと自分自身に
言い聞かせた。

 晴れてはいても身を切る風を裂いていく冬場の自転車はキツかった。
環八から世田谷通りへ右折して、そのまままっすぐ多摩川を渡ってし
まい、右に折れて多摩川べりを遡上する。
 河川敷。流れを隔てて中洲があって、橋のかかるそのたもと。冬場
の平日、こんなところに猫一匹いやしない。
 自転車を二台連ねて停めておき、護岸に座って川を見ていた。多摩
川は綺麗になった。冬場のいまは透き通って、どこか田舎にいるよう
だ。

 彼の手が、ごく自然に彼女の肩を抱き寄せた。肩を抱く手が、する
っと背中を滑り降り、サイクルパンツの彼女のお尻を撫でている。
「ねえ」
「うん?」
「泊りがけのツーリング行けそうよ」
「そうか?」
「うん」
「だったら温泉のあるところがいいね」
「そうね、のんびりできるし」

「明子」
「邦雄さん」
 唇が重なった。女の手が、男の股間のふくらみを愛撫した。

爽やか不倫 風をきって(五話)

 東名厚木から小田原へ。伊豆へ向かう真鶴道路に入ると左の眼下に、
白い波頭を立てて幾筋もの波紋の寄せる冬の海がひろがった。浜島さ
んのことだからクルマも派手さのないセダンに決まっていると思って
いたけど、やってきたのは白い大きなステーションワゴン。荷物室が
広く自転車を横にして積めるらしい。自転車のほかに釣りが好きだと
いうことも私はこのときはじめて知った。彼のお店にもずいぶん通っ
ていたけれど、彼のことをほとんど知らない。
 自分はこうだとひけらかしたがる人じゃない。ますます好感が持て
ました。

 落ち着いた静かな運転です。助手席で私は、そう言えばこういうと
ころへ来たのはどれぐらいぶりだろうと考えていた。私にもクルマは
あり、夏になると子供らを連れてこの道を通ったことはあったけど、
助手席にいて穏やかに流れる景色を見ているなんて、恋した時代そし
て夫と結ばれてしばらくの間まで。しかも夫は運転が鋭くて、こんな
ふうにまったりしてはいられなかった。

 東京を朝九時にスタートした。子供らの夕食の支度もしてあった。
充分時間はあるはずだけど、それでも九時までには戻っておきたい。
無意識のうちに子供のことを考えてしまう自分がうらめしかった。
 楽しい時間がもっともっと長ければと思う。とりとめもない思考が、
ウインドウに流れる海原に吸い込まれていくようでした。
「夕べね」
「うむ?」
「またやっちゃった」
「何を?」
「旦那とちょっと・・」
「そうか」
「そ」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「僕もね」
「はい?」
「まあ、こんな話をしてもなんだが」
「なあに? 言って」
「似たようなもんだ」
「そうなの?」
「うむ」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「ねえ」
「あ?」
「私のこと、どう思ってるのかなって・・」
「むっふ」
「はぁ? 何よそれ?」
「うははは!」
「ごまかさないで」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「あ!」
「え?」
「チェンジレバーが」
「はい?」
「ちょっと持ってごらん、振動が」
 なんだろうと思い、オートマのチェンジレバーの頭を右手に握ると、
私の手の上に彼の左手がふわりとかぶさるの。温かい大きな手です。
「振動が気持ちいいかも」
「・・ずるい」
「うむ」
「うふふ・・ずるい人ね」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「あのときだが」
「あのときって?」
「ほら、羽田で膝が抜けてポテって尻餅ついただろ」
「ああ・・うん、だから?」
「可愛いなって」
「それじゃ・・それじゃ、その後マッサージしたときは?」
「むふふ、むっふっふ」
「エッチなんだから」
 しばらく沈黙が続いたわ。こうしてこの人と深くなっていく。きっ
とそうなると思っていました。

 道沿いの海を見渡すパーキング。平日の昼だからか、クルマのいな
いパーキングに頭から突っ込んで、二人揃って海を見ていた。窓を少
し降ろしてみると寒風がヒュ~と音を立てて吹き込んでくる。
 時刻は十一時になっていた。
「少し海を見てどっか行こう」
 そう言って彼は少しだけシートを倒し、両手を頭の後ろに組んで海
を見ている。私も少しシートを倒し、両手をスカートの前に重ねて海
を見ていた。
「君といると、ほっとする」
「私も」
「でもね、いい歳をした男と女が、何もかもを織り込み済みで付き合
うのは、たやすくはないからね」
「そうだと思うわ、壊せない暮らしがあるし」
 もしや彼の方が怖がっているのだろうかと少し寂しくなったとき、
彼の手が私の手に、そっと静かに重なった。

「しかしそれでも僕は君といたい。ときどきしか逢えなくても、大手
を振って歩けなくても。自転車でもいいし、そのうち泊まりでどっか
行ければ楽しいだろうし」
「うん」
 そのとき私は、なぜだか、あの夜の志保の言葉を思い出していた。
あなたなんかに浮気はできない・・そうかしら?

 浜島さんの・・いいえ、邦雄さんの手を、私はぎゅっと握ってた。
「落ち着けるところへ行こう」
「はい」
 クルマはそこでUターン。小田原へ戻り、厚木へ戻り、そして高速
へは乗らずに下の道を走って行った。ラブホテルの方角へ、そのパー
キングへ、彼がハンドルを切ってゆく。
 「さようなら、あなた」冷たい夫との心の糸が切れてしまった瞬間
でした。

 シャワーの雨に打たれていたわ。後ろから彼に抱かれて、シャワー
の下にまどろむように立っていた。目を閉じて、さざなみとなって肌
を震わす心地よさに身を委ねた。
 彼らしい静かな静かな性でした。背中越しに抱きくるむ彼の腕。大
きな手が二つの乳房をつつんでくれる。やわらかく揉みしだかれ、乳
首をつまんで愛撫され、私は唇を噛んで甘い波に酔っていた。
 お尻のところに少し硬い彼のペニスがあたってる。私の白い手が戸
惑いがちにそれに触れ、そっと握り込んでゆく。

 彼の手が肌を這って降りてきて・・そして、濡れる草を弄び、その
ときに、立ったまま彼にもたれた白い裸身が、腿をわずかに開いてい
くの。彼のやさしさが蜜の花に・・蜜の花は悦んで太腿にもっと開け
と命じるようで・・。
 硬くなった男性を白い手が絡め取り、さするように愛撫する。
 振り向かされて唇を奪われた。彼の舌と私の舌が絡み合って貪るよ
うな深いキス。ゾクゾクと肌を伝わる性の波紋が私を溶かしていくの
です。ああ私はまだ女だったと嬉しかった。

 大きなベッド。可愛い声を私はあげたわ。貫かれ、白い女体が歓喜
した。夫に捨てられて乾きかけた蜜花が、うれしさに泣くように、く
ちゅくちゅってペニスの動きに合わせて鳴くのよね。
 なんて素敵なセックスでしょう。
 胸を突き上げて乳房を揺らし、白い首を反り返らせて、私は高みへ
追い詰められる。悦びの頂で子宮に届けと突き立てられた熱いペニス
が精を放つ。おなかの中に、私は確かに彼の愛を感じていました。

 鎮まった息の中で、私は彼に抱かれていたわ。
「私とこうなると思ってた?」
「どうだろう・・そうなりたいとは思っていたけど」
「ほんと」
「うむ。自転車に乗る明子のお尻が可愛くて」
「やっぱりね・・エッチ」

「ぁ痛て! 何でつねる?」
「だからチャリやるんでしょ。女のヒップを見たがって」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「痛ててッ! わかったわかった!」
「ふふふ、怒るから」
 しばらく沈黙が続いていました。キスで声が出せないの。

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