快感小説

爽やか不倫 風をきって(二話)

ひとつの駅の向こうとこちらで世界が違うってこと、あるでしょう。駅の
北 側に住んでいて十分以上も歩く私にとって、駅を超えてさらにかなり
歩かなければならない場所は、どこか別の街に行くようなもの。
クルマはあるし子供らの自転車もあるけれど、いちいちクルマじゃ面倒
過ぎて、子供たちは昼間はいない。それもあって、志保から自転車に
誘われたときに普段も乗れるタウンサイクルを買ってしまったわけです
けど。
浜島さんのお店は「茶房 風の色」と言うらしい。あの日から十日あま
り、その間行ってみようと思わなくもなかったけれど、いかにも自転車を
もらいに来ましたというようで気が引けていたのよね。
その日の私は、駅の向こう側の駅前にある美容院に行くつもりで家を
歩いて出たのだけど、いつもなら予約なしに入れるのに、この日に限っ
てお店は満員。明日また出直すということで予約だけして店を出た。
そして、さてどうしようと思ったときに浜島さんの顔が浮かんだのだった。

「茶房 風の色」 雄大な草原を連想させる小さなお店。商店街のはず
れにあって、しかも路地に入らなければならない場所。お店が古く、以
前から喫茶店だったものを引き継いだに違いなかった。お店の狭い間
口はコーヒーの店にふさわしく焦げ茶色で統一されて、ネーミングと
なんだか合わない。思い入れはあっても現実はということか。カウンタ
ー が数席、四人掛けのボックス席が二つだけ。なんともちまちました造
り のお店。けれどもそれが、あのときの彼の姿に重なって、私はちょっ
ぴ り嬉しくなった。せかせかするのは大嫌い。浜島さんとはソリが合うの
かも知れなかった。

いまどき扉を引いて入る店。ドアを開けるとチリンと鈴の音がした。
昼過ぎの時間帯。ボックス席に主婦らしき女性客が二人いた。
洗い場で腰を折ってグラスを洗っていた浜島さんが、泡だらけの手を
幽霊のように垂れ下げてからだを起こし、こちらを見たの。
「ああ! これは明子さん、お久しぶりです」
「はい、お言葉に甘えて来てみましたのよ、うふふッ」
「はいはい、それはそれは。はははッ。ささ、こちらへ。カウンターへ
どうぞ。あッ!いけね、忘れてた・・・」
「はい?」
座ろうとすると彼がとぼけた顔をした。
「クルマですよ。あの二日後ぐらいにここへ持ってきて、すぐそこの自転
車屋に整備に出して、取りに行くの忘れてましたわ。あはは」
つまり一週間以上も放っておいたことになる。それはともかく、整備まで
してくれたとなると・・・。
「そんな申し訳ありませんわ。失礼かとは思いますが、そのお代、私が
お支払いしますので」
「あやや、それはいかん・・・うん、いかん。その分お茶しに来ていただ
ければ充分ですよ・・・うん、それがいい」
自分で言って自分でうなずく、ほんとにとぼけた人なのね。あの時は初
対面だったし脚も痛くて、人柄までは見ている余裕がなかったの。

「で、何を差し上げましょう?」
「コーヒーを」
「ほいな」
妙な応え方でサイフォンに向かう彼。このちっぽけな店のマスターが、
私はいっぺんで気に入ってしまった。そしてまた、私にブレンドを出す
と、他のお客さんがいるにもかかわらず、エプロンをしたままで自転車
屋さんへ飛んで行ってしまう。ここからだと男の脚でも五分はかかる。
その間お店はもぬけのカラ。可笑しくなって背中の女性客に気づかれ
ないよう笑っていると、直後にまたマスターが息を切らして駆け込んで
くるのである。
「いかんいかん財布忘れましたわ・・・うはは」
これには店の中の女三人、高笑いをしてしまった。後ろの二人は常連ら
しく、彼女らにも話しぐらいは聞こえている。
夫とはタイプの違う人。夫は二つ上で四十二歳、広告代理店で営業職
をしていたけれど、仕事ができてキレる分、せかせかせかせか落ち着か
ない。夫なら財布を忘れるなんてあり得なかった。

マスターは、しばらくして自転車に乗って戻って来ると、店の前でスタン
ドを降ろした。パールシルバーのフレームにブルーラインのアクセントが
ある綺麗な車体。私は席を立ってドアを開けた。
「これですよ」
「まあ綺麗・・・」
「うんうん、なかなかのもんでしょう。十段変速ですが、はじめはこれで
充分ですよ」
BSA。国産トップメーカーの自転車だった。充分どころか私には眩しい
ぐらい。ツーリングサイクルの高いことは知っていた。とてもタダでもらえ
るようなものではないはずだ。
「でもこれ・・・すごく綺麗で新車みたいじゃありませんか」
「まあ大事に乗ってましたからね。転倒したこともありませんし。クラブに
初心者でも入れば譲ろうと思ってたものですから、どうぞご遠慮なく。
自転車屋と話はつけてありますので、帰りに寄って登録だけはしとい
てください」

そこまで言われては辞退できないと思いながら、恐る恐るハンドルと
サドルに手をかけてみて、私は驚いた。すごく軽い。非力な私でもラク
に持ち上げられそうだ。
「ありがとうございます。でもほんとによろしいのでしょうか?」
「どうぞどうぞ。これならこないだみたいなことはなくなる。いずれまた
ご一緒しましょう。羽田ぐらい行けますって、はっはっはッ」
「はい、ぜひ」
と言ったはいいけど、私はいまの自分の姿に気づいてハッとした。美
容院へ行くつもりで短いスカートを穿いて出ていた。特にミニではなか
ったけれど、ママチャリならともかくも、サドルが高くて前かがみになる
自転車に乗ると、太腿までざっくり出るしお尻もばんと張ってしまう。
足元の黒いパンプスも自転車にはミスマッチ。

そんなこんなで自宅のマンションに戻った私は、自転車をエレベーター
で部屋の前まで持って上がった。これほどのものを外の駐輪場には置
いておけない。帰りがけに自転車屋に寄ったとき、これが五年前のモデ
ルで、程度のよさからしても中古でいい値段がつくと教えられた。
ちょっやそっとで切断できないワイヤーロックを買ってきた。家の前の
通路に置いて、窓の格子につないでおこうと思ったのだ。
私は、やはり何かお礼をしなければと考えていた。

中二と小六の娘二人が学校から帰って目を丸くして見ていた。娘らに
は、安いタウンサイクルを買ってしまって失敗したとこぼしていたから、
いくらした、誰から買ったと、つきまとってうるさい。知り合いから安く譲
ってもらったとだけ話しておいた。
そして、夜遅くに主人が帰って来たのだけれど、口を開くなり・・・。
「おまえな、外のチャリは何だよ。また買ったのか」
「ああ、あれはね・・・」
「ったくもう、気楽なもんだぜ」
とりつくしまもなく背を向けられてしまう。私は話す気持ちも失せてい
た。
そしてその翌日、私はまた自転車屋さんを覗き、あてつけのつもりも
あって、サイクルウエア一式を揃えていた。

それから私は、浜島さんとの約束のために、毎日体が空けば近場を
走って脚を鍛えた。自転車にも慣れておきたい。こんどこそ羽田まで。
どうせ志保も一緒だろうし、次には自転車がダメなことを言い訳にで
きなくなる。
走るといってもそこらへんを流すだけで、ウエアを着込むことはなかっ
たけれど、それでも充分サイクリング気分が楽しめた。走り出しのペダ
ルが軽い。スピードがのって変速すれば、遅い原付ぐらいは抜き去る
ほど速く走れた。風を切って走ることが嬉しい。娘の頃に戻れるようで
ストレスが吹っ飛ぶ思い。最初にこの世界に誘ってくれた志保に私は
感謝した。

そして翌週の水曜日。明日は風の色が休みという日。お昼過ぎのいつ
もの時刻に顔を出すと、店にはマスターが一人きりでお客さんがいな
かった。この店にも二日に空けず通いつめていた。ツーリングの話を
する のが楽しい。いままで家に閉じこもっていたのが馬鹿らしくなって
くる。
「よ、明ちゃん、ノッてるかい?」
「イエイ! うふふッ」
おどけてそんな会話ができるまで、彼とは急速に親しくなった。
「どうです、明日行きましょうか?」
「行く!」
「二人きりだけど、それでもいいかな? 志保ちゃん誘ったら明日は
ダメだって」
「そうですの、ぶっちぎってやろうと思ってましたのに、つまりませんわ。
うふふッ!」
浜島さんには、私がウエアまで揃えているのを教えていない。びっくり
させてやりたかった。

ピックアップ!


ウェブマスターはこちら リアル素人CLUB-XXX リアル素人CLUB-XXX

ここはハード性小説

SM~FEMDOM、レズと
官能小説らしい物語を集めてく。
新刊案内

レズ官能小説の二編集
自虐オナニー~レズ
●指だけじゃ飽きたらなくて
レズSM(露出)
●同名小説


好評シリーズ、発売開始!
官能ホラー
闇刈いわく堂シリーズ特別編
『白湯鬼さん』


~飾られる女たち~
インテリアドール紫織編
若く美しい性人形の日々へ


~飾られる女たち~
インテリアドール芙美子編
しっとり落ち着いた大人のSM

登録サイト





スペシャルリンク















ブロとも一覧

SM~猟奇の性書~官能

~ 艶 月 ~   
テキストリンク
アクセスランキング
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる