爽やか不倫 風をきって(五話)

 東名厚木から小田原へ。伊豆へ向かう真鶴道路に入ると左の眼下に、
白い波頭を立てて幾筋もの波紋の寄せる冬の海がひろがった。浜島さ
んのことだからクルマも派手さのないセダンに決まっていると思って
いたけど、やってきたのは白い大きなステーションワゴン。荷物室が
広く自転車を横にして積めるらしい。自転車のほかに釣りが好きだと
いうことも私はこのときはじめて知った。彼のお店にもずいぶん通っ
ていたけれど、彼のことをほとんど知らない。
 自分はこうだとひけらかしたがる人じゃない。ますます好感が持て
ました。

 落ち着いた静かな運転です。助手席で私は、そう言えばこういうと
ころへ来たのはどれぐらいぶりだろうと考えていた。私にもクルマは
あり、夏になると子供らを連れてこの道を通ったことはあったけど、
助手席にいて穏やかに流れる景色を見ているなんて、恋した時代そし
て夫と結ばれてしばらくの間まで。しかも夫は運転が鋭くて、こんな
ふうにまったりしてはいられなかった。

 東京を朝九時にスタートした。子供らの夕食の支度もしてあった。
充分時間はあるはずだけど、それでも九時までには戻っておきたい。
無意識のうちに子供のことを考えてしまう自分がうらめしかった。
 楽しい時間がもっともっと長ければと思う。とりとめもない思考が、
ウインドウに流れる海原に吸い込まれていくようでした。
「夕べね」
「うむ?」
「またやっちゃった」
「何を?」
「旦那とちょっと・・」
「そうか」
「そ」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「僕もね」
「はい?」
「まあ、こんな話をしてもなんだが」
「なあに? 言って」
「似たようなもんだ」
「そうなの?」
「うむ」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「ねえ」
「あ?」
「私のこと、どう思ってるのかなって・・」
「むっふ」
「はぁ? 何よそれ?」
「うははは!」
「ごまかさないで」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「あ!」
「え?」
「チェンジレバーが」
「はい?」
「ちょっと持ってごらん、振動が」
 なんだろうと思い、オートマのチェンジレバーの頭を右手に握ると、
私の手の上に彼の左手がふわりとかぶさるの。温かい大きな手です。
「振動が気持ちいいかも」
「・・ずるい」
「うむ」
「うふふ・・ずるい人ね」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「あのときだが」
「あのときって?」
「ほら、羽田で膝が抜けてポテって尻餅ついただろ」
「ああ・・うん、だから?」
「可愛いなって」
「それじゃ・・それじゃ、その後マッサージしたときは?」
「むふふ、むっふっふ」
「エッチなんだから」
 しばらく沈黙が続いたわ。こうしてこの人と深くなっていく。きっ
とそうなると思っていました。

 道沿いの海を見渡すパーキング。平日の昼だからか、クルマのいな
いパーキングに頭から突っ込んで、二人揃って海を見ていた。窓を少
し降ろしてみると寒風がヒュ~と音を立てて吹き込んでくる。
 時刻は十一時になっていた。
「少し海を見てどっか行こう」
 そう言って彼は少しだけシートを倒し、両手を頭の後ろに組んで海
を見ている。私も少しシートを倒し、両手をスカートの前に重ねて海
を見ていた。
「君といると、ほっとする」
「私も」
「でもね、いい歳をした男と女が、何もかもを織り込み済みで付き合
うのは、たやすくはないからね」
「そうだと思うわ、壊せない暮らしがあるし」
 もしや彼の方が怖がっているのだろうかと少し寂しくなったとき、
彼の手が私の手に、そっと静かに重なった。

「しかしそれでも僕は君といたい。ときどきしか逢えなくても、大手
を振って歩けなくても。自転車でもいいし、そのうち泊まりでどっか
行ければ楽しいだろうし」
「うん」
 そのとき私は、なぜだか、あの夜の志保の言葉を思い出していた。
あなたなんかに浮気はできない・・そうかしら?

 浜島さんの・・いいえ、邦雄さんの手を、私はぎゅっと握ってた。
「落ち着けるところへ行こう」
「はい」
 クルマはそこでUターン。小田原へ戻り、厚木へ戻り、そして高速
へは乗らずに下の道を走って行った。ラブホテルの方角へ、そのパー
キングへ、彼がハンドルを切ってゆく。
 「さようなら、あなた」冷たい夫との心の糸が切れてしまった瞬間
でした。

 シャワーの雨に打たれていたわ。後ろから彼に抱かれて、シャワー
の下にまどろむように立っていた。目を閉じて、さざなみとなって肌
を震わす心地よさに身を委ねた。
 彼らしい静かな静かな性でした。背中越しに抱きくるむ彼の腕。大
きな手が二つの乳房をつつんでくれる。やわらかく揉みしだかれ、乳
首をつまんで愛撫され、私は唇を噛んで甘い波に酔っていた。
 お尻のところに少し硬い彼のペニスがあたってる。私の白い手が戸
惑いがちにそれに触れ、そっと握り込んでゆく。

 彼の手が肌を這って降りてきて・・そして、濡れる草を弄び、その
ときに、立ったまま彼にもたれた白い裸身が、腿をわずかに開いてい
くの。彼のやさしさが蜜の花に・・蜜の花は悦んで太腿にもっと開け
と命じるようで・・。
 硬くなった男性を白い手が絡め取り、さするように愛撫する。
 振り向かされて唇を奪われた。彼の舌と私の舌が絡み合って貪るよ
うな深いキス。ゾクゾクと肌を伝わる性の波紋が私を溶かしていくの
です。ああ私はまだ女だったと嬉しかった。

 大きなベッド。可愛い声を私はあげたわ。貫かれ、白い女体が歓喜
した。夫に捨てられて乾きかけた蜜花が、うれしさに泣くように、く
ちゅくちゅってペニスの動きに合わせて鳴くのよね。
 なんて素敵なセックスでしょう。
 胸を突き上げて乳房を揺らし、白い首を反り返らせて、私は高みへ
追い詰められる。悦びの頂で子宮に届けと突き立てられた熱いペニス
が精を放つ。おなかの中に、私は確かに彼の愛を感じていました。

 鎮まった息の中で、私は彼に抱かれていたわ。
「私とこうなると思ってた?」
「どうだろう・・そうなりたいとは思っていたけど」
「ほんと」
「うむ。自転車に乗る明子のお尻が可愛くて」
「やっぱりね・・エッチ」

「ぁ痛て! 何でつねる?」
「だからチャリやるんでしょ。女のヒップを見たがって」
 しばらく沈黙が続いたわ。

「痛ててッ! わかったわかった!」
「ふふふ、怒るから」
 しばらく沈黙が続いていました。キスで声が出せないの。
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