陵辱官能 鬼祭(終話)

「こうなったらしょうがないね」
 岩場で転落し頭蓋を割った夫の亡骸を見下ろして、妻であるリョウ
は涙を溜めていながら島の女の気丈さを奮い立たせるように言うのだ
った。
 女たちが無言でうなずき合い、全裸の男の手足をつかんで岩礁帯の
突端まで運び、岩の下から深くなる南の海に素っ裸の男を捨てた。
「なんてことを・・」
 美由紀が思わず言ったが、リョウは泣き濡れた厳しい眸を向ける。
「島を守るためさ。ここらは鮫の海だ、こうしておけば人が一人消え
るだけ」

 それから美由起と陽子の二人は、牝島に帰る女たちとは分かれて牡
島にいた。悲劇を知らされた二十二人の男たちも、そしてもちろん美
由起も陽子も押し黙り、身動ぎひとつせずに座っていた。
 そんな中で美由起が誰とはなしに小声で言った。
「あたしたちにもし子ができたら島の女の誰かがああなるのかしら?
リョウさんみたいに、あたしがいるのによくもって?」
 それに応える声はしばらくなかった。

「それはないさ」
 年長の男が言った。
「どうしてそう言えるの?」
 男たちが顔を上げて女二人を見つめ、その中で男は応えた。
「やがてわかるだろうから言っておくが、島では一応の夫婦、一応の
家族に分かれてはいるが、誰が誰の子かはよくわからんのだ」
 また別の男が言う。
「これは我ら一族の秘密だが・・まあ昔のことだがな」
「うん、聞かせて」
 陽子が言った。

「我らはその昔、海賊だったと聞いている。男ばかりで島に住み、女
は略奪してモノにして、そうやって命をつないできた。言うまでもな
く限られた中での交配は血を汚す。それでまた女をさらい、子を生ま
せて血を洗う。それはいまでもそういうところが残っていて、島にい
る女の多くは外から島に来た者たちだ。この島で生まれた女は・・リ
ョウもその一人だが、よその男とくっついて島に住むか出ていくか好
きなように暮らしてる」

「じゃあ、もしも私に子供ができれば、そのとき独身だった誰かとく
っつけられて夫婦になるわけ? 形だけの?」
 美由起が訊いた。
「そういうことになるだろう。便宜上そうしなければ役所への届けも
あるしな。昔は子供は皆の宝として島の子として育られたそうだが、
いまは夫婦の子として育てている。ここにいる我らのほとんどが親が
誰だかよくわからん」
「獣よね」と美由起が言った。
「そうだ獣だ。しかし俺たちも女たちも、だからこそ幸せなんだぜ」
「何で? 何でそう言えるの?」
 陽子だった。

 一人の男が、男たちを見渡して言った。
「我らは女に命をかける。我が身を傷だらけにしても、ただ情けを求
めて女にすがる。そうやって女の情を授かることが誇りなんだ。ここ
にいるすべての男は、美由起、陽子の夫であって、誰もが妻の情にす
がり許しを乞うて生きている。そんな中でもし美由起が俺の女で陽子
が誰でと決めてしまうと争いの元となり、それはしいては女たちを苦
しめることにもなる」
「それはわかるけど、でも・・」
 美由起も陽子も同じ気持ちだっただろう。便宜上の夫・・一族の都
合で決められる家族・・そんなことは許せない。

「おまえたちにはわかるまい。なるほど外の世界でならおかしな話だ。
しかしこの閉ざされた島の中で独占欲はエゴでしかない。男と女すな
わち牝島と牡島が夫婦なのであって、誰それという個人で線を引き、
美由起のことは俺は知らんが陽子であれば愛し抜くとそんなことにな
ってしまえば、おまえたちにも失礼だ。皆で愛し肌を合わせて女の誰
一人を不幸にしない。それが鬼祭の本質なのだ。おまえたちが誰と夫
婦となろうが、その後誰に抱かれていても夫は微笑んで見つめている。
もし自分が相手にされなくなるなら、それは愛が足りないからだと反
省する。女としてどっちが幸せか。都会の結婚か、ここでの乱交か、
どっちだ?」

 また別の男が言った。
「リョウの旦那のことを言うなら、外の世界であればリョウと別れて
生きることができたはずだ。リョウを追わなければよかっただけ。し
かし我らは一族であり牡島と牝島の夫婦。大勢の愛する者を残して男
が出ていくわけにはいかない。子供たちの誰かが自分の子かも知れな
いのにだ。 そしてそんな中でもし、たとえば俺が美由起を裏切り、
リョウの旦那のようになってしまえば島の中では相手にされない」
「それはそうでしょうね」
 美由紀が言った。
「だから我らは女のために鬼祭をつくった。美由起だけではなく、す
べての女に許されるまで、たとえ片目を潰そうが平伏して許しを乞う。
俺ならそうする、切られても平伏すだろう」
「切られても?」
「ははぁ・・アソコを?」
「そうだ。我らにとって女は女神。よって鬼になった女には命がけで
平伏して許しを乞う。都会の野郎はそこまでするか?」

 陽子が重い雰囲気に絶えられず、ちょっとふざけたことを言う。
「島の男たちって、みんなマゾだね、虐められるのが好きみたい」
 それに応じて男が笑った。
「それは違う、まるで逆だ。女を支配し安穏な暮らしを続けるために
命をかける。つまらんプライドなどはいらん。女神として形の上では
平伏すが、しかし女神が牝になってくれたとき我らは犯す。狂うほど
犯してやる。それを世間ではマワスと言い、陵辱と言うのではないの
か」

「行為の意味が違うね」 美由起が言った。
「愛だわ・・それこそ愛」 陽子が言った。

「女は犯されることに命をかける。であるなら男は犯した女に命をか
ける。だから俺は陽子が度々鬼祭をせがんできても、そのたび血だら
けになって情を求めた。まったくどれほど男を遊べば済むのか、悪い
女だ」
「ごめんなさい」
 舌を出してバツの悪そうな陽子にちょっと微笑んで、しかし美由紀
は、リョウのことを気にかけた。
「リョウさんはどうなるの?」
 若い男が応えた。
「これからは我らの女神だ、俺の姉貴かも知れないけれど、それでも、
近親相姦だろうが何だろうが俺たちがアイツを救う」

 そしてまた沈黙・・陽子が言った。
「あーあ、とんでもないところへ来ちゃったな・・ねえ美由起」
 美由起が陽子を肘で小突いた。
「よく言うわよ。でもそれが男女の原点かもね、原始人の考え方だわ」
 陽子が笑って言った。
「あたしたちは外から訪ねて来るだけだけど、もしもあたしたちが裏
切って来なくなったらどうするつもり? 地の果てまで追いかける?
そう考えるとちょっと怖いな」

 誰かが笑って言う。
「そのためにせっせとタネを仕込んでるんだし、どのみちおまえら二
人は二度と島を出られない」
 その声に呼応するように男たちの目の色が変わっていく。美由紀も
陽子も笑えないジョークに身を寄せ合って怯えていた。

 年長の男がニヤリと笑って言った。
「見てはいけないものを見てしまったということだ。捧げるか奪われ
るか、選ぶがいい」
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