月光裸身(終話)

 海の男は短パンの跡だけが白かった。

 白い女は下腹の翳りだけが黒かった。

 男と女はきつく抱き合い、口づけを貪って、砂浜の緩やかな傾斜に
沿って上になり下になり、砂まみれになりながら、海までほんのひと
転がりの波打ち際までもつれ合った。それは男女の共振だった。一方
が打ち震え、それと響き合ってもう一方の心が振れる。一夜の夢と見
定めて、すべてを許し合った男と女のごく自然な激情なのである。

 郁美はそうした戯れが嬉しかった。夫と知り合う前のこと。性の悦
びを知りはじめたあの頃に、たった一度だけ衝き上げる性欲に支配さ
れるまま森の中で交わった。胸の奥にしまいこみ、忘れかけた何かが
よみがえる思いがする。
 夫との営みがなくなったわけではない。けれどもそれは、もはや共
に響くものではなくなってしまっている。

 海の中まで転げ落ち、砂を流した白い女は、膝下ほどまで海に沈め、
体を折って両手を岩に着き、脚を開いて尻を突き出すあさましく美し
い牝の姿で立っていた。月明かりが女体の陰影を妖しいばかりに浮き
立たせ、雄の責めを心待ちにする・・それはもっとも牝らしい姿だろ
うか。

 勝生は、そんな郁美を可愛い人だと感じていた。都会の者は何をす
るにもカッコを求めるものだと思ってきたが、郁美は違う。情のおも
むくままに交わることも愛のカタチ。時が育てる愛もあれば一瞬にし
て昇華する性もある。セックスのための言い訳としての愛ならば、そ
んなものはまっぴらだった。

 白い女の尻下に男は膝をつき、やわらかく丸い尻の肉をわしづかみ、
無慈悲なほどに割り開く。月光の陰に咲いた二つの花がひくひく蠢き
ながら露わになった。
 女の尻に男は荒々しく顔をうずめた。尖らせた舌先が濡れる花を掻
き回し、女らしい小さな性芽を吸い上げる。

「あぅぅ! んッんッ! はぁぁぁ!」

 白い背をのけぞらせて濡れ髪を振り乱し、尻をぶるぶる揺さぶって、
郁美は本能のまま獣のような声をまき散らして痙攣していた。

「あぁぁ、なんで・・なんでこんなにいいの」

 たまらない・・欲しい・・もっと欲しい!

 衝き上げる性欲に操られるまま郁美は振り向き、男の頭を抱き込ん
で唇をもぎ取って、男を立たせ、硬く勃つペニスにむしゃぶりついた。
 右の腕で男の尻を引き寄せて、左手で睾丸を揉みしだき、ビクビク
と脈動していきり勃つそのモノを喉奥まで一気に導き入れる。

「むうう! 郁美、おうう!」

 凶暴に勃つ雄の切っ先は牝花を求めて口から離れ、郁美を向こう向
きに砂に這わせておきながら、咲き誇る濡れ花の口を突き上げて没し
ていった。
 たわむ尻をめがけて貫き打つたび、やわらかな尻肉が快楽のうねり
を波紋のように伝えていた。

 シャァァァ

 絶頂の間際で郁美は恥ずかしいほど失禁し、白い裸身をわなわなと
震わせた。
 強い両手で腰をわしづかみ、下腹をドスドス打ちつけて、勝生もま
た昇りつめる間際にいた。
 子宮を刺す射精の噴き上げ・・。
「郁美・・ぅおううう!」
「イクぅ! ああイクぅぅ!」
 呼吸(いき)の合うピークだった。
 
 白い砂に仰向けに寝そべって二人揃って月を見ていた。
「体が壊れそうよ・・すごかった」
「ふふふ・・いい女だ」
「淫乱なのね私って・・」
 勝生はそれには応じず、つなぐ手にわずかに力を込めた。
「浮気女め」
「うん」
「潮まで噴いてイキやがった。このクジラ」
「うふふ」
「いい女は淫乱でもある」
「うん」
「いやらしい尻だしな」
 勝生のそんな言葉が郁美は嬉しくてたまらなかった。肉欲を隠して
すましていた化けの皮を剥がしてくれる呪文のようで、むしろ気持ち
が楽になる。

「俺はずっと島にいる」

 それに応える言葉を、このとき郁美は持っていない。
 勝生は勝生で、応えてほしいわけではなかった。
 砂まみれの男の体が砂まみれの女の体に重なった。乳房の砂を払い
落とすわずかな刺激で全身にさぁーっと粟粒がひろがって、乳輪がす
ぼまり乳首が硬く尖って勃った。
 白い手が、萎えてしまってやさしくなった砂まみれのペニスに絡む。
「しばらく生きていけそうよ」
「あ?」
「いいの、独り言だから」

 青白く光る欠け月が遮られ、唇が重なった。触れ合うだけの口づけ
が、男女の熱を帯びてきて舌が絡み、求め合うものへと変わっていっ
た。
 二度目は静かな性だった・・。
 宿に戻った郁美は明かりを消した部屋で夢の続きを考えていた。泊
まりは明日の夜ももう一晩。けれどもそれを勝生には知らせていなか
った。明日の夜もし、あの浜で彼に逢ったら、今夜のことがつまらな
いものになりそうな、そんな気もした。

 深夜になっても眠れなかった。

 宿にある岩風呂はいつでも入れた。温泉ではなかったけれど、その
雰囲気だけは楽しめた。深夜の風呂に人けはなかった。男女はもちろ
ん別れていたが、どちらだろうと同じこと。
 脱衣場で声がした。若い男性が二人のようだ。しばらくすると、ひ
そひそと話す声が流れてきた。脱衣のカゴに女の下着が見た声だろう。
「おい、やべえよ、ここ女湯だぜ、間違えちゃった」
 それがとても可愛く思え、それもいいかと考えた。

「かまわないわよ、いらっしゃい」

 今夜だけは淫乱女を楽しもう。どうせ夢だし・・夢だから。

 洗い場のタイルにうつぶせに寝そべって、郁美は、男二人に体を洗
わせ、夢の中に漂った。雲の上にいるような心地よさ。男たちは学生
だったが、何もしていないのに可哀想になるぐらい勃起させてしまっ
ている。

「あらあら、そんなにしちゃって・・」

 顔を真っ赤に照れて笑う若い二人がたまらなく、郁美は二人のペニ
スに手を伸ばした。

「やさしく犯して」
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