流砂(一話)

ホームヘルパー。それが私の職業でした。アシスタントでお仕事
しながら ヘルパー2級の資格を取って、この頃では独り立ちの仕
事も増えてきてい た。私は奥山圭子、二十八歳。ほんとどこにでも
いる女の子・・・なんて ね、自己紹介はそのぐらい。横浜のすみっこ
に独りで住んでた。アパート。 彼氏はいない。以前の会社に好きな
人はいたけれど、社内の恋は破れた ときに女が居づらい。そう思っ
て距離を置いているうちに会社が破綻。そし て転職。当時の人とは
会えなくなってしまっていた。

いまのお仕事、ぎすぎすした都会が嫌いな、のんびり屋の私には
適職だ ったけど、ちょっと嫌な思いもしていたわ。お年寄りのお世
話をするのは好きなのですが、エッチなオジイも結構いて、二人き
りになったりするとギラギラした目で胸ややお尻を舐めるみたいに
見つめるの・・・(笑)
ま、子供に戻った可愛いオジイと言えなくもないけれど。

そんな私を住み込みで欲しいとおっしゃるお宅があったんです。
寺西家。
まだまだ未熟なヘルパーなのに、お給料の面では恵まれたお話
だった。
大きなお屋敷に自分の部屋をいただいて、寝たきりの大旦那様
のお世話をする。言うなれば専属のヘルパーですけど、お食事や
お掃除のお手伝いまであったから、そうね介護中心の家政婦み
たいなものかしら。その代わりお勤めではあり得ない破格の待遇。
住むこと食べることはタダでしょう。 その上、月に六日のお休みま
でいただけて、私にとっては断る理由がなか ったの。

寺西家のご家族は、じつに百二歳にもなられる大旦那様と、昨年
七十歳で亡くなられた大旦那様の息子さんの奥様、和恵さん。そ
してその息子さんの一馬さんの三人暮らし。奥様は六十七歳、一
馬さんは三十九歳、その三人が古くて大きな洋館にお暮らしなの
ね。昔はきっと名のある貴族だ ったのかも知れないけれど。
その館で、私の朝は六時にはじまる。そのとき大旦那様はとっくに
目覚めておいでで、起きたら真っ先に大旦那様のお部屋へ顔を出
す・・・それはいいのですけど、じつはちょっと・・・ふふふ。

このお話があったとき、奥様から一つだけ条件を出されたの。なぜ
か、お風呂は朝に一度きり、寝る前の入浴はしないよう・・・それを
聞いて私は首を傾げたものだった。
そしてその理由を、奥様自身の身をもって教えられ、私は即刻辞め
ようとしたのですけど、辞められない理由があったんです。
奥様の懇願に屈するしかなかったわ。息子さんの一馬さんが、私に
とっては恩人だった。

一馬さんは、とってもやさしいいい方よ。なのに二度も離婚されてい
て。それぞれ別れた奥様との間に一人ずつ、お子さんもいらっしゃる。
なのになのに、いまはこの家で独りぽっち。それも大旦那様のその
コトが原因なのよと、そう思ってしまうと逃げ出す足が止まっちゃう。
一馬さんとは偶然だった、まったくの偶然なのね。この家に住み込み
を決めたとき、よもやあの方のお住まいだとは思わなかった。
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