流砂(十二話)

「お義父様が、圭子って、そうおっしゃったのね?」
「はい、確かにそうはっきりと」
「すごいことだわ、何年も言葉をお忘れになっていたというのに・・・」

その日から私は女王様になりきった。朝のご奉仕は徹底させたし
言葉の責めも厳しくして。お仕置きは・・・なんて言っても、枯れた
乳首をつねってやるぐらいですけど。それでもお爺ちゃん、おんおん
泣いて許しを乞うの。
お爺ちゃんの脳裏にお婆さまとの記憶が渦巻いていることは明ら
かでした。
そしてそうした死人扱いしない雰囲気が、お爺ちゃんに言葉を言わ
せていたのでしょう。
「反省するのね! ほんとね!」
「ぁう・・・んンんン・・・」
「そ、いいわ許してあげる。うふふッ、ほんと変態なんだから」
そうやって責めを厳しくする分、ご褒美だって徹底してあげるのよ。
朝のご奉仕でイカせてくれると・・・私ね、裸になって抱っこしてあげ
たりしたし乳房を顔にすりつけてあげたりしていた。そうするとお爺
ちゃん、泣いてしまってすがりついてくるのよね。ミイラみたいな細
い体で、それでも私を求めてくれるの。

「ほう・・・それがご褒美?」
「はい。何だかもう可愛くてしかたがないんです」
「そりゃまあ、あのジイさんでなくとも最高のご褒美だよな、裸の
圭子が抱けるんだからね。ふっふっふ・・・僕でさえおあずけなの
に、なんたるジジイだ。ふっふっふッ」
「え・・・」
「いやいや独り言だよ。しかし圭子もまた・・・ふふふ・・・」
「はい?」
「ウチに来たばっかりに、すっかり変態になったものだと思ってね。
はっはっはッ」
私、ドキドキしてました。「僕でさえおあずけなのに」・・・私ならい
つでもいいのに・・・私はちょっと拗ねていた。


でも・・・お爺ちゃんの容態が急変したのは、その数日後のことだっ
たんです。

奥様でも一馬さんでもなく、まるで他人の私の腕の中で眠るよう
に逝かれたの・・・女王様の腕の中で。
お爺ちゃん、とっても幸せそうな寝顔をなさって、そのままコトリと
首が折れた・・・。
すがりついて泣いたのも、ご家族ではなく私の方かも知れません。
「あの人が死んだら骨をまぜこぜにしてちょうだい」って、お婆さま
の言葉の重さ がよくわかる。
そしてね、それからの私ったら、まるで魂が抜けたよう・・・それは
それこそ、慕い続けたお婆さまを失ったお爺ちゃんの気持ちでも
ある。私は、一時にお婆さまとお爺ちゃんお二人の気持ちを突き
つけられた気がしたものよ。

「圭子」
「・・・はい」
「しっかりなさい」
納骨を済ませたその夜、一馬さんのお部屋にいたわ。奥様もきっ
とお部屋で肩を落とされていたんでしょうけど・・・。
「一馬さん」
「何だね?」
「この先ここに私のいる意味って、あるのかしら・・・」
抱いてくれてキスしてくれた。けれどももう感じなくなってしまって
いた。
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