快感小説

水墨の色 (上)

「驚いたみたいだね、ふっふっふっ、君だって美術部だろ」
「そ、それはそうですが…」
「にしては、ちょっと左脳かなと思ってね。はっはっはっ!」

 それこそちょっとムッとする言いようでしたが、そんなことはこのとき
の私にとってどうでもいいことでした。
 私は森山百合。美大ではなく普通の大学で経済学部に身を置いた私は、
部活で油絵を描いていました。それももう七年も前のこと。二十九になっ
た私は中堅商社に勤め、それなりのキャリアを積んできたつもりです。

 春の組織改革で旧態がガラガラポン。社内の離合集散というわけですが、
私のいた営業一課と販促部が統合されて、女ながらも私はチームリーダー
に昇格。実質の係長なのですが、そうしたチームのいくつかを率いるディ
ビジョンヘッド、実質の課長のポジションに、この人が据えられたという
ことです。

 財前繁明、三十五歳。見目には若く、三十そこそことしか思えませんが、
次期部長さらにその先も確実と評される辣腕です。元々が販促部だったせ
いか発想がやわらかく、周囲が唖然とするアイデアを出したりする。それ
でトップに注目されたということですね。
 けれどトップと現場には温度差があり、物事を合理的に割り切りすぎる
やり方と、それよりも若造のくせにという妬みの方が強いのか、現場レベ
ルでの評価はよろしくないというのが実状でした。
 私も最初の頃はちょっと怖いと感じていたわ。いまどき情緒偏重もどう
かとは思いますが、それにしても彼は能力主義に傾き過ぎる。
 背丈は男性としてはまあ普通。ルックスはいい。高校大学と剣道部にい
て二段だそうです。

 …とまあ、そんな人なのですが、あるとき私は、彼がときどき個展をや
ってることを知ったのです。水墨画。花鳥風月の世界を描く日本画なので
すが、彼の絵は、その中に必ず女性を感じさせる何かが出てくる。ヌード
なんていやらしいものではありませんよ。かんざしだったり、履き物だっ
たり、伝統的なそうしたものが、まるでエッシャーの騙し絵のように、ほ
んの少し顔を出す。アイデアマンの彼らしい画風だと感心します。

 そしてそのことをふと彼に話したとき、仕事以外の彼に触れて私の中で
イメージが変わったというのか、以前のようなガード姿勢がやわらいでき
たのです。宮本武蔵の生き方が好きで武蔵の描く水墨画や書に惹かれ、趣
味ではじめたそうなんですね。剣道をやるというのも、そういうことなの
でしょう。

 個展にも誘われて彼の世界も観てきたわ。個展といっても、ほんと小さ
な画廊で、それほど大きくはない絵の額が十点ほど飾られるだけ。ところ
がその絵は、どれもに即座に買い手がついて売れてしまう。そんなことで
名が出はじめていたようです。
 絵がきっかけで夕食ぐらいはご一緒するようになっていき、彼のことを
知れば知るほど、私は逆に、また怖いと思うようになっていった。
 感性が違うのです。柔軟、斬新、鋭利…それでいて抜け目のないその姿。
スキというものがまるでない。研がれた刀のようで怖くて踏み込んでいけ
ないんですね。

 でもね、ジャンルが違うとはいっても私だって絵は描いてた。彼の絵の
やさしさというのか、慈愛というのか、切ないまでの色香というのか。
「僕の絵は邪道なんだよ」
「邪道? それはどうして?」
「水墨画というものは墨の濃淡で色を描くものなんだ。女性を匂わせるも
のをあえて描かなくてもそれを表現できなければね。文章で行間を読むと
いうが、絵ならば空間を読むというのか筆間を読むというのか。しかしい
かん、元来スケベな僕なんで、どうしても描いちゃうし。あはははっ」

 いえいえご謙遜だわ。私はそれはそれで技法だと思って観ています。オ
フィスの彼ではない彼を知り…だから逆に、一度は緩んだガードがまた固
くなってきていた。仕事だけではない彼という男性の存在が本能的に怖い
のです。
 なのに…怖がっているくせに彼の絵だけはもっと知りたい。ときどきで
もオフィスを離れたお付き合いが数ヶ月ほど過ぎた頃、彼が絵を描くその
場所へ行ってみたいと考えました。

 彼は未婚の独身でしたが、家ではなくて、ホテルであるとか貸別荘に出
かけて描くというのです。緑のある、あるいは海や湖や自然の豊かなとこ
ろで描く。その気持ちはわかります。景色は心を豊かにし、詩的にしたり
もするでしょう。だいたい職場のある乾燥した都会からは離れたい。そん
な気持ちもよくわかる。

 といって助手席では怖すぎます。それでなくても二人きり。だから私は
私のクルマを出しました。言い訳かも知れないけれど、彼とはそうじゃな
いんです。もちろん泊まりじゃありません、純粋に絵を描く姿を観たいだ
け。そのときの技法も見たいということです。

 そして密かに…かつて私がいた営業一課の課長で、私をずっと可愛がっ
てくれていた元の上司、黒岩さん。穏やかに仕事を進める人で好ましいタ
イプなんですが、彼にとって財前さんは天敵なのです。出世争い。私がも
しも財前さんのツボをつかめば失脚に追い込めるということですね。

 今回の場所は伊豆高原。伊豆の広大な別荘地に貸別荘が点在し、地図で
は説明しきれないということで、二台揃ってやってきて、ぎりぎり二台が
停められるスペースにねじ込みます。お部屋に入ってすぐ彼は窓という窓
を開け放ち…それはつまり女の私を気づかうためで密室にしたくないとい
うことでした。
 そういうことも彼らしいと思います。白か黒。イエスかノー。仕事でも
彼はそういう人ですからね。今回は女としてのあなたじゃないよと言われ
たようなものでした。

 そして絵の道具を並べ…といっても水墨画ですから、墨と硯と筆、あと
は和紙を巻いたものを大きな座卓に並べると、ここへの途中でスーパーに
立ち寄ったレジ袋を私に手渡して…。
「支度してくるから適当にやってて」
「はい、どうもすみません」
 中にはサンドイッチとかお菓子とかコーヒーとか。それで私はお湯を沸
かしてコーヒーを二つ淹れて待っていました。私はもちろんジーンズです。
ガードルで固めた硬いヒップをしてたはず。しばらくしたら帰るだけの私
ですから。
 なのに…それから二十分。コーヒーなんて冷えちゃった。もたもたと彼
らしくないと思っていると…。

 その別荘は二階建てです。下に私を待たせておいて、彼だけ上で何やら
している。階段の木の段がぎしぎし軋んだ。このあたりは海風のせいで湿
気るらしく、そう言えばちょっとカビ臭い。木だってふやけちゃって軋む
はずです。

「ごめん、お待たせ」
「ええーっ!」

 絶句しました。ドキリというのか、声が出ない。
 ゾーっと震えてしまった私です。
「驚いたみたいだね、ふっふっふっ、君だって美術部だろ」
「そ、それはそうですが…」
「にしては、ちょっと左脳かなと思ってね。はっはっはっ!」

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