快感小説

着せたい男と脱ぎたい女(三話)

「お嬢様がおいでとか?」
「いますよ。美香と言いますが、高一で」
「じゃあいまは奥様とお二人で?」
 マスターは弱く首を振った。高一なら十五、六歳。
とすればマスターは三十代の終わりから四十のはじ
めにかけて、と亜紀は思う。
「五年前の事故から半年ほど入院しましてね。です
が治ったところでこの顔だ。外に男ができたんです
よ。娘はそんな家内を批判して僕を選んだというこ
とで」
「すみません、よけいなことを訊いてしまって」
 マスターはとんでもないと言うように手で虚空を
扇いで笑う。笑うと目のなくなる顔。造作が童顔な
のかもしれなかった。

「それでね、とっくに仕事も辞めていたし、離婚を
機に心機一転この店を。二年ほど前からです」
「そうなんですか? 古いお店のようですが?」
「そりゃもう古い。もはや化石だ、はっはっは。い
えね、若い頃からここらにいまして、気に入って通
った店なんですが、マスターにもよくしてもらった。
そのマスターが亡くなって年老いた奥さん一人では
無理だってことで受け継いだわけですよ。くるみ茶
房って屋号もそのまま。いまだ登記上のオーナーは
奥さんなんですが、事故で降りた保険金を頭に少し
ずつ払っていく約束で、実質はもう僕の店なんです」
 コーヒーカップが空だった。
「コーヒーもう一杯どうです? お近づきのしるし
にご馳走しますよ。あ、申し遅れました、僕は三矢
知明と言います。引っ越されるならどうぞご贔屓に」
「いいえこちらこそ。気に入りました。通いますか
らよろしくお願いしますね。亜紀です。中学で音楽
教師をしてますが」

 と語尾が途切れてちょっと沈む妙な素振りに、知
明は亜紀の面色を気にしていた。
「いろいろお話してくださったから私も言いますね。
結婚から引き返したんです。ゴールしかけて引き返
した。学校に辞表を出してから撤回し、やり直そう
としたんですけど、仕事が仕事なだけに周りからい
ろいろと」
「なるほど、中学ですものね」
「そうなんですよ。生徒が多感期なのでよろしくな
いとPTAからも突き上げがあったりしたらしく。そ
んなこともあって休暇を取ってふらりと出かけた。
そしたらこうして。ふふふ、まさしく分かれ道だっ
た気がしますし、そこでもまた私らしく道を間違え
てしまい」
 ドリップコーヒー。一人用のネルフィルターに細
口のケトルから湯が注がれて、豆が膨らみいい香り
を流していた。

「辞めようかと思いましてね。旅に出て整理してみ
ようと思ったのですが答えが出なくて」
「はいどうぞ、最高級のモカマタリだ、美味しいで
すよ」
「すみません、じゃあいただきます」
「特別にこれも。見よう見まねで作ってみたんです
が売り物にはなりませんわね、はっはっは」
 サンドイッチで切り落としたパンの耳を使ったラ
スク。ブロンズのコーヒーシュガーがまぶしてあっ
た。
 カップをひと口運んで亜紀は微笑む。
「んー美味しい、いい香りが」
「うんうん、ラスクもどうぞ」
 そして細長いパンの耳を手にしたときに亜紀の目
色がサッと変わった。

「辞めません。決めました。ピアノが好きだし音楽
から離れたくはありませんから」
「学校は都立?」
「そうです。おっしゃりたいことはわかります、願
い出て学校を変えてもらう手もありますし、学校に
こだわらないなら街の音楽スクールってことも。じ
つはそこも考えてはいるんです」
「うんうん、若いんだから四角四面になることもな
いでしょう。それでいまはどちらに?」
「中野です。来週には越して来ます。あのときのこ
とを思い出して水のあるところがいいなって。あの
後じつは親知らず子知らずだとか日本海を見て来ま
して」
「なるほどですね。多摩川もこのへんまで来ると綺
麗ですよ。中洲になんとかと言うツルみたいな野鳥
も来ますしね。翡翠(カワセミ)なんて普通にいる。
ちょっと失礼」

 そして知明はトイレに向かう。人が消えたカウン
ターの中を、亜紀はちょっと腰を浮かせて覗き込む。
 背後の棚に並べられたコーヒーカップやティーカ
ップ、家庭用のガスレンジ、そして流しの周りと、
どこもピカピカで乱れがない。店内を見渡してもカ
ウンターからテーブルまでシュガーの量が定量きっ
ちり配られてある。
 好感の持てる店。穏やかなマスター。くるみ茶房
に出会ったことが亜紀の中に漂っていた不穏な雲を
きれいさっぱり吹き飛ばしていたようだった。
 マスターとは仲良くなれる予感がした。男女とい
う意味ではない何でも話せる男の人。このときの亜
紀には、その先を想像するつもりもなかった。

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