快感小説

着せたい男と脱ぎたい女(九話)

「違う違う、手の中でぴしゃぴしゃって叩くようにする
んだよ」
「こう?」
「そうそう、そんな感じ」
 洗い場のシンクは洗剤槽と流し槽の二つに分かれ、
流す側の槽にステンのボウルを置いて水を溜め、コ
ーヒーのネルフィルターを洗っていた。昼時が過ぎ
ると客は減り、亜紀は自分の飲むコーヒーの淹れ方
を教わって、フィルターの洗い方も教えられていた
のだった。

 それでなくても狭い厨房で、流しに寄り添うよう
に手元を覗かれていて、亜紀はマスターにはじめて
男の匂いを感じていた。体臭という意味ではなくて、
すぐそばにいてくれる男性の気配というのだろうか。
 内心どきどきしながらフィルターを洗っていた。
 一人用のネルフィルターは小さな三角帽子のよう
な形をしていて、ボウルに浸けるとコーヒーのカス
が琥珀の煙のようにひろがった。亜紀は最初タオル
を洗うように揉んだのだったが、手の中で叩いて繊
維に入り込んだ豆のカスを叩き出すのだと教わった。

 チリンとドアベルが鳴ったのはそんなときだった。
「マスター、お久しぶり」
「ああ、桂ちゃん」
 少し上の三十そこそこ。ごく普通のミニスカ姿の
若妻ふう。髪は黒髪でキラキラしている。まっすぐ
カウンターを目指して座り、亜紀は厨房を出てホー
ルへ回った。お冷を用意する間も耳はそちらへ向い
ていた。
「坊主は元気?」
「元気よ、やんちゃで困る」と言いながら、初対面
の亜紀に目をやって言う。
「ここへ来て女の子がいるなんてはじめて」
「うむ、じつは今日からなんだ、亜紀ちゃんて言う」
 亜紀は浅く会釈をしながらお冷のグラスをそっと
置いた。女はブレンドをオーダーした。
 女のスタイルは普段着ではない。よその街から来
ているのは明らかだった。ハンドバッグが普段持ち
歩くものではない。

「だんだん彼に似てくるの」
「うむ」
 コーヒーを支度をしながら応じるマスターの面色
が苦しそうだと亜紀は悟り、もしやこの人ってマス
ターが好きなのではと感じてもいた。
「それでねマスター」
「うむ?」
「田舎で再婚しようかなって」
「秋田で?」
「そうなのよ。孫を連れて戻って来いってうるさく
てならないの。じつは先日、お見合いしてきた」
「そうか」
「サラリーマンなんだけど、やさしくてまあまあカ
ッコよかったのよ。子供とも遊んでくれたし、あの
子も喜んじゃって。一目見せたかったな彼に」
 マスターはちょっとうなずきながらコーヒーを淹
れていた。間違いないと亜紀は思った。結婚しちゃ
うけどそれでいいのと訊きに来た。女の勘でしかな
かったが、そう思えてならなかった。

 五年前の事故で死んだ部下の妻。そのときおなか
に入っていて、我が子の姿を見ずに逝ったというこ
とだ。名は塚田桂子。やわらかな雰囲気の女性だっ
た。
「そうか、似てきたか」とマスターは言う。
「だんだんね。彼のミニチュア。ふふふ。そろそろ
パパをつくってあげたくて。どうしてウチにはパパ
がいないのって訊くのよね。だからねマスター、も
う忘れて。幸せな人生にして欲しくて」

 亜紀は、聞いてはいけない気がしてしまい、テー
ブルを拭いて回ったりトイレを掃除してみたり、カ
ウンターを離れていたかった。
 しかし狭い店でやることもなくなりかけたとき、
学生らしい男女七人がなだれこんできたのだった。
「いらっしゃいませー!」
 いつもより声が大きくなってしまう。
「あれまー、女の子がいるじゃんか。おーいマスタ
ー、いつからいつから?」
 常連さん。場が一気に明るくなって、桂子と言う
人もまた、よかったと言うような笑顔を見せる。

「じゃあこれで。元気でねマスター」
「ああ。桂ちゃんこそ。坊主もな」
 桂子が店を出て行って、そのときは普段どおりレ
ジに立ったマスターだったが、桂子を送り出してか
ら、こっそり向こうを向いて手を合わせていたこと
を亜紀は見逃さなかった。
 胸が熱い。いまだ自責の念にもがいている。
 強い人だわ。亜紀の心は揺さぶられた。

「オーダーお願いしまーす。ハムサンド2、卵の焼
きサンド2、トースト1、ブレンド5にアイス1、
それにミルクティ1です」
「はいよ! これだもんなー、いっぺんに戦場だ、
はっはっは!」
 仲のいい常連らしく、マスターはホールに横目を
やって明るく笑った。客は男五人に女が二人。
「マスターさー」
「おお? 何だい?」
「お似合いじゃん、奥さんにしちゃえしちゃえ、あ
っはっは!」

 ドキンとした。胸がいきなり苦しくなった。
 ああ抱かれる。私は抱かれると、このときこそ確
信した亜紀だった。  

ピックアップ!


ウェブマスターはこちら リアル素人CLUB-XXX リアル素人CLUB-XXX

ここはハード性小説

SM~FEMDOM、レズと
官能小説らしい物語を集めてく。
新刊案内

レズ官能小説の二編集
自虐オナニー~レズ
●指だけじゃ飽きたらなくて
レズSM(露出)
●同名小説


好評シリーズ、発売開始!
官能ホラー
闇刈いわく堂シリーズ特別編
『白湯鬼さん』


~飾られる女たち~
インテリアドール紫織編
若く美しい性人形の日々へ


~飾られる女たち~
インテリアドール芙美子編
しっとり落ち着いた大人のSM

登録サイト





スペシャルリンク















ブロとも一覧

SM~猟奇の性書~官能

~ 艶 月 ~   
テキストリンク
アクセスランキング
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる