快感小説

新・如月夜叉(一話)

一話~山の刺客


 そうした惨劇のあった二日後のこと。

 昼下がりになって新緑も美しい山の中の道筋に女の陰がひとつある。
 黄色格子の小袖を着て、黒髪をきっちり結い、市女笠(いちまがさ)と白木の杖を持った旅姿。歳の頃なら三十そこそこ。色白で目鼻立ちのくっきりした美しい女人であった。
 この頃の女の中では背が高い。まず五尺五寸(百六十五センチほど)はあっただろうか。太花緒(はなお)の草履を履き込んだ旅女のいでたちだったが、それにしてはおかしい。ここは八王子の山の中の、そのまた裏街道。関所を通らない道筋だ。
 関所と言っても、この頃はまだ江戸への表通りとも言える東海道でさえも関所は手薄で、軍事的な目的で存在する見張り場がある程度。女一人の旅ならまず通してくれるのだったが、なのになぜ裏道を行くのだろう。
 その女は、三尺半(一メートル)ほどの白木の丸杖を持っている。そのへんに秘密がありそうだった。

 深い山の裏道は、荷車がやっと通れるほどの荒れ道が山の中の方々から葉脈のように交わって、峠を越えれば表道の甲州街道と合流する。
 その峠にさしかかり、道なりに大きく左へと曲がる見通しのきくところまであと一歩と迫ったとき、その女はハッとしたように道筋の草むらへと姿を消した。

「待っていたぞ江角(えずみ)、おとなしくしろ」
「おのれ、しつこいぞ。密書など携えてはおらぬ。密命なども帯びてはおらぬ」
「ならば何ゆえ江戸へと下る。その姿はどうしたことだ、何ゆえ身を偽るのか。さらにここは山の中の裏街道、女一人が行く道ではあるまいて」

 後追いするように歩いていた町女が草むらに消えたところの少し先。
 やはり一人旅らしい若い女が七人の侍どもに囲まれてしまっていた。男たちは皆、家紋のない着流し姿だったが、その月代も見目美しく、乱れのない風体から、どこぞの家中の武士たちだと思われた。男七人のうちの二人が年増で三十半ば。残りの五人は二十代の若侍だ。
 そして一方の囲まれた女は、背丈は五尺三寸(百六十センチほど)と、草陰に隠れた町女よりも少し低いが、それでもこの頃としては長身だった。旅姿ではあっても、こちらはお遍路姿の白装束白袴。やや深い小ぶりの編笠を手にしていて、長さ五尺ほど(百五十センチあまり)の白樫の八角棒を持っている。
 黒髪は肩ほどまでの垂髪で、こちらもまた目鼻立ちの整った、それは美しい女人であった。

 七人の侍どもが囲む輪を絞り、若侍五人が抜刀して脅しにかかる。年増の二人は一歩退いてにやにや笑う。若侍の刀はいずれもよく手入れされ、昼下がりの陽光にギラついて輝いていた。
 それに対して、お遍路姿の女は、大きく腿を割って腰を落とし、棒を構え、やりあうつもりでいるらしい。
「ほう、いい構えだ・・」
 と、つぶやいて、草陰から様子を見切る町女。女一人に追っ手が男七人というのもうなずける。女は強い。

 年増侍の一人が抜刀した若侍どもに言った。
「殺すなよ、いい女だ。裸にすれば一興、これも役得というものよ。ふっふっふ、おい江角、そなたも楽しんで死ねる方がよいだろう。可愛がってやるからな。はっはっは!」
 若侍どももほくそ笑み、刹那、左右から二人の剣が女を襲った。
「なんの! セェェーイ!」
 中腰に長棒を構える女は、気合い一閃、まるで臆することなく棒先の前後で左右からの剣を払い、左の敵には喉を突き抜き、回して返した棒先で右からの敵の頭を割る。一瞬にして二人の男が崩れ去った。
「あの構えは・・薙刀(なぎなた)か・・あやつは強い」
 草陰に忍んだ町女は小声で言った。

 二人の手下をひねるがごとく退けられて、年増の男二人が抜刀した。
「退いておれ、おまえたちの勝てる相手ではなさそうだ」
「惜しいのう江角よ、そなたの女陰(ほと)を拝みたいところだが・・」
 抜刀した年増二人が口々に言いながら歩み出て、若い三人が剣を構えたまま一歩退いて取り囲む。
 年増の二人は明らかにできる。前と右から次々に斬りかかる。若侍のようにはいかない。女の棒が一人の剣を跳ね上げるも、一人の剣先が白装束の上着を浅く切り裂いた。女は地べたにもんどり打って剣を交わすと、囲む若侍どもを蹴散らして数歩走り、谷斜面を背負って立って身を沈めた。
 このあたりの道筋は向かって左が山斜面、右が急な谷斜面となっていて、背後につかれないよう女は陣取ったということだ。それもまた手練れの見切り。
 しかし危ない。一人だけならともかくも手練れが二人では、いかに女が強くとも女に利はない。

「もう一度言う、おとなしくしろ。事と次第によっては助けてやらないでもないんでね。ふっふっふ」
「やかましいね下郎ども!」
「ならば死ねや!」
 年増の二人が前と左から白刃を振り上げた。囲む若侍どもも中段に構えて女を逃がさない陣取りだ。

 そのときだった。
 草陰から躍り出た町女。黄色格子の小袖を着た、これまた美しい女が、手にした白木の丸杖から白刃を抜き去って疾風のごとく駆け寄った。右片逆手で剣先を下げる不思議な構え。何者なのか。
「待ちな!」
 町女は駆け寄りざま、突然の加勢に面食らって振り向き構える若侍二人の剣をいともたやすく跳ね上げると、江角と呼ばれた女と向き合う年増一人の剣をもたやすく払い、囲みを破り、女二人が背を合わせて身構える。
 やおら現れた妙な女に江角が言った。
「何者か。かかわりなきは退け。助太刀など無用!」
 しかし町女は剣を構えたままちょっと笑う。その刃と、右片逆手の不思議な構えを江角は見た。町女の仕込み杖は反りのない忍び刀。男たちの剣より少し短く、しかし刃幅がやや厚い。

「何者かは知らぬが味方がおったとは・・」
 と、男の一人がほくそ笑みながら言うと、町女は涼しく笑った。こちらも江角よろしく色白で整った、薄化粧も美しい女であった。
 町女が言った。
「連れじゃないよ、勘違いするな。女一人に侍どもがよってたかって。裸にして可愛がると聞こえたが・・そういう輩が許せなくてね! 助太刀する!」
「しゃらくせえ! 共々死ねやーっ!」
 江角に対して右から、町女に左から、年増二人の鋭い剣が襲いかかる。
 江角は棒先で剣を跳ね上げ、町女は下げて構える切っ先を振り上げながら、男の横へともんどり打って転がって、まず先に背後の若侍の一人を斬り倒し、返す刃で年増の剣をふたたび払うと肩口を浅く切り裂いた。
 その白刃は目にもとまらず速い! 身が軽く、恐ろしく強い!
 その片やで男二人とやり合いながら江角は目を丸くした。女の刀は忍びが用いる直刀。くノ一だ。自分でさえ手間取る手練れの武士と互角以上。いったい何者。これほど使うくノ一をはじめて見た江角だった。

 しかし男たちは、いっとき女の敵をあなどった。年増二人も目の色を変える。二人が二人、腰を大きく沈めて中段に身構え、着物の前がはだけてしまって白いふんどしの前垂れが覗く。
 年増男の一人が苦笑した。肩口の着物を斬られた男だった。
「拙者としたことが不覚よのう。ふっふっふ、やるな女よ。されどそなたらに負ける拙者ではない! 覚悟せい!」
 残る敵は年増が二人、半歩退いて若侍が二人。
 中腰に八角棒を構える江角。右片逆手に切っ先を下げ、小袖の前が割れてしまって赤い腰巻きも露わに身構える町女。

 ところが、そのとき。

 荷車がやっと通れるほどの山道の江戸側より、青黒い・・それはちょうど作務衣のような不思議な上着と袴を穿いた姿の男が・・まさに風・・つむじ風のように流れて来る。背が高い。身の丈にして六尺(百八十センチ)はゆうに超え、その髪は肩より長い垂髪のざんばら髪。髭面。それでいて細身。その眼はらんらんと煌めいてる。掘りの深い顔立ちだった。
 男は、いまで言う地下足袋のような、なにやら獣の皮でこしらえた不思議な履き物を履いていた。
「俺が相手よ、覚悟せい!」
 その男の手にも仕込み刀。こちらも反りのない忍び刀で、黒檀の杖に仕込まれているものだった。
 風雲がごとく駆け寄った、なんと言えばいいのか、野獣のような男の剣が、まず立ちはだかった若侍二人の首を跳ばし、手練れと思われた年増二人と相対する。
「・・彪牙(ひゅうが)」
 江角は棒を構えたまま呆然と立ち尽くす。美しい黒目が輝き、目が丸い。
 毛の中の野獣の顔が微笑んだ。
「おう。久しいな江角よ。それからそっちの女もだ、退いてろ」

 手練れ武士の一人が言った。
「次から次に・ええい何者! かかわりなきは去れ!」
 彪牙と呼ばれた野獣が笑う。
「どうしてどうして、大いにかかわりありでね」
「何ぃ!」
「こなた遍路女は俺の女。その女陰は俺の穴よ」
「な・・何を言うか・・」
 江角は一瞬にして女の色を湛えていた。あまりの恥ずかしさに身が竦んでいるようだ。
「そこな女も、いずれはいただく俺の女さ、あっはっは!」
 野獣に目を向けられて、町女は呆れて目を見開いたが、こちらもまた、その瞳は女の色に輝いていた。

 勝負はまばたきの間に決着した。彪牙は強い。それは魔物のような剣さばき。ギラリと刃が一閃した刹那、手練れ二人が朽ち木のように崩れ去る。江角はともかく町女は目を見張った。男は忍び。手練れの中の手練れ。震えるほどの男だった。

 忍び刀の血糊を倒した男の着物で拭うと、彪牙は黒檀の鞘に刀を収めて、まずは江角に歩み寄る。決して小さな女でなくとも野獣に寄られると江角はか弱い。
「無事でよかった」
「う、うむ・・けど、どうしておまえが?」
「いろいろあるのよ、野暮は言うな・・ふふふ・・いい女だ」
 彪牙は棒先を降ろして立つ江角にぐいぐいと迫り寄ると、左腕一本で江角を抱き締め、もがくように暴れる江角の目を見つめてやさしく笑い、左へ右へと顔を振って避けようとする江角の唇に唇を重ねていった。
「ばっ、馬鹿者・・嫌だ、見られてる・・嫌だ・・」
 そんなことを言いながらも江角の体から力が抜けた。丸太のような獣の腕一本でしなるように抱かれている。

 見せつけられた町女はほくそ笑む。人前でしゃあしゃあと。呆れて声も出なかった。
 腕の中の江角に微笑みながら、彪牙は横目に町女の姿を偽るくノ一へと視線をなげた。
「助太刀すまぬな。ふっふっふ、それにしても右片逆手に切っ先を下げて構えるそなたの剣・・」
 直線的に見つめられて、町女はちょっと笑った。
「何さ?」
「噂に聞く如月剣法と見た。それも並のくノ一じゃねえ、おまえは強い」
「如月の剣・・」
 野獣の胸板越しに江角もまたつぶやいて、探るような視線を町女に向ける。
 町女は微笑むだけで応じない。
 すると野獣は、掻き抱いた江角をそっと放し、刀をしまった白木の仕込み杖を手にした町女へと歩み寄る。

 抱くまで一歩の間合い。女は少しもたじろがない、長身の町女だったが迫られると真上を見上げるようになる。そばで見ると野獣は三十代の半ばのようだ。
「いい女だ・・うむ、おまえもそれは美しい」
 そっと左腕が背に回り、そのとき女は微笑んで目を閉じた。睫毛の長い美しい性の顔。
「ほう・・覚悟はいいか・・さすが如月・・」
「違うね、そうじゃない・・伊賀の彪牙に感じ入っただけ・・その名ぐらいは知っている」
 二人は、しばし無言で見つめ合う。

「・・そうだよ、あたしは如月の嵐」
「やはりな。俺の女を救ってくれて・・ふふふ・・いい女だ」
「ふん・・なにさ、しゃあしゃあと・・」
 唇が重なった。嵐と名乗った女の体から力が抜け落ち、しなり、抱かれた。

 嵐を離れた彪牙は、別れ際に江角へと歩み寄り、穏やかな面持ちで眉を上げて言うのだった。
「惜しくてならんが今日のところはここまでだ、また会おう」
「どうしておまえがここにいる?」
「なあに、こちとらだって事情はある」
「おまえも江戸へ?」
「さあな・・もう言うな」
 彪牙は、ふたたび江角を、今度は両腕に抱き締めると、やおら両方の女尻をわしづかみにした。
「ああ! こっ、この馬鹿者っ!」
「あっはっは! おまえの女陰が懐かしいぜ。よく洗って手入れしておけ」
「ええい言うな! たたっ斬るよっ!」
 江角は頬が赤い。大声で笑ったかと思うと彪牙は背を向け、江戸とは逆向きに歩み去る。恐ろしく大きな背・・大きな男尻・・そして蒸れるような男の臭気。  女二人は声もなく、消えていく姿を追っていた。

 寄り添うように二人で立って、嵐が言った。
「・・いい男」
「口惜しいけどね・・ふんっ・・恥ずかしい・・けど」
「うん?」
「よもや如月の嵐とは・・知らぬ者のない名だからね」
「昔のことさ。いまとなっては昔のこと・・そう言うあんたこそ・・あの棒は棒ではあるまい。薙刀さ。武家で仕込まれた技と見た。それも強い」
 江角は笑って空を見渡す。抜けるように青かった。
「あたしだって昔のこと・・伊賀の江角、それがあたし。彪牙とは同門でね。けどそれさえ昔のことさ。まさかここで会おうとは・・」
 嵐はちょっとうなずいて、江角の白装束の背を押した。
「これから江戸だね?」
「ちょっとあってね・・そうさ江戸だよ。こんな山ん中で手間取っちまった」
 薄汚れたお遍路姿の江角、それに品のいい町女の二人連れ。妙な取り合わせだったのだろうが、二人は揃って歩きだす。

 二人とも声には出さない。互いを探る邪念もない。
 そんなことより、一瞬の風となって通り過ぎ、唇をさらっていった野獣の匂いを感じていたい。二人ともに互いを見ない。すがすがしい女の横顔。

「・・彪牙か」
 ふいに嵐がつぶやいた。
「・・彪牙だよ」

 江角はつぶやき、ちょっと笑って言うのだった。
「その昔、危ないところを救われた。二人で逃げて山の中の寺に潜み・・三日ほどだったけど夫婦のように過ごしたのさ・・ふふふ、あのときもそうだった」
「え?」
「あのときも闇の中で・・寄らば殺すとあたしが言ったら・・その前に抱かせろ、いい女だって言ってくれてね・・あたしは濡れた・・」
 嵐は声もなくうなずいて足を運んだ。

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