快感小説

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新・如月夜叉(二十話)

二十話~白き般若


 それからさらに二日を待たなければならなかった。

 山深い湯治場へと通じる道筋に女の影が二つ。時刻は昼の九つ(十一時過ぎ)。女たちは二人ともにまだ若く、三十代のはじめかと思われた。それぞれに髪を結い、辛子色に格子柄、若草色に縞柄と、明るい色香の漂う着物。太花緒の旅草履に脚絆を巻き、編笠と白木の杖を持つ旅姿。ところどころ傾斜のきつい坂道をものともせずに歩き通すいい脚を持っている。
 背丈もこの頃の女としては高く、引き締まった体つきとスキのない目配りからも明らかにくノ一。二人は湯治場へと脚を踏み入れると、迷わずお紋のいた宿へと向かうのだった。

「もしや、さっきの棺桶・・?」
「おそらくね。向かうよ」

 お紋の死を知ると二人はすぐさま引き返し、足早に山を降りて行く。
 お紋と、平九郎と言う鬼のような男の屍は、役人の調べを終えて棺桶に入れられて、一足違いで麓の村との間にある山寺へと運ばれた後だった。ここまで登って来る間にすれ違った棺桶二つを載せた荷車。女たちはお紋を追うつもりなのかもしれなかった。

 小さな山寺には老いた住職が一人。ここら一帯で死人が出ると、運んだ人々自らが穴を掘って埋めていく。山の埋葬は火葬ではない。火は山火事の元として忌み嫌う。棺桶は白木でこしらえた丸い樽。和尚に供養をしてもらい、なだらかな斜面を拓いた墓場に葬って帰るのだった。
 雲のない晴天。すがすがしいまでに透き通った山の空気が陽光に輝く緑の斜面を浮き立たせていた。
 ところどころに目印の樹を残して拓かれた墓地には、夏になって下草が薄くはびこっていた。棺桶を埋めて丸太で作った墓標を立てる、あるいは墓石代わりの石を置く、それだけの墓である。
 お紋にも平九郎にも宿帳に書ける身元などはない。無縁仏は斜面の奥側の寺から離れたところに葬られる。湯治場から荷車で若い男たち三人によって運ばれた。

「うわあぁーっ! 天狗だぁーっ! ぎゃぁぁーっ!」

 かすかな悲鳴が風に乗って寺へと流れる。
 和尚は気づいて寺を出たが、年寄りでもあり坂道では歩みが遅い。仙人のような曲がり杖をつき、やっとの思いで斜面を登ると、棺桶を運んで来た三人が気を失って倒れていた。
 三人のうちの二人は額が割れて血を流す。もう一人は虫の息。三人ともに当て身。棒で殴られたようだったが死んではいない。
 和尚は息を切らせて歩み寄り、倒れている三人と、蓋が開いて横倒しになった棺桶の片方を見渡して呆然とした。男の棺桶は蓋をされて縄掛けされたままである。倒れた棺桶はからっぽ。

 ・・お紋が消えた。

「おい、どうしたんじゃ? 何があった?」
 虫の息の若者は和尚に抱き起こされて、その腕の中で呻くように言う。
「て・・天狗様が・・女が・・女が生き返った・・」
「何ぃ天狗じゃと? 屍が生き返ったと申すか?」
「か、かっ・・烏天狗・・ぅぅぅ・・」
 若い男は気を失った。和尚は倒れた男たちの首筋に手をやって、死んではいないことに安堵すると、墓地の周囲の鬱蒼と茂る原生林を見渡した。

 湯治場からすぐさま取って返した旅姿の女が二人。岩場を抜けて森が豊かになるあたりで、二人の行く手に三人の如月夜叉が立ちはだかる。
 お涼が言った。
「待ちな、おしろい般若のお二人さんよ」
 敵の二人はものも言わず顔を見合わせると、即座にこちらの闘気を受け取って仕込み杖から白刃を抜き去った。編笠を払い身を沈めて身構える。二人ともに目つきが鋭く、かなりな腕と見てとれた。
 嵐とお涼が抜刀し、江角は八角棒。互いに身を沈めて対峙する。

 しかしまさにそんなとき、道筋の坂下から家紋のない着物を着込んだ十余人の侍たちが一斉に抜刀しながら駆け寄って来る。
 侍たちは嵐ら三人と敵二人との間に立ちはだかり、数名が嵐ら三人を取り囲み、残る数名が敵二人へ斬りかかる。嵐ら三人を囲んだ侍たちは足止めさせるだけ。刃を向けるも斬りかかろうとはしなかった。
 男の一人が言った。歳の頃なら三十代の半ばだろう。
「そなたらは退け、関わるなら斬る!」
 嵐ら三人は囲まれて動けない。
 一方の女二人は、侍たちと刃を交えながら山上へと遠ざかって行き、嵐らとの間が開いていく。

 夜叉三人が背中合わせに三方へ向かいながら、嵐が言った。
「口封じってわけだね、般若は用済みってことかい?」
 侍たちの仕切りなのだろう、三十代半ばの男が見下ろすように言う。その男は腕がたつ。静かだが並の気迫ではない。
「詮索は無用ぞ、手を出すな」
 男たちにじりじり間合いを詰められて嵐ら三人は押し返される。討って出て囲みを破れないわけではなかったが、相手は皆弱くはなかった。
 彪牙の言うようになったと嵐は思う。

 そうする間にも二人の般若は追いつめられる。二人ともかなりな腕のくノ一だったが相手は侍、しかも多勢。忍び装束ならともかくも着物姿では動けない。刃と刃が交錯し、女二人は背中合わせに身構えつつも殺られるのは目に見えていた。

「あれは・・」
 取り囲む男たちに向いていた嵐の視線が、男たちを飛び越えて、眩い陽光に滲むような背後の緑から獣のごとく躍り出た白い影に向けられた。

 鳥か! それとも魔物か!

 その刹那、男たちの悲鳴が上がり、嵐ら三人を囲んでいた男たちも一斉にそちらを振り向いた。

 道筋の左・・山側の大木の上から飛び降りた白い影・・白の忍び装束・・白塗りの般若面・・おしろい般若。金色に輝く不思議な刀がギラギラ光る。青竜刀を細身にしたような、武士の刀でも忍びの刀でもないものだ。
 動きが速い! 尋常な人の動きとは思えない!
 人の背丈を軽々飛び超え、猿のように木から木へと飛び移る。
 敵の女二人を囲んでいた男たち数名を、まさしく鳥のように宙を飛び、転がり駆けまわり、目にも留まらぬ速さで首をはねて倒して行く。神がかりと言えるほどの剣の技・・。
 
 嵐も江角もお涼も、それを囲む武士たちも呆然として動けなかった。
 あっという間に数名を斬り殺した白装束の影・・ケタ違いに強い!
 白塗りの般若の目の穴からギラリと光る女色の眼光が侍たちに向けられた。
「ふんっ、そういうことかい、口封じってわけだね。この二人はもらって行くよ、可愛い手下なのさ」
「おのれ! おい者ども、斬れぇーっ!」
「やかましいね! 帰って伝えな! この般若、いずれ首はもらいに行くと!」
 嵐らを離れた男たち数名が一斉に駆け寄るが、敵はくノ一。女三人は鬱蒼と茂る森の中へと消えて行く。

 この場に彪牙はいると嵐は思った。彪牙の敵は天狗のみ。天狗が現れるのを待っている・・。

 嵐が言った。
「退くよ」
「しかし」 と、お涼は言ったが、嵐は刀を収めながら言う。
「追っても無駄さ、もはや人にあらず・・化け物だからね」
 八角棒を降ろしながら江角が言った。
「お紋が生き返ったとでも言うのか・・」
 嵐はさらに「行くよ」と目配せすると、苦笑して言うのだった。
「恐ろしい女・・いずれ相まみえることになる・・」

 百合花が言った。
「そうですか、侍たちがそちらにも・・瀬田様も襲われましてね、そのとき敵が尾張訛りの言葉を発したと」
 嵐が眉を上げて言った。
「尾張・・まさか・・」
 百合花はうなずき、そのとき眉を上げた江角の面色へと視線を流した。
「尾張様とは限りませんよ。三河あたりから尾張、紀伊、京から大阪あたりには不穏の輩が蠢いている。瀬田様を襲ったのは明らかに同じ家中。ご公儀に不満をつのらせた者どもが先走り、私たち夜叉が動き出したと知って、もはや捨て置けぬというわけです。 『お家を潰す気か』と侍の一人が叱責したということですから間違いはないでしょう」
 江角が言った。
「なるほど、ゆえに口封じというわけですか。おしろい般若もまた使い捨て・・」
 百合花はうなずき、悲しそうな面色をした。
「それもまた許せません。お紋とか申す者の身の上も聞きました。反吐の出る裏切り。使うだけ使っておいて、いらなくなると葬り去る。くノ一を何だと思っているのか・・」
 百合花は、まだ見ぬお紋や手下二人の哀れな姿を思いやって目を伏せた。

 万座の湯を離れた数日後、江戸へと戻った三人はその脚で香風へ向かい、引き返して屋敷に向かって歩いていた。せっかく湯治場に出かけておきながら湯を楽しむどころでない。三人の心は傷んでいた。
 日和はよかった。夕刻まで間のある刻限で、薄雲のある今日、やわらかな陽射しが女たちをいたわるように滲んでいる。香風のある丘の上から見渡す海がきらきらと眩いばかりに煌めいた。お燕が坂の上に立って歩み去る三人をいつまでも見送っている。
 しかし三人には役目を終えても笑顔はない。肌を許した男と刺し違え、微笑むように死んでいったお紋・・あのとき確かに死んでいた。
 なのに死ねない。彪牙の言葉を信じていればよかったと嵐は思う。

「海はぁ~眩くぅ~その様はぁ~ぁ、ちょいと~好いたおなごの涙色~ぉぉ~♪おう! そなたら戻ったか」
 瀬田だった。嵐が応じた。
「はい、ご無事で何より」
「もうすっかりな。かすり傷だよ。拙者としたことが不覚をとった。斬られたことより女たちに褌姿を見られたことだ・・ああ、穴があるなら舐めてやりたい」
 相変わらずというのか、今日は桜裏地の茶色の着流し。赤い鞘の刀を腰に差している。お役者そのままのいでたちだ。
 お涼がほくそ笑んで言う。
「これから百合花様の?」
「うんうん、もうだめだ・・愛おしい・・胸が痛む・・乳が揉みたい・・むっふっふ」
「ちぇっ・・よくも言うよ・・」
 あまりの馬鹿馬鹿しさに江角が思わず呟いてそっぽを向いた。
 瀬田もまた眉を上げておどけて笑い、真顔に戻って言う。
「戻ってみよ、あの屋敷にはぬくもりがあふれておる」
 嵐が問うた。
「それは?」
「いいからいいから・・さて、では拙者はこれにて・・」
 瀬田は片目をぱちり。背を向けて歩み去る。
「♪~尼の肌身に身を焼かれぇぇ~錦絵もどきの~宵がくるぅぅ~あ、ちょいと・・はっはっは!」
「・・まったく、お気楽な・・」
 酒に酔うわけでもないのに鼻歌まじりにふらふらと歩いて行く瀬田の姿に、三人は、なぜかたまらないものを感じていた。可愛い男だ。
 江角が言った。
「さ、行くよっ、あんなのにかまってると子ができる」
「あはははっ、こりゃ可笑しい」
 江角らしからぬことを言う。二人は顔を見合わせて、久しぶりに笑った気がしていた。
 そんな江角は・・彪牙を想っているのだろうと、嵐は横顔をちらりと見た。

 そうやって、心が晴れたのか晴れないのかわからないような心持ちでそぞろ歩き、戻ってみると、厨にお雪、お涼、そしてお真知の三人が立っていて、明るく笑い合いながら夕餉の支度にかかっていた。
 中へ入った嵐は、真っ先にお真知の変わりように気づいたが、草履を脱ぎながら板の間への上がり框に座った三人の前に、お菊がお真知を連れてやってきた。何を言うかなどわかりきっている。
「ちょっと聞いてほしいんだ。あたしらで話したんだが・・お燕も入れて皆で話した。このお真知を六人目の如月夜叉にと思ってさ」
 お菊が眩しい。それは、こちらを振り向いて笑うお雪もそうだ。しばらく見ない間に二人は変わったと、三人それぞれに感じていた。
 お真知は黒髪も結い上げて、すっかり町女の姿。両手を前掛けの前に組んで目を伏せて、いまにも泣きそうな顔をしている。
 嵐は、ちょっと睨んだが、そっと手を取ってお真知を引き寄せ、ふわりと抱いた。
「皆でそう決めたなら、とやかく言うことじゃない。よかったね」
「はい、心底悔い改めて励みますので」
「きっとだよ。もういい、忘れるんだね」
 そして嵐は皆の目のある中、さらに抱き締めて目を見つめ合い、唇を重ねていくのだった。

 すぐ後ろに立つお菊・・あの白狐が目頭を押さえていること・・江角は気づき、目でうなずく素振りをした。
 泣いてしまったお真知が嵐から離れたとき、目を赤くしたお菊が嵐に言った。
「ついさっき両国の両替商だという者どもが訪ねて来まして」
「両替商が?」
「とは言うのですが、どこぞのお武家の家中の者ではと・・」
 と言って、二階へ向かって視線をなげる素振りをして、さらに言った。
「見たこともないから怖くて上に隠してあります」
「怖い? わかった。お真知」
「あ、はい?」
「悪いけど風呂にしてな、脚が棒だよ」
「はいっ! いますぐ!」
 このときお真知は、お雪の着物を着せられていた。濃い茶色に青の格子柄。それに茶色の前掛け。黒髪は誰かに結ってもらって清々しい。

 二階へ上がり、嵐と江角は、お涼と分かれて部屋へと入る。襖を開けると部屋の隅に千両箱が五つ、積み上げられてあったのだった。
 江角が笑う。
「ふふふ、なるほどね、これは怖いわ」
「あたしだって怖いさ、見たこともない・・」
 そして嵐が蓋を開けると、前金で百両ずつが配られてあったから、一箱に残り九百両のはずが・・千両ずつ入っている。
「ほんと夢みたいだよ・・人を斬ったわけでもなく・・」
 江角が言って、嵐がそっと蓋を閉ざした。

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