快感小説

新・如月夜叉(二三話)

二三話~犬耳


 朝には笑って出て行ったお真知が、長かった黒髪を剃り上げて戻ったとき、五人はかける言葉もなく見守っているしかない。お燕までが目を泣き腫らしたひどい顔。
 尼僧の衣を与えられているならともかくも、町女そのものの明るい柄の小袖のまま髪がなければ、なおさら異様な姿に映る。
 お真知は戻るなり小さな仏壇の前の板床にへたり込んで動かない。
 香風で何があったのか、夕餉の支度をしながらお燕に聞かされ、五人の胸中には、たまらないものがこみ上げてくる。

 と・・何を思ったのか、お真知は立ち上がって嵐のもとへとやってきた。
「話していいですか?」 と、お真知は足下の床を見る素振り。
「結だね?」
「はい」
 お真知はきっぱりとした意思のある面色。嵐はちょっと眉を上げて言う。
「わかった、降りよう」
 夕餉の支度も後回しに、お燕まで女たち七人が揃って地下へと降りて、お真知は牢の中の結を覗いた。
 牢に入れられてから一月あまり。その間、まさかすぐ上に仲間だったくノ一が暮らしているなど、結は思ってもいないこと。
「結、あたしだよ」

 結の眸が敵意に底光りして厳しい。
「お真知・・おまえだね、あたしを売ったのは!」
 牢の中で立ち上がり、太い角材を組んだ格子にすがりついて猛然と詰め寄る結。結は見る影もなく窶れていた。それなりに食べてはいるからそう痩せてはいなくても牢暮らしの窶れは隠せない。
「出してやりな」と嵐が言った。
 お雪に牢の口を開けられて、結は踊り出ると、お真知の胸ぐらをつかんで挑みかかる。
「よくも仲間を売ったね!」
 裏切った者には死あるのみ。それが忍び。

「うるさいよ、いい加減にしないか!」
 パシーン!

 地下に淀む空気が震えるほどのお真知の平手打ち。結はふっ飛ばされて転がった。浴衣一枚。腰巻きさえしていない裾が割れて白い尻までめくれ上がった。
「裸にして縛ってやって」
 お真知に言われる通り、お菊とお涼で暴れる結を取り押さえ、浴衣を脱がせて裸に剥いて、二本並ぶ泣き柱に大の字に縛り付けてしまう。
 あのときのお真知そのもの。
 お真知は、そこらに置いてあった細い竹の棒を手にすると、横に立って結の尻を打ち据える。手加減のない拷問打ち。白かった双臀に青痣が浮き立っていく。
 悲鳴、悲鳴・・もがく、もがく・・それでもめった打ち。尻も背も血だらけになっていく。
「畜生ーっ、殺せーっ!」
「まだ言うか!」
 波打つ腹も、ぶるんぶるん暴れる乳房も、打ち据えるごとに血筋が浮かぶ。

「生き直そう結、もう一度やり直そう」

「仲間を売っておいて何を言うか! いっそ殺せーっ!」
 お真知は町女の着物姿。なのに髪を剃り上げたばかりの青い坊主頭。結ももちろん、その意味は察していただろう。
 お真知のあまりの仕打ちに皆は声さえ出せなかった。お燕など怖がって江角にすがりついている。
「結、いまのままじゃ死んだも同じさ、生きよう」
 血と汗と垢にまみれた結の体。お真知は寄り添い、涙を流して抱き締めた。
 しかし結は顔をそむけて取り合わない。
「いまさら遅い・・しくじったくノ一には死あるのみ・・いっそ死にたい」
「まだ言うか!」
 そしてお真知は、あのときの火箸を手に取って太い蝋燭の炎にかざす。赤く焼けた鉄が白い煙を上げている。

「な、何をする・・嫌だ、やめてーっ! 嫌ぁぁーっ!」
「死すなら同じ・・生きようとしないなら同じこと・・」
「ひ、ひ、ひぃぃーっ!」
 結の眸が血走って見開かれ、下腹の黒い翳りに寄せられる焼けた鉄を見据え、内股に脚を閉ざして尻を振って逃げようともがいている。
「静かにしないか! 罪の分だけ罰はある。けどね、罰があるから許される。毛の中なら目立たない。これは仕置だ、覚悟しな!」
 このときお燕は、いまさらながら、あのとき自分がしたことを思い、耳を塞いで目をそむけた。

 この役目をふたたびお燕にさせるわけにはいかなかった。仲間たちにさせるわけにはいかなかった。お真知は心を鬼にした。

 断末魔の悲鳴・・シャァァーッ

 失禁する結。下腹の毛の中に焼け火箸の先が潜り込み、毛と肉を焦がす匂いが満ちた。しかし傷はわずか。火箸の先が触れた程度の傷だった。

 火箸を置いて振り向いて、お真知は涙を流して結を抱く。
「あたしらと一緒に生きよう。いまのまま死ぬなんて可哀想だよ。お願い結、思い直して」
 抱き締めて、棒打ちで痛めた背や尻を撫でまわし、手を血だらけにするお真知。
 それからお真知は、涙に揺れる目で皆を振り向き、自らの帯を解いて着物を脱いだ。襦袢も脱ぎ、腰巻きも脱ぎ去って、お真知も白い女となった。
 黒髪をなくした女体に下腹の翳りだけが妙に黒く浮き立って艶めかしい。
「ごらん結、ほら」
 自らの草むらを分けて、己にもある後悔の焼き印を、結に見せつける。
「あたしだって償ってるんだ。だから許され、ここにいる皆にどれほどやさしくされたことか・・ねえ結、あたしと生きよう」

「・・死にたくないさ・・体が臭い・・吐きそうだ・・助けてお真知・・助けて・・」

 結は、折れた。
 黙って見ていた嵐が歩み寄って裸のお真知を抱いてやる。それから結にも歩み寄り、泣きだした結の顔を覗いて言った。
「人の情がわかるなら、そなたなりの償いはできるはず」
 嵐が結を抱いてやる。
 江角も結を抱いてやる。
 お雪も、お菊も、お涼も・・お燕など泣いてしまって抱いてやる。
 お菊が言った。
「あたしは風魔、白狐。けどいまは菊なんだ。あたしらだってくノ一さ、おまえを殺りたいなんて思っていない」
 結は、力の失せた眼でうなずいた。

 その頃、香風では・・。
 寂びた庭の東屋に並んで座り、雲間に煌めく星を見ていた。

「女の恨み・・内にこもる、どろどろとしたもの・・」
「・・」
「そのために女たちが死んでいく・・」
「うむ・・哀れなものよ」
「・・虚しい」
 百合花は源兵衛に寄り添って月を見上げた。今宵の月は妙に赤い朧月・・。
「抱いて源さん、夢が見たい・・」
 そんな二人のひそやかな抱擁を、夜陰にまぎれて見つめる眸があった。二人はそれに気づかない。百合花と源兵衛の影が重なった。

 香風からなだらかに下る坂道をふらふら歩む人影ひとつ・・。
「男の影などぉ~それはそれぇぇ~恋し恋しやぁ~想い人ぉ~♪~っと・・ふふふ、今宵の月め、恥ずかしがって隠れてやがる・・布団にくるまる百合花のごとく・・ふふふ」

 女ばかりの忍び屋敷に、さらに一つ膳が増えた。牢を出された結は風呂を許され、さっぱりした面色で、板の間の広間に八つ並ぶ膳につく。
 今宵は焼き魚と芋の煮物。江角とお雪がこしらえてお燕が手伝う、穏やかな夕餉であった。
 支度が調い、食べようとしたときに、一際体の大きなお涼が言った。
「けど何だね・・困ったよ」
 お菊がちょっと眉を上げ、お涼はにやりと笑って夕餉に加わる結を横目に言う。
「狭い」
「ふっふっふ、そなたが大きすぎるのさ」
 と江角が笑い、皆が笑った。

 狭くなる。食の席もそうだったが部屋割りにも困る。「雑魚寝もいいさ」とお雪が言って、声を上げて皆は笑った。
 結はすっかり小さくなって、お真知の陰に隠れるように声もない。おそるおそる箸に手を出し、煮物を一口・・手にした煮物の器を見つめながら口へと入れる。
「・・美味い」
 両側を挟んで座るお真知とお燕が目を合わせて微笑んだ。
 そのとき嵐は素知らぬ顔で食べていて、皿に寝そべる焼いた魚に言うようにつぶやいた。
「今宵は結とあたしが下に寝るよ。上は上で好きにしな」

 同じように焼いた魚を箸先で崩しながら、お涼がちょっと微笑んだ。こういうときの嵐のやさしさが嬉しかったからである。

 渡し板で塞がれた囲炉裏を挟んで布団を敷いて、嵐と結が横になる。
 そのとき嵐は、白木の仕込み杖を結に手渡す。結は呆然として受け取った。
「江角のものさ、今宵のところはそれしかない」
「刀をあたしに・・」
「許すとは、すなわち信ずること。おまえは仲間を思うくノ一らしい。明日にでもおまえの剣を用意する」
「・・お頭様」
「その言いようは、よせ。姉様でいいし、名でもいい。あたしは嵐」
「・・噂に聞く、あの如月の霧葉様の・・?」
「娘だよ。よって我らは如月夜叉。だいたい頭はあたしじゃないしね。今宵はもういい、体を休めよ」
 結は、受け取った仕込み杖をそっと布団の横に寝かせて置いた。嵐は嵐で仕込み杖を傍らに忍ばせる。

 眠れなかった。結は心が震えていた。
 そのうち嵐が静かな寝息・・結はそっと目を閉じた。

 ところが・・その深夜。
 結が刀を手にする気配で嵐は目覚めた。

「どうした?」
「しっ・・気配が・・」
「何・・」
「外が騒がしい・・少し遠い・・一丁(およそ100メートル)ほど先かと・・」
「一丁・・それが聞こえるのか?」
「大勢の者たちが駆け回っている・・尋常じゃない」
 しかし嵐には何も聞こえない。
「忍びか?」
「いえ違う・・足音が荒い・・おそらくは侍ども・・来る・・こちらに来る・・」
 それでもまだ聞こえない。
 そのとき結が、ヒュゥイ~ヒュイと犬笛のような口笛を・・人の耳には聞き取りにくく、しかし忍びには聞こえる音。二階に眠るくノ一たちに聞かせるためだ。

 そのわずか後に、ばたばたと駆け回る草履の音が屋敷の前から聞こえだす。
 そのときには、こちらはすべて起き抜けて、広間に集まり、刀や棒を手にしていた。
 そうするうちに今度は、結が広間の天井へと目をやった。天井は板張りだ。
「屋根・・いま何かが舞い降りて・・いや飛んで・・」
 それもまた皆には聞こえない。半信半疑であったが、屋敷の外には確かに大勢の者たちが駆け回る音がする。
 固唾をのむ静寂・・けれど結は刀を置いた。
「・・去った・・遠のいて行く・・」
 皆は結の不可思議な行いを目の当たりに声もない。
「あたしは生まれながらの犬耳・・吹き矢ぐらいしかできないけれど耳では負けない。だからあたしは探りが役目。牢にいて上の声は聞こえていた。お真知がいるとは思わなかったが・・」
 恐ろしい力だと嵐は思った。如月夜叉になかった力。音の嗅覚とでも言えばいいのか・・。

 江角が言った。
「何かがあった・・おそらくそれは般若・・もしくは天狗の仕業」
 嵐は、あのとき万座で白き般若が侍どもに言った言葉を思い出す。
『帰って伝えろ、首をもらいに行くからな』
 ということは、この屋敷のそばに黒幕がいたということになる。
 襲った敵を追いかけて侍どもが右往左往・・そんな絵図が描けていた。

 いっとき静まり、それぞれ立とうとしたときだ。
「静かに・・」
 結がふたたび天井を見上げ、目配せしながら刀をとった。
「屋根・・いま舞い降りた・・この庭だ・・」
 嵐が言う。
「真知と結はお燕を頼む。皆は行くよ!」
 お真知はとっさにお燕をかばい、結と三人で奥へと控える。
 ほかの夜叉五名が、庭への板戸へ忍び寄り、目配せして、板戸をバンと開け放つ。

 大屋根から舞い降りた、全身白装束、白塗りの般若面・・おしろい般若が、片膝をつく姿でそこにいた。
「おや・・気づいたようだね、耳がいいこと。こたびは、しばしかくまってもらおうか。そなたらの成すべきことをしてきたのでね・・ふっふっふ、如月夜叉・・たいそうな顔ぶれだよ」
 白き般若・・いいや、お紋は、すっと立ち、その周りを瞬く間に夜叉五人が取り囲む。江角一人が八角棒、ほかの四人は抜刀し、嵐は右片逆手で切っ先を下げる如月流の剣構え。しかし五人は寝間着姿で動きづらい。
 嵐が問うた。
「黒幕を殺ったのか?」
 白い般若面の目の穴から、にやりと笑うお紋の眼差し。
「いずれわかる。・・ふふん、よせよせ、ここで争うつもりもない。ついでに立ち寄ったまでのこと・・そなたらに倒せるあたしじゃないよ」

 嵐はさらに身を沈め、皆もすり足で間合いをはかり、そんな中で嵐が言った。
「笑止! 覚悟!」
 このとき般若は抜刀せず。
 瞬時に間合いを詰めた嵐の剣が、右斜め下から逆袈裟斬りに般若を襲う。
 しかし般若は鳥のごとし。嵐の身の丈をはるかに超えて舞い上がり、刹那、肩越しに覗く白い鞘から、あのとき万座で煌めいた金色の不可思議な剣を抜き去った。日本刀と青竜刀の間にあるような反りの強い剣である。
 舞い上がり、直線的に上から襲う般若の剣!
 嵐はその太刀筋を読み切って、一の太刀を受けると横に反転、もんどり打って転がって、起き上がりざまに踏み込んで、二の太刀を浴びせにかかる。

 されど般若は人にあらず。飛翔からつま先で着地するなり、後ろへ宙返りして嵐の剣を交わし、そのとき横から斬り込んだ涼風の剣をも同時に跳ね上げて、中腰に身を沈め、金色にギラつく剣を身の右横に瞬時に構える。

 般若は強い! 嵐ですらが、あしらわれてしまっている・・。

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