快感小説

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妻は幽霊(序章)

序章


 納骨を終えて戻ったとき、いつもなら活気にあふれて声の絶え
ない店の中が悲しみに沈み、ひっそりと冷えていた。
 普段はない線香の香りが仄かに漂い、いやおうなく家族の不幸
を思い知る。蕎麦屋の厨房から火が落ちると立ち昇る湯気がなく
なって、乾いているけど冷えている寂しげな空気に満たされる。
 店はもちろん閉めてあって雨戸を兼ねた板度が閉ざされ、テー
ブルの並ぶ店内は暗い。古い古い店の裏方は住まい。裏口から
戻って明かりをつけると、熱源のない厨房に光が漏れて、よけい
に寂しく感じるのだった。

「じゃあ俺、行くからさ」
「うん、気にしないで。済んだらまっすぐ戻るでしょ?」
「もちろん。ごめんな」
「だからいいって。いってらっしゃい、気をつけてね」

 愛妻どころか新婚ムードの残る妻の姉が海の事故で消えてしま
った。こんなとき家にいてやれないことを夫の瀬中琢也はすまなく
思う。
 職場はすぐそこだった。コンビニ店長。いまから二月ほど前、以
前の店長が心臓病で入院し、容態が深刻らしくてそのまま退職。
二十九歳と若い琢也だったが、急なことでもあったので店に慣れ
たセカンド扱いの琢也が引き継がされたということだった。

 バイトのつもりだったのに店長。勤めていたスポーツ用品メーカ
ーが倒産して腰掛けのつもりではじめた仕事だったのに、次が決
まらずだらだら半年ほども続けている。
 店に慣れているといってもそんなもの。以前の店長だけが社員
扱いで、そのほかバイトでシフトを組んで回している。ほとんど学
生。長くいる子もいたのだったが子供すぎて店を任せるわけには
いかない。
 その点でも、琢也なら住まいも近く、界隈では名のある蕎麦屋の
娘婿。申し分のない条件だった。給料も社員扱いとなり少ないなが
らもボーナスも出る。断りきれずに引き受けた矢先の不幸だった。

 ただのバイトなら身内の不幸で休めても店長となると日に一度は
店に顔を出さなければならなくなる。今日もそうだ。夕方からの三
時間だったがバックヤードでやらなければならないことがある。ド
ル箱商品の弁当などの売れ行きをチェックして翌日の仕入れの算
段をしておかないとならないからだ。欠品を出すと売り上げに響き、
といって売れ残ると捨てなければならなくなる。店のキャリアとは、
そのへんの読みまでを含めたもの。したがって学生には任せられ
ないということだった。

 結婚した矢先の会社の倒産。新居を構えるつもりでいたのだっ
たが、次が決まるまでは様子を見ようということで妻の実家に移り
住む。
 蕎麦処、『江戸屋』は、戦後すぐに先々代がはじめた古い店だ。
 場所は浅草。浅草寺と言問橋(ことといばし)の間ぐらいに店が
あり、そこから歩いて五分ほどの距離に琢也が勤めるコンビニが
ある。
 琢也はそれまで東京の西側に住んでいて、勤めたスポーツ用
品メーカーも本社が新宿だったから近かった。学生の頃からずっ
と西側で、上野や浅草あたりはよく知らない。
 江戸屋の娘と知り合って一目惚れ。猛アタックの末に結ばれた。
 ところが結婚まもなく会社がつぶれ、それならということで、はじ
めて東側の東京に住んでみた。

 いい街だった。江戸情緒にあふれる街も人も好きになり、婿養子
のように思われてもいい、妻を育てたこの街で暮らしたいと同居を
決めた。
 それにしても次の仕事が決まらない。そうなると居候のようなもの。
 いまのコンビニも、そのとき江戸屋のお客さんだった街の人に紹
介されて勤めだす。そういうこともあったから引き受けたからには粗
末にできない事情がある。コンビニのオーナーも浅草の商店主。
界隈に数店舗のコンビニを持っていて、もちろん江戸屋の家族の
ことも知っている。
 その娘の婿さんの事情を聞いて、店を一件譲ってもいいとまで
言ってくれる温情には応えなければならなかった。

 夕食を賞味期限切れの弁当で間に合わせ、仕事を済ませてコ
ンビニを出たのが九時すぎ。このへんは観光の街。浅草寺参道の
仲見世が店じまいする時刻を境にぱったり人が減ってしまう。
 言問橋からの表通りを信号で渡って一歩裏へ入ると、なおさら寂
しくひっそりしていた。梅雨がすぎた初夏だったが、梅雨明け宣言
のあった翌日から雨になり、夜になると肌寒いほど。今年は冷夏に
なるかもしれない。
 コンビニの仕入れは、そこがミソ。ちょっと寒いと冷やし中華など
はパタっと売れず、そのつもりで仕入れを減らして翌日夏だと欠品
が出てしまう。傘をさすほどでもない霧雨の舞う空を見上げながら、
明日はどうなると考えながら歩いていた。

「おやま、琢ちゃん」
「ああ、おばさん、どうも。こんばんは」
「はい、こんばんは」
 近所の土産物屋のおばさん。コンビニを紹介してくれた江戸屋
の常連客だった。
「たいへんだったね。祐紀ちゃんも可哀想よ、半分いなくなったよ
うなものですからね」
「ええ、さすがにヘコんでます。双子なんだし、どっちがどっちか
わからないほどでしたから。僕なんて最初のうち間違えて、ひっぱ
たかれていましたから。はははっ」
「わかるわそれ、あたしらでさえ子供の頃はどっちがどっちか。で
もあれよ、姉さん女房でも琢ちゃんがしっかりしないとね。よけいな
お世話でしょうけれど、江戸屋は老舗よ。蕎麦の修行してもいいと
思うな」
「あ、はい、それもちょっと考えだしているんです。跡取りがアイツ
しかいませんからね」

 鏡の中の姉妹だった。背格好も顔立ちもうりふたつ。わずかに違
う髪の色ぐらいでしか見分けがつかない。それだけに妹や家族は
もちろん、琢也だって複雑な思いがする。姉妹揃って中学からの
水泳選手。ひとつ間違えば妻だったと思うだけで悲しくなるし、正
直言って、残ったのは姉の方ではないのかと思うぐらい、突然妻が
消えたような気分になる。

「ただいま」
「はいはい、お帰りね、お疲れさんよー」
 下の部屋にいたのは母親だった。
 上原節香(せつこ)。先々代の息子の嫁だったのだが、その夫も
いまは亡く、店主として老舗の蕎麦屋を切り盛りしている。厨房そ
のものは、先々代の弟子であり、先代つまり夫だった店主とともに
修行した蕎麦職人が実質の店主として仕切っている。
 しかしその人も六十六。引き継ぐならいまからだと琢也は考えて
いたのだった。

「祐紀ちゃんは?」
「上よ。仏壇の前で話してるんじゃない」
「そうですか…可哀想に」
 このとき母の節香はパジャマを着込んで薄いローブを羽織って
た。五十五歳。ちゃきちゃきの江戸っ子娘で、古い古い蕎麦屋の
裏で平気でフード付きのローブを着る。琢也は仕事帰りでジーパ
ンTシャツ。
 その節香が琢也の背中をぽんとやって、ひそひそ言う。
「それとね琢坊」
「はい?」
「ひとつ上の姉さん女房だからって、祐紀ちゃんはそろそろおよし
な。あたしらに気を使うこともないんだよ。亭主なんだからさ、いつ
までも居候気分じゃダメ、祐紀子って牛耳ってやりなよね。いまは
もう佐紀はいないけど、あの子も言ってたわよ、旦那らしくシャンと
せいって」

 琢也はちょっと笑って浅く頭を下げ、それから古い階段に足を
かけた。廊下も階段もギィギィ板鳴りがする古い家。
 仏間とまでは言えなかったが、仏壇のある六畳が二階にあって、
線香の香りが階段を流れるように降りてくる。

「ただいま」
「うん、お帰りね。お茶でも飲む? コーヒー淹れよっか?」
「ううん、いまはいい、ありがとう。それより祐紀ちゃんさ」
「ちゃんはやめなって、たったいま母さんに言われたばっかじゃん。
聞こえてたわよ」
 祐紀子は笑った。それでも夫の琢也が肩にそっと手をやると、う
んと寂しげにうなずくようにして眸を赤くする。瞼が腫れてしまって
いた。

 黒一色の小さな仏壇には、まるで妻がそこにいるような遺影が置
かれ、蝋燭も線香も、おそらくずっと絶やさぬように、独り残った妹
は見守っていたに違いない。
 座布団に足を崩して座っていた妻のそばに、夫もまた座布団を
敷いてあぐらで座る。

「はぁぁぁ…信じられん、佐紀ちゃんがまさか…」
「ふふふ、嘘みたい…私の半分が死んじゃった。でも幸せだった
んじゃない。グレートバリヤリーフで潜るのが夢だったんですもん」
「うん…ぅぅっ…」
「え…」
 涙声にふと横を見た妻が、乾きかけた眸を潤ませている。
「…俺さ」
「うん?」
「蕎麦やってみるかなって」
「ほんと? 大変よ修行するの。蔵さん厳しい職人だから。それで
もやってみる?」

「跡継ぎもう祐紀ちゃんしかいないだろ。蔵さんだって立ちっぱな
しはキツイだろうし」
 祐紀子はきりりとした面色で遺影を見つめる夫の横顔を見つめ
ていた。道を決めた男の顔。確かにそうだと感じていた。
「ちょいとコーヒー淹れてくるわ、一緒に飲も」
「うん、ありがとう」
「もうっ! 祐紀ちゃんだの、ありがとうだの、シャンとせいや!」
 パァンと背中をひっぱたいて、笑って立ち上がる祐紀子。
 祐紀子は夫の琢也と背丈は一緒、百六十八センチと大柄で、
華奢な体つきの琢也が小さく見える。家の中でならともかくも、ヒ
ールを履かれると妻の方が数センチは背が高い。

 ホワイトジーンズのミニスカートから健康的な白い脚がすらりとの
びる。そんな妻の後ろ姿を見送って、琢也はふたたび額縁の中の、
どっちがどっちかわからない姉の遺影に目をなげた。

 そのときだった。

 いまのいままで妻が座った座布団に、透き通った妻がいた。
『おいっ、バック』
「え…ひっ! ひぃぃ!」
『何がヒィィだ、このチビすけ。あーあ、あたしって死んじゃったみ
たいよね。妙な気分よ自分の遺影って』

 琢也は声が出なかった。吹っ飛んで一歩座布団から尻を落とし、
目を見開いたまま凍りついてしまっている。
 瀬中という名からバックとか、口の悪い友だちには背後霊とか呼
ばれていた琢也だった。

 透き通った妻は、白一色の死に装束で、茶色に染めた長い髪を
さらさら流して座っていた。恐怖におののく琢也をじっと睨んで妻
が言う。

『おまえは金魚か! 口パクしてんじゃねえよ、うははは! かなり
驚いたみたいよね?』
「あぅ、あぅ…あ…ぁわわ」
『ちぇっ、情っけねえ男だわ。あたしねバック、ユッキーに取り憑い
ちゃったのよ。双子だもん、魂入れたらそのまんまあたしだもんね。
ひひひ、よろしくねー』

 これは夢だ。琢也は頭を振って目を閉じて、視野を一度黒くして
から目を開けた。そしてそのとき、祐紀子がコーヒーを持って上が
ってくる気配がした。

「どうしたの吹っ飛んで? ゴキブリでもいたんでしょ? あははは」
「あ…いや…そ、そういうわけじゃないけど…」

 もう一人の透き通る妻は消えていた…。

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