快感小説

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妻は幽霊(一話)

一話


 二階にコーヒーを運ぶと、祐紀子は青くなる夫の様子に小首を傾げながら、たったいま透き通った姉のいた座布団に座り込む。
 鎌倉彫の丸い盆を下に置き、香ばしい湯気を上げるコーヒーカップを口に運ぶ。
 琢也は放心したような間抜け顔で妻の姿をぼーっと見ていた。
 いまのは夢じゃない。取り憑いたと言っていた。それは写真の多重露出のようなもの。ひとつを分けたのか、ふたつを一緒にしたのか、輪郭がぴたりと重なって妻の祐紀子がそこにいる。
 もともとひとつの卵子が分かれて生まれた姉妹。重なり合って卵に戻ったのかもしれないと琢也は思う。

「ねえ、コーヒー冷めちゃうよ」
「あ、うん」
「どうしたのよ、ポーっとしちゃって?」
「いや別に…」
 琢也は不思議なものでも観るように妻の顔を見つめたまま目がそらせなくなっていた。
 祐紀子はちょっと斜め視線に、にやりと笑った。
「ははあ、そういうことか」
「えっえっ? どういうことさ?」

 ヘンに受け取られてはいないかと気づかうような夫の視線。気の弱い男の子がとても勝てない女の子に白旗を掲げるような眸の色。
 子供の頃までの男の子は女の子より成長が遅く、男がチビで女が大きいという時期がある。まるでそこまで退行してしまったように、『ヘンには思ってないから怒らないで』と顔に描いてあるようだった。

 祐紀子は斜め視線で言う。
「残った私が、私なのかお姉ちゃんなのか、どっちだろうと思ってるでしょ?」
「そんなことないよ、考えすぎさ」
 琢也はようやくコーヒーカップに手をのばし、いつものようにミルクを浮かべて口へ運んだ。

 夫の視線が逃げている。嘘をつくときの子供そのものだと妻はちょっと可笑しくなった。誠実、真面目、弱気。でもその分まっすぐ。
 夫のそういうところが好きになった妻だった。
「ねえ」
「あ、はい?」
「あははは! はいだって! ほんと正直な人よね、姉さんよく言ってたわ。『ありゃダメだわ、カンペキ尻に敷かれるね』って」

 琢也はちょっと笑って視線を下げた。争うことが嫌いな男。出会ったときから私とは釣り合わないと思っていて、猛烈なアタックで押し切ったカタチになっていたから頭が上がらないのかも…と祐紀子は思う。
「どっちがよかったの?」
「は?」
「もう何よ、さっきから。心ここにあらずって感じよね。残ったのが右でよかったのって訊いてるんじゃない。それとも左? 私のこと姉だと思ってない?」
 姉の佐紀子には『左』がつき、妹の祐紀子には『右』がつく。粋だった父親が、左と右で釣り合ってほしいと考えてつけた名前。友だちによってはLとかRとか呼ぶ者もいた。

 琢也は、違う、そうじゃないと、ちょっと首を横に振り、コーヒーを一口入れてそれから言った。
「二人とも水泳だろ」
「そうよ。だから?」
「やろうと思えばダイビングだってできるんだし、ひとつ間違えば佐紀ちゃんだったかもって思ってさ」
「だから訊いてるんじゃない。残ったのは私でよかったのかしらって」
「…死んじゃうよ」
「はあ?」
「俺が。生きていけない」
「くくくっ…涙ぐんでるし…あははは!」
 まっすぐ見つめる弱い眸が涙の泉に揺らいでいる。
 祐紀子は嬉しい。唇をちょっと噛んではにかむように、首がどんどん
傾がっていき、たまらない可笑しさがこみ上げてくる。

「でも、琢」
「うん?」
「お蕎麦のことだけど、じつは母さん言ってるのよ、この店あたし限りにしていいって。蔵さんの退きどきがたたみどきだって言ってるわ」
「そうなのか?」
「それは昔から。ウチはほら、娘が二人だったから、好きなようにさせてやりたいって。商売っていいことばかりじゃないんだよ。爺ちゃんの代なんて借金こさえて火の車だったんだって。父さんだって騙されて大金抜かれたみたいだし」
「…ふーん」
 少なくなったコーヒーを一気に飲んで祐紀子は言った。
「私だってさ、琢ちゃんいまはアレだけど考えてることもあるでしょうし、あたしらみんな、こんな家に縛りたくないって思ってるんだ」

「違うよ、そうじゃない」

 祐紀子は絶句した。ちょっと上目づかいに夫を見つめる。
 穏やかでもシャンとしたところのある面色。
「好きなんだ、この家もこの街も。祐紀ちゃん佐紀ちゃんを育てた家だし、佐紀ちゃんだって無念だったと思うんだ。真央ちゃん残してさ。まだ三つなんだぜ、可愛い盛りじゃん。だからさ、婿養子でもいいかなって…佐紀ちゃんだって、いつでも帰って来られる家なんだし」
 真央とは、佐紀子が残した愛娘。それだけが祐紀子にとっても気がかりだった。

「じゃあ、いいのね? やってみる気あるんだね?」
「佐紀ちゃんがこんなことになって、そんときから考えてたことなんだ。さっき帰り道で田崎のおばちゃんにも言われたよ」
「あら何て?」
「シャンとせいって。蕎麦の修行してみんさいって。この家のことも頼んだよって言いたそうだった」
「そう」

『おしっ! そうだよバック、背負うの、おまえだろ』

 目の前に座っている妻の姿が、二重にブレるように揺らめいて、すーっと透き通った佐紀子が抜け出て、妹のそばにいる。
 琢也は一瞬目を吊り上げたが、妻には見えていないような雰囲気だったから、ぼーっとしたままちょっと笑った。あえて焦点を結ばない視線をつくる。

「おーい?」
「えっ? あ、うんっ?」
「ねえどうしたのよー、何かヘンよ?」
 そう言いながら祐紀子は身の回りを見渡したのだが、すぐそばに座っている透き通った姉の姿に気づいていない。

『見えてねーよ。てめえにゃ存在を知らしめておきたくて見せてやってら。うひひひっ』
 ちゃきちゃきの江戸っ子娘の言い回し。
 二人の妻。このとき琢也にはそう思えてならなかった。ひとつ布団で抱き合うときも妻には姉が憑いている。

「でもあれだな、そう急にってわけにはいかないし」
「そりゃそうよ。琢ちゃんだけの話じゃないよ。ここって古い街だから、それならそれで母さんも入れてちゃんとしないとならないから、決めたんなら母さんにも言わないと」
 琢也はうなずいて、冷えかけたコーヒーを一気に飲んだ。

『それとさバック、真央もだけど、あたしの旦那にゃ気をつけなーね。
狙ってるよユッキーのこと。うりふたつなんだもん』

 ハッとした琢也だった。
「三つって、ママの顔とかわかるよな?」
「あったりまえ…あ、そっか…だからマズイのね…」
 祐紀子はそれきり言葉をつなげなかった。
「うむ、そうなんだ、真央ちゃんが可哀想で…」
 言われてみればそうだ。想いがどれほどあっても姉の子には近づかないほうがいい。ママそのものの別人がそばにいては幼い子供はたまらない。

 琢也と祐紀子は顔を見合わせ、琢也は透き通った佐紀子を見つめ、祐紀子は仏壇の遺影へと視線を流した。

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