快感小説

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妻は幽霊(六話)

六話


 古い街には古くからの人が多く、威勢のいいちゃきちゃきの江戸っ子に見えても不幸は重なるときは重なるもの。年寄りの多い土地はどこでもそうだが名物人間が歯が抜けるように消えていく。
 それにしても江戸屋のおやっさんは早すぎた。そしてその四年後にまさか娘の一人を送り出すことになろうなんて。女将さんという人はまさしく下町の心意気、気丈だと琢也は思う。
 店の掃除ぐらいならもちろん手伝ったことはあるのだが、そのときは妻の実家であって職場ではなかった。この店で生きていくと決めてから店に立つと、開店前のひっそりした店にぴーんとした緊張が張り詰めているようだった。

 店は下がコンクリート。四人掛けのテーブルが四つ、奥側に六人掛けのテーブルが二つ、間に観葉植物の鉢植えを置いて目隠しっぽくしておいて二人掛けの小さなテーブルが壁に沿って二つ並ぶ。
 おやっさんがいた頃は若い蕎麦職人もいて、下の店に加えて二階の座敷へも客を上げ、季節によっては鍋物までをやっていた。
 手をひろげれば儲かるのは儲かっても、仕込みもたいへんだし人件費だって馬鹿にならない。節香と蔵之介で回すには下だけあれば充分だった。

 掃除といっても日々床を掃きテーブルを拭いてあったから汚れているわけではない。店の口の板戸の片側を開け、三カ所ある窓を開け放って風を入れながら、床の汚れを見てまわり、テーブルを拭いて、最後にトイレを覗いてみて、厨房へのカウンターにまとめて置いてある唐辛子などの薬味の中身をチェックする。
 店の中が済むと、夏のいまなら入り口周りに水を打って、のれんをあげれば開店だ。子供でもできる手伝いでも今日は心が引き締まる。

 開店の十五分ほど前になってパートの若妻がやってくる。言問橋からひとつ下流の吾妻橋を超えた川向うに実家があり、晴れていれば自転車でやってくる。
 名を深津京子と言って、祐紀子よりひとつ上の三十一歳。なのにもう小学一年生の息子がいて、離婚してから実家に戻って暮らしていた。 吾妻橋は、浅草の代名詞のような提灯のある雷門前の大通りを突っ切って川を渡る橋。すぐそばと言えなくもないのだったが川向う。姉の佐紀子が大学時代に知り合った仲のいい友だちだった。
 平日は混み合う昼間、休日は夕方まで通して働いてくれている。子供が学校から帰ってくることもあり平日は昼間だけだが、けれども実家で両親がぴんぴんしているから休日は子供をあずけて出て来られるということだった。

「おはようございまーす」
 裏口から元気よく顔を出す。溌剌として見た目も若い。
「ういーっす」 と、いつものように蔵之介が軽く応じる。
 京子は来るなり二階へ上がって遺影になった友だちに手を合わせ、降りてきて灰茶色の作務衣に着替えて姉さんかぶり。背丈は祐紀子よりも数センチ低くてスリム。江戸屋の昼の看板と言われるほど綺麗な人だった。離婚して実家に戻っていることを知った佐紀子が、それならと紹介した。そのとき祐紀子は結婚前で、結婚して一度家を出て、旦那の会社がつぶれて戻ってきたということで。

 京子は大学では音楽部。音大ではないがピアノは教えられるほどうまかった。
「あれ? お母さんは?」
 と言いながら、店の掃除をしている琢也に目をなげる。
 祐紀子は、じつはこの京子があまり得意ではなかった。よく気がつく気立てのいい女性なのだが、琢也に対してまんざらでもない様子を察していたからだ。百六十八センチと男としては小柄な琢也と並んでも、祐紀子よりも背が低いからちょうど釣り合う。考えすぎではない。京子もいまは独身。女っぽい眸の色は感じていた。

「・・上総屋の大旦那さんが? じゃあ琢ちゃんも大変だね?」
 事情を聞いて京子が言った。
「まあコンビニのほうはともかくですけど、それでいま義母さんが顔を出しに」
「なーる。それで手伝ってるわけだ、感心感心」
 祐紀子が言った。
「継ぐんだって。やってみるって、お蕎麦をさ」
「ほんと! あっそ、よかったねユッキーも。お母さんもこれで安心だわよ。あーあ、これでLがいればなあ」
 コイツだ。佐紀子をLと呼ぶのは界隈ではコイツだけ。さすがに私を前にしてRとは言わないが、陰で言っているに決まっている。姉といくら親しかったにしても、夫に琢ちゃん、母にはお母さんと、家族っぽくされることが微妙に気に障る祐紀子だった。

 そのとき唐辛子や焼き塩やと調味料をチェックしてテーブルに配りだしていた琢也。京子は店に出て行って言う。
「それいいから、私やるし。琢ちゃん、外にお水打ってのれんお願いね」
「はい、じゃあお願いしますね」
「はいよっ、うふふ」
 コラてめえ、人の旦那に指図してんじゃねえ! うふふって、何だ!
 とは思うのだったが姉の親友だった人。仕事もサボらず真面目だし、何よりお客の受けがよく、お客を呼んでくれる店員だった。
 姉だと思えばいい。祐紀子はつい嫉妬してしまう自分が可笑しかった。

 入り口周りにバケツから手で水を打ち、板戸を開け放ち、のれんを掛ける。江戸屋の朝がはじまった。
 祐紀子は言った。
「もういいから、ありがとね」
「うん、頑張って。悪いけど、ちょっと上で横になるから」
「そうして。ごめんね」
「うん」
 やさしい夫。ちょっと気の弱いところはあるけれど穏やかな人だと妻は思う。

 店を開けてほどなく、待ってましたと見慣れた顔が入ってくる。佐紀子の不幸はもちろん皆が知っていて、節香や祐紀子を慰めにやってくる。そのへんが浅草人情。ありがたいと感じていた。
「おやま? 節っちゃんどした?」
 それもまた皆が同じことを訊く。開店早々、おじさんおばさんたちが次々に六人やってくる。琢也がコンビニにいることももちろん知って、近くに別の店があるのにわざわざ買い物に行ってくれたりしている人たち。

「あそう、上総屋のねー」
「そうなんですよ。それでいま、とにかく母さんが」
「そうかいそうかい、はじまると続くんだよねー。あの佐紀坊がさー、まさかだよねー、悲しいよねー」
 目頭を押さえてくれるおばさんの肩に手をやって、あべこべに祐紀子が慰めるようになる。
「おしっ、あたしゃ天もりっ」
 いま泣いたおばさんが、ころっと変わる。
「はい、ありがとうございます」
 次々に注文が舞い込んだ。
「蔵さん、お願いしますね。天もり天ざる二枚ずつ、エビ天うどんにザルうどんを一枚ずつ」
「はいよっ!」
 カウンター越しに注文を通した祐紀子だったが、そのとき京子は中にいて天ぷらを揚げにかかっていた。節香が教えたこともあるのだが京子はもともと料理が上手で何でもできた。

 一方、江戸屋の娘にもかかわらず、祐紀子はスポーツジムの中にあるスイミングクラブのインストラクターをしていて、スポーツ用品メーカーにいた琢也と知り合った。
 料理もできないわけではなかったが、若くして主婦となった京子のほうが格段に腕がいい。節香がちょっと厨房を離れたときには京子が受け持つ。そういうところも祐紀子にすれば微妙だった。夫と二人で私も修行だ。それまでは実家を手伝う感覚だったが店を継ぐなら若女将ということで何でもできなければ話にならない。
 カララと引き戸が乾いた音を立て、近所の職人たちが五人揃って入ってくる。一気に活気づく店内。

「あら、いらっしゃいまし!」
「おおよ、ユッキー! 相変わらず可愛ぜ! へっへっへ!」
「ダメダメ持ち上げようたって、あたしゃ重いよー、あははは」
 平日はまずご近所さんからはじまる。いつものことだ。そしてお昼をすぎたあたりから浅草寺へやってきた観光客が回ってくる。
 江戸屋は何年か前、観光ガイドに名店として載ってから、いきなりお客が増えていたし、いまはスカイツリーもできていて、言問橋に近いこ
こらが浅草寺からの通り道ともなっている。
 職人たちはよく食べる。天丼、親子丼、大盛り蕎麦、厨房はいきなり戦場となっていた。

 開店からそんな感じで一波あって、ちょっと空いたと思ったら、平日なのに観光でみえた人たちがなだれを打って入ってくる。時刻は昼十二時をすぎていた。
 二人、二人、六人、いきなり十人。今日は忙しい。
 そしてそのとき裏口から節香が戻り、店を見渡して目を丸くする。
「へええ、混んでるじゃないか、どうしちまったんだい?」
「さあね、朝からバタバタよ」 
 と、蔵之介といい感じでやりとりし、京子とも目を合わせて微笑み合って、それから着替えて女将となって厨房に立つ。節香がいるとピンとする。蔵之介も威勢がいいし祐紀子だってハツラツとした母を見ていて胸を撫でる。

 節香の声はよく通る。
「京ちゃん、お店見てておくれね」
「はいっ」
「そんで祐紀、おまえはこっちだよ、早くしなっ!」
 琢也が継ぐことになり、その妻が天ぷらも揚げられないでは話にならない。私を仕込もうとしてくれている。祐紀子は嬉しかったが、いつもと違う妙な緊張にドキドキして歩み寄る。
「ほらほら、ぼーっとしない! エビ、イカ、キス、ほいでレンコン、それに、いんげん、かぼちゃもだよ、揚げてみなっ!」
「はいっ!」
 ああ口調が違うと祐紀子は思った。もたもたしていると尻をパァンとひっぱたかれる。

 そんな様子を横目に目を細め、蔵之介はますます威勢がよくなっていく。そうこなくちゃ蕎麦屋じゃねえ。娘を鍛えはじめた女将の姿に、だったら俺は琢也を育ててやらぁと、内心気合いが入っていた。
「いらっしゃいませー! ささ、どうぞー!」
 昼をすぎてとたんに満席。
「ヤバイぞこりゃ、蕎麦が足りねえ、あっはっは! そうだ、京子よ」
「あ、うん?」
「この店建て直すんでぃ」
「ええー、建て直す?」
「もちっと先だがよ。でな、そんとき座敷も復活させようと思ってら。人手がいる。おめえもだし、知り合いで誰かいるなら紹介しろや」
「うん、わかった。それなら一人いるよ、心当たり。ウチの子のママ友なんだけど元気な子でさー」

 そのとき祐紀子は、フライヤーに並んで天ぷらを揚げながら、蔵之介と京子の声にちょっと笑った母を見ていた。気持ちを思うと涙が出る。店が活気づいて嬉しいこともあるのだろうが、それよりも蔵さんがその気なのが嬉しいのだ。大きな蕎麦屋の親方だった男を夫の死に付き合わせたカタチになる。その江戸屋が細々と沈んでいては申し訳が立
たない。
 娘婿が継いでくれる。娘のことも鍛え直して昔の江戸屋に戻していける。母は奮い立っていると祐紀子は思った。

 ふいに節香が言う。
「話してきたよ」
「え? コンビニのこと?」
「そうさ。専務さんがいてね、息子だけど」
「ええ知ってる。それで何だって?」
「琢ちゃんが継ぐんなら、こんなめでたいことはないって。けど、早急に次を手配するからちょっとだけ待ってくれって。よその店の若いのを鍛え直して回すって言ってたよ」
「あっそ? よかった、いきなりじゃね」
「十日中にはどうにかするって。それと大工も呼んでおいたし」
「大工? 気が早くない?」
「早くない。帰りに顔を出してきた。今夜来るから蔵さんも入れて話そうね」
 やると決めたら即動く。若い頃の母と少しも変わっていないと可笑しくなる。
「うん。よかったね母さん」
「ほんとだよ、それでこそ父さんに顔向けできるってもんじゃないか。あー嬉しい。まさかこんな気分になれるなんて。あたしゃやるよー! 腕が鳴るたぁ、このこってぃ! あっはっはっ!」

 父さんの口癖だった。『腕が鳴るたぁ、このこってぃ!』
 江戸屋が生まれ変わる。姉さんの死を振りきって進もうとしている。母さんはすごいと娘は感じた。
「あ! 馬鹿コノぉ、天ぷら!」
「ありゃ焦げた」
 エビの尻尾が焦げていた。
「揚げすぎだーよ! やり直し!」
「はいっ!」
 それでまた尻をひっぱたかれてちょっとヘコむ祐紀子だった。

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