快感小説

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妻は幽霊(十二話)

十二話


 久しぶりに夫婦の甘い夜が持てていた。それは夫の勤務シフトの問題ではなく、佐紀子の突然の死から琢也にも祐紀子にも考えさせられることがさまざまあって、なんとなく持てていなかった時間。
 夫婦の部屋に布団を並べ、今夜は妻のほうから夫のぬくもりに寄り添っていったのだった。
 今夜の祐紀子は揺れていた。まるで話にならない素人レベルのうどん打ちから江戸屋の若旦那への一歩を踏み出した夫。せっかく赤飯を用意して、佐紀子のことがあってから沈んでいた江戸屋を切り替えようとしていたのに、野中からの一本の電話にまたしてもそこへ引き戻されてしまう。姉の子、真央に対して祐紀子は佐紀子でなくてはならないようだ。

 妻は夫にすがっていたい。

「琢…ンふ…」
「ぅわっ」
「えっえっ? なあに? どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「…ヘンな人ね」
 薄闇の中の白い妻の裸身から抜け出るように、透き通った佐紀子が後ろから妹の体に寄り添ってウインクしている。幽霊となった佐紀子は楽しむように化けて出る。祐紀子には見えないし聞こえない。くすくす笑って見つめているのだ。

 というか、夫婦の夜を見られている!

 しっしっ、あっち行け。心の中でちょっと怒ると、これがテレパシーで通じるらしい。
『照れるなってば。あたしはもうユッキーみたいなもんなんだから。シャンとして抱きなさい』
 シャンとしてと言われても…とは思うのだったが、とにかく妻を抱きくるんでやりたかった。

「母さんとも話したのよ。小さなうち必要なのは父親じゃないって。女の子は特にママがいないとダメなんだって」
「うむ、そうだろうと思うよ」
「あの子が幼いうちに再婚でもしてくれば時間が解決していくことなんでしょうけど、ママと双子だってことがすべてなの。大人でも間違えるほどそっくりな私がいては、ママがそこにいるのにどうしてって思うでしょ。母さんが言うのはね、それでママに捨てられたんだと誤解しちゃうことが怖いんだって」
「悲しすぎるもんな」
「私がいったい何したのって思うでしょうし、幼いなりに自分を責めて苦しむと思うのね、きっと私が悪いからだって。苦しいどころじゃないと思うわ。離婚していなくなってくれるならともかくも、ママがいるのにかまってくれないとしか思えないもん」

 ピロートーク。夫の腕の中で話していた。

「大きくなってわかってくれるようになるまでママのフリしてあげるとか」
 夫の口からそれを言われ、祐紀子は絶句して顔を見つめた。
「あのね琢ちゃん、じつを言うと母さんがそれを言うのよ。真央は可愛い子よ、とってもいい子。母さんにとってはかけがえのない孫娘なの。不憫な姉の忘れ形見そのものだし、真央を不幸にしたりしたら死んでも死にきれないって言うのよね」
「うん、それもわかる」
「でもね、じゃあどうするの? 私は野中さんのところへは行けないから真央ちゃんをあずかることになるんだけど、そうすると今度は、パパはどうしていないのってことになっちゃう。あの子はパパも大好きよ。それに琢のことにしたって、パパの大好きなママを横取りしてるって思わないかって、母さんはそれも言うのね」
「そうか。うん、それもあるね」
「あるよ。と言ってよ、たとえば私が彼のところへ通ったとして、そうなれば彼だってお姉ちゃんを忘れられずに苦しむことになりはしないか。お姉ちゃんと野中さんは大恋愛よ。好きで好きで結婚した彼女なんだから、うりふたつの私にヘンな想いを抱かないかって…」
「そうだな、それは間違いなくそうなるだろうね。祐紀ちゃんにしたって自分そっくりの姉さんを想ってくれてる彼のことを悪くは思えないだろうし、真央ちゃんはいるし、心が動いてもしかたがないよ」

 そう思う。祐紀子はそれ以上を言えなかった。

『妻一人に旦那が二人。いいじゃんいいじゃん、ヒュゥヒュゥ』

 まるで他人事のように妻の背でおどける幽霊。琢也はちょっと可笑しくなった。確かにそれを言うなら自分が二人の妻を抱いていることになるからだ。妻には佐紀子が憑依している。人としてもっとも大切な魂がダブっているということは妻が二人いることと少しも違わない。

「祐紀ちゃんの思うようにすればいい」
「え?」
「真央ちゃんのことだけ考えてあげて。あずかるなり通うなりすればいいと思う」
 祐紀子は夫の胸を離れて眸を見つめた。本心なのか?
「だって琢、そんなことしたら琢はどうなるの? 江戸屋に縛り付けておいてあたしだけ好き勝手?」
 琢也は微笑んでうなずいた。
「祐紀ちゃんへの気持ちは変わらない。それにいまは石にかじりついても蕎麦を覚えないとならないし」
「それはそうだけど…じゃあもしよ、私が野中さんとヘンなことになってもいいわけ? そこまで考えてる? それは好きとかじゃなく、姉の子を溺愛してくれる彼なんだから私だって揺れちゃうもん。それでもいいの?」
 琢也は妻の肩に手を置いて抱き寄せながら言うのだった。

「祐紀ちゃん、あのね」
「うん…はい?」
「それもこれも大人の言い分じゃないのかな」
 祐紀子を呆然とさせる言葉だった。
「すべては真央ちゃんを守るため。佐紀ちゃんの娘じゃないか。双子は分身みたいなものだと思うし、その分身の分身なんだから、真央ちゃんのこと放っとけないだろ。家族なんだよ。野中さんとよく話して決めればいい。俺の気持ちは揺るがない。祐紀ちゃんのこと愛してる」
「琢…ありがと。私もよ、愛してるわ」
「ふふふ、真央ちゃんが笑ってくれれば周りみんなが幸せだろ。お義母さんもそうだし、祐紀ちゃんだって佐紀ちゃんに負い目を感じなくてよくなるし」

 野中崇という男は、プロ野球という派手な世界にいながらも挫折を知って浮ついたところのない男。竹を割ったようにまっすぐな男。あの姉がメロメロになったほどの男性なのだから、よろめいてしまわないとも限らない。自分の娘にしてもいいような真央のパパを自分の旦那と錯覚しそうで祐紀子は怖い。

『そーだそーだ、琢ちゃんだってあたしを抱いてら。お互い様じゃん、うひひひっ』

 そういう問題か…ゥゥゥ、わんっ! あームカつく幽霊め。

 妻の裸身の背景に裸の幽霊が寝そべっているのだから、それもアリかと思えてしまう。二人いる妻。佐紀子の霊がいてくれなければとても許せないことなのだが、自分をしてそうなのだから二人いる夫もいいかと考えてしまうのだった。
 それも相手はスポーツマンで身長百八十八センチ、こんがり陽焼けのハンサム男。カッコいいったらありゃしない。蔵之介のうどんと自分のうどんぐらいの差はあった。
「明日来るんだろ?」
「来るよ。どうなるかなんて会うまでもなくわかるもん。ママぁーってすっ飛んできて、どうして会ってくれないのって私の胸でわんわん泣くわ」
「うん、可哀想だよね…ぅぅぅ」

『うぷぷ! おまえが泣いてどうするよー。やさしい奴だよー、シャンとせんかいっ!』
「…ったくコノぉ、覚えてろ」
「え? 何か言った?」
「あ…ううん別に」
 くくくっと含み笑いをしながら透き通った妻はヌードの妻に同化するように消えていく。
 だけど何で、幽霊が着替えたり脱いだりするのでしょう?

「明日はそういう話もしに来ると思うんだ」
「彼が?」
「そう。二軍のコーチでチームと四六時中遠征してるでしょ」
「そっか、そうなると託児所とか実家とか…」
「そうなのよ、ましていまはシーズン中だし、そうなるとますます真央が可哀想」
「明日は何時に?」
「お昼すぎよ。お店の休憩に合わせて来るって。浅草はめずらしいから花やしきで遊ばせてそれから来るって言ってたみたい」
「わかった。お義母さんも入れて話せばいい。あずかれれば最高だよね」
 祐紀子はたまらない。理解のある夫が誇らしく思えてくる。
「ああン琢也、好きよ、愛してる」

『もいっぺんスルみたい?』

 やかまし! おまえはいい、出てくるな!

 声だけ聞こえて、けれど姿は見せなかった。
 明日はちょうどその頃からコンビニで仕事。コンビニもおそらく残り数日。その頃には新しい店舗の設計も決まって、しばらく引っ越すことも考えなければならなくなる。
 琢也は言った。
「あ、そうだ」
「うん?」
「浜松行くだろ」
「ええ。それが?」
「真央ちゃん連れてこ。向こうへ行けばクルマもあるし、浜名湖とか向こうの海とか連れてってやれるじゃん」

『ありがとね、Tバック。あなたのこと好きになりそ』

「ならんでいい! 消えろーっ! Tバック言うなーっ」

 と、心の中で叫んでいた琢也だった。
 本音を言えば怖かった。男としてとても野中に勝てるとは思えない。百八十八センチ対百六十八センチ。ぜんぜんムリ!
 うどんさえまともに打てない自分といるより、可愛い真央ちゃんと三人でいたほうが妻は幸せなのかもと考えた琢也だった。

 翌日はすっきり晴れた。いきなり真夏。いよいよ梅雨明けを思わせる夏空がひろがった。
 よかったと琢也は思う。せっかくパパとお出かけして遊園地で遊ぶにしても雨では可哀想。
 その朝、琢也は祐紀子と一緒に起き出して真新しい作務衣を着込み、朝の仕込みを手伝った。蕎麦屋の朝は、蕎麦職人は気が立っていて見習うどころではない。
 それでも料理は下ごしらえから。節香の仕事、祐紀子の仕事と手伝うことはたくさんあって、包丁を持って野菜を切ったりレンコンの皮を剥いたりと、食べ物屋の修行はできる。

 厨房に立つのが嬉しくてならない。調理の経験がないだけにまさに新しい人生が拓けるような気分になれる。
 そしてそんな若旦那の姿を、開店前にやってきたパートの京子が眩しそうに見つめていた。

 昼頃まで手伝って、合間に昼食を作ってもらって食べる。さっとシャワーを浴びて着替えて出る。コンビニは二時からで少し前には店へ行く。そろそろ真央ちゃんが来る頃だと考える。
 とそのとき、コンビニを経営する上総屋の専務、亡くなった社長の息子から直々に電話が入る。
「はい、瀬中です」
「うむ、江戸屋を継ぐことにしたそうだね」
「はい、社長にはお世話になりましたけど、すみません」
「なあに気にするな、それがいい。近々食べに行かせてもらうよ」
「はい、ありがとうございます。でも専務、それでしたら建て直してからのほうが」
「建て直す? 江戸屋をか?」
「そうなんですよ、設計が決まりしだい取り壊して新しくするんです」
「ほうほう、そうかそうか。わかった、じゃあそうさせてもらう。で瀬中君、急で悪いが明日なんだが、シフトを無視してもらって昼の一時に出てくれないか」
「一時ですね?」
「次の店長が行くから引き継ぎを頼みたい。しばらくかかるだろうが、それを終えたら君は帰っていいからね。後ほどウチのほうから給与そのほか連絡させてもらうから」
「では専務、明日でもういいと?」
「そういうことだ、ご苦労だったね、女将さんにもぜひよろしく伝えてもらいたい。頑張れよ」
「はい、短い間でしたけどお世話になりました、ありがとうございました」

 明日で最後。厨房で仕事ができる。琢也は弾むような気分だった。  そのとき時刻は二時半すぎ。コンビニのオートドアが開いて、パートを終えた京子が入ってくる。店まではジーンズスタイル。私服の京子は、さらに若々しくて美しい。
「たーくちゃん」
「ああ京子さん、お店おしまい?」
「たったいまね。お姉さんのほら…」
「真央ちゃん?」
「そうなのよ。野中さんてカッコいいわ。もうね次元が違う。それはいいんだけど真央ちゃんがね」

 予想した通りだった。ママだと信じきっていて、泣いて泣いて、とても見ていられないと京子も涙をためていた。
 京子は、琢也夫婦が夕べ話したようなことを予想していた。それで琢也のことが気になって覗いてみたということだ。

 今日は時計が速かった。夕方になり夜になり、十時になって店を出て、琢也は江戸屋に帰り着く。その頃には蔵之介はもちろんいなく、野中と幼い真央も帰った後でいなかった。
「ただいま」
 待ってましたと祐紀子が立った。
「うん、お疲れさま」
「コンビニ、明日でおしまいだよ」
「えー明日で? あー、ほんと? よかったねー」
「専務さんから電話があって、昼の一時に顔を出してもらって引き継いでほしいって」
「あらそう、いよいよね」
 琢也はうなずき、微笑んだのだが、祐紀子が目を赤くしてしまっている。

「真央ちゃんは?」
「今日のところは帰ったわ。あのことね、ほら浜松」
「あ、うん? どうだって?」
「もうしばらくいい子にしてたらお姉さんが連れてってくれるよってパパが言ったら泣いちゃって…嬉しいって言って」
「いい子じゃんか」
「いい子よ。それでまた姉さんにどんどん似てくるし…私もうたまらないわ」
 そのとき節香が顔を出した。まだ寝間着に着替えてはいなかった。  祐紀子が言った。
「それでね琢ちゃん、母さんがちょっと話したいって。少しいい?」
「いいよ、わかった」
「夜は食べた?」
「ああ喰ってきた」
「そう。じゃあちょっと。いまコーヒー淹れるから」

 ちょっとだけ顔を見せて奥へと引っ込んだ節香がうなだれていることを、琢也は一目で察していた。初孫の涙はたまらない。

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