快感小説

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妻は幽霊(十三話)

十三話


 厨房から奥へと入ってすぐ右の、節香の部屋。調度品はどれもが古く、丸く大きな朱塗りのちゃぶ台などは戦前からあるもので、塗りが剥げて下地の木が黒くなって錆びている。ちゃぶ台の真ん中には落とし蓋のできる丸い穴が空いていて、鍋物料理などを楽しむための七輪がはめ込めるようになっていた。いまどきどこを探してもない古い下町がここにはあった。

 娘婿が戻り、祐紀子がコーヒーを用意すると、節香は祐紀子と申し訳なさそうな面色で視線を合わせ、それから言った。
「夕べ祐紀と話したことはだいたい聞いたけど、じつはそのことなのよ。真央ちゃんのことね」
 琢也はうなずく。聞くまでもないことだ。
「野中さんとしても、ママはもういないんだよって話して聞かせて、そのときはわかったって言うらしいんだけど、だってママはもう一人いるよみたいなことを言い出して泣いちゃうんですって。あの子いま三歳五ヶ月だったかしら。まだまだ幼くてどこまでわかっているのかわからないって野中さんがおっしゃるのよ」
「無理ないですよ、わかるはずない。ママが恋しくてたまらないんですから」

 節香は悲しげにちょっとうなずくと、琢也にコーヒーをすすめながら自分もカップを取り上げた。見るからに苦しそうな面色だ。
「野中さんて、実家は川崎でお墓もそこにあるんだけどね、彼のお父さんという人が五人兄弟の末っ子らしくて、上のお兄さんが亡くなって、いまは沼津の本家に引っ込んじゃったんですって。沼津ならそう遠くはないんだけど、それにしたっていちいち川崎からじゃね。託児所じゃ心配だってことで球団職員のお宅にあずけてるらしいんですけど、地方巡業も多いらしくて」
 祐紀子がちょっと笑って割って入る。
「母さん、お相撲じゃないんだから」
 それから祐紀子は夫に言った。
「アウェイも多くて、かなり長く戻れないみたいなのね」
 琢也がうなずいて微笑んで、節香が言った。

「それでね、野中さんとも相談したんですけど、私はあの子のお婆ちゃんだし祐紀子もいるしで、真央ちゃんのことあずかろうって思ってるのよ。そこまでは夕べ話したって聞いたけど、そうなると今度はパパと離ればなれになっちゃうでしょ」
「ええ、そうですね」
「それもまた可哀想ってことで、そうしょっちゅうでもないでしょうけど、パパと祐紀子と三人でデニーズとかさ」
「ちょっと母さん、ディズニーランドよ。ファミレス行ってどうするの」
「そうそう、それよ。そのほかいろいろ遊びに連れて行ってやりたいじゃない。そっくりだけどママじゃないって自覚ができるまで、口でどう言ったってママだと思ってるわけだしね」

 琢也は微笑んで祐紀子へ視線を流し、節香に言う。
「わかりました、家族じゃないですか。夕べ祐紀ちゃんにも言ったんですけど、しばらくはママのフリしてあげるのがいいだろうって。パパと一緒にどっか行くのも当然だし、僕は真央ちゃんのことだけ考えてあげるべきだと思いますけど」
 そのとき祐紀子が言った。
「近場ならそれでよくても遠出するようなことがあると、お泊りしなくちゃならないのよ。ママのフリするってことは妻のフリすることでもあるの。野球の関係で同行ってこともないとは言えないし、そういうこともあると思うけど、それでもいい? 三人でお泊りして私だけお部屋が別なんておかしいでしょう?」

 そのとき声を出しかけた琢也は、脚を崩して座る妻とまるで同じ姿勢のまま、妻から抜け出してそばに座る透き通った佐紀子を見て絶句した。佐紀子は穏やかに微笑んでいる。
 琢也はちょっと生唾を飲みながら祐紀子に言った。
「こういう言い方がいいのかどうかだけど、女優になるしかないんじゃないかな。僕の気持ちは変わらない。真央ちゃんのことだけ考えてあげればいい、大人の言い分じゃなくね」
「ごめんね琢ちゃん」
 琢也は気にしないと、ちょっと首を振って笑った。
「じきにわかる時期がくる。僕のことなら気にしないで。お義母さんもですよ、コンビニ明日までなんです」
「えっ? そうなのかい? 明日でいいって?」
「専務さんから電話がありました。これからは修行しないと。野中さんはすごい人だし、早く何とかしないと真央ちゃんにまでチンケなお兄ちゃんて思われちゃう。ははは」

 節香は真顔で琢也を見つめて言った。
「ありがとね、琢ちゃんの気持ち、もらっておくわ。いまのままじゃあの子が壊れちゃう」
 琢也はしっかりとうなずいて笑う。
「そんなことになったら僕だって佐紀ちゃんに顔向けできません」

『おーおー、よー言うた。男じゃのうーっ!』

 やかまし! 消えろ! 内心思うのだったが、透き通った佐紀子がじつはいちばん悲しいと琢也は思う。
「佐紀ちゃん、もう帰ってきてるかもですよ」
「え…」
「生まれ育ったこの家に真央ちゃんが来るのを待ってるかも」

『こらこら、バラしたら祟るからねっ』

 琢也は透き通る佐紀子に向かってほくそ笑んで言う。お化けという嫌なムードがまるでない。
「佐紀ちゃん、きっと嬉しいと思うな」
「うん、そだね、うん…」
 節香はそばに置いたティッシュを抜いて目頭を押さえていた。
「仏様だね琢ちゃんて。いい婿さんだわ」
 母の声に祐紀子までが声を詰まらせてうなずいていた。
 琢也は穏やかに微笑んで言う。
「祐紀ちゃんは佐紀ちゃん、佐紀ちゃんは祐紀ちゃん。これからの江戸屋にとっても、それがいいと思いますよ」

 子供の頃からそんなようなことを言われて祐紀子はムクレることがよくあった。姉は姉、私は私。なのに周囲はそうは見てくれない。
 けれどいま、琢也の言葉は身に沁みた。うりふたつの私が残ったから母も気丈でいられると思うのだった。もともと一人だったはずの娘が分身として生まれてきた。母は私に姉を重ねて見ている。そのことにあらためて気づかされた祐紀子だった。
 そのときなにげに琢也が言った。
「でもあれだな、そうなると建て直しを待てないな」
 節香が言った。
「待たないわよ。じつはもう工務店さんに頼んである。業者同士で不動産関係に知り合いもいるでしょうから。設計が決まったら引っ越して、すぐあの子を呼んでやりたい。保育所がいいのか幼稚園がいいのか、それも手配しないとならないし。子供は早いわよ、あっという間に小学校なんだから」

 母が嬉しそうだと祐紀子は思った。姉の不幸があってすぐ、手元に孫をおきたいと思っていたのではないか。そんな気がした。
「じゃあ僕いいですかね? お風呂入りたいし」
「あー、そうねそうね、いいわよ入ってらっしゃい。祐紀子」
「えっえっ?」
「一緒にお風呂してらっしゃいな」
「はあ? あーあ、これだもん。あのね母さん、それって母親の言うことかしら? 蔵さんそっくりだわ」
「あははは、そうかもねー」
 二人に笑顔が戻っている。琢也はそれで充分だった。

 ふと目をやると幽霊がにやりと笑っている。
『一緒に入ったろか? あたしならいいわよ?』
 いらん。消えろ。 とは思うのだが、そのとき佐紀子が真顔になって拝むように手を合わせた。幽霊が人を拝む。逆ではないか?
『ありがと琢ちゃん、あなたのこと好きになっちゃう』
 ならんでいい! お願いだからほっといて!
 琢也は可笑しさをこらえきれずに立ち上がり、浴室へと歩きながら笑ってしまった。

 節香の部屋から二階への階段を通り越してすぐ左に、一段低くなった昔の土間が残っていた。いまはもう下はコンクリートなのだが、一部はいまだに土のまま。使われていない竈があって、その並びに盛り土をしたところがあり、そこに大きなカメを二つ埋めて、蕎麦ツユにする割下を熟成させている。
 昔の厨(くりや)がそのまま残る。石板でこしらえた流しなんて、いまはもうほとんど見ない。風呂もそうで、とうに使われてはいなかったが薪で沸かす焚口が残っている。
 ガスさえなかった時代、江戸屋の先々代からの苦労や蕎麦への想いが漂っていると琢也は思う。ここに来たとき考えてもみなかったことが、店を継ぐと決めたとたん、古い家に漂うような先人の魂となってのしかかってくるのだった。

 浴室は新しくされている。全自動洗濯機ももちろんあり、歴史に現代が割り込んでいるようだ。
 脱衣に立って、まさかと思い、周りをきょろきょろ。出るなよ幽霊。
 可笑しくなる。佐紀子の可愛さというのか、母親や妹を想い、残してしまった幼い娘を想う女心にぬくもりを感じてならないのだ。
「なるほどね、そういうことか…」
 シャワーを浴びながら独り言をつぶやいた。
 うりふたつの妹に憑依することでこの世に留まり、娘の成長を見守っていこうとする。
「いいママなんだな。素敵な人だ」

『そうそう、わかった? あたしってカワユイっしょ? ひひひ』

「うわっ出た! シッシッ!」
『あたしゃ猫か、失敬なっ』
 透き通った佐紀子は、妻そのままの美しいヌードだった。
 それはそうだが、幽霊なのだ。
「うわぁーっ、おい、くっつくなーっ!」
 背後から寄り添われて琢也は全身鳥肌。違う意味でゾクゾクする。
『好きよ琢ちゃん、真央のことお願いね』
「うん、こちらこそだよ、江戸屋を見守っていてね」

『ンふふ…見てるだけでいいの? 抱っこしてあげよっか?』
「いらん! せんでよろしい!」
『コラてめえ! 祟るぞーっ!』

 突然湧き起こるつむじ風が長い髪を巻き上げて、般若の形相へと変化していく。
「あのね佐紀ちゃん、ほんと、きたない女だよな、都合よく悪霊なんだもん、ヒドイよ」

 すーっと美女幽霊に戻ってキラキラ笑う佐紀子だった。

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