快感小説

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妻は幽霊(十八話)

十八話


 浜松の駅に着いたとき琢也の母が自分のクルマで迎えに来ていた。時刻は昼食には少し早い頃合いだった。
 琢也の実家はごく普通のサラリーマン家庭で、琢也は一人っ子。
 母は初枝と言って歳は節香よりひとつ下の五十五歳。父親は邦彦、五十七歳。一般的な中流家庭で普通に育った琢也だった。
 住まいは小さな戸建て。浜名湖のそばとは言っても高速のインターなら浜松西で降りて、やや南下。浜名湖の東側、浜松駅に向かって少し戻る感じの緑豊かな住宅街に家があり、浜名湖を見渡せるわけではなかった。祐紀子は恋人時代から何度か訪ねたことがある。義父も義母も、この親にして琢也ありと言えるほど穏やかな夫婦だった。

 琢也は、真央をあずかることになったいきさつをもちろん伝えてから訪ねて来ている。老舗の江戸屋を継ぐことも、くわしくは話していないが伝えていた。
「ああ、お義母さん、ご無沙汰してます。この子が真央なんですよ」
「うんうん。あらぁ真央ちゃんて言うのね、はじめまして。可愛いお嬢ちゃんだわー、お人形さんみたい」
 赤いフレアのミニスカート、白いブラウスに白いサンダル、長い髪に大きなリボン。マンガの描かれたピンクのポシェット。
「うふふ、はぁい。おばちゃん、こんにちはー」
「はい、こんにちは。いい子ねー」
 真央は人見知りしない。子供らしい笑顔で初対面の初枝に接している。子供の頃の佐紀子がそうだった。誰とでもすぐ話せる。妹の祐紀子は初対面だと緊張してうまくない。うりふたつでも性格は違った。

 このとき祐紀子は、久しぶりに義母に会っても、微妙に歓迎されない空気を一瞬にして悟っていた。
 江戸屋のこともある。仕事をなくして妻の実家に転がり込んだ時点で婿養子になったも同然。次の仕事が見つけられず、その家業を継ぐとなるとますますそうだ。長男にこだわるわけでもないのだろうが、息子の歳から修行してモノになるのかという心配もあっただろう。
 そしてそれより、幼い真央のためとは言え、ママのフリをして姉の子をあずかるということが気にかかる。

 姉の佐紀子がプロ野球の元スタープレイヤー、野中の妻であることは野球好きの父親はもちろん知っている。収入のケタが違うこともあるが、その佐紀子に生き写しの祐紀子であることが問題だった。職を失い、これから蕎麦屋の修行をする息子では到底勝てる相手ではない。
 ママのフリをするということは場合によっては妻のフリもしなければならなくなる。子供が可愛ければなおのこと女なら心は揺れる。初枝はそこまでを見通していた。
 佐紀子の死に際してもそうだった。闘病した経緯もなくスポーツの事故で突然逝った。江戸屋は食べ物屋であり、大げさにすると縁起でもないということで、通夜から葬式までを内々にやって琢也の両親を呼んでいない。それもまた考えようによっては瀬中の家など相手にされていないとも受け取れる。

 片や野中は有名人。そういうことではないのだが受け取り方とは得てして悪いほうに傾くもの。母として息子を想うからこそ疑心も生まれる。
 ともあれ、幼い真央に罪があるわけではなく、昼食は何にするということになったのだが…。
 クルマは琢也が運転した。赤いコンパクトカーだった。助手席に初枝がいて後ろに祐紀子と真央が乗る。
「可愛いクルマだねー、ママぁ」
 考えすぎだとわかっていても息子の妻をママと呼ばれることが引っかかる。初枝は振り向いて笑顔で言った。
「真央ちゃんのパパは、どんなクルマに乗ってるの?」
「うーん、わかんなーい。でもね、パパ左にいるよー。真央はいつも右だもん」

 祐紀子は気が気でなかった。
「あらぁ外車なのね?」
「あのね、うーんと、えーと…B…BW?」
「ああBMW?」
「うんっ。それとね、大っきなのもあるよー」
「大っきなの? 二台あるのね?」
 仕事半分で使うためにジープタイプのロングボディが別にある。
 祐紀子は、真央を置いて来るべきだったと後悔した。
 初枝はちょっと笑って黙り込み、運転する息子に言う。
「それでおまえ、お店の建て直しは大丈夫なの? お父さんが資金とか大変だろうって心配してたから」
 息子の肩に借金がかぶさってはという意味だったのだが、琢也は深く考えない。
「いや、そっちはいいんだ。真央ちゃんのこともあるんだろうけど、野中さんがちゃんとしてくれたみたいだから」
「あらそう? お金借りなくてもいいんだね?」
「そういうこと。心配しなくていいからさ」

 もう馬鹿なんだから…祐紀子は汗をかいていた。

「それでおまえ、お蕎麦なんてできそう?」
「頑張るさ、これからだ。最高の職人さんに教えてもらってるから、そのうちきっとできるようになる」
 後ろから祐紀子が、せめて一言という気持ちで言う。
「味がわかるって褒められてるんですよ。ウチの母も琢ちゃんなら大丈夫だって言ってますし、私も一緒に頑張りますから」
「そう。それならいいんですけどね。でもお金のことはよかったわ、ウチはほら、そんなに出してあげられないし」
 まずい。建て直しの資金のことまで言われると瀬中の家は面白くないだろう。新しくなる江戸屋に名ばかりの若旦那。店とは無関係な野中におんぶにだっこ。琢也ったら少し考えて言ってよねと祐紀子は思う。

「ねえママぁ」
「はぁい?」
 ドキドキした。何を言うかわからない。
「お昼なあに?」
 そのときまた琢也が言った。
「お兄ちゃんがいいとこ知ってるから連れてってあげるよ。イタリアンにしようね」
「イタリアンて?」
「パスタだよ。スパゲッティとかピザとかあるよ」
「わぁぁピザぁ! うんっ好きぃ!」
 私をママと呼び、琢也は自らお兄ちゃんと言う。祐紀子は胸が痛かった。お義母さんは複雑な想いだろうと察していた。

 何を食べたのか、祐紀子は気もそぞろ。
 とにかく真央に昼を食べさせ、それから一度家に戻って初枝だけを降ろし、ふたたびクルマを走らせる。
 浜名湖と、雄大な太平洋を見せてやりたい。泳ぐのは今日は無理。このへんの海岸線はほぼまっすぐな砂浜であり、目の前は遮るものの一切ない太平洋。潮の流れが速くて急深でもあり遊泳禁止の浜が多いからだ。
「わぁぁ、海だー! すごぉい!」
「えー? 違う違う、これは浜名湖って言ってね、このへんはまだ湖なんだよ。もうすぐ海だからね。すっごいよー、見渡す限りの海だから」
「うんっ、大っきいねー」
「ここはウナギが有名なんだ。真央ちゃんウナギ好き?」
「ウナギ?」
 真央は助手席にちょこんと座り、祐紀子が後ろに乗っていた。クルマが小さく中は狭い。後ろから祐紀子が言う。
「ウナギってほら、お弁当箱みたいな四角いお重に入ってくる焼き魚みたいなのがあるでしょう。かば焼きなんだけどね。知らない?」
 まあ子供が好むものではないし、姉も野中さんも洋風で、そんなに食べさせていないのではと祐紀子は思う。幼くて忘れているだけかも知れなかったが。

 真央はウナギのことなどどうでもよくて、助手席から首をのばしてキョロキョロとめずらしい景色に見入っていた。
 祐紀子は小声で言った。
「ねえ琢ちゃん」
「うん?」
「ちょっとは考えてよ。江戸屋のことにしたって、お義母さん気にしてらっしゃるわ」
「いや、いいんだ、そのつもりで今回は来たからね」
「どういうこと?」
「長男なのに婿養子みたいなものだし、いろいろひっくるめて、俺はこれから蕎麦をやると言いに来た。考えると口惜しいこともあるけれど、いまはやるしかない。いつかきっと…」
 強い言葉。そんなふうに思ってるんだと祐紀子は夫を見直した。生き方は人それぞれ。琢也なりのベストを尽くしてくれれば妻は嬉しい。

 海岸線に出た。海沿いに高速道路を思わせる浜名バイパスが通っていて、降りられるところのどこで降りても見渡すかぎりの砂浜が続いている。遊泳禁止にもかかわらず水着姿の若者たちが大勢いた。サーファーも多い。
「ほら真央ちゃん、ずーっと海だよ」
 真央は助手席から立ち上がるようにしてガラスにへばりついて外を見ている。
「ほんとだー、海だぁ! わぁぁ大っきいなー!」
 祐紀子が琢也に言った。
「どこまで行くつもり? ずいぶん来たわよ?」
「もうすぐさ、この先に道の駅があるからUターンする。パーキングから浜に降りられるから」
「うん、わかった。もうすぐよ真央ちゃん、砂浜に降りられるって」
「うんっ! すっごい海だぁ!」
「凄いだろー? 太平洋だぞー。東京あたりの海とは違う。見渡す限り海だし水が綺麗だからね。明日どっか泳ぎに行こうね」
「うんっ! 嬉しいなー!」
 真央の眸がキラキラ眩しい。

 シーズンインで平日でも道の駅は混んでいた。潮見坂。琢也がクルマを入れると、ちょうど一台出て行くところ。クルマを停めて売店でアイスバーを買って食べさせながら裏へと降りる。バイパスの高架をくぐって突き当たると、ガードレールの下から白い浜。方々にビーチパラソルが咲いていて水着の若者たちが散っていた。
 小さな真央は浜が見えると走り出す。ガードレールにへばりつき、一面の砂浜と海を見渡しながら嬉しそうだ。
「すごーい海ぃ、こんなのはじめてぇ!」
 嘘だ。真央はグアムやハワイの海を知っている。二つやそこらでは幼くて覚えていない。アイスにかぶりつきながら一人先に浜へと降り、砂に足を取られながら走っていく。
「あ、コラぁ真央、走っちゃダメよ、危ないからね」
「はーい! きゃははは、海だぁ!」

「ふふふ、たまらんな」
「ほんとよ。手放したくなくなっちゃう」
「それ、わかる。 あー! 転んだ!」
「あははは! アイスもうダメ、あははは!」
 琢也が走って行って追いついて、転んでも笑っている真央の肩を抱いている。

「…いいパパになれるんだけどな」

 祐紀子は独り言を言うと、足を速めて追いすがった。
 野中のことを思うと口惜しいはず。噛み締めて進もうとしている夫の姿に祐紀子はすがすがしいものを感じていた。ヘコんでいたって何も変わらない。祐紀子は気持ちが軽くなっていた。
 婿養子を迎えたつもりなんてない。仕事が決まらないからって見下したつもりもない。夫がそういうことを気にしているとわかりきっていただけに、立ち向かう意気込みに妻の胸は熱くなる。

 だけど…真央の存在が私たちを変えてしまうのではないかと思うと、あり得ないとは言い切れない。
 いまでさえ揺れている自分を自覚する。真央と暮らして自分の子供になってしまうと離れられなくなっていく。
 祐紀子はそれが怖かった。そのとき野中が、真央のパパから素敵な男性に変化してしまいそうだから。

「真央、泳ぐぅ!」
「今日はダメよ、もう遅いから明日きっとね」
「えー、ダメなのぉ?」
「ダーメ。明日にしましょ、いい子なんでしょ、今日は帰ろ」
「はーい」
 水着はクルマの中のバッグにあったが、パラソルもマットなんかも、これからどこかで揃えるつもり。
 真央はサンダルを脱いでしまい、波打ち際できゃっきゃとはしゃぐ。そして琢也がカラカラ笑って抱いている。
 祐紀子はふとつぶやいた。
「お姉ちゃん残酷だよ。あたしもうメロメロだわ。どうしてくれるの」

 しかしそのとき、琢也と真央のすぐそばに透き通った佐紀子がいることは、琢也にしか見えていない。

「なんでビキニ?」
『海だもーん』
「あーあ。いちいち着替えて出てくるか?」
『何ですと? シャンと言ってみ?』
「はいはい、何でもありませんよーダ」
『あたしって、ボンキュッボンじゃろ?』
「知るかっ!」

 テレパシーの会話である。

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