快感小説

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妻は幽霊(十九話)

十九話


 姉の娘を連れて夫の実家ですごした二泊。
 祐紀子は、ことさら琢也の妻でいようと意識する自分の心の変化に戸惑っていた。夫と二人でいるときはあたりまえのように妻であって変わるところは何もない。なのに夫の家族がいるだけで意識して琢也の妻であろうとする。
 それは真央にとってのママがそのまま琢也の妻でないことを意味していた。真央のママの後ろには野中がいるということだし、誰かにそう思われるのが不純な気して、意識して琢也の妻でありたいと考える。  私の中で何かが変化しだしている。目をそむけてはいられない現実を突きつけられたようだった。
 もちろん、だからと言って野中を意識しているわけではない。違うと言い切れる自信はあるのだが、真央が間に入ると心が乱れてしまうのだった。

 妻と母の違いを祐紀子ははじめて感じていた。琢也との関係が真央を中心に動き出したとたん、ことさら琢也の妻を意する。琢也との間の娘ならこんなことは考えない。妻と母がイコールで結ばれて、そばに誰がいようが心は定まって動かないはず。揺れる心を見透かされるのが嫌で琢也の妻を演じてしまうのかもしれなかった。
 佐紀子から祐紀子へ名札を付け替えただけの生き写しの真央のママ。真央にすれば祐紀子の胸には佐紀子の名札が付いている。それがすべての問題だった。
 たった二日がこんなに苦しいとは思わなかった。駅まで送ってもらって別れたとたん、いつも通りの素直な自分に戻れている。

「ちょっと疲れちゃった」
「わかるよ。いまはじまったばかりだからね。でも俺は…」
 新幹線が動き出し、流れていく浜松に目をやりながら口ごもる夫の横顔を祐紀子は見つめていた。
「うん? なあに?」
「真央ちゃんが笑えるならいいと思うよ。ヘンに気をまわすなって」
 そう言って膝に手を置いてくれる夫を見ていて、惚れなおすというのか、弱そうな夫の中にある男の芯を感じてならない祐紀子だった。
 真央は遊び疲れて祐紀子の膝で眠っていた。ほっぺも鼻の頭も陽焼けで赤くなっていて愛らしい。
 幼子のサラサラした髪を撫でつけながら祐紀子は言った。
「満足したかな真央?」
「してるさ。大好きなママと一緒に遊べたんだ。ふふふ、可愛いよな」
 寝ている真央の背をそっとそっと撫でてやる夫。

「ねえ琢」
「うん?」
「強いね」

 琢也は鼻で笑って微笑むだけ。夫の強さを見せつけられたようでもあり、それだけに、ここしばらく彼はどれほど肩身の狭い思いをしてきたんだろうと考える。
 私に対してより江戸屋の家族に対して。周囲の街の人たちに対しても。夫婦のスタンスとは、他人の目が決めるものかもしれないと、このとき祐紀子は考えていた。
「いまごろ母さんたち」
「そうだね、そっちはそっちで蔵さんとの間合いをつくっているだろう」
 祐紀子はハッとしたように琢也の横顔を見て言った。
「間合いか…」
「そうだよ、どっちもこっちも最高のタイミングさ」
「江戸屋?」
「それもある。真央ちゃんだって新しい環境に入っていけるし、お義母さんだって蔵さんとのこと考えるゆとりができるだろ。野中さんには感謝だな。借金ができれば苦しいだろうけど、お店のことも心配しなくてよくなった。頑張って早く一人前になって俺がやらなきゃ」
「焦らないでね」
「わかってる。焦ったってどうにもならない。一日一日を重ねていくしかないんだよ。祐紀ちゃんは祐紀ちゃんで江戸屋ができるまでの間は特に真央ちゃんのママでいてやってくれ」

 ああ大きいと祐紀子は思った。
「ありがとう。そろそろ私も子供が欲しいな」
 琢也は微笑んで目を閉じた。
「ぅ…ママぁ」
 また寝言。琢也はちょっと目を開けて、小さな娘の背を撫でた。

 川向こうの仮住まいに戻ったとき、時刻は午後四時前。節香と蔵之介は、戻った気配はあるのに二人ともいなかった。
 ここは古い家でも江戸屋よりは新しく、店舗が基本の建物ではないから住みやすかった。仮住まいとは思えない。ずっとここにいたような気さえする。
 戻ってすぐ、祐紀子は二階の部屋でパソコンに向かった。あちこちで撮ってきた真央の写真を野中に送る。そのときも真央はおとなしくママのそばにお座りして、にこにこ笑ってママを見ていた。
「はい、おしまい、パパ喜ぶわよー」
「うんっ、おもしろかったもんっ」
「あのね真央、これからもしばらくお店ないから、ママとプール行こう。泳げるようになってパパをびっくりさせてやろうね」
「うんっ、プール行くぅ!」
 両手をひろげて飛び込んでくる真央。こうなってはどうしようもない。この子の母は私しかいないと思うほど、もう一人の夫の存在が否定できなくなっていく。

 こうして写真を送り、受け取った野中が目を細めて微笑む顔を想像するだけで無条件にパパのことが好きになる。
 否定することをやめようと祐紀子は思った。野中に対するときの私は佐紀子。祐紀子として琢也に向かう。そうするのが自然だと思うのだ。
 そんなとき祐紀子の携帯が鳴りだした。
「ちょっと母さん、どこにいるのよ? いっぺん戻ったんでしょ?」
『蔵さんのアパートよ、いろいろ整理することがあってね』
「あ、そうなんだ? どうだった温泉? 楽しめた?」
『うんうん、それはもう楽しかったわ。蔵さんも言ってたけど若返ったようだった。あ、それでね、そんなことはいいんだけど今夜よ、どっかでご飯食べよ。蔵さんがそうしろって言うから』
「蔵さんが? 何でよ? 何か考えてるでしょ?」
『ちょっとねー、ふふふ、いいからいいから。また後で電話する。六時頃からだから出る用意しといてちょうだい』
 声が弾んでいると祐紀子は思った。行ったこともない蔵之介のアパートを整理しているということは…。

 そのとき階段を上がってくる気配がして祐紀子は声を大きくした。
「ねえ琢ちゃん」
 ドアを開けたままにしてあった戸口をくぐりながら琢也が眉を上げる。
「電話してた?」
「母さんよ、蔵さんのアパートで何やらしてるって」
「ふふふ、エッチ」
「ばーかコノぉ! あははは、そういうことじゃないでしょ。夕飯外で食べようって。六時ぐらいに出る支度しときなさいって」
「あっそ。さては話でもあるかな?」
「決まってるじゃない。母さん明るかったよ」

 夫婦の部屋はドアだったが入ると和室。妙な部屋だ。琢也は畳に座布団を二枚並べて寝転がる。
 そんな琢也を真央は見ていて、手をひろげてやるときゃっきゃとはしゃいで胸に飛び乗る。琢也は、まるでパパのように真央を抱いて遊んでいた。腋腹をくすぐってやると、きゃーきゃー暴れて笑う真央。
 そんな二人に呆れながら祐紀子は言う。
「温泉楽しかったって。若返ったようだって笑ってた」
「そかそか、よかった。あっコラ、この性悪娘め!」
 くすぐった仕返しに頬を叩かれ、二人がもつれ合っている。

「じゃぁちょっと真央にシャワーさせちゃう。おいで真央、ママとお風呂よ」
「はぁーい!」
 そして琢也から離れ際に琢也の尻を蹴っ飛ばす。
「べーダ! ふんっ!」
「あークソ、ムカつくガキめ。盛り猫みたいな娘だな」
 足下に飛び込んで来て笑う真央を抱きながら祐紀子は言う。
「何で盛り猫?」
「まぁーおぉーっ、てな」
「ちぇっ、馬鹿なんだからもうっ…ほっといて行きましょ真央」
「あ、じゃ俺ちょっと店見てくる」
「行く? それはいいけど早く戻ってね」

 琢也は一緒に立って家を出た。言問橋のこちらと向こう。歩いて十五分ほどの距離だった。
 歩き出してすぐ、逆向きの景色が新鮮だと琢也は思う。都会は一本道が違うだけで景色が変わるし、いつもなら川向こうから望むスカイツリーが背中にあるだけでも気分が変わる。
 橋を越えた少し先の路地を左に折れると江戸屋の通り。わずか数日のことなのに、子供の頃に遊んだ街のように懐かしい。

 江戸屋があったはずの場所に歯が抜けたような穴が空いてしまっていた。店の影も形もない。こんなに狭かったっけと思うほど更地に戻されたその場所はちっぽけな空き地だった。
 あちこちにポールが立てられてあり、作業服の若者たちが地面を整える作業をしている。これから基礎が打たれ、そのコンクリートが固まると一気に新しい江戸屋が建ち上がる。

「あら若旦那じゃない」
 田崎のおばちゃん。偶然通りがったようだった。
「あ、はい。ちょっと見に来たんですけど何もなくなっちゃいましたね」
「ほんとよ。寂しいなってここらの人と話してたところだわ。頑張りなよ琢ちゃん。あんなチンケなジジイにできるんだから、きっとできるよ」
「はははっ、チンケなジジイね、こりゃ可笑しい」
「それと、あの子。ほら」
「真央ちゃん?」
「そうそう、佐紀ちゃん祐紀ちゃんが小さかった頃そっくりで評判なんだから。可愛い子よねー」
「ええ可愛いですね。じつは僕のほうの実家に帰ってきたところなんですよ。向こうの海で遊ばせて来ました」
「向こうの海って?」
「浜松です」
「あらそ? 浜松? そうだっけ?」
「そうすよ僕は向こうだから」
「ご実家に真央ちゃんを?」
「ウチの親も可愛いって言ってました」
 いかんいかんと思いながら喋っていた。この人に話した瞬間、街にひろまる。

 それにしても探るような視線を感じる。真央のことが話題になっているんだろうと察していた。
「真央ちゃんて確かプロ野球の?」
「そうすよ、あの野中崇のお嬢さんです。試合の関係もあってどうしてもってことでウチの奴が」
「うんうん、そうよね、独りぽっちになっちゃうもんね」
「そうなんですよ。佐紀ちゃんのためにも、あの子だけは泣かせたくありませんから」
「えらいねぇ琢ちゃんは」
「いえいえ、えらいのはウチの奴です、頭が下がる」
「ううむ、ますますえらいっ! 気に入ったよ!」
 琢也の背中をひっぱたき、街の放送局が去っていく。

 もうすぐここに新しい江戸屋ができる。琢也は更地にされても留まるような江戸屋の歴史を感じながら背を向けた。
 裏を抜けて川まで戻り、見慣れた景色の中にあるスカイツリーを見渡した。落陽にはまだ間があって、けれども真昼ほどは太陽を感じない。
 いつものベンチに座ったとき、透き通る妻が腕を取って寄り添ってきた。

「また出た」
『すまんのー』
「ちぇっ。お化けのイメージ変わるよなー。ビキニで海に出てくるし」
『スタイルいいでしょ、うふふっ』
「はいはい、わかったわかった」
『ありがとね、あの子楽しそうにしてたもん』
「ほんとだよ。真央ちゃんもだけど祐紀ちゃんが楽しそうで。プールで泳ぎを教えるんだって張り切ってるし」
『わかってるよ取り憑いてるんだから、RはLさ』
「Lねぇ。そう言えば京子さんにもこれからやってもらわないと。いままでみたいに昼だけじゃなくいてくれないと忙しくなるからね。真央ちゃんも保育所か幼稚園だし、そうなると祐紀ちゃんには送り迎えもあるだろうし…」
 頬にキスされたような微妙な感覚がして隣りを見ると、いつの間にか佐紀子は消えてしまっている。

「あ、クソっ、都合のいいお化けだよ」
『話がつまらんのだよ、おまえさんは。せっかくいいムードなのに』
 声だけが聞こえた。
「ちぇっ…これだもん、やってらんね」
 一瞬にして野中のもとへ飛んで行ってしまったのかと、ふと考え、可笑しくなってベンチを立った琢也だった。

 死んだ後の世界がある。それが実感できただけに生き方を変えてよかったと琢也は思った。江戸屋には先々代からの魂が宿っている。受け継ぐのは俺しかないと思うだけで奮い立つ。
 さっき家に戻ったとき、江戸屋から引き上げた麺打ち道具が整理されて置かれてあった。新築なるまで時間がある。まずはうどん。
 琢也は震えるほど高鳴る想いを抱いていた。

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