快感小説

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妻は幽霊(二一話)

二一話


 翌朝からさっそく甘えの許されない蕎麦屋の修行がはじまった。
 琢也は舌もよく勘のいいほうだったが、いかんせん調理経験がなさすぎた。節香といい関係になれたからといって蔵之介はいきなり同居するわけではなかった。いますぐ仮住まいに荷物を移してもしかたがない。泊まることはあっても新しい江戸屋ができるまではアパートに暮らしている。
 朝は店に出るそのままの時刻、八時前にはやってきて、まず朝食。そんな賄い料理をつくることも琢也にとっては修行なのである。

 起きてすぐ作務衣に着替え、店にいるつもりで身を正す。プロの厨房ではないダイニングキッチンに置かれたテーブルを調理台代わりにして、ちょっとした包丁の使い方から節香に教えられ、そんな姿を妻の祐紀子がそばで見ている。
 包丁と一言で言っても洋包丁から和包丁まで大小さまざま。キュウリ一本切るにしても、節香は店で出すつもりでやらせ、手取り足取り教えている。ダメならやり直し。たかが裏方の朝食でさえそれなのだから、師匠と見定めた蔵之介が来るとさらに空気はぴんとする。

 朝食を済ませると蔵之介も作務衣に着替えて職人姿。和帽子に前掛け。さすがに家の中で高下駄ではなかったが、店にいるときそのままの張り詰めた空気が満ちる。
 まずはうどんから。徹底してうどんから蔵之介は教えていくつもりでいた。
 水回しに使う塩水ひとつを作るにしても蔵之介は計量を許さない。目分量の湯に海で採れた本塩を溶かしていき、舌で塩加減を覚えさせる。ダメなら捨てられ、またイチからやり直し。

 コネ鉢に中力粉を一、五キロふるいにかけ、やっとできた塩水を打って手早く混ぜて、コネに入る。
「手が荒い、それじゃうどん粉をつぶしてるだけだ。穏やかに深く揉み込んでやれ」
「はいっ」
 琢也は真剣そのもの。傍で見ている祐紀子が辛くなるほど蔵之介は厳しかった。
「そうだ、それでいい。そろそろまとめろ、踏むぞ」
「はいっ」
 床に踏み板を敷き、打粉の片栗粉を薄く敷いてうどん玉を置き、分厚いビニルをかぶせて踏んでいく。
「足の裏でベタベタ踏むな。踵と足刀を意識するんだ。まんべんなく、静かに深く踏んでいく」
「はいっ」

 またたく間に琢也は汗だく。祐紀子も節香も息を詰めて見つめている。
 踏みが終わると、ふたたびコネ鉢に戻して菊揉みと言われる工程がある。空気を抜ききってうどん玉をシメ、丸くカタチを整えて二時間寝かせる。やっとひとつできたと思うと、塩水づくりからふたたび次の玉に取りかかる。
 塩水の加減がまたしてもダメ。塩や湯を足して整えるのでなく、定量の湯に対してイッパツで塩加減を決めさせる。ダメなら捨てられ最初から。
「今度はしょっぺぇ、やり直せ。いいか、塩や湯やと継ぎ足し継ぎ足しするんじゃねえぞ。目安の塩を溶かしてやって味をみて、最後に仕上げるつもりで塩の一振りで決め込むんだ。料理はすべて塩が基本よ。迷ってやがるとまあいいかで終わっちまう。俺の味はコレだって決め込みがねえといつまで経っても自信が持てねえ」
「はいっ」
 八時すぎからかかり、次々に三玉、四玉。あっという間に時間がすぎて十時になる。
「母さんあたし真央をプールへ」
「あいよ、行っといで」
 祐紀子は後ろ髪を引かれる思いで真央をプールへ連れ出した。ほんとだったら私だって覚えることはたくさんあると思うのだが・・。

 次々にうどん玉をこしらえては寝かせ、その間に天ぷら粉の解き方を習う。材料はレンコン、かぼちゃ、インゲンで野菜ばかりだったが、天ぷら鍋を前にやったこともない揚げと格闘する。
「このかぼちゃをエビだと思え。こうして衣をさっとくぐらせて、そっと浮かせるように油へ入れる。やってみろ」
「はいっ」
「おおそうだ、それでいい。エビは胴が太くて尻尾が細い。胴をわずかに先に油に入れて、頃合いを見て尻尾まで入れてやる。ふわっと浮いて油がたぎるから、そしたら箸の先でこうやって衣をすくって足してやるのよ。それでこそサクっとした食感が生まれる。わかったな、やってみろ」
「はいっ」

 節香は傍で見ていて、この子は勘がいいと感じていた。蔵之介のやることをしっかり見ていてポイントを見極める目が確かだ。店ができるまで一月ちょっと時間がある。この調子なら大丈夫だと思い、浮き立つ想いを抑えられない。新しくなった江戸屋を若夫婦が切り盛りする姿が目に浮かぶ。

「おお、そうだ、いっちょまえの天ぷらだぜ、覚えておけ」
「はいっ親方」
「うむ。ほれほれ、ぼーっとせずに天カスをすくえ。天カスはたぬきに使う。焦がすとしまいだ、浮いたらもういい、すくえ」
「はいっ」
 楽しい。生き甲斐を見つけたような思いがして琢也は心が弾んでいた。ちょっとずつ確実にできるようになってやる。お客に美味いと言わせてやりたい。

 ところが。寝かせておいたうどん玉をノシに入り、いよいよ麺打ちの難しさを思い知る。丸い玉がどうして四角くのびるのかがわからない。
「あ、てめえ! いきなり玉をつぶす奴があるか! うどん玉の肩を慣らすつもりで肩からノシていくのよ。いいか見てろ」
「はいっ」
 親方の手元にへばりつくように麺棒の使い方に目を凝らす。
「こうやってだな、いきなり麺棒を寝かさずに肩からノスようにしてやるのさ。麺棒の角度を変えず、うどん玉を回すようにしてやりゃいい」
「はいっ」
「そうすると、こうやって甘食みてえになるだろが」
「甘食? はい?」
「コラてめえ! 蕎麦屋は甘食ぐれえ知っとくもんだ。これだから若造は腹が立つ。あのほれ、ブラジャーのパットみてえな菓子だよ」

「あぁもうっ、何ちゅう教え方するかね、このスケベ爺ぃ! あっはっはっ」
 節香がケラケラ笑い、琢也もほくそ笑んで蔵之介をうかがった。

 丸かったうどん玉がどんどん四角く薄くなり、見る間に均一にのばされていく。凄いと思う。
「ほれ、やってみろ」
「はいっ。…うぷぷっ」
「あ、てめえ! 笑ってやがると隅田川ぶっこむぞコラぁ!」
 とは言いつつ、蔵之介は節香と顔を見合わせて笑っている。

 どうにかのびた。しかしそこでまた難しい『切り』が待っている。
 薄くなった麺生地を綺麗にたたみ、駒板を当てて麺切り包丁を入れていく。
「肘から下ですっと押して一気にいく。つぶさず切るんだ、いいな」
「はいっ」
「駒板は力んで押し付けると滑らねえぞ。ゆっくりでいいから幅を揃えて切っていけ」
 蔵之介の手元は見事。スッスッと同じ幅で見る間に麺になっていく。琢也のそれは、幅はバラバラ、駒板が曲がり包丁が傾くから細い方と太い方ができてしまう。

「この野郎、またスイトンつくってやがる。とっても売りもんにゃならねえなぁ。川へ持ってって魚の餌だぜ、釣りでもやるか。あっはっは!」
 琢也は声も出せない。顔を真っ赤にして麺切りに挑んでいる。
「むずかしいです」
「あたりめえよ、蕎麦はもっとだぜ。麺てぇのはな、打ち、ノバシ、切りとあるが、最初はなおさら切りで苦しむ。麺切りだけは場数よ、パンでもいいから暇さえあったら稽古しろ」

 蔵之介が一休みに座り込むと、入れ替わりに節香が琢也の背中にそっと手を置く。
「蔵さんの言う通りだよ、やることなすことみんな修行なんだから焦らずやりな。三年やってやっとこさ。いっぱしになるなんて、その先まだまだかかるんだから」
「はい女将さん、頑張りますから」
「うん、ほんといい婿さんだよ、シャンとしな」
 息子の背を撫でるように節香は寄り添い、しかし手元のうどんを見て笑い転げた。
「ねえ蔵さん」
「おいよ?」
「スイトン屋はじめてみる? あっはっはっ! 琢ちゃんさー、いくら何でもそれはひどいよ」
「違いねえ、ワカメじゃあるめえし。ふっふっふ」
 蔵之介も節香も、若い弟子に眩しいものを感じていた。老夫婦の作品をこの世に残すつもりで育ててやりたい。二人とも考えることは一緒だった。

 ひとつかみの蔵之介の麺は見事にうどん。それにくらべて琢也の麺はグズグズだった。
「お婆ちゃーん、真央、泳げたよー」
 プールでさらに陽焼けした真央と祐紀子が帰ってくる。ふと気づくと時刻は昼の二時をすぎていた。プールに出たのが十時だから、四時間があっという間に飛んでいる。
 節香が孫の頭を撫でてしゃがみ込む。
「真央ちゃん、お昼は?」
「ううん、まだぁ、おなか空いたぁ!」
「ありゃま、そりゃいけない、すぐ支度しなくっちゃ」
 戻ってお兄ちゃんのうどんにしようと何も食べずにいたらしい。
 節香が言う。
「じゃあ若旦那特製の天ぷらスイトンにするかねー、あっはっは!」

 蔵之介と節香がほくそ笑み、一人だけしょんぼりしている琢也。
 しかしできた麺を一目見て、祐紀子は嬉しくてならなかった。幅はバラバラでも厚さがだいたい揃っている。それだけでも上達したと思うのだ。
 レンコン、かぼちゃ、インゲンと野菜の天ぷらがついたザルうどん。麺そのものはまずくはなかった。
「わぁぁ美味しいっ!」
 真央が思わず声を上げた。琢也が真央を覗いて言う。
「ほんとか? 美味いか?」
「うんっ、冷たぁいもんっ」
 そのとき蔵之介が鼻で笑った。
「まあな、プールの後だから冷えてりゃ美味めぇや、あっはっはっ」

 はじめて打ったあのときより、はるかにちゃんとしていてまずくはないと琢也は思う。茹で上げても麺がふやけずツルっとした喉越しもある。しかし不揃いな麺では茹で上げに時間差が生まれてしまい、細いところは柔らかく、太いところは芯が残って固くなる。
 琢也は自分の麺を見つめながら食べていた。そしてそんな夫の真剣な面色を祐紀子は見つめ、『はじめてでこれだけできりゃ上等だよ』とでも言うように目を細めてうなずく母と視線を合わせていたのだった。
「さて若旦那よ、喰ったらはじめるぜ」
「はいっ親方」
 目を輝かせて立ち上がる琢也。夫ならきっとできる。妻は嬉しい。

 一日が飛ぶように消えていき、夕食も済ませた後。
 節香と蔵之介は夫婦らしく、ひとつ部屋でテレビを見ていて、祐紀子は二階で真央と遊ぶ。時刻は八時半になっていた。作務衣から着替えた琢也だったが、一人だけキッチンに立っていた。食パンに駒板を当てて麺切り包丁で切っている。どうしてもまっすぐ切れない。古くなった固いパンならともかくも、思い立って買ってきたコンビニの食パンは柔らかく、少しでもつぶす力が加わるとパンがひしゃげて切り口がぺしゃんこになってしまう。
「まだやってる?」
 パジャマ姿の祐紀子だった。陽焼けして鼻の頭が赤くなっている。

「どうしてもうまくいかなくてさ」
「しょうがないしょうがない、蔵さんなんて五十年やってるのよ」
「まあな。真央ちゃんは?」
「寝ちゃった。お布団の上で遊ばせてたらキューだもん。プールで疲れたんでしょ」
「泳げた?」
「少しね。姉さんゆずりで運動神経いいわ。あれならすぐ覚える」
 祐紀子は、ダイニングテーブルから少し離してあった椅子に腰掛けて、細く切られたパンを見ていた。
「それ揚げてお砂糖まぶせばお菓子になるわよ。真央が喜びそう」
「うむ。しかしアレだな、小麦粉もパンももったいないっちゃもったいないな。そんなにうどんばっかし喰えないしさ」
「それだって明日のためよ、焦らないで」
「ああ、わか…ってるさ」
 わかってると言いかけたとき、座る祐紀子から、まるで同じ輪郭の透き通る佐紀子が抜け出して、妹の隣りの椅子に座っている。

 佐紀子はパジャマ姿で穏やかに微笑んでいた。
 お化けでも寝るのだろうか。
『頑張るねー、いい子いい子』
「ちぇっ、また出た」
『今夜はね、真央とも泳いだし気分がいいのよ』
「もう泳げるみたいじゃん?」
『あたしの娘よ、当然でしょ。そのうちビキニだって似合うようになりますからねー。ボンキュッボンだわ』
「はいはい、俺はその頃おっさんだ」
『だよねー、おっさん蕎麦屋に落ちぶれてら。でもユッキーだっておばはんになってるし、あたしだけがいまのまま』
「なるほど。お化けは死んだ歳のまま固定?」
『そよ。永遠に三十歳。そのうち抱いてあげるから。うひひひ』
 パンを切りながらテレパシー。気を取られてパンがますますヘンなことになっていく。

『試合見に行くんでしょ?』
「行くよ。野中さん会いたいだろうなって思ってさ」
『泣いてるもん』
「え?」
『パパなのよ。独りになって泣いてるわ、会わせてあげて』
「わかった、もちろんさ。俺も行くし、楽しんで来るから」
『そこは言わなくてもわかってるって。あたしだって一緒だし』
「そっか。彼のところへも出てやればいいのに」
『それはダメ。死人は忘れてもらわないと彼が可哀想だからね』

 佐紀子に気を取られていて、ふと見ると、祐紀子がうつらうつら眠ってしまっている。今日はもういい、やめようと琢也は思った。
「祐紀ちゃん」
「ぅっ。はぁぁ寝ちゃったみたい?」
「寝てた寝てた。今日はやめた、そろそろ寝よう」

『あれま? 夫婦生活はじめるわけね? うひひひ、じゃねー!』
「むむむ、コノぉ、消えろお化け」
 佐紀子がパチッとウインクして、輪郭を重ねるように祐紀子の中へと消えていった。

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