快感小説

妻は幽霊(二四話)

二四話


 部屋はツインルーム。せっかく眠らせたまま抱いて入ったのにベッドに寝かせてパジャマに着替えさせようとしたとき真央は目を覚ましてしまう。
「ぅむ…真央ねぇ…ンふ」
 寝ぼけている。とろとろとした眸で部屋を見回し、パパがいなくなっていることも意識にないような感じだった。

「あら起きちゃった?」
「ぅん」
「頭洗うの明日でいいからママと汗だけ流しちゃう? お風呂する?」
「ぅん」
 気の抜けた返事はするのだが声に抑揚がなく、夢の中で喋っているようだ。
「先にシャワーさせちゃうから、ちょっと待ってて」
「ああ、わかった、いいよ」
 琢也は、次に自分がシャワーするつもりでブリーフだけの姿でベッドに寝そべったが、喉が渇き、起き出して冷蔵庫からよく冷えたミネラルウオーターを取り出した。はじめて見る野球でちょっと疲れていたのだが眠いというほどでもない。コップに水を入れてベッドサイドのテーブルに置いて座り、それからまた何となく横になる。

「はいはい、いいわよ行きなさい、ちゃんとパジャマ着るのよ」
「はぁい」
 バスルームから真っ裸の真央がちょこちょこ出てきて、隣りのベッドによじ登り、そのままうつ伏せに倒れてしまう。さっぱりして気持ちがよく、パジャマも着ずに動かなくなる。
 大人が身支度をするわずかな時間差で祐紀子が出てくる。
「あらら、裸のまま寝ちゃったよ」
「ふっふっふ、まさにバタンキュだ。疲れたんだろ。下手にいじるとまた起きちゃうよ。だけど野球って面白いもんだな」
「そうね、ファームだから頑張れって気持ちにもなれるし、そういうこともあるんじゃないの。一軍と違って構えなくていいと言うのか」
 下着を着けてパジャマを着ていく祐紀子の姿を、琢也は視野の端に入れながらぼんやり天井を見つめていた。

「行くの来週?」
「行くよ」
 祐紀子はちょっと意外だった。あの場でも、相談もせず決めてしまった夫に、いままで知らなかった琢也を見た気分がする。
「あたし見直しちゃったわ琢のこと。嬉しかったもん」
「とんでもないよ。俺たちのそばにいる真央の向こうに凄い世界があるんだなって思ったさ。あのファンの声聞いただろ。現役復帰って叫んでた」
「ほんとね、慕われてる」
「スーパースターなんだよ、いまでも彼は。プロ野球なんて、小さな真央がいてくれなければ俺のそばにはやってこなかった世界だからな。さて、じゃあシャワーするか」
「うん、さっぱりして。でもどうしようね真央、爆睡だわ。裸のまま寝かせる?」
「いいじゃん、俺たちにとっても娘だよ」
 言い残して歩む夫の姿に、祐紀子はますます別人の琢也を感じるのだった。

 琢也はじつは強かった。けれどそれは琢也のことを見抜けていなかっただけじゃないのか。祐紀子はちょっと反省していた。身長が一緒だし、心のどこかに見くびるところがあったのではと…。
「ぅぅむぅ…パパぁ」
 ドキリとした。寝言。丸裸でうつ伏せになったまま、幼い娘は両手で枕の縁をつかんでいる。この子にはママも必要だけどパパもいてくれないと困ると祐紀子は感じた。
 夫のコップに水を注いで一気に飲んで、妻は夫のベッドに横たわって虚空を眺めた。球場で周囲につられて叫びすぎて喉がおかしい。
 しばらくして琢也が、真央を真似るように丸裸で出てきて、そのまま妻の横に滑り込んだのだが、そのとき琢也は、裸の真央が透き通る佐紀子に添い寝されていることにちょっと微笑む。

「ねぇ琢ぅ」
「うむ」
 いいムードなのだが、佐紀子に見られていると思うとどうにも気乗りしなくなる。しかし今夜は妻の方から求めてきた。妻の肩越しにおそるおそる眸をやると佐紀子は消えてくれている。
 と思ったのだが。
『あたしらまとめて抱いとくれ。うひひひ!』

 祐紀子の白い体の輪郭が少しズレた多重露出のようにダブって見える。琢也は恐いと思わなくなっていた。妻には佐紀子が重なっている。娘とパパに想いを残す切ないまでの佐紀子に対して愛情を覚えていくのだった。
『これって、いわゆるダブル不倫? この浮気者』
「どうしてそういうこと言うかね、このお化け」
『お化け言うなっ。ふふふ、好きよ琢」
「俺も」
『ふむふむ、よろしい、それでいいのだ、さあお抱き』
「ちぇっ…あーあ、どうしてこうなるかねぇ。俺がいったい何したってんだよ」
 テレパシーの会話にリアルな祐紀子の甘い吐息がまつわりついた。

 ベッドの揺れが静まって、妻を右に腕枕してやって寝ようとすると、いつの間にか川の字に、左に透き通った佐紀子が添い寝する。こちらも全裸。
「うわっ、びっくりした…何で抜け出るかなぁ…」
『両手にニョタイ。くくくっ』
「片手にお化けだよ」
『あははは、うまい! それ言えるっ!』
「おやすみ佐紀ちゃん」
『うん、おやすみなさい。抱いててあげるね』
「ほら、真央ちゃん見ろよ、よく寝てる」
『ぐっすりだわ。パパの夢でも見てるでしょ』
「でもさ」
『うん?』
「お化けなのに、どうして着替えたり脱いだりするかね」
『…寝る』
 琢也はリアルな妻をそっと抱き、透き通った妻をそっと抱き寄せて目を閉じた。

 その翌日は日曜日。海へと向かう人たちで対向の電車が満員なのを横目に、逆向き。昼すぎには家に帰り着いていた。
 夏休みに入った週末はどこへ行っても人だらけ。真央をプールに連れて行こうにもイモ洗い水槽になることはみえみえだった。
 三人が戻ってほどなく京子がふらりと訪ねてきた。買い物ついでに取り壊された江戸屋を見てきたという。更地だったところに基礎が打たれてロープが張り巡らされていたらしい。夏の工事はコンクリートが固まるのが早く、基礎さえできれば一気に建ち上がっていくだろう。

 京子は明るい栗毛に染めた髪を無造作に上げてピン留めしている。普段着のショートパンツにプリントTシャツ、しかもすっぴん。誰が見てもこのへんの主婦だった。歳は祐紀子より一つ上で、もうすぐ三十一になる。子供がいるのに生活感がなく、京子もまた美しかった。

 そんな京子を久しぶりに見て、祐紀子は不思議な想いにとらわれていた。夫に対してまんざらでもない。同性の勘というのか、はっきり言って狙っていると感じていたし、本音のところでいい気分はしなかったのだが、どういうわけか気にならなくなっている。姉の友だちでもあるし仕事は真面目にやってくれて料理をさせたらとても勝てない。新しい江戸屋に必要な人だと思っていたし、何より夫にやさしくしてくれることが好ましい。

 この変化は何だろうと祐紀子は思う。

 それと節香も。蔵之介が泊まるようになってくれて身の置き場が定まったというのか、二人は穏やかないい関係になれている。
 羨むような夫婦の姿を自分の母親に見て、娘を想う野中に会い、そしてそれより自分の夫の男らしさに気づき、祐紀子の中にあった微妙なささくれのようなものがなくなっていたのかもしれなかった。
 京子に対して身構えていないというのか。琢也と仲よさそうに話していても気にならない。

「お店、あたしらも行ってみるかね。ねえ、おまえさん」

 おまえさん? 蔵之介に向かってあたりまえのように出た言葉に、祐紀子と京子は顔を見合わせた。そのとき琢也は、二階の部屋に入ったきり何をしているのやら。真央はお婆ちゃんの膝に抱かれてご機嫌だった。
 祐紀子が言った。
「真央連れて、そのへん歩いてくればいいじゃない」
「そだねぇ。真央ちゃん行く?」
「うんっ、行くぅ! あのねあのねっ」
「はいはい?」
「アイスが食べたいのぉ」
「けっ、そういうことかい、ちゃっかりしてるやがるぜ」
 蔵之介がほくそ笑んでそっぽを向くと、それもまた可笑しくて皆で笑った。

 京子がそろそろ帰ると言う。買い物がある。祐紀子がそれならと京子の背を押して立ち上がった。
「母さん、ちょっと一緒に買い物出てくるね」
「ああ行っといで。あたしらも出るから、そこまで一緒に行こ」
 そのとき階段を降りてくる足音がした。琢也は作務衣を着込んで白い和帽子と前掛けまでした姿。
 店の外で職人姿をする琢也を京子ははじめて見た。と言うか、江戸屋を取り壊してから会ってもいなかった。
「へええ、琢ちゃんカッコいいね、頑張ってるんだ?」
 蔵之介がチラと横目をなげた。
「やるのか?」
「はい、昨日さぼってますから。いま上で本読んでたらむずむずして
きて」
「そうかい。みんな出ちまうけど、まあ一人でもがいてろ。そういうことなら、おいらの晩飯、浅草イチの若旦那のうどんにするかな」
「えっえっ、そんな…」
 琢也は困る。京子が目を見開いて言った。
「琢ちゃん、うどん打てるようになったんだ? へええ、若旦那のうどんてどんなだろうねー?」
「夜また来る? 子供連れて食べにおいで」 と祐紀子が言ったとき、真央が拗ねた。

「ええー、またおうどんなのぅ、ヤだぁーっ」
 お婆ちゃんが笑って真央の頭を撫でながら言う。
「じゃあ真央ちゃんにはお婆ちゃんが美味しいものこさえてあげる。うどんばっかりで具合悪くなるといけないし」
 琢也が苦笑して真央を睨む素振りをすると、真央はくすくす笑ってお婆ちゃんの陰に隠れようとする。皆が笑った。すでに男をイジメて楽しむことを覚えている。佐紀子そっくり。
 京子が言った。
「でも今日ウチ、あの子がいないからちょうどういいのよ。お婆ちゃんたちと遊んで夕飯は外なんだ。あたしだけだから、浅草イチの若旦那のうどんでいいかなー。先に胃薬飲んでくるし。あははは」
「いいもん、ふんっ」
 爆笑だった。

 夕食がそれで決まった。プレッシャーだ。失敗できなくなってしまった。京子まで来るとなると、うどんだけというわけにはいかないから、他にも何か作らなければならないだろう。気楽な練習と、相手がいて出す料理の違いに琢也は武者震いする。
「さあ、どいつもこいつも出るぞー!」
 蔵之介が頭を掻きながら笑い、皆が一斉に動き出す。

 そのときだった。「お腹空かして来るからね」と言って、夫の肩をぽんとやる京子の面色に女のニュアンスが潜むことを、祐紀子は見透かしていた。
 なのに、それでも嫌な気分がしなかった。
 なぜなのかはわからないが、夫への私のスタンスが確かに変化しだしていると祐紀子は感じた。

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