快感小説

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妻は幽霊(三十話)

三十話


 今夜は大切なゲストがいる。それから新しくなった店の奥座敷に顔を揃えて夕食ということになるのだったが、真央はパパと出たときに外で食べさせてもらっていて、今日一日の保育園と、戻ってからパパと遊んだことでヘトヘト。皆が食べている横で座布団にしなだれ崩れて眠ってしまった。マリンカラーのキュロットスカートにヒマワリの花のTシャツを着せられ、長い髪をおさげにされた幼子は、横に座るパパの匂いを感じているのか安心しきって眠っていた。

「可愛いなぁ」 
 京子がやさしい面色で言った。野中はうなずき、慈愛に満ちた微笑みを愛娘に向ける。スタジアムで見る精悍なスポーツマンとはまるで違うやさしみに満ちたムード。祐紀子にとっても琢也にとってもパパの気持ちはよくわかる。
 若旦那のうどんを天ザルに仕立てて野中は食べた。
「これを琢也君が打ったなんて…ふうむ、まだ二月と経っていないはずなのに」
 節香が言った。
「お店をやりながらではとてもこうはいきませんよ。毎日、朝から晩までがむしゃらに取り組んだんだもん、褒めてやってくださいな」
 野中はうなずきながら言った。
「いやいや、それにしてもこれはちょっと他では喰えない。コシがあって美味い」
「けっ、ふっふっふ」
 蔵之介がほくそ笑んで言う。
「不揃いだからむしろいいのよ。太いの細いの粗削りでよ、コシがあるってぇか、固てえってぇのか、どっか田舎の素人うどんみてえなところが、逆にそこらの店じゃぁ喰えねえアジになってやがる」

 節香が言った。
「野中さんの育てた何とかって選手が一軍で活躍したって聞きましたけど」
 横から祐紀子が佐々木さんよと告げた。節香はうなずき、それから琢也に横目を流しながら言う。
「蕎麦屋で一軍を目指すんだって言うのよね。このうどんだってまだまだなのよ。蕎麦なんてはるか先の話だわ。だけどあたしは琢ちゃんが誇り。江戸屋の若旦那なんだもん」
 皆が静かにうなずいた。蔵之介だけが素知らぬ顔。
「さあ、お開きにしましょ。真央ちゃん起こすの可哀想な気がするけどしょうがないわね」
 お婆ちゃんに目を向けられて祐紀子が立った。このまま寝かせてやりたいところだが、汗を流してやらないとならなかった。

「真央、さ、真央ちゃん! 起きてママとお風呂よ!」

 あたりまえのようにママと言いながら、野中本人がいる前で祐紀子はちょっと胸が痛い。琢也もそうだし、京子の想いが気になった。真央をダシにして野中と琢也の両方の妻ヅラをしている。そんなふうに思っていないか、それが気になる。
 京子が帰る。
「じゃあ明日、よろしくお願いしますね、行きますから」
 野中が手を挙げて応えた。
「おう! 三塁側のチーム関係者のゲートで。話はしておくから入れてくれるよ」
「うんっ! わぁぁ楽しみぃ!」
 三十一にもなる京子が真央と同じような口調になる。明日は金曜。土日は夜まで店が忙しく、明日なら幾分早く出られるからだ。
 京子が帰って行って、祐紀子と真央が風呂。節香と琢也が厨房で片付けて、蔵之介は二階の部屋へと引き上げた。

 八畳の客間に布団を並べ、風呂上がりの真央を寝かせると、ママがそばにいることを確かめて、パパに背中を撫でられているうちに眠ってしまう。
「ふふふ、もうたまらない」
「うむ可愛い。祐紀ちゃんにあずかってもらってよかったよ。託児所も試したし球団スタッフにも面倒をかけたりしたけど、泣いて泣いてたいへんだった」
「それはそうでしょ、可哀想に」
 娘の気持ちを思い、見る間に涙の浮いてくる野中。愛のすべてが娘に向いていると祐紀子は感じ、そんなパパが誇らしくも思えてしまう。

 私が真央のママなんだとあらためて思い、愛する娘を私以上に想ってくれているパパの存在に心が動く。それはもうどうしようもない感情だった。
 二階の廊下を歩く気配がした。琢也だ。
「ちょっといいかな?」
「え?」
「祐紀ちゃんはここで真央といてくれ、琢也君と話したい」
「あ、ええ。いいわよ」
 野中はスーツ姿のままだったがジャケットは脱いでいる。
 客間を出て、空き部屋の六畳の隣りが夫婦の六畳で、そこは洋室。野中はそっとノックした。
 話の質などおおよそ察しがつく。祐紀子は眠ってしまった真央に添い寝をして、小さな体を幾度も幾度も撫でてやっていた。

「ちょっといいかな?」
「あー、はい、どうぞ。そんなあらたまって何ですか、入ってきてくれればいいのに」
 琢也は風呂上がりでパジャマを着ていた。
 部屋に入った野中は、カーペットを敷いた下にあぐらで座り、男同士で向き合った。
「祐紀ちゃんのことだけど」
 と、野中が言いにくそうに目を伏せると、琢也は微笑んでうなずいて先に声を出していた。
「ヘンに気を回さないでくださいね」
「ああ。そう言ってくれると気は楽だが…しかしな…」
 それきり野中は口を閉ざした。
「野中さん、僕はね、祐紀ちゃんにも言うんだけど、真央ちゃん中心でいいと思うんですよ。佐紀ちゃんの死をいくら言ったってわかる歳じゃない。野中さんといるときの祐紀ちゃんは佐紀ちゃんでいいと思ってます。アイツはもう真央のママなんですよ。いいじゃないですか旦那が二人いたって」

 野中は眉を上げて真顔で琢也を見つめた。思ってもみなかった言葉だった。
 琢也が言った。
「そんなことで家族が乱れることのほうがつまらない。僕にとっては祐紀ちゃんのまま、野中さんにとっては佐紀ちゃんのまま。親子で泊まるなんてあたりまえでしょ。一切気にしてませんから」
 理屈ではそうかもしれない。しかし野中もまた、祐紀子との距離がなくなっていくことに戸惑っていた。愛する娘のママは妻。どうしてもそう思えてならないし、それが真央にとっては自然なことだと考える。
 琢也が言う。
「佐紀ちゃんがね」
「あ、ええ?」
「夢枕に立つんですよ。真央のことお願いします、祐紀子を悪く思わないでって」

『なこと言ってねーべ! バラすなってば!』

 琢也はテレパシーの声に微笑みながら、野中に言う。
「僕の方こそいろいろ教えてもらって勉強になります。二軍の選手なんてはじめて見たし、一軍との違いも身を持って知ることができたし。あのとき佐々木さん、サードベースで拳を突き上げていたでしょう」
「そうでしたね。いまはまだ代打起用が多いけど、ときどきスタメンでも使ってみたいって監督も言ってますし。二軍で血反吐を吐いてきた奴だから嬉しくてね。ウチの奴とも仲がよかった」
 琢也はうなずいて言う。
「そのためにもですよ、真央ちゃんのことで気が散ってたら野球に集中できないでしょ。僕にとってはうどんがそうだし。だからね野中さん、お互いそう思うことにしましょうよ」
「佐紀だと?」
「そうです。ヘンに気を回されるとお婆ちゃんだって感じ取るだろうし、祐紀ちゃんが板挟みで可哀想じゃないですか」
 野中は何も言わずうなずいた。
「じゃあ今夜は」
「はい、家族なんすから、いつでも泊まりに来てやってくださいよ」

 琢也が下に座ったまま長身の野中が立つとスカイツリーを見上げる感じになってしまう。その身長は羨ましい。
「あ、そうだ野中さん、この店、近いうちに毎週休みができますからね」
「ほう? そういうことにしたんですか?」
「以前は不定期だったけど蔵さんも歳だし、のんびり行こうって女将さんが。僕だって身が持たない」
「うむ、だったらまた野球へもぜひ」
「こちらこそです」
 琢也が立って握手を交わし、野中は部屋を出て行った。
 手が大きくて握力が凄い。野中なら握りつぶす感じでうどんが打てそうだと思い、笑ってしまう。
 
『おい、コラっ』
「えっえっ? うわっ、怒ってるし…」

 透き通った佐紀子は、長い髪を逆立てて般若の形相。琢也を床に押し倒し、しかし一瞬にして微笑んで抱きすがる。
『好きよ、愛してるからね』
「あーあ…ひどいよなー、幽霊に怒ったフリされると縮み上がっちゃう」
『縮み上がるって、どこが?』
「ば、馬鹿コノぉ!」
『あははは、じゃねー、バイバーイ』
 何となく感触のあるキスをして、押し倒した体の上から、なぜかイチゴ模様のパジャマを着た幽霊がすーっと消えていなくなる。

 一人になった琢也は、しかし浅くため息をついていた。
 妻を奪われてしまいそう。怖くないと言えば嘘だった。相手は野中ではない。怖いのは真央。

 部屋に戻った野中。真央を風呂に入れたとき一緒にパジャマに着替えていた祐紀子は、きっちりたたんだ寝間着を野中に手渡した。
「お湯新しくしておきましたから」
「うむ、ありがとう。…いい男だ、震えるほどいい奴だ」
「琢也?」
「あの強さは羨ましい。じゃあお風呂にさせてもらうから」
 あのときホテルで、ほんの一瞬目撃した引き締まった男の裸身が脳裏をよぎる。それと右足の残酷な傷。勇者でありながらデリケートで脆い野中という男に、祐紀子は激しい母性の揺らぎを感じていた。
 私だけが佐紀子になれる。衝き上げてくる激情を懸命に抑えようとしている。私はもはや佐紀子なのでは? 姉の魂が乗り移った気がしてならない。

 取り憑かれていたのだったが…。

 風呂といってもサッと汗を流すだけ。男物の浴衣なのだが、長身すぎて丈が足らず、昭和初期の子供みたいになってしまう。膝から下が見えてしまうと、どうしても右足に目がいった。
「怪我って、チームメイトと衝突されたんでしたよね?」
「そうです。奴も必死、僕も必死、ボールを追いかけてフルダッシュでガツンですよ」
「相手の方は?」
「打ちどころがよかったのか、それほどでもなかったな」
「その方、いまでもチームに?」
 野中は悲しげに首を横に振り、そのことは話したくないと言った。
「ごめんなさい」
「いやいや、ぜんぜん。じゃあ僕も寝ますから。娘の横でつぶさないようにしないと」
「ふふふ、お布団でもダメ?」
「転がっちゃう」
 惹かれていく。琢也にはない引力を野中に感じる。

 私はどうしてしまったのだろう。姉の想いが私を衝き動かすのかもしれないと、何度も同じことを考える。
「じゃあ私は向こうで」
「ええ、もちろん。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
 部屋を出て、そこではじめて、ここはホテルじゃなかったと感じた祐紀子だった。

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