快感小説

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妻は幽霊(三三話)

三三話


 保育園のない日曜日。浮き立つ休日までが保育園では可哀想。このことが江戸屋と祐紀子の間に決定的な距離をつくっていく。
 真央はまだ三歳半。忙しさにかまけて独りにしておくわけにはいかないし、店が混んでくれば下にいられては気が気でない。真央にしたって家にいてもかまってもらえないではつまらないし、節香も祐紀子も家業のために幼子の気持ちが曲がってしまうのが怖かった。
 ママが突然星になり、あずかることになったからには親以上の愛情を注いでやりたい。

 祐紀子に対して、琢也を挟んでもやもやとした感情を持つ京子であっても可愛い真央は話は別。京子はやさしい女だったし、真央を見ていてたまらなくなる祐紀子の気持ちもよくわかる。
 江戸屋が新しくなって客数が増えていた。真央がいるというだけで、祐紀子はそれまでのような江戸屋の店員ではいられなくなっている。
 明日から京子の知り合いが来てくれることになっていた。今日を乗り切れば少しは楽になるのだったが、そういうときに限って夕刻からは満員が続き、真央を見ながらの仕事で祐紀子は疲れてしまう。真央はとりわけ活発な子だったし、いっときもじっとしていない。お婆ちゃんお爺ちゃんまでが常に気にして、京子や琢也までも巻き込んで、家族ぐるみ誰かがそばにいて相手をしている。平日の夜ならまだしも、これでは店がおろそかになりかねない。

「琢也ごめん」
「謝ることじゃないじゃんか、しょうがないさ」
 ろくに手伝えない祐紀子が、その分フル回転している夫に言うと、琢也は笑う。
「明日どっか連れてってやればいい。ずっと保育園で頑張ってるんだから」
「でも、それじゃあたしだけが…」
 琢也は気にするなと肩を叩いた。
「店と保育園の往復で、週末まで家にべったりじゃ可哀想だよ」
「うん…だけどそれにしたって…」
「明日から一人増えるから大丈夫。真央ちゃんを見ててやらないと佐紀ちゃんだって辛いぜ。明日ならまだ神宮じゃないか。野中さんに言えばチケット手配してくれるだろう」
 野中とは一昨日会ったばかり。そこまでするつもりはなかったが、それを言われると祐紀子はどうしようもなくなってしまう。小さな子が一人増えただけでこれほど影響があるものとは思わなかった。新しい江戸屋になってから忙しすぎる。店のルックスがよくなって美味しそうに見えるのかもしれなかった。猛暑が去って外を歩きやすくなったこともある。

 来週から水曜が定休日。加えて土日と祝日なのだが、水曜は夫と一緒にいられても週末は祐紀子だけ。店との距離がさらにできて、しかし野中との距離は近くなる。連れ出して遊ばせるにしても、それならパパに会わせてやりたい。野中の顔を見ることが多くなる。野球がシーズンオフになれば時間もできるし、パパママ真央の三人で出かけることもあるだろう。
 祐紀子は店との距離ができることにドキドキしていた。あくまで真央のパパだからと割りきった付き合い方はできそうにない。野中との接点は増えていくと想像していた。
 私はいつまで祐紀子のままでいられるのか。佐紀子になりたがる思いがふくらんでいると感じるから、琢也に対する心苦しさも増幅する。憑依する佐紀子が影響していたのだが、それは祐紀子の知らないことだった。

 店を閉めて琢也がヘバる。
「はぁぁ疲れた」
「忙しかったねー、もうバタバタ」
「だけど嬉しいよ、うどんが売れる。お客さんが美味しいって言ってくれる。ちょっと信じられない気がするけど」
「そうね。それについては母さんも言ってるよ、わずかな間に琢ちゃんは立派になったって」
 夫婦の部屋で甘い時間が持てていた。このところ妻の方から求めてしまう。そのことにしたって、せめてもという気持ちが動いていると祐紀子は自覚できていた。
 真央はすぐそばの布団でぐっすり。保育園で運動会の練習があり、戻ってからも遊びまくり。横になるとコテっ。

 妻の白い裸身に、透き通る妻の裸身が重なっている。
 透き通る妻は祐紀子を抜け出し、妻とお化けの二人に抱かれている感じになる。
 しかしそんな不思議な時間が持てるから琢也は寛容になれていた。真央を連れ出す祐紀子が、祐紀子なのか佐紀子なのか…おそらく両方。

『好きよ琢』
「うん、僕もさ」
『姉妹に手をだす不埒な夫め。両手に姉妹か? うひひひ』
「けーっ…あーあ、どうしてこうなるんだろ…」
 言われてみればそうかもしれない。心を分割するようにどちらをも愛している。愛してしまったと言うべきか。
 プラトニックな部分で佐紀子を想う気持ちが生まれた。男としてはとても勝てない野中の妻が、じつはいまそばにいて寄り添えている。琢也だけが知る秘密。つまらない優越感に満たされているのかもしれないと自覚する。
 左右に二人の妻を抱き、琢也はそっと目を閉じた。

 次の日、初出勤ということで京子と、京子のママ友だちの河原景子は十時前に姿を見せた。
 景子は、祐紀子より数センチ背の低い京子より、さらに数センチ小柄な、黒髪で品のある若妻だった。小学生の娘と息子が両方いる。一見しておとなしそうで感じがいい。
 急なことで作務衣がなかった。ブルージーンズに白いポロシャツという男みたいな姿。顔を見るなり節香は気に入ったようで、さっそく祐紀子に作務衣を揃えるように言いつけて、祐紀子は真央の手を引いて出て行った。ここからなら上野側へタクシーでちょっと行ったあたりに、古式の着物を扱う店がある。
 タクシーに乗せただけではしゃぎだす真央を見ていて、店に閉じ込めておくのは酷だと感じた祐紀子。

「一度お店に戻るけど、後からママとお出かけしましょ」
「うんっ、行くぅ!」
 後席にいて、すがりついて甘える真央。
「どこがいいかな。たまには違うところへ行って映画でも見ましょうか?アニメでもやってないかなぁ」
「うんっ、いいよーっ! わぁぁ、お出かけぇーっ! きゃははは」
 顔を見ていると店のことが頭から抜けてしまう。いきなり浅草に連れて来られて真央なりに懸命にやっている。どんなことでもしてやりたい。週末はもう店には出られないと考えていた。
 ディズニーランドも考えたのだが、これからではスタートが遅すぎる。来週にでも連れて行ってやろうと、このときは考えた。
 横浜シーシャインズは、今日は神宮球場、その後東京ドームで三連戦。移動日を挟んで横浜スタジアムでのホームゲームがしばらく続く。ふと野中の姿を思い浮かべてしまう祐紀子だった。

 戻ってみると、開店十五分前。蔵之介と琢也は蕎麦打ち台にこもっていて、節香と京子が厨房、私服のままの景子がテーブルに腰掛けて箸立てに割り箸を補充していた。
 さっそく着替えさせ、前掛けをさせると、景子は和風のスタイルがよく似合い、間違いなく客受けはいいだろうと思われた。
 三十五歳。落ち着いていて穏やかな雰囲気は若い京子にはないものだ。下から上まで見回して節香が言った。
「似合うじゃないか、なかなかだよー」
「あ、はい。こういうのはじめてですから緊張します」
 蔵之介が鼻の下をのばしている。
「なあに、はじまっちまえば右往左往よ、よろしく頼むぜ」
「蔵さんたら嬉しそうなんだから」と京子が横目で言うと、節香が笑う。
「えーえー、あたしゃどーせ、お婆ちゃんですよー、あははは」

 初日の今日は、接客と洗い場との掛け持ちだろうと思っていると、節香が眉を上げて祐紀子に言った。
「景子さんて料理学校行ってたそうなのよ。包丁できるし、ちょっと覚えてもらえば中だった大丈夫そうだから助かっちゃう」
 料理はできると聞いていた。京子も達者。それがちょっと口惜しかった。サラリーマンの妻になったつもりだったが、こんなことになるんなら少しは勉強しておけばよかったと祐紀子は思う。
 子供のときから手伝った店だったが、小学校の四年生あたりからは水泳ばかりで選手を目指した。家庭料理から毛を抜いたぐらいしかできない。
 それは姉もそうだったと考えて、野中の姿が脳裏をよぎる。いきなり妻を失って、野球をしながら娘の世話では、食事の支度もたいへんだったことだろう。エプロンをして包丁を持つ野中の情けない姿を思うと可笑しくなる。

 すっかり江戸屋に打ち解けた景子だったが、内情はいろいろあるのだろうと祐紀子は感じた。
 京子と同じく実家暮らしなのだが、景子の場合は夫の実家であり、子供が二人もいながら平日は昼も夜も、週末は終日できるということは、夫婦の関係はどうなのだろうと勘ぐってしまう。
 京子もそうだけど、女の生きざまというものはおよそそうで、新婚時代の残り火にすがって生きるところがある。そういう意味で私は幸せだと思うのだった。理解のあるやさしい夫と、惚れ惚れするほどスポーツマンな真央のパパ。自分そっくりの可愛い娘に囲まれている。
 白のパンツルックに着替えた祐紀子は、真央に赤いスカートを穿かせてやり、髪をおさげにして青い大きなリボンで飾って連れ出した。誰が見ても母子そのもの。うりふたつの母と娘。幼い真央がママと信じて疑わない気持ちがよくわかる。

 日曜日の開店。例によってご近所さんからスタートし、一瞬空いたと思ったら観光客が次々にやってくる。昼前には満席になり、外に列ができるほど。こんなことは古い江戸屋にはなかった。数人が最初に並び、お客がお客を呼ぶように列がどんどんのびていく。
 席が空いて待ちのお客を呼び込んだときの声を聞いて、琢也は頭を抱えていた。
「お待たせしました。お次の五名様どうぞ。その次の三名様とその次の四名様はじきに空くと思いますので。その他お並びのお客様には申し訳ありませんが、しばらくお待ちくださいませね」
 それから中に向けた言葉だった。
「一組様ご案内でーす。お待ちのお客様は六組いらっしゃいますのでお願いしまーす」

「はいよー!」
 琢也は威勢よく応じたが、急いでうどんを切らないと間に合わない。そうなると店はほとんど景子一人で回すことになる。
「忙しいって聞いてはいましたけど週末ってこうなんですね?」
「てか、新しい店になってからはじめての土日だからさー。もうダメ、死ぬぅ」
「あははは! 大丈夫、生きましょう」
 景子はほがらかな人だった。よく動くし気が利くからすぐに覚える。
 さらに一席空いて三人入り、合わせて八人。そのうち若い娘が五人だった。
 オーダーを取りに行った景子が厨房を覗いて叫ぶ。
「若旦那の名物うどんを天ザルで四丁! 温かい力うどんで二丁!
天ザル蕎麦が二丁、以上お願いしまーす!」

「ちぇ…『くそジジイの名物蕎麦』ってのぼりにしときゃよかったぜ」

 節香も京子も吹き出して笑った。
 うどんばかりがよく売れる。関西と違って東京では手打ちうどん屋はめずらしい。チェーン店ではあっても個人の店ではなかなかない。のぼりがお客を誘うのだ。
 その若旦那が麺打ち台に立ってノバシにかかると、若い娘たちが興味津々覗きに集まる。
「へええ、若旦那ってこの人なんだ、カッコいいねー」
「うんうん、上手よねー」
 ガラス越しに声は聞こえる。琢也はちょっと顔を上げて頭を下げながら微笑んだが、口の中で呟いていた。
「わかりもしないくせに…ふんっ…もうダメだ、力が入らん…見てんじゃねーよ、座ってろ…けっ」

 琢也の麺切りは格段に進歩していた。腕が上がらなくなるほど疲れ、だから駒板を押す力も、包丁を押し付ける力も入らなくなって、駒板は滑ってくれるし刃を滑らせて切らなければ包丁が通らない。
 上がって来た麺をほぐしてみて蔵之介が言う。
「信じられん、二月やそこらでよくもここまでやれるもんだぜ」
「よくなってきたね」
「おおよ、いっぱしのうどんだぜ。才能あらぁな琢の奴」
 蔵之介と節香のひそひそ話に、京子は嬉しい。
 日に日に逞しくなっていく若旦那に、京子の心は揺れていた。

「ほう? そうですか、土日は出られそう?」
「そうなんですよ、新しい人が一人来てくれることになったから。真央ちゃん健気なほどだし、お店にべったりでは可哀想でならないし」
「そうですか、すみませんね娘のために」
「いいえ、そういう意味ではありませんし」
「来週ならハマスタですから、ぜひどうぞ。チケット手配しておきますので」
「あの、来週はディズニーランドにと思ってまして」
「うんうん。それにしたって回ればいいじゃありませんか。こっちはナイターなんだから」
「あ…ですよね、ナイターでした」

 それもそうだと祐紀子は思う。来週の土曜ということは、パパとは十日ぶりということで、土日が休めるなら毎週でも会わせてやりたいぐらいだった。真央はいい子。じっとこらえてパパのことを言わないようにしている。そんな気持ちが可哀想で胸が痛む。
「じゃあそうします、土曜の夜は野球ということで」
「わかりました、嬉しいですよ」
「ちょっと待ってくださいね、代わりますから。いま横にいますから」
「はいっ」

「わぁぁ、パパぁーっ! あのねあのねっ、これからねっ、映画なのぉーっ!」
「おお、そうか。ママを困らせないように、いい子にしてるんだぞ!」
「はーいっ! 真央いい子だよーっ!」
 小さな手いっぱいにスマホを握り、話しながら見上げる幼子の眸がキラキラしている。
 娘も、その父も、両方の気持ちを想うと涙が出そう。

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