快感小説

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妻は幽霊(四十話)

四十話


 夫との寝室に佐紀子を持ち込まないようことさら意識する心の変化が生まれていた。

 妻との寝室に京子を持ち込まないよう割り切ろうとする男の狡さが生まれていた。

 しかし平穏な夫婦生活のためには互いに相手に見せない部分があったほうがいい。人を許容するとはそういうこと。許さず問い詰めることは賢くない。月の裏側を見ようとせず、見える部分だけで美しいと感じてやることが夫婦円満の秘訣なのかもしれなかった。

 今夜は静かな夜だった。真央は遊び疲れて眠っていたし、琢也は昨日と今日で疲れきって眠りたがる。
 祐紀子だけが浅い眠りの中にいた。琢也は求めなかったし拒んだわけでもなかった。祐紀子のかすかな迷いに気づくこともなく素直に眠りに落ちていく。それで微妙な緊張が解けたというのか、少しは心も軽かった。
 うつらうつら。意識が消えかかって戻ったとき、祐紀子と佐紀子を行き来している自分に気づく。祐紀子として眠り、ハッと目が開くと佐紀子になった自分を感じる。

 祐紀子として歳月を生きてきた。けれども佐紀子としてのキャリアはない。自分の中に突然生まれた姉の人生をどう生きるべきなのか。そんなことばかりが頭に浮かぶ。
 野中の部屋へ行きさえすればいつでも佐紀子を生きられる。鏡を見たって遺影の姉と寸分違わず、着る服だって、その気なら下着でさえもそのまま着られる。野中は疑いもなく佐紀子と呼ぶだろうし、真央はママと呼んでくれる。

 と考えたとき、妙なことに気づくのだった。祐紀子としての私自身をどう生きるかが問題なのだと…。
 そこを間違うとどこにでもある不倫になってしまうだろう。夫の前では祐紀子に徹し、野中の前では佐紀子を生きる。曖昧に考えていたことがきっぱりカタチになってきた。
 ただ、体はひとつしかない。野中の記憶を留めたまま琢也に対してそれまで通りの妻でいられるのだろうか。堂々めぐりに思考が回り、やっぱり混乱してしまう。祐紀子だけが眠れそうにもなかった。

 ふと見ると、真央が横を向いて丸まって寝ていた。薄い布団に首までくるまっている。寒くはないと思うだが。
 起き出してふと体に触れてみると熱かった。おでこが熱い。寝てはいても苦しそう。汗をかいてパジャマが湿ってしまっている。そのとき時刻は深夜の二時をすぎていた。
「ぅぅ…ママぁ…」
「どうしたの? 苦しいの? お熱あるよね。ねえ苦しい?」
「寒いのぅ」
「うん、わかった、ごめんね、ママがいけなかったの、ごめんね」
 朝早くからナイターが終わるまで遊び通しで疲れたのだ。ディズニーランドを走り回って汗をかき、ナイターで冷えたのだろうと考える。風邪をひかせてしまった。風邪薬はあるが大人用。しまったと思う。幼児のための薬がない。

「どうしたの? 具合悪いんだ?」
 琢也が起きた。
「そうみたい、熱があるんだ。汗かいちゃってびっしょりなのよ」
 明かりをつけると真央のほっぺが赤い。琢也は額に手をやって言った。
「ちょっとあるな、冷やしたほうがいい。とにかく着替えさせてやりな。薬とそれから氷枕用意する」
「大人用の薬はあるんだけど大丈夫かな?」
「わからん、説明書読んでみるさ」
 祐紀子は涙が出そうだった。突然ママになって、こういうときどうしていいかわからない。オロオロするだけ。
 琢也が階段を急ぐ気配で節香が目覚めた。氷枕と、洗面器に氷水をつくって階段を上がったとき節香が出てくる。
「どうしたの? 真央ちゃん?」
「ちょっと熱があるんです、子供用の薬がなくて。五歳以下は服用するなって書いてある」
「困ったわね、お医者といってもこんな時間じゃいくら何でも」

 節香は琢也と一緒に部屋を覗いた。
「どう?」
「八度四分もあるのよ」
「あらら。子供は急にくるからね、可哀想に」
 赤い顔をする真央の額に手をやって言う。
「あったかくして、とにかく冷やして。お薬があればね、困ったな」
 そのとき琢也が言った。
「京子さんに電話してみる、子供がいるから持ってるかも」
 琢也は携帯に向かった。

「え、ある? 子供用の解熱剤もある? あ、そう、助かる。うん、すぐ行く。いやいや君はいい、俺が取りに行く。こんな時間にごめん、ありがとう」
 琢也は着替えて飛び出して行った。ママチャリだ。それほどの距離はない。
 祐紀子は恥ずかしい。子供用の薬を常備しておくなんてあたりまえのこと。そこまで気が回らなかった。ただの風邪だとわかっていても、野中に対してだって顔向けできない思いがする。
 いや、そんなことはどうでもいい。これ以上ひどくなったらどうしよう。祈るような想いだった。

 自転車を飛ばしながら琢也は心の中で佐紀子を呼んだ。
「佐紀ちゃん、守ってやって、頼む」
 ところがクソお化け。
『あははは、焦ってる焦ってる。風邪ぐらい平気よ、よくやるんだ真央って』
「ったく呑気なことを。俺はいいから真央についててやりなよな」
『あれー? 呼んだのオマエじゃん。 言われなくたってついてるわ』
「うぐぐぐ、ああ言えばこう言う…可愛くないお化けだよ!」
『お化け言うな。まあ頑張って漕ぎなよね、遅い遅い、あははは』
「やかまし! これでも必死だ!」

 しかし佐紀子が笑ってくれたことで、ちょっとは気が楽だった。
 京子の家も古くからある小さな戸建て。自転車のヘッドライトが揺れると、京子はパジャマ姿に一枚羽織って家の前で待っていて、手を振った。
「ごめん、ありがと、俺すぐ戻るから」
「気をつけてよ、琢ちゃんが事故ったら話にならないからね」
「わかってる、夜中にごめん」
「いいわよ、そんなこと。新米ママだからしょうがないわね」

 即座にUターン。飛ばして十分ほどなのだが、こういうときは遠い。

 戻ってみると、額を冷やして気持ちいいのか、真央はおとなしくなっ
ていた。蔵之介までが取り囲んで心配そう。一度起こして薬を飲ませ、そっと横たえてやると、真央は布団から熱い手を出してママの指をしっかり握り、眠ってしまう。
 その手を撫でながら祐紀子が節香に言う。
「保育園休ませるね、朝すぐお医者に連れてくから」
「そうしておやり。もう大丈夫だとは思うけど」
「だといいけど…ああ、あたしダメだわ、自信喪失…」
 節香も蔵之介も部屋へと戻り、琢也と二人。
「ごめんね、もう寝て、あたし看てるから」
「しかたないよ、気にしない気にしない」
「するよ。ママ失格だもん、悲しい…」
 涙が出てくる。可愛がるだけでは育てられない。野中とのことにしても浮かれていたと反省する。数日すればパパが来る。それまでによくなっていてほしい。
 薬が効きだしたようだった。息が楽そう。顔色も少し普通に戻ってスヤスヤ寝ている。

 翌日、京子はいつもよりずっと早く、十時頃に顔を見せた。
 そのときちょうど祐紀子が下にいて、六人席に座って節香と話し込んでいた。琢也と蔵之介は麺打ち台にこもっている。節香も男二人ももちろん作務衣に着替えていたが、祐紀子一人が普段着のままだった。
 京子の顔を見るなり、祐紀子は席を立って手を握った。
「夕べはありがとね、夜中にごめん」
 京子は笑って言う。
「ううん、ぜんぜんよ。それより、どう? お医者行った?」
「行ってきた。ただの風邪みたい。お薬飲んで上で寝てる」
「熱は?」
「ちょっとある。いま七度三分ほど。今夜あたり、もう一晩上がるだろうって先生が言うのよね」
「まあね、子供は二、三日続くから。でも大丈夫だって、気にしすぎよ、よくあることだもん。自分の子じゃないから気にするのはわかるけど」

 京子にすればなにげに言った言葉だったが、祐紀子にはグサリと刺さる。
 ママのつもりでいても母にはなれない。突きつけられたような気分になる。しかし京子の言うこともわかる。祐紀子はなおさらグラついた。
 そんな祐紀子の肩をちょっと叩きながら京子は言う。
「平日だし、お店のことはいいから真央ちゃん看てて」
「うん、悪いけどそうさせて。何も手につかないもん」
 祐紀子が二階へ上がって行くと、京子が節香に言う。
「ユッキーちょっと可哀想かも。気持ちわかるし、あたしだって最初の頃はそうだった。小さい頃ってしょっちゅう何かがあるからね」
「そうね、それはそう。心の準備もなくていきなりだもん、オロオロになっちゃうわよ。それより京子、夕べはありがと、助かったわ」
「とんでもないです、友だちの娘なんだもん。佐紀に会いたいなぁ。さあ、着替えるかっ」

 京子は席を離れるとき、麺打ち台へと眸を流した。蔵之介がそばについて琢也がコネ鉢に向かっている。うどんではなく蕎麦だろうと京子は思った。真剣そのもの。白い和帽子をかぶった若い職人姿がカッコいいと感じていた。

 二階。夫婦の部屋は二階のいちばん奥にある。着替えた京子は、いつものように遺影に手を合わせ、それからちょっと奥を覗いた。
「うふふ、可愛いなぁ、ぐっすりだもんねー」
「うん、安心してる。上がってきたらちょっと目を覚ましてね」
「ママぁって?」
「そうなのよ。手を握ってさ、しばらくしたらグーだもん」
「ちょっと遊びすぎかな?」
「ナイターよ。少し風もあったし、叫びまくってたから疲れたのもあるんじゃない。失敗したわ、子供ってこうなんだって思っちゃった」
「キャリアよキャリア。ウチの子もそうだった。ここらのお祭りでぶっ飛ばして風邪ひいちゃって大変だったんだから。いまはもう大丈夫だけど五歳ぐらいまでは弱いから」
「みたいね。元気だから、まさかって感じだった。うかつだったなぁ。あーあ、自信なくしちゃった」

 京子は笑う。
「わかるわかる、そうやってちょっとずつママになっていくものなのよ。真央ちゃんのママはユッキーよ、Lじゃない。じゃあ、あたし」
「うん、下お願いね」
「大丈夫だって。景子も来るし…あら? 雨?」
 話していると雨音がする。窓から覗くとアスファルトに雨粒がばらまかれていた。
「ありゃま。今日は暇そう。じゃね」
 京子が出て行くと、人の動く気配を感じたのか、真央はまた布団から手を出してママを探る。指を持って行くと鉄棒を握るように小さな手でしっかりつかみ、ちょっと微笑むようにして眠っていく。
 添い寝するつもりもなかったのだが、ちょっと横になって真央の額に手をやると熱はずいぶん下がっていた。

 ほっとした。夕べはあれから寝ていない。真央の寝息を聞くうちに瞼が重くなってくる。
 こういう思いをして母さんは私たちを育ててくれた。姉と二人ですごした時間が夢のようによみがえる。あの頃は店のことで母さんは必死だった。風邪ぐらいでこれほどかまってもらった記憶がない。
 この場にもしも野中がいたらと考えると可笑しくなる。間違いなくしどろもどろになってしまうだろうと思えるからだ。

 母と娘が身を寄せ合って眠っていた。
 そしてその傍らに、白い死に装束の佐紀子が正座で座っていた。

『ああ真央…可愛いなぁ…もっと一緒にいたかったなぁ…』

 透き通る佐紀子は、涙をいっぱいに溜めていた。

『ユッキー、ごめんね…真央のために生きてもらうわ。真央にはパパも必要なのよ。ほうらユッキー、野中のことが好きになる…どんどん好きになっていく…ほうらほうらエッチがしたい…てか? うひひひ』

 お化けのくせに催眠術を覚えたようだ。

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