その女、危険性。(十二話)

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十二話 多重する禍根

 得体の知れない悪魔的な力に犯されたという確かな記憶が明江の中に残っていた。裸身に何かがからみつく寒気と怖気、そして超常的な快楽の折り重なった性の記憶。股間に太い何かをくわえこんだ感覚が残っているのに、ハッとして目覚めたとき、明江は何事もなかったように黒い下着を着たまま、全裸の浅里、全裸の佳衣子に左右から寄り添われ、ホテルの大きなベッドに眠っていた。時刻は深夜の一時になろうとした。
 奴隷二人を責めていて何者かに襲われ、しかしそれからの記憶が抜け落ちてしまっている。これはいったいどうしたことか。裸に剥かれたはずなのに下着を着ていて特に乱れた様子もない。いつの間にかベッドにいて奴隷二人に左右を挟まれて眠っている。明江は息を潜め、浅里と佳衣子のぬくもりを交互に確かめる素振りをした。

「・・何だったの」
 かすかにつぶやいた声に浅里が目覚めて静かに言った。

「うなされておいででしたよ」
「うなされてた? じゃあ、あれから普通に寝たのかしら?」
「と言うか、目眩でもしたように蒼くなられて横になられ、私たちはシャワーを済ませて一緒に寝て」
 ふらふらと横たわり、そのまま寝てしまったと言うのである。そのへんの記憶は残っていない。ひどくうなされていたらしい。
 二人の声に、眠っていた佳衣子が気づき、左右から絡みつかれるように明江は抱かれた。
 佳衣子が言った。
「ああ裂ける、助けて紀代美って、もがくように」
「そう。わからないの。いきなり何かに襲われて」
 浅里が問うた。
「襲われた? そんな感じがあったのですか?」
「恐ろしい力で、それは恐ろしいペニスに犯された。うまく言えないけど悪魔か鬼にでも襲われたようだった。意識が消えて気づいたらいま。だけど何にもなかったみたい」

 明江は、黒いブラの左右に頬を寄せる二人を交互に見て微笑み、二人の裸の肩を抱き寄せて、そして静かに語るように言う。
「奥底にある願望だったのかも知れないね。あなたたちを見てて、じつは羨望を感じていて、圧倒的なものに私だって支配されたいと言うのか、あなたたちを虐めているってわかっていながらエスカレートが止められないことへの呵責を感じ、そんな私を罰してほしいと思う気持ちが生まれた」
 佳衣子がふっと笑って言った。
「呵責だなんて、そんな。私たちは女王様に導かれて前よりずっと愛し合うことができています。私はマゾ、浅里もマゾ、支配されて安住する女なんです二人とも」
 浅里が言った。
「いま思えば私たち、立ち位置を定めるのが難しかった。互いにMになりたがり、うまくいかないと互いにSっぽくなって相手を責める。女王様のおかげで私たちは定まった。ともにマゾなんだから互いの性(さが)に苦しみ合おう。だから二人はもう揺れない」
 明江は言った。
「よかったのねそれで? 本心からそう思う?」
「はい女王様」 と二人の声が重なって、二人は女王に抱きすがった。
「浅里のこと、佳衣子のこと、愛してるわ。いまはじめてそう言える。私は弱い、ダメな女よ」
 佳衣子が言った。
「こう言っては失礼ですけど、だから好きなんです、私たちと同じ心をお持ちですもの。強くなろうともがいておいでの女王様だからこそ、私たちはお捧げできる」

 明江にとって理解はできてもよくわからない会話だったし、このとき明江は自分の立ち位置だけが定まっていないことを思い知らされていた。

「それで? その後どうなったの?」
 303号。紀代美と二人の夕刻だった。仕事帰りにまっすぐ紀代美の部屋に寄っていた。わけもわからず抱かれていたくてならなくなって、ロングソファに紀代美を押し倒し、二人全裸で絡まっている。
 紀代美の心音を聞きながら明江は言った。
「それで二人をベッドに残してシャワーにね。脱衣で脱いで、そしたらまた後ろから抱かれる感じがして、ゾクゾクしちゃって。それでそのとき、あたし言ったの」
「何を?」
「抱いてって、ただそれだけを」
 それは憑き物だと思いつつ紀代美は明江の穏やかな面色を見つめていた。憑き物の正体はわかっていた。孝行を想う私自身の女心に私を取り巻く下等な者どもが反応したということだろう。

 紀代美は言った。
「支配されたい女なのよね、明江も」
「そうみたい。おぞましい気配に震えながら、どうしようもなく濡れてしまってお尻を突き上げ犯されていた。ほっとできたと言うのかしら。だけど紀代美は寂しいだろうなって、そのとき考えちゃったのよ」
「あらどうして? 弱くいたくても特殊な力がそれを許さないって考えた?」
「だってそうでしょ、その気になれば紀代美は強い」
 紀代美は曖昧に笑ってうなずいていた。明江はまだ、孝行という夫をめぐって、紀代美がライバルに変わっていることに気づいていない。
 紀代美は笑った。
「もうドロドロね、女ってあさましい」
 抱かれていて顔を上げた明江の額を紀代美の指先がちょっとつついた。
「私たちの共有奴隷は陽子。浅里と佳衣子の女王様が明江で、その明江の女王が私。さらに孝ちゃんが私たちの男奴隷」
「そうね、まさに女の正体ここにありって感じだわ。紀代美の奴隷になりたいなぁ」
 紀代美は明江の眸を見据える眼差しで言った。
「そうすると君臨しちゃうよ。旦那さんもいただくし、陽子やあの二人だって私のもの。ふふふ、そんなことになってもいいのかしら?」
 わずかな笑顔が醒めていき、心を射通すような眸で見据えられた明江。強い眸をするときの紀代美は素敵だと明江は思った。

 紀代美が身をずらして明江を組み伏せ、白い乳房の先でしこり勃つ綺麗な乳首を口に含む。
「いいわ、わかった、これからは私が女王よ」
「はい、そうなら嬉しい」
「血をちょうだい、あなたの血を」
 紀代美はその手で明江の乳房をつかんで円錐形に張り詰めさせると、その先端で飛び出す乳首に鋭い犬歯を当てていく。
「覚悟はいい?」
 サディズムに輝く紀代美の眸に、明江はとても勝てない何かを感じた。これが紀代美。そう思うとゾクゾクする。
「はい女王様」
 乳首の皮膚をカリッと噛んだ。
「あぅ! 痛い、あぁン痛い」
 明江は紀代美の裸身に抱きすがり、一瞬の激痛を乗り切ると、乳首から赤い血が滲んでいる。乳首を含まれ舐められて、チクリとする痛みと震えのくる快楽を同時に感じ、明江は息が熱くなる。
「血の契りね、私と明江の」
「はい、嬉しいです女王様」
 それで二人は顔を見合わせ、笑い合って抱き合った。どこまでが本心なのか、ふざけ合っているような抱擁。女同士の妙な間合いがこのときの二人にとって心地よかった。

 二日が過ぎたその夜、明江は401号、陽子の部屋で過ごしていた。陽子の旦那が検査入院。会社の検診で胃に病変が見つかって悪性の疑いがあるらしい。 そしてそれと同じ頃、303号、紀代美の部屋に明江の夫、孝行が入っていく。孝行は共通奴隷ということで明江は紀代美に委ねていいと考えた。夫への気持ちが定まっていない。紀代美との関係のために離婚するならそれでもいい。明江にとって妻という立場が重かった。
 401号。こちらでは陽子は従順な性奴隷と化している。夫がいても埋められない心の穴を埋めてくれた明江に、陽子は思慕の念を抱いていた。陽子もそろそろ四十歳となるのだったが、裸身は白く若く、形のいい乳房を突きだして奴隷のポーズ。下腹の毛も綺麗なデルタとなるようにトリミングされていた。しかしそこはホテルでもなく、夫のいる自宅ということで責め具のようなものは一切ない。精神的な従者。そのときの陽子はそうだったし、もともと肌に痕が残るような厳しい責めはされていない。
 明江はブルーのランジェリーでソファに座り、全裸で服従のポーズをする陽子を微笑んで見つめている。
「オナニーは欠かさずしてる?」
「はい女王様、お言いつけ通りに暇さえあれば」
 常に感じさせ濡らすマゾにしておきたい。独りのときはノーパンノーブラ。常にいじっているよう命じてあった。明江は、綺麗に毛が整えられたデルタの底へと指をやった。湿ったクレバスが指にからみ、刺激を受けて勃ったままのクリトリスを指先で転がすようにいじってやる。
 陽子は眉間に甘く浅いシワを寄せ、かすかな喘ぎを漏らしている。
「いいわ、よく濡れてる。どう? 感じるでしょ?」
「はい女王様、ああ嬉しい、ありがとうござます、震えるほど感じます」
 全身の薄い脂肪がふるふる震え、鳥肌が騒ぎ、毛穴が固く締まって産毛を立たせる。
「ぁふぅ、いい、あぁぁイキそうです」
 明江は、そんな陽子を見据えてちょっと眉を上げて眸を丸く、性器をまさぐりながら言うのだった。
「羨ましいって思うのよ。私もね、紀代美様の前ではそうありたい。私だけが定まっていないと思うから」
 と、陽子がちょっと眉をひそめるムード。
「明江様がですか? それはちょっと・・」
「どういうこと? ヘンかしら?」
「逆だと思います。紀代美様は弱いお方。君臨なさるなら明江様かと」
 明江はちょっと驚く眸色を向けた。
「そう思う?」
「はい」
「どうしてそう思うのかしら?」
 どうしてと言われても困るようで、陽子は明解な答えを返せない。なんとなく。女としての直感のようなもの。しかし明江はそれが哀しい。その強さで夫を捨てようとしているのだから。強さの反力としての呵責が、紀代美によって癒やされる。紀代美へのマゾ性はそういうことなのかと考えた明江だった。

 その頃また303号で。
 紀代美らしい純白のランジェリー。しかしそれは新調したもの。孝行に対する勝負下着というやつで、紀代美の女心が選ばせた姿。
 なのに男の孝行は全裸で奴隷のポーズをする。若い男性は血管を浮かせて勃起して、数日の禁欲の苦しみを表現するように亀頭を振ってもがいている。
 一途に見つめてくれる男が可愛い。一瞬のサディズムに、紀代美は手にした乗馬鞭の先で亀頭を打って、痛みに呻きながらもさらにペニスを差し出す孝行の姿に、一瞬にしてまたマゾヒズムに支配される。
「可愛いわ孝・・あなたが好き、私だけのご主人様」
 ソファを滑り降りるように奴隷と同じく膝で立ち、奴隷のポーズを崩さない男の裸身を抱き締める。背を撫でて男の固い尻を撫で上げ、手をまわして勃起を握り、そうしながらキスをせがむ。
「愛の化け物」
 耳許で孝行にささやかれ、紀代美はハッとして孝行の瞳を見つめた。孝行はそんな私を許容している。わかってくれる男性。
「最高の褒め言葉だわ、私はそうなの、愛の化け物。だから怖い。私は私が怖くてならない」
 微笑んでうなずきながら、それでも奴隷のポーズを崩さない従順な男の姿に、紀代美の女心はマゾへと傾き、勃起の切っ先にキスをして、熱い茎を舐め上げて喉の奥へと突き立てていく。
 孝行は言った。
「天性の淫婦。淫乱しかし淑女であり、天性のマゾヒスト、天性のサディスト。あらゆる性を拒まない素敵な女性。愛してる紀代美」
「はい、ご主人様、私もあなたを愛しています」

 純白のブラをしたままパンティだけを自ら剥ぎ取り、ソファに両手をついて尻を向けた紀代美。陰毛のない性器はあさましいまでに濡れていて、男奴隷は女王の愛液を舐め取ろうと顔をうずめる。
「あぁン、孝、孝、愛してるの、ねえ愛してるの」
「ふふふ、可愛い女だ、淫らな奴め・・」
 男の力で尻を叩かれ、アナルを晒してさらに突き上げられた股間の魔女へ暴発寸前の熱い勃起を突き立てていく孝行。紀代美は背を反らして顔を上げ、獣のように吼えていた。
 明江が邪魔。それはどうしようもない女の性(さが)が思わせる怖いこと。
 妻が邪魔。それはどうしようもない男心が思わせる一瞬の迷い。
 孝行と紀代美は互いを探り合いつつ、肉体だけが反応する激情の性に溺れていった。
 もう果てる。もう狂う。紀代美は突き抜きされる度に噴き出す愛液がシュボシュボ膣啼きさせる股間の錯乱を感じつつ、明江の悲劇を考えていた。私がこういう気持ちになると私を取り巻くよからぬ者が蠢き出す。その結果どうなるかは明江次第で、明江がもしも敵対するなら恐ろしいことになっていく。

 401号。
「それでもいいのよ、私は紀代美様の奴隷です」
「はい。私はそんなお二人の奴隷でいられて幸せです」
 明江は眉を上げて微笑んだ。
「ところでご主人は?」
 陽子はちょっと首を横に振る。
「ずっと胃炎だと言われていたんですが、スキルスガンの疑いありということで」
 スキルス胃ガンはガンの中でも悪性で進行が早く、見つかったときには手遅れということが多いという。このとき明江は、もしも夫がそうならばと考えてしまう自分がいることが怖かった。
 陽子は言った。
「それならそれでいいのかなって思うんです」
「え?」
「このままだといつか主人が邪魔に思えるときがくる。天命ならしかたがない。そう思ってしまう自分がいるから、だから私は奴隷でいたい。泣いて泣いて暮らしていたいと思うから」
 明江は声もなく陽子を見つめ、そしたらいきなりやさしくなれて全裸の陽子を抱いてやる。
 結婚生活へ踏み込んだ女に共通した感情。生別死別にかかわらずいつか別れがくることを察していて、あるとき心の準備をはじめていく。それが妻というもの。陽子に自分と同じ姿を見つけ、明江は明江自身を抱くように陽子の裸身を抱き締めた。
 しなだれ崩れて抱かれる奴隷を突き放し、自ら立って下着を取り去り、カーペット敷きのフロアに尻を落として脚を開く。
「ほら陽子、ひどく濡れてる、綺麗になさい。私をイカせて。舐めて!」
「はい! あぁ嬉しい、よく濡れておいでです」
 Mの字に立てられた白い腿を抱きつつ、陽子は同性の淫欲を見つめながら微笑んで、女王の股間に顔をうずめた。
 電気ショックのような快楽に明江はのけぞる。