快感小説

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逆さ鳥

壁いちめんの鏡に映る私を見ていた。

赤黒い…そうね、性欲のように赤黒い光の中に裸でいたわ。

なぜ私だけ、逆さに映るの…逆さに垂れ下がる白い女…。

足を惨く開かれて…女の性花に蝋燭が突き立てられているのよね。

私は私を虚ろな眸で見ていたわ。白い肌がヌラヌラしていた。

発汗? それとも、体のすべてが性器となって蜜浮きしてる?

巻きつく鞭に揺らめく私を…ぼーーと見ていた…。


私はMよ、とおっしゃるあなたに訊きたいことがあるのよね。

M女になった、きっかけは?

どなたかの手記でも読むと、こう書かれてあるでしょう。

「私がM性に気づいたのは子供の頃で…」

「中学生の頃かしら…」

でも私の場合はまるで違った。SMというものがあるのを知ったのは

早かった。けれどもそれは別世界…私の棲み家じゃなかったの。


人生なんて、ある日、ある時、ひょんなことから変わってしまう。

私の場合、あのとき人より早く目覚めた…たった、それだけ。

それが運命…抗えない力かしらね。

運命を信じて何かをやると言うけれど、そんなのウソ。

運命なんて、作為や人為の中には存在しないと思うわよ。

「なぜM女になったの?」

私はね、バードウオッチングが好きだった…ただ、それだけ。


私のことは訊かないで。歳も仕事も、住んでる部屋の場所なんて。

経歴などもどうでもいいこと。なぜなら、それらのどれもが、

こうやって垂れ下がり、被虐に酔う心地よさとは無関係のものだから。


ある日突然、私が壊れた…そうなんだもの、しかたがないわ。

あの山荘へ行ったとき…学生時代の友だち同士、女ばかりで

行った初夏の山。枕が変わると眠りの浅い、いつもの私がそこにいて、

人がまだ寝ている朝に起きだして、集音マイクを持って出た。

小鳥たちの囀りが、朝霧の森に風にのって流れていたわ…。

ピィキィィーッ…哀れなほど澄みきったソプラノを声を霧がくるむ。


森といっても、散策ルートが拓かれた観光地。

その中で、夢中になって鳥を追ううち、男女二人の気配を見たの。

息をするのも苦しくなった…。

木陰に身を潜めた私は、何を思ったのか集音マイクを向けてしまった。

「ほうら歩け!」

ピシィィーッ!

「あぁぁーッ、お許しを…ご主人様…ぁうぅぅ…」

キッコウ縛りと言うのかしら、女の人は全裸だったわ。

後ろ手につながれた縄尻を男に持たれ、お尻を鞭で打たれながら、

泣いて泣いて歩いていたの。それが、とても幸せそうで…。


マゾになるきっかけなんて、そんなものだと思うけど。

ただ違うのは…そのときに、ある線を越えるか越えないか。

越えてしまった幸せの悲鳴が、小鳥たちの囀りのように、

姿を見せず、そこらじゅうに聞こえてくるのよ…。


ピシィィーッ!

「きゃピィィーッ!」

ほらね。 逆さ鳥の蜜垂れの声…いい声で啼くでしょう、私って。

許されない鞭が好き。SMゴッコじゃ、私は仮面を脱げない女…。

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