赤い蝶 (下)

 その夜の私は、お酒のせいばかりじゃなくて、家に戻って寝つい
てからも体が火照っていたのです。寝つくというのは眠るというこ
と。眠っているはずなのに淫らな夢が女体を芯から温めている感じ
なのです。
 江本さんと、あれから渋谷でお酒を飲んだ。ぜんぜんカッコよく
ないそこらの小さな居酒屋だったのですが、入ってすぐお店が混み
出し、隅っこの小さなテーブルで互いの膝が絡まるぐらいに密着し、
恋人みたいにお話していた。
 しばらして話がめぐり、また今朝のことになり、お酒でちょっと
頬を赤らめた彼が言うのです。
「可愛い布が触れるところを想像しちゃいましたよ。まるで赤い蝶
を穿いてるみたいで、いいですね」
 扇情的な赤色も横ヒモのソソル形もそうですが、何より裏返しに
なってたことが、ほろ酔いでそれでなくても火照る私を激しい羞恥
に赤らめていたのです。私はちょっとは怒ったフリもしてみたりで、
きっと可愛くない女だったと思うのですが、江本さんの笑顔はやさ
しい。溶けるような目で私を見ていて、それでいていやらしさのな
い・・どう言えばいいのか、ほんとにやさしい男の目。
 色気ある紳士の目とでもいうのでしょうか。

 そんなことが、刺激の足りない主婦の脳裏に焼きついて、淫らな
夢を見させたのか・・こんな夢です。

 やわらかな陽光の注ぐ広大な草原の真っ只中に、見たこともない
雲のようにふわふわしたベッドが置いてあり、その上に裸の私が寝
ています。仰向けに空を見て腿を閉ざし、私はきっと寂しくて乳房
を抱いて寝てるんです。
 ヒラヒラ舞う蝶の羽ばたきが産毛を揺らして目が開きます。
 青空と全裸の私の間の空に、すごく大きな真紅の蝶が舞っていて、
裸の女を見下ろして言うのです・・。

『私に蜜を吸わせておくれ。淫らな花に垂れる蜜を吸わせておくれ』

 私はなぜか微笑んで、脚をMの字に大きく割って・・。
 そうすると赤い蝶がアソコに舞い降り、そのとたん恥ずかしいほ
ど湧く蜜に蝶は吸い口をのばして舐め取っていくのです。
 狂うほどの快感です。全身に痺れがはしり、がたがたと震えてし
まい、一瞬にして私は達し、達したままおびたただしい蜜を流し、
それをまたチョウチョに吸われて達していく・・そんなことが続く
のです。

 そして、熱い熱い男性のそのモノが花を拡げて押し入ってくる。
 蝶がなぜペニス? ハッとして目を開けると、私は江本さんに抱
かれていました。

 私にとってそれが何を意味するか、私は嫌と言うほど知っていま
す。バージンだった最初のときも、学生時代のそのときも、あのと
きもあのときも・・そして夫とはじめて結ばれたあのときも。男の
人とそうなる前にずっと同じ夢を見た。
 赤い蝶は、私が子供だった頃、学校で描いて色彩感覚がおかしい
と男の先生に注意された蝶でした。
 男の人にはわからないのでしょうね。その頃の女の子が白いパン
ツの中に血のひろがる赤を見たとき、私の場合、それが羽をひろげ
たチョウチョのような形だった。パンツの中で赤い蝶が、まだ未熟
な性の花に舞い降りているのです。
 恥ずかしさと、そして不思議な快感と。生理の赤い股間に手をや
って不思議な気持ちよさを感じたのもこの頃でした。
 それからというもの、快感と・・いいえセックスと赤い蝶は結び
つき、それがなぜか結ばれる男性を教えてくれる。私はずっとそう
だったのです。

 ごめんなさい、あなた・・運命には逆らえないわ。

 次にもし彼と二人きりになってしまえば、Mの字に開いた女体の
花の流す蜜を、彼に吸われ、きっと逞しい彼の力を受け入れること
になる。
 ドキドキしました。江本さんを想うだけで濡れそぼり、オナニー
もしてないのに私は感じてしまっていた。

 それから十日ほど後のこと・・深夜になっても眠れなかった私が
バルコニーに出てみると、一階下の、隣の隣の下の手すりに、手す
りにもたれてタバコを吸う江本さんを見たのです。
 アルミの手すりをコンコンと叩く音で彼がこちらを見たときに、
私がちょっと手を振って・・応じて彼が手を上げて・・私が、この
時刻絶対に人けのない屋上を指差して・・。

 彼がそれを理解してくれ・・。

 私はすぐに赤い蝶に穿き替えて、ガウン姿で屋上へ行ったのです。
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