陰婿様

「孝ちゃん、イロっぽくなったよねー。新妻ともなると、こうも違う
ものかと思っちゃう」
「はいはい失礼しちゃうわね・・うふふ、でも、ほんとにそう?」
「違うよー、ゼンゼン違う! 満たされてますって顔してる。夜はも
っと寝かせてねーってか! あははは!」
「もうエッチなんだから!」

 変わったと同性の友だちからも言われます。自分では変化なしって
思っていても、あるときを境に評価の変わることがある。私への好評
がますます私を磨いていって、さらに私をよくしていく。主人のため
にもいい流れになっていると思います。

 相葉孝子、二十六歳。それが独身の頃の私です。川上孝子に名前が
変わり三月が過ぎようとしています。主人は三つ歳が上。職場で出会
った二人です。

 プロポーズされたとき私がまず思ったのは、姉のようになりたくな
いってことでした。お姉ちゃんは四つ上なんですが、男運が悪いとい
うのか、すでに二度離婚している。二度目はついこないだで、結婚で
家を出る私と入れ違いに家に戻った女です。

 私は彼を愛しています。
 でもね、愛しているから愛されるとは限らない。ずっと愛される女
でいたいと思ったときに、ほとんど忘れかけていた学生の頃の記憶が
蘇ったのです。
 部活でスキーをやっていた私は、合宿もそうですし、友だちたちと
もあちこち出かけて遊んできました。冬の山は夜には冷え込み、宿に
こもってひっそりしている。そんな夜、民宿のお婆さんからちょっと
怖い話を聞いたのでした。

「女人沢?」
「そうそう、ここらでは女人沢と言われておるがの。深い深い山の中
に湧く泉で男子禁制、滅多に人の行かんところじゃ。好き好んで行く
のは嫁入り前の娘ぐらいのもんじゃろか。ともかくそんなところじゃ
よ」
 幸せを願う娘たちが身を清めに行くところ・・だそうですけれど。
「ここらのお山にゃ霊山がいくつもあっての。ほれ修験者なんかの出
入りするお山じゃが、そのうちのひとつなんじゃよ」
 女の子は怖いもの見たさ。あのときは女四人のスキー宿、唾を飲ん
で聞いていたのを思い出す。

「朝早くに、日の出の頃にそこへ行ってな、氷のように冷たい泉に浸
かるのじゃが、その前に平タ岩に平伏して・・」
「ひらた岩?」
「ほうじゃ、泉のそばにあるのじゃよ。真っ白な一枚岩での、上が平
らになっておるから平タ岩、行けばわかるて。素裸になっての、平タ
岩に平伏して陰婿様に願うのじゃ」
「かげむこ様?」
「霊山には霊が集う。女人沢には女人の霊と思うじゃろうがそうでは
のうて男衆の御霊が集う。それらを陰婿様と言うのじゃが、そのお心
におすがりするのじゃ。さすれば陰婿様は娘の生涯に付き添って娘を
守ると言われておる。このわしも・・くくく、気の遠くなるほど昔の
ことじゃが御霊に祈ったものじゃよ。おかげでわしは三度連れ合いを
替えたが幸せじゃった。そなたらも行くなら行ってみてもいいじゃろ
うが、ただし、御霊を尊び、何があろうが起ころうが身を委ねて逆ら
ってはならんのじゃ。逆らえば御霊はたちどころに悪霊へと姿を変え
る。まぁ、いまどきの娘らならば行かん方がいいじゃろう。ふっふっ
ふ」
「それはどうして? どうして行かない方がいいの?」
「陰婿様が貞操を要求するからじゃよ。許されるのは夫となる者との
まぐわいだけ。ふしだらを許す陰婿様ではないからの」

 そんな夢のような記憶をたどり、私は出かけてみたのです。
 学生の頃といっても、ほんの数年前のこと。民宿はそのまんま、お
婆さんもそのまんま・・何も変わらない山の中の宿でした。
「女人沢へ? ほうほう、そなたそれで来たのか?」
「はい、あのときお婆さんにお話を聞かせていただいて・・私、来月
結婚するんです。ですからその前にと思って」
「ふむふむ、身を清めておきたいということか。感心な子じゃな」
 沢までの道は行けばわかるとおっしゃいました。宿の裏手にのびる
山への道をひたすら行くだけ。途中から獣道に変わり、迷いようがな
いと言うのです。
 そして翌朝、山々の稜線が白みだす頃、私は一人宿を出ました。

 凄い山です・・なだらかな斜面が続き、妖気の漂うような森の中に
人一人がやっと歩ける道が続く。
 チョロチョロチョロ・・清水の音が聞こえはじめ、折り重なる山岩
の狭間に女人沢はありました。

 怖いのです。怖くて怖くて震えてしまう。けれど私はどうしても姉
のようにはなりたくなかった。
平タ岩・・塩を固めたような真っ白な岩があり、そのすぐ先がいび
つに丸い清水溜まりになっていて、透き通った水底の真っ白な山砂が
湧き水にゆらゆら揺れて舞っていた。

 一糸まとわぬ裸になります。

 森の目に見つめられているようです。

 裸足になって一切を身につけず、平タ岩に正座をします。夜明けの
岩です。闇に冷えた岩は冷たく、それだけで心が引き締まる気がしま
す。
 お婆さんの言葉を思い出していたんです・・「おかげさまと言うじ
ゃろう。ひとたび陰婿様に平伏せば、それから以降のことは陰婿様の
おぼしめし。おかげさまでいう気持ちを忘れんようにな」・・宿を出
る私のことを、お孫さんでも送り出すように抱いてくださったお婆さ
ん。
 それが心をやさしくしてくれていたのです。

「陰婿様・・相葉孝子、二十六歳です。これまでの自分を振り返り、
これからは自分に恥じない日々を過ごしていくつもりです。結婚しま
す。私は彼を愛しています。愛される妻となれるよう、どんなことで
もいたしますので、どうか私をお導きくださいませ」
 身をたたんで白い岩に額を擦るようにお願いします。そして岩を立
ち、水晶のように透明な山の泉に裸身を沈めていくのです。

 冷たい。肌が切れるほど冷たい水。

 底が透けているのに胸ほどまである深さ。その清水に立った私は、
知らず知らず手を合わせ、声もなく祈っていました。

 そうしたら・・ああ、そんな・・。


 体がすーっと浮くような感じがして、水面の下だった乳首が現れ、
おなかが現れ、下腹の翳りが現れて・・私は水の上に立っていた。
宝石のような水の上に沈むことなく立っていたのです。
 山清水で冷えた体が、まるで男たちに寄ってたかって抱かれるよ
うに温かくなってきて、このとき私は陰婿様に受け入れられたと感
じました。

 嬉しくて嬉しくて涙があふれてくるんです。


「じゃ行ってくる、遅くならないとは思うけど」
「うん、気をつけてね」
「ああ。愛してる、大好きだ」
「うんっ」
 キスをして送り出します。身震いするほど幸せです。

 主人を送り出してすぐ、浴室へと続く脱衣場で全裸になって、綺
麗な鏡に私を映す。白い心が肌まで白く見せるのか、ほんと白くて
綺麗な私。お婆さんの言葉を思い出していたんです。
「陰婿様は生涯そなたを守るじゃろう。そしてもし、そなたの旦那
さんが裏切るような真似をするなら、陰婿様は決してそれを許さな
い。地獄に堕ちた亡者のような苦しみを旦那さんに与えるじゃろう」
「それってまさか、命まで?」
「それはそなた次第じゃよ。命をかけたそなたを裏切ったのじゃ。
命がけで償わない限り、それをそなたが許さない限り、血ヘドを吐
いて死んでいくじゃろう」


 鏡に映った私の裸身・・見えない力に両手が開かれ・・。
 真っ白な乳房が、後ろからの見えない手形に波打って・・。
 むにゅむにゅと揉みしだかれて・・。
 乳首がつままれ・・ふわふわつぶれてコネられて・・。
 お尻を突き出す私の膣に冷たいペニスを感じるの・・。

「はぁぁ陰婿様ぁ・・ありがとうございます、気持ちいい」

 陰婿様はいつもこうして現れて妻となった私を抱くわ。性的な不
満は私にはやってこない。主人との夜がなくなっても、若さを失う
歳になっても陰婿様は抱いてくれる。
 主人の妻でありながら霊の妻でもある私。そしてもし主人が私を
裏切るようなことがあると陰婿様は呪い殺す・・陶酔する愛撫の心
地よさに微笑みながら、ふとそう思ったときに、私はまたお婆さん
の言葉を思い出していたのです。

 娘の頃に私のように平タ岩に平伏したお婆さんは、三度もご主人
を替えている。
 それはつまり、お婆さんを泣かせた夫たちが陰婿様に呪われて・・。
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